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第二話

結局進軍<Ⅵ>

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「勇者様、だいじょ……わあ!?」

 セレーネは少し遅れて今の状態に気づいた。
 さて……これからどうするか。

 往々にしてこうなった場合、話し合いを提案しても無駄であろう。
 うむ、方針は決まった。

 とりあえず二人とも黙って立ち上がって埃を払う。

「あ、邪魔をするつもりはありませんので、そのまま続けてください。それでは僕達はこでれ……よしっ、セレーネ」

「え?」

「逃げよう」

「はいっ!!」

 彼女の手を掴むと一気に斜面を走り降りていく。
 よし、これで相手はあまりの出来事にビックリして固まったままに……。

「ま、待てコラー!!」

 なんてことはなく女の子も慌てて身を整えて追いかけてきた。

「ですよねー!!」

「どうして勇者様は女性が見られたら一番恥ずかしいところに突如として現れるのでしょうか」

「知らんがな! そもそも今のは俺のせいなのか!?」

「なんだか狙っているんじゃないかと思えてしまいまして」

 なんでやねん。君が足を滑らせたのが原因ではないのかね。

「もしかして、あの娘も賠償請求とかされたりするのか」

「うーん、それはどうでしょう。あ、でもそうなりましたらわたくしの方を優先でお願いしますね」

「こんな事態なのにすごく冷静ですねっ!」

 足場の悪い砂の坂をやっと下り終えたところで後ろから追いかける足音がよく聞こえるようになった。

「殺すっ! 絶対に殺すっ!! 熱湯地獄にたたき落としてやる!!」

 ちらりと後ろを見ると、もの凄い形相で恐ろしいこと言いながら、歩くのも大変な足場を平然と猛スピードで追いかけてきていた。

「このぉ!」

 まだ結構な距離があると言うのに勢いよく跳ぶと、そのまま蹴りをしてきた。
 まさに正義の味方キックだったが、俺はセレーネの肩を掴んで急いで屈んでそれを避ける。

「な!? 避けるな!」

「避けるわ!」

 そう叫びながら、俺の頭を越えていく。
 いくら子供サイズだからといってもまともに喰らったら首がへし折れるって。
 しかし避けはしたが、一気に間合いを詰められた挙げ句前に回られる形になってしまった。

「この変態野郎、絶対に逃がさないからね!」

 おへそや脚が思い切り露出している服に、肩くらいまでの長さに一部を編んでいる髪を翻しながら、ナイフのようなものを手に逃がさないとばかりにこちらに構えた。

「ちょ、ちょっと待てって、確かに今のはこっちが悪かったけどさ。一応話を聞いてくれ!」

「うっさい! だったらなんで最初に逃げたっ!」

 ご、ご尤もな意見である。

「いや、あれはあくまでも事故だったんだ。見ようとして見たわけじゃない!」

「その割にはガッツリ見ていたじゃない!」

 おしっこの最中を見られた彼女の怒りは全く治まりそうになかった。いやまあ、当たり前かもしれないけど。

「勇者様ってそういうとき目を離さないですものね」

「君はどっちの味方なの!?」

「ほら見ろ! この変態野郎!!」

 一瞬で間合いを詰めてきて、綺麗なフォームのハイキックが飛んでくる。

「うわ、危ね!?」

 ばしっ!

「な!?」

 そう思った瞬間、とっさにそれを受け止めた……が左腕は勢いを殺せず弾かれた。
 痛ってぇ……、結構な蹴りだったけど何とか耐えられた。

 若い身体凄ぇ、反応が速くて助かった。これを頭や顔にまともに受けていたら結構ヤバいって。

 それくらい良い蹴りだったが、体重差のおかげか何とかギリギリ対応出来た。
 とは言っても左手が痺れる感じがするので次は避けられないかも。

「こ、このっ!」

「た、頼むから話を聞いてくれてって! 俺は戦いに来たんじゃない!」

「誰がそんな言葉を信じるか! なんであんなところに隠れて、ひ、人が……用を足しているときに出て来るなんて……」

「だからあれは事故だったんだって! 彼女が足を滑らせてそれでああなったんだ」

「それは本当です! 本当に戦いに来たわけではありません!」

「人間の言葉なんて信じられるか!」

 手に持ったナイフを構えた。
 やばい……これは本気か? 先ほどからの彼女の動きを見る限りかなり身体の動きは凄そうだ。
 蹴りとかだからギリギリ対応出来たけど、刃物じゃどうすることも出来ないって。

「ちょっと待てって、こっちは丸腰だぞ」

「うっさい! 人間との体格差を考え……、あ、あれ……思ったよりもちっちゃい?」

「う、うるっさいわ!」

 思ったよりも俺が小さくて、言葉の勢いを失う紋様族の少女。

「と、とにかく動けなくなるくらい痛い目に合わせた後、尋問させて貰うわ。このっ!」

 素早い動きでこちらに跳び込んでくる。
 やばい!

 きぃんっ!!

「な!?」

「せめて話くらいは聞いてください」

 間にセレーネが割って入りシールドリングを展開してナイフを止めた。

「ぐっ!」

 驚いた紋様族の少女はさっと後ろに下がる。
 シールドがかなり固かったようで、痺れたのか持ち手をさすっている。

「大丈夫ですか?」

 心配するセレーネ。

「頼む。出会いは最悪だったが、本当に話し合いに来たんだ」

「うるっさい! もう怒った! 絶対に許さない!」

 いや君、最初からずっと怒っているよね?
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