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第五章 ゲイルは聖女

閑話休題 幸せパンケーキデート

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運ばれてきたパンケーキを見てフィオが目を丸くしている。

「こ、これは……なんというか、凄いですね」
「だろ!」

ふかふか黄金色のパンケーキに、これでもかってくらいのクリームてんこ盛り!
フィオのはモンブランパンケーキ。クリームの上にマロンペーストがたっぷりかけてあり、あちこちにマロングラッセがゴロゴロ。

俺のはフルーツパンケーキ。たっぷりした生クリームの上にマンゴーソース。甘いマンゴー、バナナの間のパイナップルの酸味が程よいアクセントに。色々なフルーツが盛られた目にも楽しい一皿だ。

「半分ずつ食おうぜ!フィオがいると2種類食えるからいいな!」

ご機嫌で笑いかければ、フィオもほほ笑んだ。

「ふふ。それならこれからは私も誘ってください」
「そうだな。もう十分フィオにも栄養が付いたしな。これからはフィオと来よう」

言いながらサクッとケーキにナイフを入れる。もちもちとした弾力のある生地にクリームをたっぷりのせて……

「さあ、糖分をたっぷり補給するぞ!またしばらく忙しい日が続くからな」

うーん!至福の一口だ!甘さ控えめの生地に、やわらかめのクリームがしっとりと絡み、濃厚な甘さの後でフルーツのさわやかな酸味が後味をスッキリさせる。

「甘さが染みる~!ほら、フィオも食ってみな」
「はい。…………!これは、かなりな甘さですね。マロンペーストが濃いので、逆にクリームがあっさり感じます」
「ふは!なんだそりゃ!じゃあ、こっち食ってみな。モンブランの後ならすんげえ爽やかに感じるんじゃね?」
「本当に!フルーツがさっぱりした後味で、いくらでも入りそうです」
「フィオにはこっちのほうが良かったか?」
「いえ、どちらも美味しいです。それぞれの個性があるというか……どちらも幸福な味がします」

もぐもぐと口を動かしながら真剣に味を語るフィオ。
こいつが味覚障害だったなんて誰が思うだろう。何を食べても味がしなかったって言ってたのに、今じゃあパンケーキ食って真剣に能書き垂れてやがる。
ほんとうに良かったよな。飯ってうまいんだよ。美味いもんは、身体だけじゃなく心も豊かにしてくれるだろ?

「ほら、口開けろ。もっと食え。他のも頼んでみるか?」

なんか、過去を思うとこいつがにこにこ食ってるだけで泣きそうになる。
んで、餌付けみてえにいろいろ食わせてやりたくなるんだよなー。

「ありがとうございます」

フィオの口にフルーツを突っ込んでやりながら、俺も糖分を補充する。
式の準備なんていう慣れないことしてるもんだから、とにかく脳が疲れてる。
あと半年か……。

「これからあと……何するんだっけ?」
「あとは、楽団の手配と、アクセサリーの……」
「あ、アクセサリーは俺に任せて欲しい。いいか?」
「え?別に構いませんが……私も貴方に選びたいのですが……」
「じゃあ被らないようにそとこうぜ。俺はイヤーカフスを選ぶから、お前はブローチを選んでくれ。俺、お前の選んでくれたブローチでクラバットを留めたい」
「それはいいですね。楽しみだ」
「な!すんげえの用意するから楽しみにしててくれ!」

アイスドラゴンの情報が入り次第、クリスと出ることになっている。
狩りから加工まで、3か月もあれば間に合うだろう。式までには用意できるはずだ。

フィオがそれを見たときの顔を想像して、思わずニヤニヤ。

「嬉しそうですね?何を考えていたのですか?」
「んー?お前のこと」


何気なく答えると、どこかから「きゃー!」だの叫び声がした。ん?と目をやると、可愛らしい女性が頬をあからめ胸の前で手を組んで俺たちを見ていた。目があったのでひらひらと手を振ると、フィオが「やめてください」と俺の手を掴む。
すると更なる悲鳴。

「きゃー!」
「ほら、あのお二人!絶対にお付き合いされてるのよ」

ぼそぼそと声が聞こえる。
ああ、そういうことか。
俺は握られたままの自分の手を持ち上げると、フィオの手の甲にキスをして、彼女たちに向かって片目をつぶってっ見せた。俺のこいつ、かわいいだろう?

あ。真っ赤になって机に伏せちまった。
フィオが呆れたような目で俺を見る。

「ゲイル。無駄にフェロモンを振りまいて被害者を出さないでください」

いや、ちょっとサービスしてやっただけだって!




帰るとき店長から「またぜひお二人で来てくださいね!」と熱意を込めて言われた。俺たちのおかげでモンブランとフルーツパンケーキが飛ぶように売れたそうだ。



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