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第一話
3ヶ月後<Ⅰ>
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「ふう……」
テントの中なのに、それは白いため息だった。
「これでは外とあまり変わりませんね」
勇者があの夜突如消えてから2ヶ月あまり。
すっかり季節が変わり、早朝は霜が降り水たまりは凍るほど寒くなっていた。
この辺りはあまり雪が降らないのが唯一の救いかもしれない。
とはいえ魔物の森の夜はとても冷えて寝るのも一苦労であった。
捕らえたネクロマンサーを尋問をした結果、彼を支援していたのはこの森の奥で陣取っている魔王の軍勢であることが分かった。
本来の魔王軍はここよりも遙か遠くにいるはずなので少数の別働隊が展開していると思われるが、そのまま放っておくわけにもいかず討伐軍が編成された。
だが当初、魔物の森には強力な魔物や魔族が多数潜んでいるため、領主は軍の派遣は消極的だった。
しかし運良くこの話を聞いて二人の勇者が参加してくれることとなったため急遽派遣を決めることとなった。
その話はセレーネの耳にも届き、もしかしたら彼が魔王軍に囚われているか、そうでなくても何かしら情報を得られるかもしれないと思い、今回の派遣に参加を決めた。
二人の勇者と聖女の参加により討伐軍の士気は高いまま、総勢500名のこの地方では比較的大きな派遣軍は森へと入っていったのだった。
そして森に入って既に数日が経っていた。
魔王軍が陣取っているという森の北部の火山の麓まで直ぐそこの距離にまで近づいていた。
「さすがに少し疲れましたね……」
この森は噂に違わぬ魔物の宝庫であった。
二人の勇者が居なかったらかなりの被害が出ていたことだろう。
「やはり勇者というのは別格なのですね」
人間の中にも魔物に負けない強い人物はいるが勇者というのはそれらを圧倒していた。
彼が剣を一振りすれば、その剣圧だけで魔物をまとめて斬り倒し、魔法を使えば軽く10体は黒焦げにしてしまう。
何から何まで規格外であった。確かにあの二人が居れば小規模の魔王軍ならば倒せる気がする。
だが、そんな強い彼らでも被害はある。
森に入って既に兵士に死者が出ていた。
確かにそれだけ苛烈な環境ではあるのだが……。
「あの人はそういった強さを一切持ち合わせていないのに被害をほとんど出さなかったのですよね」
あの夜のことを思い出す。
砦が何者かの襲撃で壊滅的なダメージを受けた。
だが幸いと言えるのは複数の重傷者は出たが死者は出なかったのだ。
その強力な攻撃を止めたのはやはり彼だったらしい。
……らしいというのは真夜中であったことやどこから攻撃されているかも分からず現場は大混乱になっていたため、現場をちゃんと見た者がいないため詳しくは分かっていないのだった。
だが兵士達の断片的な目撃例を集めると、彼が外に出てきて何かをしていたのまでは目撃されている。
それにあのような襲撃相手を他に防げる人物は居ないと考えられた。
「どこかに居るのでしょうか……」
しかしその後、彼の姿形は一切なくなってしまった。
何故自分はあれだけの惨事に一切目を覚まさなかったのだろうか。
せめて彼の側にいれば、何か出来たかもしれないのに。
まるで本当に最初から存在していなかったかのように全ての形跡は持ち物なども含めて全て無くなってしまった。
もしかしたら彼は本当に神の使いだったのかもしれないと思ったが、セレーネの指には見馴れぬ魔法の指輪が付けられていた。
それは彼が居なくなる少し前、あの部屋のテーブルに置いてあったものだった。多分何かの意図があって付けてくれたのだろう。
だから彼は間違いなく居た。
もしかしたら本当に元の世界に帰ってしまったかもしれないし、神の元に戻ったのかもしれない。
あれだけの襲撃をしかけられるのは魔王軍配下の存在以外はあまり考えられない。彼の身柄を引き替えに攻撃がおさまり連れ去られて幽閉され救助を待っているかもしれない。
そう考えたセレーネはいてもたってもいられずこの遠征に参加したのだった。
「勇者様が捕らえられていることを希望と思うなんて……」
今の彼女はまだ勇者がこの世界に居ることを望むあまり、魔王軍に捕まっていることを希望と思えてしまうのだった。
「失礼します。聖女様、どうやら敵かもしれません」
テントの外から声がした。
夜行性の魔物も少なくはない。昨晩も魔物が現れたが最終的にこちらの数の多さに怖じ気づいたのか近づいてくることはなかった。
「分かりました。直ぐに出ます」
「申し訳ありません」
