84 / 388
第二話
そして現場へ<Ⅰ>
しおりを挟む
「この辺りですか……」
陣地を出て徒歩でおおよそ1時間ほどの距離。
道中、面白いほど分かりやすい大きな足跡があったので迷うこともなかった。
これだけの足跡が出来るって、どんだけ重いんだ?
そりゃスレイプニルも騎乗拒否をしたがるわけだ。
「ヘルナイト達の反応が無くなったのはこの辺りなんだけど」
辿り着いた場所は森が少し開けて広場みたいになっていた。
「確かに勇者殿の言うとおり何かがいた痕跡はあるな……」
副長さんと彼直属の兵士が周囲を注意深く調べている。
それ以外には俺とセレーネ、そして軍監が来ていた。
「毛に……糞……、そして食い散らかした後……、これは蹄の跡……」
ここまでの道中、ずっとサーチで魔物や化け物の類を調べながらここまで来た。
残党と思われる数体のノールとコボルドの反応があったが、運が良かったのか遭遇することはなかった。
俺もコンソールを出して痕跡がないか調べるがそれらしきものは見つからなかった。
「勇者殿、やはり夜襲に現れた魔王軍がここにいたようですな」
「そうですか」
「しかし長く滞在していた様子はありません。ここではない場所に拠点があるのかもしれません」
「ほら見なさい! やはりこの奥の亜人共がかくまっているのですよ!」
軍監さんは道中ずっとビクビクしながらここまで来ていた。
今でもさっさと終わらせて早く帰りたがっている。
「しかし、これだけの足跡がここで途絶えて何処かに移動した様子がないのは実に不可解ですな」
軍監の言葉を無視して副長さんは周囲を見回しながら、少し困った顔で俺に言う。
「そうなると、何かしらの魔法などで瞬時に移動したってことかな」
「あれだけの数を移動させたというのはにわかには信じられませんが、魔王軍の力ならそういうことが出来るのかもしれませんな」
「セレーネは何か分かる?」
セレーネも周囲をキョロキョロと見渡していた。
「わたくしも現状だと勇者様の意見が一番合っていると思います」
「だよな……あれ?」
サーチに反応が出た。
「どうなさいました?」
「ここから、森の奥にノールの反応があった……数は4体」
なんでこんな近くまで反応がなかったんだ?
洞窟にでも入っていたのか。
「その数なら問題ないでしょう。何か手がかりがあるかもしれませんし行ってみてはどうでしょうか」
まじか……。
出来れば、魔物とは出会いたくないんだけどなぁ。
「あっちの方角だけど大丈夫なの?」
「我らが前に行きますので後ろから付いてきてください。音は極力出さないようにお願いします」
「わ、わたしは嫌ですよ! 冗談ではありません!」
軍監だけは嫌がり行きたくないと言い出した。
この人と意見が一致するのは嫌なんだけど俺も出来れば行きたくない。
「では軍監殿はここで一人お待ちください」
「な!? ひゃあっぁ!」
驚くと変に甲高い声が出るのは何とかならんかな。
耳に響いて嫌なんだけど。
「あまり大きな声を出しますと、魔物を呼ぶことになりますよ?」
「ひゃあ!?」
セレーネの警告に、またも大きな声を上げて驚く軍監。
本当に人の話を聞かない奴だな……。
とりあえず慎重に反応のあった近くまで辿り着くとノール達は予想通り洞窟の入口辺りで何かをしていた。
なるほど距離が遠くなると洞窟の浅い部分でも反応が出づらくなるのか……まあ原理的には合っている気もするのだが、説明書とかがないのは本当に困るな。
「って……何あれ……」
洞窟の入口近くの木に吊されている何かにノール達が噛み付いている。
「あれは……おそらくですがコボルドを吊して食べているのではないかと」
まじかよ……。
説明しているセレーネもあまり気分のいいものではないとあまり見ないようにしている。
ノールの見た目は犬っぽいが、実のところ鼻も耳はそれほど良い方ではないらしい。
実際目視出来るほど近くにいるが全く気づいている様子はない。
「あの吊されたコボルドって昨夜一緒に戦っていた奴らだよね……」
「そうだと思います。あの2種族は元々相容れませんのでヘルナイトというトップがいなくなればこうなるのは当たり前ではないかと……」
「なるほど……って、すげえ食べてるし……うわぁ……」
ダメだ。さすがにエグいエグすぎて見ていられない。
「何時までこの様なところにいなくてはならないのですか!」
ちょ、な!?
少し後ろで待っていたはずの軍監が、遅いからと前にやってきた。
「軍監殿、静かに!」
「わたしに命令をするとは偉くなりまし……って、何を見て……ひゃおうううぅ!!」
この人バカだろ……軍監はノールの食事を見て戦慄して、あの妙に甲高い声で悲鳴を上げやがった。
『なんだ!?』
当然の如くその声にノール達が気付いてこちらを警戒する。
「どうするんだ」
思わず咄嗟に副長に聞く俺。
「逃げるに決まっているでしょう! ひいっぃ!!」
「ノール相手に人間の脚では勝てません。それほど多い数ではありませんからここで迎え撃ちます! お三方は下がって!」
副長達は剣と盾を構えてノール達を迎え撃つ陣形を取った。
「勇者様はわたくしの後ろに!」
「え、いや!? 俺が守られるの?」
セレーネはメイスを出すと、俺の前に守るように立った。
「ひ、ひいぃい!」
軍監は人の話を聞かず、走って逃げていく。
「お、おいっ!」
守ってくれる副長達から逃げてどうするんだよ……。
「いくぞ!」
「はっ!」
だが今は軍監などに構っている暇はなくノールを迎撃するのだった。
陣地を出て徒歩でおおよそ1時間ほどの距離。
道中、面白いほど分かりやすい大きな足跡があったので迷うこともなかった。
これだけの足跡が出来るって、どんだけ重いんだ?
