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第10章 結婚式
祭りの後
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式はあのままなし崩し的に大宴会へと突入した。
宴会の前に「ウサギは食うな。愛玩用だ」と説明したからか、ウサギも今のところは無事だ。
髭の親父が膝にウサギを乗せて撫でながら普通に飲み食いしているのが、地味に笑いのツボに入る。
目に入るたびに俺が吹き出すもんだから、フィオが可愛い焼きもちを焼き、ウサギを抱き上げて「見るなら私を見てください!」などと言いだした。
うん。フィオを見るからな!
こんなに笑ったのはどれくらいぶりだろうか。
とにかく食っては飲み、飲んでは笑いの繰り返し。次々に友人が酒を注いでいくもんだから、俺もフィオもヒールで酔いを飛ばしながら飲むはめになっちまった。もったいねえ!
気の置けない仲間に囲まれての宴会は最高だ。
いつの間にか、参列してたはずの使用人たちがせっせと料理を運び給仕している。
「今日はみんなも俺の客なんだぞ?ゆっくりしてくれ」
といってはみたが、
「落ち着かないんですもの!ゲイル様のお祝いなんですよ?!最高のおもてなしをしたいんです。でなきゃ私たちの名が廃ります!任せてくださいな!」
と胸を張られてしまった。
それなら、と手伝いを頼んでいた孤児院の子らを仕事から解放することに。
「よーし!仕事は終わりだ!みんな腹いっぱいに食べてくれ!」
言ったとたんわあっと子供たちが走り出した。思い思いの料理に向かって突撃だ。
こっそりとデザートの追加を頼んでおく。こどもらには甘味だろう。
普段は食えないようなもんを思う存分味わってほしい。
満面の笑みでケーキをほおばる子を見ていたら、年長らしき子供が俺に何か話したそうにしている。
「どうした?」と聞けば、もじもじしながらこう言った。
「孤児院に残っている小さな子に、少しだけもらっていってもいいですか?」
「もちろん。持ち帰り用に土産も用意してあるからな。安心して食っていいんだぞ?」
いい兄ちゃんだな、と褒めて撫でてやれば、面映ゆそうに大人しく撫でられている。可愛いな。
「お前らのおかげで最高の式になった!素晴らしい仕事をしてくれた。ありがとうな!
これは正当な報酬なんだから、遠慮なく食うんだぞ?」
「もちろん給金も払うから安心しろ」
付け加えれば嬉しそうに頷いて「じゃあ、たくさん食べなきゃ!」とケーキのほうに駆けていった。
「ふふふ。素敵な子供たちですね」
「だろ?この領の子らには、なるべく仕事を回すようにしてるんだ。
子供でもやるべきことをきっちりこなすんだぜ?自慢の子らだ」
「私たちの子もあのように良い子に育てましょうね?」
当たり前みたいに俺たちの子について語るフィオ。
うん。「俺たちの子」だ。
「そうだな。フィオみたいに強くて優しい子に育てようぜ!」
「ここは領民も孤児院の子供たちも、みんな幸せそうです。誰もが笑顔で声を掛け合い、楽しそうに誇りを持って働いている。
……私たちの領もこのようにしたいですね」
「だな!俺のとこもフィオのとこも、くやしいがまだまだここに勝てねえ。これから頑張ろうぜ!」
「はい。正直、私の領は父上が抱かせた負のイメージを払拭できていません。父上に搾取され、貶められてきた彼らの信頼と笑顔を取り戻すつもりです。……協力していただけますか?」
「もちろん!俺たちはもう夫夫なんだ。ふたりで考えよう」
「ええ、ふたりで。ふたりで……とてもいい響きですね」
落ちようとする陽に照らされたフィオの笑顔がオレンジ色に染まる。
冴え冴えとした銀髪がまるで黄金のように輝いて見えて、俺は思わず目をこすった。
「ゲイル?」
「い、いや、なんでもねえよ」
……ほんとはさ。輝いたフィオが、まるで教会に描かれた神の使途のように見えたんだ。
魔王の代わりに神が遣わしたのは、かけがえのない俺の半身。その黄金の翼で俺を未来へと導く大天使
俺は聖女で平和をもたらすらしい。でもその俺に平和をもたらすのはフィオだ。
皆が帰った後、片づけを手伝おうとしたらサフィール総出で叱られた。
「ちょっと!花嫁さんが何をするつもりなの?!
あなたたちは新婚なのよ!さっさと帰りなさい!」
「そうよ。ゲイルお兄様ったら、分かってる?最初の晩なのよ!二人きりで過ごさなきゃ!」
「ここに泊まっても良いが、どうする?
一応……なんだ、その……離れに部屋を用意させたが……」
眼をさまよわせながらしどろもどろの兄貴。
お気遣いありがとう。
「……ではお言葉に甘えて帰らせて頂きましょうか?みなさん、本当にありがとうございました。
最高の式でした。生涯忘れられぬほど、素晴らしい日となりました。改めて後日ご挨拶に参ります」
少し赤い顔でフィオが俺を促した。
「……だな。じゃあ、遠慮なく失礼させてもらう。みんな、ありがとう。最高の日になった!」
「でしょう、苦労したんだからね?」と笑う女性陣には本当に頭が上がらねえ。
使用人たちにも礼をしないとな。
暖かな見送りというにはいささか乱暴な見送りを受け、俺たちは「二人の家に」帰る。
これからはフィオの家が俺の家だ。
でもって、そこから俺はグリフィスや下街に通う。
グリフィス領はいわば「別邸」のような扱いとなる。
つっても荷物は置きっぱなしだけどな!