寒さもあり、寝間着などに着替えずそのまま寝ているため必要な装備を整えて直ぐにテントから出た。
テントの中なのに、それは白いため息だった。
「これでは外とあまり変わりませんね」
勇者があの夜突如消えてから2ヶ月あまり。
すっかり季節が変わり、早朝は霜が降り水たまりは凍るほど寒くなっていた。
この辺りはあまり雪が降らないのが唯一の救いかもしれない。
とはいえ魔物の森の夜はとても冷えて寝るのも一苦労であった。
捕らえたネクロマンサーを尋問をした結果、彼を支援していたのはこの森の奥で陣取っている魔王の軍勢であることが分かった。
本来の魔王軍はここよりも遙か遠くにいるはずなので少数の別働隊が展開していると思われるが、そのまま放っておくわけにもいかず討伐軍が編成された。
だが当初、魔物の森には強力な魔物や魔族が多数潜んでいるため、領主は軍の派遣は消極的だった。
しかし運良くこの話を聞いて二人の勇者が参加してくれることとなったため急遽派遣を決めることとなった。
その話はセレーネの耳にも届き、もしかしたら彼が魔王軍に囚われているか、そうでなくても何かしら情報を得られるかもしれないと思い、今回の派遣に参加を決めた。
二人の勇者と聖女の参加により討伐軍の士気は高いまま、総勢500名のこの地方では比較的大きな派遣軍は森へと入っていったのだった。
そして森に入って既に数日が経っていた。
魔王軍が陣取っているという森の北部の火山の麓まで直ぐそこの距離にまで近づいていた。
「さすがに少し疲れましたね……」
この森は噂に違わぬ魔物の宝庫であった。
二人の勇者が居なかったらかなりの被害が出ていたことだろう。
「やはり勇者というのは別格なのですね」
人間の中にも魔物に負けない強い人物はいるが勇者というのはそれらを圧倒していた。
彼が剣を一振りすれば、その剣圧だけで魔物をまとめて斬り倒し、魔法を使えば軽く10体は黒焦げにしてしまう。
何から何まで規格外であった。確かにあの二人が居れば小規模の魔王軍ならば倒せる気がする。
だが、そんな強い彼らでも被害はある。
森に入って既に兵士に死者が出ていた。
確かにそれだけ苛烈な環境ではあるのだが……。
「あの人はそういった強さを一切持ち合わせていないのに被害をほとんど出さなかったのですよね」
あの夜のことを思い出す。
砦が何者かの襲撃で壊滅的なダメージを受けた。
だが幸いと言えるのは複数の重傷者は出たが死者は出なかったのだ。
その強力な攻撃を止めたのはやはり彼だったらしい。
……らしいというのは真夜中であったことやどこから攻撃されているかも分からず現場は大混乱になっていたため、現場をちゃんと見た者がいないため詳しくは分かっていないのだった。
だが兵士達の断片的な目撃例を集めると、彼が外に出てきて何かをしていたのまでは目撃されている。
それにあのような襲撃相手を他に防げる人物は居ないと考えられた。
「どこかに居るのでしょうか……」
しかしその後、彼の姿形は一切なくなってしまった。
何故自分はあれだけの惨事に一切目を覚まさなかったのだろうか。
せめて彼の側にいれば、何か出来たかもしれないのに。
まるで本当に最初から存在していなかったかのように全ての形跡は持ち物なども含めて全て無くなってしまった。
もしかしたら彼は本当に神の使いだったのかもしれないと思ったが、セレーネの指には見馴れぬ魔法の指輪が付けられていた。
それは彼が居なくなる少し前、あの部屋のテーブルに置いてあったものだった。多分何かの意図があって付けてくれたのだろう。
だから彼は間違いなく居た。
もしかしたら本当に元の世界に帰ってしまったかもしれないし、神の元に戻ったのかもしれない。
あれだけの襲撃をしかけられるのは魔王軍配下の存在以外はあまり考えられない。彼の身柄を引き替えに攻撃がおさまり連れ去られて幽閉され救助を待っているかもしれない。
そう考えたセレーネはいてもたってもいられずこの遠征に参加したのだった。
「勇者様が捕らえられていることを希望と思うなんて……」
今の彼女はまだ勇者がこの世界に居ることを望むあまり、魔王軍に捕まっていることを希望と思えてしまうのだった。
「失礼します。聖女様、どうやら敵かもしれません」
テントの外から声がした。
夜行性の魔物も少なくはない。昨晩も魔物が現れたが最終的にこちらの数の多さに怖じ気づいたのか近づいてくることはなかった。
「分かりました。直ぐに出ます」
「申し訳ありません」
寒さもあり、寝間着などに着替えずそのまま寝ているため必要な装備を整えて直ぐにテントから出た。
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