そりゃスレイプニルも騎乗拒否をしたがるわけだ。
「ヘルナイト達の反応が無くなったのはこの辺りなんだけど」
辿り着いた場所は森が少し開けて広場みたいになっていた。
「確かに勇者殿の言うとおり何かがいた痕跡はあるな……」
副長さんと彼直属の兵士が周囲を注意深く調べている。
それ以外には俺とセレーネ、そして軍監が来ていた。
「毛に……糞……、そして食い散らかした後……、これは蹄の跡……」
ここまでの道中、ずっとサーチで魔物や化け物の類を調べながらここまで来た。
残党と思われる数体のノールとコボルドの反応があったが、運が良かったのか遭遇することはなかった。
俺もコンソールを出して痕跡がないか調べるがそれらしきものは見つからなかった。
「勇者殿、やはり夜襲に現れた魔王軍がここにいたようですな」
「そうですか」
「しかし長く滞在していた様子はありません。ここではない場所に拠点があるのかもしれません」
「ほら見なさい! やはりこの奥の亜人共がかくまっているのですよ!」
軍監さんは道中ずっとビクビクしながらここまで来ていた。
今でもさっさと終わらせて早く帰りたがっている。
「しかし、これだけの足跡がここで途絶えて何処かに移動した様子がないのは実に不可解ですな」
軍監の言葉を無視して副長さんは周囲を見回しながら、少し困った顔で俺に言う。
「そうなると、何かしらの魔法などで瞬時に移動したってことかな」
「あれだけの数を移動させたというのはにわかには信じられませんが、魔王軍の力ならそういうことが出来るのかもしれませんな」
「セレーネは何か分かる?」
セレーネも周囲をキョロキョロと見渡していた。
「わたくしも現状だと勇者様の意見が一番合っていると思います」
「だよな……あれ?」
サーチに反応が出た。
「どうなさいました?」
「ここから、森の奥にノールの反応があった……数は4体」
なんでこんな近くまで反応がなかったんだ?
洞窟にでも入っていたのか。
「その数なら問題ないでしょう。何か手がかりがあるかもしれませんし行ってみてはどうでしょうか」
まじか……。
出来れば、魔物とは出会いたくないんだけどなぁ。
「あっちの方角だけど大丈夫なの?」
「我らが前に行きますので後ろから付いてきてください。音は極力出さないようにお願いします」
「わ、わたしは嫌ですよ! 冗談ではありません!」
軍監だけは嫌がり行きたくないと言い出した。
この人と意見が一致するのは嫌なんだけど俺も出来れば行きたくない。
「では軍監殿はここで一人お待ちください」
「な!? ひゃあっぁ!」
驚くと変に甲高い声が出るのは何とかならんかな。
耳に響いて嫌なんだけど。
「あまり大きな声を出しますと、魔物を呼ぶことになりますよ?」
「ひゃあ!?」
セレーネの警告に、またも大きな声を上げて驚く軍監。
本当に人の話を聞かない奴だな……。
とりあえず慎重に反応のあった近くまで辿り着くとノール達は予想通り洞窟の入口辺りで何かをしていた。
なるほど距離が遠くなると洞窟の浅い部分でも反応が出づらくなるのか……まあ原理的には合っている気もするのだが、説明書とかがないのは本当に困るな。
「って……何あれ……」
洞窟の入口近くの木に吊されている何かにノール達が噛み付いている。
「あれは……おそらくですがコボルドを吊して食べているのではないかと」
まじかよ……。
説明しているセレーネもあまり気分のいいものではないとあまり見ないようにしている。
ノールの見た目は犬っぽいが、実のところ鼻も耳はそれほど良い方ではないらしい。
実際目視出来るほど近くにいるが全く気づいている様子はない。
「あの吊されたコボルドって昨夜一緒に戦っていた奴らだよね……」
「そうだと思います。あの2種族は元々相容れませんのでヘルナイトというトップがいなくなればこうなるのは当たり前ではないかと……」
「なるほど……って、すげえ食べてるし……うわぁ……」
ダメだ。さすがにエグいエグすぎて見ていられない。
「何時までこの様なところにいなくてはならないのですか!」
ちょ、な!?
少し後ろで待っていたはずの軍監が、遅いからと前にやってきた。
「軍監殿、静かに!」
「わたしに命令をするとは偉くなりまし……って、何を見て……ひゃおうううぅ!!」
この人バカだろ……軍監はノールの食事を見て戦慄して、あの妙に甲高い声で悲鳴を上げやがった。
『なんだ!?』
当然の如くその声にノール達が気付いてこちらを警戒する。
「どうするんだ」
思わず咄嗟に副長に聞く俺。
「逃げるに決まっているでしょう! ひいっぃ!!」
「ノール相手に人間の脚では勝てません。それほど多い数ではありませんからここで迎え撃ちます! お三方は下がって!」
副長達は剣と盾を構えてノール達を迎え撃つ陣形を取った。
「勇者様はわたくしの後ろに!」
「え、いや!? 俺が守られるの?」
セレーネはメイスを出すと、俺の前に守るように立った。
「ひ、ひいぃい!」
軍監は人の話を聞かず、走って逃げていく。
「お、おいっ!」
守ってくれる副長達から逃げてどうするんだよ……。
「いくぞ!」
「はっ!」
だが今は軍監などに構っている暇はなくノールを迎撃するのだった。
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる