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第四章 ゲイルをください?
陛下と俺
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んじゃ、王城に行くか!
と思ったが、兄貴が渋い顔をしたからまあ前触れ出しとくか。
という訳で兄貴に頼み、王城に遣いを出して貰った。
一旦帰って出直そうとすると、一日で一気に草臥れた兄貴がすげえ顔で襟首を掴んできた。
「まあ、待て」
笑顔の圧がすげえ!
「お前、陛下になんと申し上げるつもりだ?」
「あん?普通にルーを読んで説明してもらう。聖獣が話す方が話が早いだろ?んで、俺とフィオの結婚を認めてくれって頼む。断られたら『聖女の願いは叶えた方がいいぜ?』とか『なら俺の力は当てにすんなよ?』って」
兄貴が額に手をやって俯き、深い深いため息を吐いた。
「お前…陛下を脅す気か?」
「いや、勿論、丁寧にお願いするつもりだぞ?」
フィオがそっと俺の肩に手を置き微笑んだ。
「大丈夫ですよ。私も筆頭公爵家当主ですし、これでも一応宰相ですから。認めて頂けないのならば職を辞し、もう一つの公爵家に筆頭を委ねましょう」
「反王家にか!フィオもなかなかえげつねえこと言うようになったなあ。良い子だ!」
「……フィオくん、ゲイルから悪い影響を受けないように」
心配症の兄貴を励ます意味で俺は教えてやることにした。
「あのさあ。実は俺、昔っから毒だの暗殺未遂だのって陛下に呼び出されて、何度も王城に行ってるんだよ。命救ってやってるし、俺、陛下の恩人なんだぜ。落ち着いた今は、陛下は俺の飲み友達だ。だから多分大丈夫だって!ちなみに陛下んとこ行く裏ルートの鍵も持ってるんだぜ?」
「初耳です」
「まあ、内緒にしてたからな。そもそもグランディールは避けて通ってたんだし。ボルゾイはボルゾイで……知れたら面倒だったろ?お前絶対に焼きもち焼いたろうがよ」
「……それでも教えて頂きたかったです」
「今言ったろ?まあ、それが役に立つんだからいいじゃねえか!な?」
フィオの頬にキスしてご機嫌をとってやる。
兄貴は俺が陛下んとこ通ってたの知らなかったらしい。相当お冠だ。まあ言ったら止められそうだからって内緒にしてたんだ。知らなくて当然なんだがな。
「…お前の能力を王家にずっと利用されていたとは!いつからだ?まさか、子供の頃からか?時々いなくなるのは王城に通っていたからか!何故言わなかった!子供を権力争いに巻き込むとは……陛下を見損なったぞ!」
と憤怒の表情になった。王家に忠誠を誓うサフィール家だが、こと家族に関しては譲らねえからな。マジで陛下に怒鳴り込む勢いだ。
「だから言わなかったんだよ。言ったら兄貴は止めただろ?
俺、陛下にここを治めて欲しかったからさ。陛下の語った『国民のための政治』って青臭い未来を見てみたかったんだよ。だけど、俺、正解だったろ?陛下が古臭い権威主義を変えてくれたんだからさ」
平民を踏みつけにして、飢える国民から食料を奪い肥える貴族が俺は嫌いだった。反吐が出た。
だから……誰もが笑顔になれる国ってやつ、俺も見てみたかったんだ。
超え太った豚共に命を狙われても毒を盛られても、それでも笑う陛下を、俺は信じた。
俺の名は貴族の間ではそれなりに力がある。でも「ゲイルが反王家に狙われぬように」と表では「後ろ盾になっているだけ」として友達付き合いをみじんも匂わせたりしない陛下だから、手を貸すと決めた。
「王家に利用されたわけじゃねえ。俺が陛下に手を貸したかったから、貸したんだ。
まあ、その借りを今から返してもらうつもりだからな。ちょうどいいだろ!」
俺だっって馬鹿じゃない。それなりの勝算があって言ってるんだ。
俺は、最高に俺らしい自信に満ちた笑みを浮かべて見せる。
「俺に任せろ。俺はゲイルだぞ?」
「……名を名乗っているだけなのに、その名を聞くと何とかなると思えるから不思議ですね。ゲイルという名にはそれだけの力がある。あなたが与えた力が。あなたに拾って頂けたことは私の人生最大の僥倖です」
「お前を拾った俺は、我ながらいい仕事したと思うぜ。最高の拾いもんだった!」
ってことで。
「なあ兄貴。一応先触れも送ったことだしさ。向こうも俺がわざわざ先触れを送るなんて何かあると思うはずだ。
心配しなくて大丈夫だ」
兄貴はしばらく黙って考えていたが「30分待て」と言って消えた。
まあ30分くらいならとフィオと茶を飲んで待っていると……。
「なんだその紙の束!」
さらにくたびれた様子の兄貴が紙の束を片手に戻ってきた。
「読め。読んで覚え込め。覚えられないのなら陛下の前で読み上げろ」
「はあ?」
ひろげてみると……
「なになに。お忙しいところお時間を頂戴し、至極光栄の至りにございます。私ゲイルは、閣下にご報告がありはせ参じました。こたび、聖獣が私のもとに顕現し、驚くべきことを申したのでございます……」
延々と続いている。
は?なんだこれ?
「まさか、これを読み上げろってか?」
途中には「ここで聖獣様を召喚すること」だの「ここで聖獣様にお話しいただく」だののト書きまでついている。
マジかあ……。
「いや、ガキじゃねえんだからさ。俺だって、伯爵家当主なんだ。普通に貴族の会話だってできるぞ?」
あまりにも砕けた口調で話しすぎたか?
