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第一話

おっさんの襲撃

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【転送中.........】

 セレーネの胸元に浮かび上がった画面にそう表示されてかれこれ1時間以上経っても、なかなか終わる気配がない。
 彼女の方に苦しんだりなどの異変はないものの気が気でなかった。

「本当に大丈夫なんだろうな」

 サーチやディテクトなどで調べてみたいがヘタな事をして止まったりエラーになったら怖いので結局見ているだけしか出来なかった。

 女神の言葉を真に受けるつもりはない。だからと言って上空の宇宙人相手に戦う術もないので敵の敵は味方の精神でやってみたが……。

「これで何かしらいい方向に進めばいいんだが」

 俺はともかくとして、セレーネに何かが起こるのだけは避けたい。

「とはいっても完全に巻き込んじまった感じだけど……」

 どがーんっ!!

 一瞬窓の外に閃光が走ったかと思ったら激しい爆発音がした。

「いきなりなんだよ!? こんなときに魔物の襲撃か?」

 いや、まさかおっさんの差し金だろうか。むしろそう考えるのが普通か。

 どごーんっ!!

「敵襲! どこだー!!」

 二度目の爆発音、砦の兵士の怒号が聞こえる。
 これだけの爆発音にもかかわらず、セレーネは全く起きる様子がなかった。

「もしかして転送が終わるまでこのままってことか」

 よく分からないが、起きないってことはあまり動かしたらいけない気がする。
 なにより彼女を抱えて俺が逃げきれるとも思えない。

「くそっ……」

 でも彼女をこのままにしておくってのも……、あ、そうだ。
 テーブルの上にある、それが目に入った。

「よしっ……これなら少しは何とかなるかな」

 気休めかもしれないが何もしないよりはいいだろう。

「さてと……」

 襲撃してきた相手を確認するために彼女を残して部屋を後にするのだった。


 外に出ると兵士達は火を消したり負傷者を運んだり、そして敵を探すなどそれぞれ大声を上げながら慌ただしく動いていた。
 話を聞く限りどうやら敵は見つかっていないらしい。

 ビビッ、ビビビビッ……、どかーんっ!!

「うおっ!? なんだ昔のSFみたいな音は!」

 一瞬変な音を出しながら閃光が走ったかと思ったら、激しい爆発音がした。
 落ちたところに暗闇を照らすように火が出て、それは直ぐさま大きくなっていく。

 今一体どこから飛んで来た?

 ビビッ、ビビビビッ……、どかーんっ!!

 また違う場所で激しい爆発音がした。
 くそっ、どこから?

 火が出ている場所を見る。
 不思議と壁はほとんど燃えていない。これは攻撃は外からじゃなくて内側から?
 いや、上か!?

 上を見るが、漆黒の夜空しか見えない。
 そうだっ、こういうときこそこれを使えばいいのか。

「“サーチ”上空の脅威、半径1kmの範囲で!」

 ……反応があった。
 ここら上空200mくらい、形は……円盤?

 コンソールを呼び出すと、画面に対象を映し出すとそこには古典SFに出て来そうなUFOのようなものが。

「これってやっぱり……あのツルピカ宇宙人だよな……」

 他の宇宙人に協力を頼むとも思えないし。
 それとも、遠隔や自動で動くタイプだろうか。

 そうか、ここでディテクトか。

「“ディテクト”円盤状のUFO!」

【管理者が緊急時に使う乗り物。武装などはないが下側には光学迷彩を使用しているため地上から見つけるのは困難】

「そうじゃなくて、なにか攻撃するとか捕まえるとかの情報ないのかよ……」

【アンチディテクトを搭載しているため、相手側に察知されている可能性あり】

「まじかよ!?」

『おい貴様、やってくれたな!』

 宇宙人のおっさんにいきなりな話しかけられ、驚きながら周りを見るがそれらしい人間は居ない。
 ということは、一種の通信みたいなものか。

「そもそも最初に仕掛けたのはお前の方だろう」

『ぐっ、うるさい、このままでは失脚させられてしまう。今すぐ聖人種の居場所を言え!』

 どうやら相当焦っているみたいだな。なんだよあの女神は、せっかく協力したってのに、これじゃ完全にピンチじゃないか。

「俺が教えると思うのか」

『ならばこの辺り一帯を燃やし尽くすだけだ!』

 正気か? そこまで追い詰められているのかよ。

「地上に干渉はしないんじゃないのかよ!」

『何事にも例外はある。勇者の魔法が暴走したとでもしておけばいい』

 くそっ、無茶苦茶言いやがるな。

「だったら俺を殺せば済む話だろ! 俺はここだ。好きにすればいい!」

 どうせ一度は失った命だ。確かに惜しいけどセレーネが死ぬことに比べたら相当マシだ。

『……よ、よーし、それでもいい』

「本当にそうか」

『なんだと?』

「どうせ俺を殺した後、彼女も殺すつもりだろ」

 会話で何とか時間を延ばしていくが、抜本的な解決法が見つからない。
 あのおっさんは全く信用ならない。約束をしたところで意味がない。

 くそ、女神め……役立たずじゃないかよ!

『そ、そんなことはしない』

「嘘つけ、これまであんたは俺との約束を全て守っていないだろ」

『そんなことはない』

「嘘だね。あんたは自分の保身のためにしか動かない。しかもそうやって安全な上空で姿も現さない臆病やり方でしかな」

『なんだと?』

「俺になんの力もないのはアンタが一番よく分かっているだろ。それでも怖がって姿も見せないなんてどれだけ臆病だって話だよ」

『貴様っ……』

 どがーんっ!!

「うおっ!?」

 直ぐ近くで爆発がする。焼けるような熱風が肌を通る。
 近くに居た兵士達は慌てて逃げ出す。

 すると5m程の距離に円盤が降りてきて、屋根のないオープントップから宇宙人の上半身が出ていた。
 手には指揮棒のような短い棒を持っている。それを軽く振りかざすと閃光が発生する。

 どごーんっ!

 背後で爆発が起こる。

「これでも臆病だというのか!」

 相変わらず表情は一切変わらないが、声はかなり激昂していた。

「まさか出てくるとは思いもしなかったな」

 ピピッ。

 なんだ?

【.......転送完了】

【女神:ありがとー、助かったわ】

【disconnect.】

 どうやら女神の転送が終わったらしい。
 遅えよ。もっと早く終わらせろってんだ。無駄に軽いメッセージだけ送ってきやがって。

「短い付き合いだったが、これで最後だ」

「これでやっとあんたみたいなのと別れられて清々するよ」

「最後まで口の減らないヤツだ。思えば確かに不運の連続だった。少しは悪いと思っている……」

 おっさんが俺の方に杖っぽいのを向けてきた。

「さらばだ!」

 くっ……、さすがに死が迫ってきて身がすくみ思わず目を瞑ってしまう。

『そうはさせません』

「なっ?!」

 女神の声がしたと思ったら、驚きの声を上げるおっさん。
 そっと目を開いてみると、おっさんは下半身が消えていた。

「何してんだ……って俺もかよ?!」

 おっさんだけではなく、俺の下半身も消えていた。繋ぎ目は画像が壊れたようなブロックノイズになっていてそれが徐々に上半身の方に浸食してきていた。

「くそっ! ふざけるな! い、いやだ! 死にたくない! 止めてくれ!」

 え、これ、死ぬのか!?
 まじか……、だが痛みはないし下半身の感覚はあった。
 痛くなく死ねるのなら、せめてもの慰めか。

 そして俺とおっさんはブロックノイズに全てを侵食されていくのだった。
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