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第八章 これから
狂乱のサフィール
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サフィールにクリスを連れて行き、兄貴や義姉さん、エリアナ、そしてエリアスに紹介。
「まあまあ!あなたがクリスさんね!ゲイルから話は聞いていたわ!いつもうちの子がご迷惑をおかけして…」
「ずっとお会いしたかったんですよ?ゲイルお兄様のお世話、大変でしたでしょう?お友達でいてくださってありがとうございます」
「ゲイルの相手をするのは大変でしょう?何かあれば遠慮なくウチに言ってください」
「うむ」
ちなみに、最後の「うむ」が兄貴だ。
女性陣にエリアスまで加われば無敵。兄貴ではちと分が悪い。
既に悟ったような表情で、クリスに向かって小さく頷く。
あれは「頑張ってくれ。私は大人しく見守っているからな」だな。
「さあさあ、あなたの衣装を作るのよね?時間がないわ!ゲイルとフィオくんに負けないものにしないと!スタイルもいいし、やりがいがあるわあ!」
「お母様、ゲイルとボルゾイさん……ねえ、もうフィオさんって呼んでいい?」
「もちろんです」
「ゲイルとフィオさんは白い衣装にしたでしょ?ならいっそクリスさんは黒はどう?」
「きゃああ!それは素敵ね!聖女とその婚約者が純白の衣装で並ぶ。そこに漆黒に衣装で寄り添う……ロマンチックだわあああ!」
「ね?クリスさんの精悍なイメージにもピッタリ。光沢のある生地がいいんじゃないかしら?」
「そうね。ちょっとクリスさん、そこに立ってみて」
昨日のうちに早馬を飛ばしてはみたんだが……なんとズラリと生地が並んでいた。
眼の下にどす黒いクマをつくった仕立て屋がぼろぼろの姿で控えている。
こりゃあ相当無理を言ったな……。すまん。後でヒールしてやるから、許せ。
ちなみに、ここまでクリスは一言も口を開いていない。
クリスが「ク…」と名乗りをあげようとした途端、一方的にまくしたてられ、うきうきと連れられて行った。
まるで売られていく子牛のようなクリスを、俺もフィオも温かく見送る。
助けを求めるような視線を感じたが、手のひらを上にして肩をすくめることで返事をする。
すまんクリス。こうなったらもう俺たちにしてやれることはねえ。
俺たちの衣装選びはもう終わっているし、デザインも伝えてあるから、きっとちょうどいいのを選んでくれるはずだ。二人にまかせておけば間違いないだろう。
女性陣に挟まれたクリスがせっせと布を当てられあっちこっちにくるくると回されているのを横目に、兄貴が何事もなかったかのように茶を勧めてきた。
「ゲイル、フィオ。こちらに茶の支度をさせている。我々はゆっくり待とう」
「お任せしてしまっていいのでしょうか?」
少し遠慮がちなフィオの肩を兄貴がポンと叩いた。
「ゲイルとフィオのデザインは任せてもらえなかっただろう?それが心残りだったようでな。昨日から張り切っていたんだ。任せてもらえるとありがたい」
遠い目をする兄貴。兄貴……苦労してんだな。
「それで、宝飾品は決まったのか?良ければ私が……」
「ありがとう。でも、もう手配したから」
「そうか……うむ、それならよいのだ……」
残念そうだ。
「もしかして……兄貴も何か選びたかったのか?」
「いや、私からもゲイルとフィオに何か祝いができればとな」
「フィオ、なんか欲しいもんあるか?」
って言っても、もともとそんなに物欲はねえからなあ……。でも、兄貴の気持ちが有難い。
男と結婚するってえ弟をよくぞここまで受け入れてくれたもんだ。
するとフィオが恥ずかしそうにはにかんだ。グハッツ!なんだよその顔!可愛すぎるだろうが!!
「私がずっと欲しかったものはもう手に入りましたから」
「ん?俺?」
ニヤリと笑って自分を指せば、兄貴が呆れ顔。
「お前のその自信はどこから来るんだ」
「ふふふ。ゲイルはもちろんですが……。兄上や姉上、エリアナさんという素晴らしい家族ができました。なによりの贈り物です」
「フィオ!!」
感極まった兄貴がフィオを抱きしめようとするのを、フィオを抱き込むことで素早く阻止。
「フィオに抱き着いていいのは俺だけだ!兄貴はダメ!」
「狭量な奴め!少しくらいいいだろう。ようやく可愛げのある弟ができたんだ」
「俺だって可愛いだろうが」
「可愛いのは間違いないが、可愛げがない」
「ほら!来いよ!俺なら抱きしめていいぞ!」
わざわざ手を広げてやったというのに「そうじゃないんだ」と首を振られた。なんだよクソ兄貴!
「あははは!私は兄上なら大歓迎ですけどね?」
「フィオ!浮気か!」
「ゲイル……心の狭い男は捨てられるぞ?」
わあわあやっているタイミングで、使用人のメアリーがチーズケーキを持ってきた。
「あらあら、騒がしいですこと!坊ちゃま、焼きもちもいいかげんになさいましな。ほら、これでも召し上がって大人しくなさい」
いいかげん坊ちゃまもやめて欲しいんだが……好物の前では口をつぐむしかねえな。
待つのにも飽きてきたころ、ふらふらになったクリスとやりきった表情の義姉さん、エリアナが戻ってきた。
「……なんとか決まった……」
「とってもいい衣装になりそうよ!楽しみにしていてね!」
「クリスさん、これまで何もしてこなかったでしょう?化けるわよお!びっくりしないでね!」
クリスに後で聞いたところ、スタンピートよりも精神的に疲れたという。
お疲れ!
