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第一話
やっと釈放ですよ
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やっと牢から出されたころには、すっかり日が傾いていた。
とりあえずということで、セレーネの部屋に連れて行かれる。
部屋といっても、結構狭くベッドと小さな机と背もたれもない椅子があるだけの簡素なものだった。
窓は一つだけでガラスなどはなく、木の雨戸が付いているだけだった。
これを閉めたら真っ暗になりそうだな。
「さっきは助かったよ。本当にありがとう」
「そんなことありません。わたくしの方こそ助けていただきましたし」
「それはそうなんだけど、でも良かったのか」
「何がでしょう?」
「その、キスをしたことだよ」
「はい。問題ありませんよ」
「いやでも、君くらい綺麗な人だったら恋人くらいいるだろうし」
「今まであまり縁がなかったようでして、その様な方は残念ながらおりません」
「そ、そうなの? あ、でも聖職者じゃない……、そのほら」
「はい、聖職者ですけど」
「ほら神に仕える聖職者って、結婚とか、しょ、処女じゃないとダメじゃないの?」
「先ほども言いましたが、わたくしが仕えるアデル神としてはむしろ産めや増やせですし、大いに恋せよと仰っておりますから、その様な縛りはありません」
「え、そうなの?」
「はい。男女がお互いを求めるのは自然のことだと考えています。とはいえもちろんとっかえひっかえ無制限にしていいわけではありませんが」
「へぇ、意外と普通なんだな。そうなんだぁ……じゃなくてだ! それはそれとしてだからって出会ってまだ一日も経っていない相手とキスをしていいわけじゃないでしょ」
「そうですね……ですが、ああでもしないと勇者様の簡単には嫌疑は晴れなかったでしょうし」
「それはまあ、そうなんだけどさ……あの女騎士はしつこそうだったし。そこは凄く感謝している」
「緊急の手段とはいえ、わたくしのような者が相手でもよかったのでしょうか」
「何を仰るのか。君にキスをされて嫌がるヤツは同性愛者くらいだろ」
「そうですか? それならば良かったです。い、一応初めてでしたので」
「ぶー!!」
「きゃ!?」
「わっ、ご、ごめん、じゃなくて! い、いいのかよ!? 初めてをこんな見ず知らずの人間にさ!」
「どうなのでしょうね。少なくともわたくしは嫌ではありませんでしたけど」
「マジか……。ま、まあ、初めてっていうのなら、俺も初めてだけどさ」
「まあ! そうでしたか。それは光栄なことですね」
「やれやれ本当に良いのかよ。こんなおっさん相手にさ」
「はい? おじさんですか……あの失礼ですがわたくしとさほど年齢の差があるようには見えませんが……、むしろ勇者様の方が年下だと思っていたのですけども」
「え? あ、そっか……」
「それとも勇者というのは妖精たちと同じで見た目が変わらないとかなのでしょうか」
そういえば俺って若返っているんだったか。
鏡とかないから、あまり実感がないんだよな。
「こう見えても年齢的に君よりも軽く10は上のはず」
「そうでしたか!? これはこれは申し訳ありませんでした。てっきり同年代だと思っておりましたもので……少々気安かったでしょうか」
「いや気にしなくていいよ。見た目通りに思ってもらって構わないから……って言ってもおじさんて知ったらやっぱ嫌だよね」
「この世界では10歳くらい年上の男性との結婚なんて普通のことですよ。場合によっては20や30差もありますから。そう考えたら勇者様は見た目お若いですし、そんな風に見せませんから気にもなりません」
「まじか!? 何て羨ましい……俺の世界でそんなことしたら、犯罪者扱いだよ」
「そ、それはまた不思議な世界ですね。もしかして結婚制度に制限があるのでしょうか」
「実はほとんど制限なんてないんだけど、なんだか色々と難しい世界になっちゃってんだよね。今や結婚を否定する人が増えちゃってるし」
「そんな! 結婚して子供をなすことはとても素晴らしいことですのに……」
「そう思うんだけど、俺も相手に恵まれなかった……あー、いや、俺もなんだかんだでそういうことを遠ざけていたかもしれない」
「でしたら是非、この世界で人生の素晴らしさを知っていただけたら幸いです。あ、でも勇者様は元の世界に帰ってしまうのですか?」
「人によってはそうするらしいけど、俺はちょっと問題があって戻れないらしい」
「そ、そうですか……なんだか聞いてはいけなかったでしょうか」
「気にしなくて良いよ。そもそも俺は前の世界で死にかけてここに連れてこられたんだ」
ずっと寝たきりで、後は死を待つだけだったからな。
「言ってみれば一度死んだような身だし、前の世界は辛いことばかりだったから、あまり戻りたいって気持ちはないんだよね」
あの狭いアパートの部屋で世界を呪いながら寝たきりで死ぬのを待つだけに比べれば、なんぼかマシな気がするけど、あまり不便で不憫な状況が続くと嫌にって帰りたくなるかもしれないけど。
「あ、そろそろお出迎えの時間になりますので、少々席を外します」
「お迎え? お迎えってもしかして、旦那様とかか?」
「ですから、わたくしにはその様な相手はおりませんよ」
「そ、そうなんだ。じゃあ誰なの?」
「それでは一緒に行ってみますか」
「あ、ああ、分かった」
どうせここに一人で居ても暇になるだけなのでセレーネに付いていくことにした。
