上 下
81 / 388
第二話

再会<Ⅲ>

しおりを挟む
「も、申し訳ありません……久しぶりでつい感極まってしまい……」

 お互いの口元が互いの唾液でベタベタになってタオルのような布で拭きながらセレーネは謝った。

「あ、ああ、うん……いや、俺も人の温もりが懐かしかったから」

 確かに驚きはしたが、それ以上に人の温もりに俺も嬉しかった。

「天界とはどのような場所なのでしょうか?」

 あそこを天界と言っていいのだろうか。
 説明が難しい。

「多分俺が居た場所は神様や天使が普段いる場所ではないんじゃないかな。空も床も真っ白な空間がずーっと続く殺風景なところだったから」

「女神様や天使はいないのですか?」

「呼べば来てくれるけど普段はいないんだ」

「その話を聞いている限りだと、なんだかとても寂しそうな場所ですね」

「仕方がないって本来人が踏みいる場所じゃないんだ。たまたま俺が特殊な能力を持っていたから例外的に呼ばれたのだし」

 話し相手といえば無機質になってしまったリトルグレイと女神くらいしかいなかったし。
 それに話す内容も、業務的なことばかりで日常会話もほとんどなかったしね。

「では勇者様のおかげで未然に女神様の危機を回避出来たのですよね」

「そこまで大袈裟なものじゃないよ」

 何故、あそこまで古いシステムの修復に俺が選ばれたのか。
 もう少し年齢の高い人だったら詳しい人が色々といそうなものだと聞いたら、リトルグレイ曰く、詳しすぎると余計なことをされても困るからとのこと。

 だったら抜本的に作り直せばいいのにと言い返したが、すると予算とか納期とかどこぞと変わらない話をブツブツ言い出したのでそれ以上は止めておいた。

 確かにもう少し詳しかったら余計なコードを入れたりとかしてみたかったけど、俺が出来たのは正常に動かすところまでが限界だった。
 代わりに“コンソール”の詳しい使い方をばっちり憶えられたのは大きな収穫だったけどね。

「あれ……」

「どうかなさいました?」

「いや、サーチで追っていたヘルナイトの反応が消えたんだ」

 コンソールを開いて表示する。

 サーチで5分に一度対象を再感知するマクロを組んであって、ヘルナイトの動向を追っていたがいきなり反応が消えた。

「こ、これは一体……勇者様の能力なのですか?」

「うーんと“サーチ”の魔法の一種なんだよね。この指輪で使えるんだ」

「そうですか……」

 物珍しそうにコンソールを見ているセレーネ。

「これがレーダー画面で、ここについさっきまでヘルナイトの反応があったんだけど消えてしまったんだ」

「その様なことが分かるのですか……なんか凄いです……」

 感心しているセレーネ。

「それではヘルナイトは誰かに倒されたとかそういうことでしょうか」

「確かにそれでも反応は消えるけど、範囲外に一瞬で移動したとか地下深くに潜ったり、魔力のある空間や物体に囲まれた場所などでもこれの範囲外になるんだよね」

「魔物の森には前時代に掘られた洞窟が沢山あるって聞いたことがあります」

「そうなの?」

「ええ、それで魔物が沢山棲み着くような場所になったというのが賢者達の見解です。魔物は洞窟などを住処にするのが好きなようですし」

「なるほど……、でもあのヘルナイトが洞窟深くに入るかな」

 あの大きさで深くまでは入れる洞窟なんてあるのか?

「魔法で隠れてこちらに密かに向かっている可能性は……」

「ああいう騎士然とした連中は、そういうのは好まないと思う。それに向こうの方が強いんだから、そんな姑息な手を使う必要もないだろうし」

「確かにそうですね」

「そういう意味で奇襲はしてこないだろうし今夜はとにかく寝ておこう」

 セレーネと川の字になってテントで寝るが、久々に女の子と身体が当たるほどの狭い空間に眠れるかどうか心配になる。
 まあ予想通り、結局なかなか寝付けずにいたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約していたのに、第二王子は妹と浮気しました~捨てられた私は、王太子殿下に拾われます~

マルローネ
ファンタジー
「ごめんなさいね、姉さん。王子殿下は私の物だから」 「そういうことだ、ルアナ。スッキリと婚約破棄といこうじゃないか」 公爵令嬢のルアナ・インクルーダは婚約者の第二王子に婚約破棄をされた。 しかも、信用していた妹との浮気という最悪な形で。 ルアナは国を出ようかと考えるほどに傷ついてしまう。どこか遠い地で静かに暮らそうかと……。 その状態を救ったのは王太子殿下だった。第二王子の不始末について彼は誠心誠意謝罪した。 最初こそ戸惑うルアナだが、王太子殿下の誠意は次第に彼女の心を溶かしていくことになる。 まんまと姉から第二王子を奪った妹だったが、王太子殿下がルアナを選んだことによりアドバンテージはなくなり、さらに第二王子との関係も悪化していき……。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...