「まあまあ!あなたがクリスさんね!ゲイルから話は聞いていたわ!いつもうちの子がご迷惑をおかけして…」
「ずっとお会いしたかったんですよ?ゲイルお兄様のお世話、大変でしたでしょう?お友達でいてくださってありがとうございます」
「ゲイルの相手をするのは大変でしょう?何かあれば遠慮なくウチに言ってください」
「うむ」
ちなみに、最後の「うむ」が兄貴だ。
女性陣にエリアスまで加われば無敵。兄貴ではちと分が悪い。
既に悟ったような表情で、クリスに向かって小さく頷く。
あれは「頑張ってくれ。私は大人しく見守っているからな」だな。
「さあさあ、あなたの衣装を作るのよね?時間がないわ!ゲイルとフィオくんに負けないものにしないと!スタイルもいいし、やりがいがあるわあ!」
「お母様、ゲイルとボルゾイさん……ねえ、もうフィオさんって呼んでいい?」
「もちろんです」
「ゲイルとフィオさんは白い衣装にしたでしょ?ならいっそクリスさんは黒はどう?」
「きゃああ!それは素敵ね!聖女とその婚約者が純白の衣装で並ぶ。そこに漆黒に衣装で寄り添う……ロマンチックだわあああ!」
「ね?クリスさんの精悍なイメージにもピッタリ。光沢のある生地がいいんじゃないかしら?」
「そうね。ちょっとクリスさん、そこに立ってみて」
昨日のうちに早馬を飛ばしてはみたんだが……なんとズラリと生地が並んでいた。
眼の下にどす黒いクマをつくった仕立て屋がぼろぼろの姿で控えている。
こりゃあ相当無理を言ったな……。すまん。後でヒールしてやるから、許せ。
ちなみに、ここまでクリスは一言も口を開いていない。
クリスが「ク…」と名乗りをあげようとした途端、一方的にまくしたてられ、うきうきと連れられて行った。
まるで売られていく子牛のようなクリスを、俺もフィオも温かく見送る。
助けを求めるような視線を感じたが、手のひらを上にして肩をすくめることで返事をする。
すまんクリス。こうなったらもう俺たちにしてやれることはねえ。
俺たちの衣装選びはもう終わっているし、デザインも伝えてあるから、きっとちょうどいいのを選んでくれるはずだ。二人にまかせておけば間違いないだろう。
女性陣に挟まれたクリスがせっせと布を当てられあっちこっちにくるくると回されているのを横目に、兄貴が何事もなかったかのように茶を勧めてきた。
「ゲイル、フィオ。こちらに茶の支度をさせている。我々はゆっくり待とう」
「お任せしてしまっていいのでしょうか?」
少し遠慮がちなフィオの肩を兄貴がポンと叩いた。
「ゲイルとフィオのデザインは任せてもらえなかっただろう?それが心残りだったようでな。昨日から張り切っていたんだ。任せてもらえるとありがたい」
遠い目をする兄貴。兄貴……苦労してんだな。
「それで、宝飾品は決まったのか?良ければ私が……」
「ありがとう。でも、もう手配したから」
「そうか……うむ、それならよいのだ……」
残念そうだ。
「もしかして……兄貴も何か選びたかったのか?」
「いや、私からもゲイルとフィオに何か祝いができればとな」
「フィオ、なんか欲しいもんあるか?」
って言っても、もともとそんなに物欲はねえからなあ……。でも、兄貴の気持ちが有難い。
男と結婚するってえ弟をよくぞここまで受け入れてくれたもんだ。
するとフィオが恥ずかしそうにはにかんだ。グハッツ!なんだよその顔!可愛すぎるだろうが!!
「私がずっと欲しかったものはもう手に入りましたから」
「ん?俺?」
ニヤリと笑って自分を指せば、兄貴が呆れ顔。
「お前のその自信はどこから来るんだ」
「ふふふ。ゲイルはもちろんですが……。兄上や姉上、エリアナさんという素晴らしい家族ができました。なによりの贈り物です」
「フィオ!!」
感極まった兄貴がフィオを抱きしめようとするのを、フィオを抱き込むことで素早く阻止。
「フィオに抱き着いていいのは俺だけだ!兄貴はダメ!」
「狭量な奴め!少しくらいいいだろう。ようやく可愛げのある弟ができたんだ」
「俺だって可愛いだろうが」
「可愛いのは間違いないが、可愛げがない」
「ほら!来いよ!俺なら抱きしめていいぞ!」
わざわざ手を広げてやったというのに「そうじゃないんだ」と首を振られた。なんだよクソ兄貴!
「あははは!私は兄上なら大歓迎ですけどね?」
「フィオ!浮気か!」
「ゲイル……心の狭い男は捨てられるぞ?」
わあわあやっているタイミングで、使用人のメアリーがチーズケーキを持ってきた。
「あらあら、騒がしいですこと!坊ちゃま、焼きもちもいいかげんになさいましな。ほら、これでも召し上がって大人しくなさい」
いいかげん坊ちゃまもやめて欲しいんだが……好物の前では口をつぐむしかねえな。
待つのにも飽きてきたころ、ふらふらになったクリスとやりきった表情の義姉さん、エリアナが戻ってきた。
「……なんとか決まった……」
「とってもいい衣装になりそうよ!楽しみにしていてね!」
「クリスさん、これまで何もしてこなかったでしょう?化けるわよお!びっくりしないでね!」
クリスに後で聞いたところ、スタンピートよりも精神的に疲れたという。
お疲れ!
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