宴会の前に「ウサギは食うな。愛玩用だ」と説明したからか、ウサギも今のところは無事だ。
髭の親父が膝にウサギを乗せて撫でながら普通に飲み食いしているのが、地味に笑いのツボに入る。
目に入るたびに俺が吹き出すもんだから、フィオが可愛い焼きもちを焼き、ウサギを抱き上げて「見るなら私を見てください!」などと言いだした。
うん。フィオを見るからな!
こんなに笑ったのはどれくらいぶりだろうか。
とにかく食っては飲み、飲んでは笑いの繰り返し。次々に友人が酒を注いでいくもんだから、俺もフィオもヒールで酔いを飛ばしながら飲むはめになっちまった。もったいねえ!
気の置けない仲間に囲まれての宴会は最高だ。
いつの間にか、参列してたはずの使用人たちがせっせと料理を運び給仕している。
「今日はみんなも俺の客なんだぞ?ゆっくりしてくれ」
といってはみたが、
「落ち着かないんですもの!ゲイル様のお祝いなんですよ?!最高のおもてなしをしたいんです。でなきゃ私たちの名が廃ります!任せてくださいな!」
と胸を張られてしまった。
それなら、と手伝いを頼んでいた孤児院の子らを仕事から解放することに。
「よーし!仕事は終わりだ!みんな腹いっぱいに食べてくれ!」
言ったとたんわあっと子供たちが走り出した。思い思いの料理に向かって突撃だ。
こっそりとデザートの追加を頼んでおく。こどもらには甘味だろう。
普段は食えないようなもんを思う存分味わってほしい。
満面の笑みでケーキをほおばる子を見ていたら、年長らしき子供が俺に何か話したそうにしている。
「どうした?」と聞けば、もじもじしながらこう言った。
「孤児院に残っている小さな子に、少しだけもらっていってもいいですか?」
「もちろん。持ち帰り用に土産も用意してあるからな。安心して食っていいんだぞ?」
いい兄ちゃんだな、と褒めて撫でてやれば、面映ゆそうに大人しく撫でられている。可愛いな。
「お前らのおかげで最高の式になった!素晴らしい仕事をしてくれた。ありがとうな!
これは正当な報酬なんだから、遠慮なく食うんだぞ?」
「もちろん給金も払うから安心しろ」
付け加えれば嬉しそうに頷いて「じゃあ、たくさん食べなきゃ!」とケーキのほうに駆けていった。
「ふふふ。素敵な子供たちですね」
「だろ?この領の子らには、なるべく仕事を回すようにしてるんだ。
子供でもやるべきことをきっちりこなすんだぜ?自慢の子らだ」
「私たちの子もあのように良い子に育てましょうね?」
当たり前みたいに俺たちの子について語るフィオ。
うん。「俺たちの子」だ。
「そうだな。フィオみたいに強くて優しい子に育てようぜ!」
「ここは領民も孤児院の子供たちも、みんな幸せそうです。誰もが笑顔で声を掛け合い、楽しそうに誇りを持って働いている。
……私たちの領もこのようにしたいですね」
「だな!俺のとこもフィオのとこも、くやしいがまだまだここに勝てねえ。これから頑張ろうぜ!」
「はい。正直、私の領は父上が抱かせた負のイメージを払拭できていません。父上に搾取され、貶められてきた彼らの信頼と笑顔を取り戻すつもりです。……協力していただけますか?」
「もちろん!俺たちはもう夫夫なんだ。ふたりで考えよう」
「ええ、ふたりで。ふたりで……とてもいい響きですね」
落ちようとする陽に照らされたフィオの笑顔がオレンジ色に染まる。
冴え冴えとした銀髪がまるで黄金のように輝いて見えて、俺は思わず目をこすった。
「ゲイル?」
「い、いや、なんでもねえよ」
……ほんとはさ。輝いたフィオが、まるで教会に描かれた神の使途のように見えたんだ。
魔王の代わりに神が遣わしたのは、かけがえのない俺の半身。その黄金の翼で俺を未来へと導く大天使
俺は聖女で平和をもたらすらしい。でもその俺に平和をもたらすのはフィオだ。
皆が帰った後、片づけを手伝おうとしたらサフィール総出で叱られた。
「ちょっと!花嫁さんが何をするつもりなの?!
あなたたちは新婚なのよ!さっさと帰りなさい!」
「そうよ。ゲイルお兄様ったら、分かってる?最初の晩なのよ!二人きりで過ごさなきゃ!」
「ここに泊まっても良いが、どうする?
一応……なんだ、その……離れに部屋を用意させたが……」
眼をさまよわせながらしどろもどろの兄貴。
お気遣いありがとう。
「……ではお言葉に甘えて帰らせて頂きましょうか?みなさん、本当にありがとうございました。
最高の式でした。生涯忘れられぬほど、素晴らしい日となりました。改めて後日ご挨拶に参ります」
少し赤い顔でフィオが俺を促した。
「……だな。じゃあ、遠慮なく失礼させてもらう。みんな、ありがとう。最高の日になった!」
「でしょう、苦労したんだからね?」と笑う女性陣には本当に頭が上がらねえ。
使用人たちにも礼をしないとな。
暖かな見送りというにはいささか乱暴な見送りを受け、俺たちは「二人の家に」帰る。
これからはフィオの家が俺の家だ。
でもって、そこから俺はグリフィスや下街に通う。
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