なんでだろう。こっちの世界に来てから少しアクティブになってる気がする。
とりあえずということで、セレーネの部屋に連れて行かれる。
部屋といっても、結構狭くベッドと小さな机と背もたれもない椅子があるだけの簡素なものだった。
窓は一つだけでガラスなどはなく、木の雨戸が付いているだけだった。
これを閉めたら真っ暗になりそうだな。
「さっきは助かったよ。本当にありがとう」
「そんなことありません。わたくしの方こそ助けていただきましたし」
「それはそうなんだけど、でも良かったのか」
「何がでしょう?」
「その、キスをしたことだよ」
「はい。問題ありませんよ」
「いやでも、君くらい綺麗な人だったら恋人くらいいるだろうし」
「今まであまり縁がなかったようでして、その様な方は残念ながらおりません」
「そ、そうなの? あ、でも聖職者じゃない……、そのほら」
「はい、聖職者ですけど」
「ほら神に仕える聖職者って、結婚とか、しょ、処女じゃないとダメじゃないの?」
「先ほども言いましたが、わたくしが仕えるアデル神としてはむしろ産めや増やせですし、大いに恋せよと仰っておりますから、その様な縛りはありません」
「え、そうなの?」
「はい。男女がお互いを求めるのは自然のことだと考えています。とはいえもちろんとっかえひっかえ無制限にしていいわけではありませんが」
「へぇ、意外と普通なんだな。そうなんだぁ……じゃなくてだ! それはそれとしてだからって出会ってまだ一日も経っていない相手とキスをしていいわけじゃないでしょ」
「そうですね……ですが、ああでもしないと勇者様の簡単には嫌疑は晴れなかったでしょうし」
「それはまあ、そうなんだけどさ……あの女騎士はしつこそうだったし。そこは凄く感謝している」
「緊急の手段とはいえ、わたくしのような者が相手でもよかったのでしょうか」
「何を仰るのか。君にキスをされて嫌がるヤツは同性愛者くらいだろ」
「そうですか? それならば良かったです。い、一応初めてでしたので」
「ぶー!!」
「きゃ!?」
「わっ、ご、ごめん、じゃなくて! い、いいのかよ!? 初めてをこんな見ず知らずの人間にさ!」
「どうなのでしょうね。少なくともわたくしは嫌ではありませんでしたけど」
「マジか……。ま、まあ、初めてっていうのなら、俺も初めてだけどさ」
「まあ! そうでしたか。それは光栄なことですね」
「やれやれ本当に良いのかよ。こんなおっさん相手にさ」
「はい? おじさんですか……あの失礼ですがわたくしとさほど年齢の差があるようには見えませんが……、むしろ勇者様の方が年下だと思っていたのですけども」
「え? あ、そっか……」
「それとも勇者というのは妖精たちと同じで見た目が変わらないとかなのでしょうか」
そういえば俺って若返っているんだったか。
鏡とかないから、あまり実感がないんだよな。
「こう見えても年齢的に君よりも軽く10は上のはず」
「そうでしたか!? これはこれは申し訳ありませんでした。てっきり同年代だと思っておりましたもので……少々気安かったでしょうか」
「いや気にしなくていいよ。見た目通りに思ってもらって構わないから……って言ってもおじさんて知ったらやっぱ嫌だよね」
「この世界では10歳くらい年上の男性との結婚なんて普通のことですよ。場合によっては20や30差もありますから。そう考えたら勇者様は見た目お若いですし、そんな風に見せませんから気にもなりません」
「まじか!? 何て羨ましい……俺の世界でそんなことしたら、犯罪者扱いだよ」
「そ、それはまた不思議な世界ですね。もしかして結婚制度に制限があるのでしょうか」
「実はほとんど制限なんてないんだけど、なんだか色々と難しい世界になっちゃってんだよね。今や結婚を否定する人が増えちゃってるし」
「そんな! 結婚して子供をなすことはとても素晴らしいことですのに……」
「そう思うんだけど、俺も相手に恵まれなかった……あー、いや、俺もなんだかんだでそういうことを遠ざけていたかもしれない」
「でしたら是非、この世界で人生の素晴らしさを知っていただけたら幸いです。あ、でも勇者様は元の世界に帰ってしまうのですか?」
「人によってはそうするらしいけど、俺はちょっと問題があって戻れないらしい」
「そ、そうですか……なんだか聞いてはいけなかったでしょうか」
「気にしなくて良いよ。そもそも俺は前の世界で死にかけてここに連れてこられたんだ」
ずっと寝たきりで、後は死を待つだけだったからな。
「言ってみれば一度死んだような身だし、前の世界は辛いことばかりだったから、あまり戻りたいって気持ちはないんだよね」
あの狭いアパートの部屋で世界を呪いながら寝たきりで死ぬのを待つだけに比べれば、なんぼかマシな気がするけど、あまり不便で不憫な状況が続くと嫌にって帰りたくなるかもしれないけど。
「あ、そろそろお出迎えの時間になりますので、少々席を外します」
「お迎え? お迎えってもしかして、旦那様とかか?」
「ですから、わたくしにはその様な相手はおりませんよ」
「そ、そうなんだ。じゃあ誰なの?」
「それでは一緒に行ってみますか」
「あ、ああ、分かった」
どうせここに一人で居ても暇になるだけなのでセレーネに付いていくことにした。
なんでだろう。こっちの世界に来てから少しアクティブになってる気がする。
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