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第9章 聖女のお披露目

俺が聖女だ!

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朝から俺とフィオ、クリスはこれでもかってくらい飾り付けられている。

俺とフィオの衣装はお揃いの白。光沢のある生地が光を反射し、見る角度によっては金にも銀にも見える。
フィオの髪の色と俺の髪の色だ。生地全体に細やかな文様をびっしりと織り込んである。ぱっと見ではわからないが、動けばかすかな陰影がこの布一枚にどれほどの手間がかけられているのか見るものに知らしめる。
こだわりの布だ。

俺とフィオの衣装はデザイン違い。

フィオの上着はすらりとした長身を引き立てるようにテールを長く取ってある。この長さは俺がこだわり抜いた。
歩を進めるたびに長いテールが優雅にゆらめく。
ひらりふらりと揺らめく優美な姿に、つい手を伸ばして触れてみたくなるのは俺だけだろうか?

反対に俺の上着は短めに。ウエストを絞り、鍛えた上半身に目がいくように仕上げた。
細身のトラウザースでシルエットはスッキリと。
聖女だからって女っぽくする必要はない。俺は俺だ。
敵には容赦しないし、大切なものを守るためなら戦うことを厭わない。
優美でありながらも、男らしい猛々しさを失わない装いだ。

ウエストコート、トラウザースに至るまで全て真っ白。
そこに唯一色を添えるのはお互いのタイを留めるピン。
フィオのはエメラルド、俺のはサファイア。お互いの瞳の色だ。



特筆すべきは、あのドラゴンの鱗で作ったアクセサリー。
フィオのは耳から垂れる形のイヤリング、俺のはイヤーカフスにした。
お揃いの指輪も作った。式で指輪交換はしないから、結婚指輪のつもりで先に渡した。
貴族たちに「こいつは俺のもん」って見せつけてやりたいってのもある。
さすがアイスドラゴンなだけあり、自ら薄く発光している。フィオの白皙の美貌に輝きを添える逸品だ。
アイスドラゴンの鱗にはもともと氷属性強化の効果がある。そこに俺が「絶対防御」「魔力増強」を付与しておいた。俺が一緒にいない時もこいつがフィオを守ってくれるだろう。

これを渡したとき、フィオはすぐにそれが特別なものだと気付いた。

「これは……!どうしたのですか?触れただけで力が溢れてきます。それに……何か付与されていますね?」

「気づいたか?絶対防御、魔力増強の付与だ。アイスドラゴンの鱗で作ったから、氷属性強化もあるぞ。フィオのにピッタリだろ?」

「!アイスドラゴン!まさか!そんな貴重な素材、どうしたんですか?」

「狩った!クリスにも結婚祝いってことで手伝ってもらってな」

「もしかして先日『治療を頼まれた』というのは……」

「アイスドラゴンを狩りに行ってきたんだ。サプライズしたくてさ。驚いたろ?」

「あなたが狩ったのですか?!なんて危ないことを!あなたが無事でよかった。一緒に行ってくれたクリスにも感謝せねばなりませんね。ありがとうクリス。
その旅でやきもきはさせられましたが……まさかの私のためだったなんて……!このプレゼントはとても、とてもうれしいです。イヤリングも貴方とお揃いなのですね。指輪も…………。大切にします。肌身離さず、身に着けます」

淡々と話していると思いきや、感動しすぎておかしくなっているようだ。
話しながらボタボタと涙を落とし始めた。
しかも本人はそれに気づいていない。

「ふは!フィオ……お前、泣きすぎ」

「?泣いている?私が?」

ほら、と涙を指でぬぐってやる。

「父にムチ打たれても泣いたことはないのですが……嬉しいときも涙が出るのだとあなたが教えてくれました。ゲイルと出会ってから私は泣いてばかりだ」

「確かに。フィオ、お前、ゲイルといるとこんなに表情が変わるんだなあ。ゲイルがお前のことかわいいかわいいっつーの、信じてなかったんだが。確かに、可愛いぞ。ゲイルといるとき限定でな」

「いいんだよ。フィオの可愛い顔は俺のもんなの!」

「はいはい。ごちそうさま!」



ちなみにクリスの衣装は漆黒。
黒と言っても青みがかったもの、赤みがかったもの、いろいろな黒がある。
だが、クリスの衣装には黒の中の黒、キングオブブラック、黒色無双と呼ばれる黒だ。
俺たちの衣装と同じく細かな織が入っているのだが、クリスの場合はよほど近づいてみないとわからない。
それでも、その厚み、光沢がそれが特別なものだと十分に伝えてくれる。

デザインはシンプルに詰襟。俺とフィオの衣装と同じ色で縁取りがしてある。
その身体の中央を走る純白のラインが、キリリと全体の印象を引き締めていた。
きっとこの襟は義姉のみたて、ラインはエリアナだろう。
シンプルなデザインだからこそクリスのストイックに鍛え上げられた肉体を、存分に魅せている。

その胸元に彩を落とすのは俺の瞳のエメラルド。聖女の護衛として、俺の色を身に着けてもらった。


「おい、クリス。お前にも最後の仕上げな!」

ほい、とほおってやったのは。
小さなピアスとバングルだ。

「おまえ、これ!」

「うろこが余ったからさ」

「いや、まさか俺までお揃いなんて……いいのか?」

「お前も一蓮托生、だろ?指輪はやれねえけどな」

「一蓮托生、か。違いねえ。指輪なんてした日にはフィオに殺されちまう!……ありがとな。大切にする」

「おう。お前にも付与しといたからさ。常につけとけよ」




これで戦いの準備は整った。
今日俺は世間に向かって宣言するのだ・

俺が聖女だ。そして、フィオは俺の伴侶、クリスは俺の親友で護衛。
異論は認めねえ。
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