「兄上には大変気苦労をおかけし、いつも心苦しく思っております。しかしながら、私にも立場というものがございます。私と愛する人の未来にかかわる場で、当事者である私が兄の背に隠れてなんとなりましょうか。そのような恥をさらすわけには参りません。ここはどうか、私を信頼し、任せてはいただけませんでしょうか?」
きっちりと足を引き非の打ちどころのない礼も披露する。
兄貴がしっかりと叩きこんでくれただろ?ちゃんと身についてる。わすれちゃいねえ。やらなきゃいけないとき以外はやらないって決めてるだけだ。
二ッと得意げに笑って見せれば。兄貴も仕方ないという表情で口元を緩めた。
「……できるのならばいつもそうしてくれ」
「いや、それをしないから俺なんだろ。兄貴だってそんな俺が大好きなくせに」
「お前のその自信はどこからくるのだ?」
「何言ってんだよ。俺の自信、兄貴が育ててくれたんじゃん。今はフィオがくれるぜ?」
「フィオくん。あまりこやつを甘やかさないように。これ以上好き勝手されては困る」
「ふふふ。すみません。好き勝手するゲイルが好きなので」
「ほらな!」
俺の勝ち!
と思ったが、兄貴が渋い顔をしたからまあ前触れ出しとくか。
という訳で兄貴に頼み、王城に遣いを出して貰った。
一旦帰って出直そうとすると、一日で一気に草臥れた兄貴がすげえ顔で襟首を掴んできた。
「まあ、待て」
笑顔の圧がすげえ!
「お前、陛下になんと申し上げるつもりだ?」
「あん?普通にルーを読んで説明してもらう。聖獣が話す方が話が早いだろ?んで、俺とフィオの結婚を認めてくれって頼む。断られたら『聖女の願いは叶えた方がいいぜ?』とか『なら俺の力は当てにすんなよ?』って」
兄貴が額に手をやって俯き、深い深いため息を吐いた。
「お前…陛下を脅す気か?」
「いや、勿論、丁寧にお願いするつもりだぞ?」
フィオがそっと俺の肩に手を置き微笑んだ。
「大丈夫ですよ。私も筆頭公爵家当主ですし、これでも一応宰相ですから。認めて頂けないのならば職を辞し、もう一つの公爵家に筆頭を委ねましょう」
「反王家にか!フィオもなかなかえげつねえこと言うようになったなあ。良い子だ!」
「……フィオくん、ゲイルから悪い影響を受けないように」
心配症の兄貴を励ます意味で俺は教えてやることにした。
「あのさあ。実は俺、昔っから毒だの暗殺未遂だのって陛下に呼び出されて、何度も王城に行ってるんだよ。命救ってやってるし、俺、陛下の恩人なんだぜ。落ち着いた今は、陛下は俺の飲み友達だ。だから多分大丈夫だって!ちなみに陛下んとこ行く裏ルートの鍵も持ってるんだぜ?」
「初耳です」
「まあ、内緒にしてたからな。そもそもグランディールは避けて通ってたんだし。ボルゾイはボルゾイで……知れたら面倒だったろ?お前絶対に焼きもち焼いたろうがよ」
「……それでも教えて頂きたかったです」
「今言ったろ?まあ、それが役に立つんだからいいじゃねえか!な?」
フィオの頬にキスしてご機嫌をとってやる。
兄貴は俺が陛下んとこ通ってたの知らなかったらしい。相当お冠だ。まあ言ったら止められそうだからって内緒にしてたんだ。知らなくて当然なんだがな。
「…お前の能力を王家にずっと利用されていたとは!いつからだ?まさか、子供の頃からか?時々いなくなるのは王城に通っていたからか!何故言わなかった!子供を権力争いに巻き込むとは……陛下を見損なったぞ!」
と憤怒の表情になった。王家に忠誠を誓うサフィール家だが、こと家族に関しては譲らねえからな。マジで陛下に怒鳴り込む勢いだ。
「だから言わなかったんだよ。言ったら兄貴は止めただろ?
俺、陛下にここを治めて欲しかったからさ。陛下の語った『国民のための政治』って青臭い未来を見てみたかったんだよ。だけど、俺、正解だったろ?陛下が古臭い権威主義を変えてくれたんだからさ」
平民を踏みつけにして、飢える国民から食料を奪い肥える貴族が俺は嫌いだった。反吐が出た。
だから……誰もが笑顔になれる国ってやつ、俺も見てみたかったんだ。
超え太った豚共に命を狙われても毒を盛られても、それでも笑う陛下を、俺は信じた。
俺の名は貴族の間ではそれなりに力がある。でも「ゲイルが反王家に狙われぬように」と表では「後ろ盾になっているだけ」として友達付き合いをみじんも匂わせたりしない陛下だから、手を貸すと決めた。
「王家に利用されたわけじゃねえ。俺が陛下に手を貸したかったから、貸したんだ。
まあ、その借りを今から返してもらうつもりだからな。ちょうどいいだろ!」
俺だっって馬鹿じゃない。それなりの勝算があって言ってるんだ。
俺は、最高に俺らしい自信に満ちた笑みを浮かべて見せる。
「俺に任せろ。俺はゲイルだぞ?」
「……名を名乗っているだけなのに、その名を聞くと何とかなると思えるから不思議ですね。ゲイルという名にはそれだけの力がある。あなたが与えた力が。あなたに拾って頂けたことは私の人生最大の僥倖です」
「お前を拾った俺は、我ながらいい仕事したと思うぜ。最高の拾いもんだった!」
ってことで。
「なあ兄貴。一応先触れも送ったことだしさ。向こうも俺がわざわざ先触れを送るなんて何かあると思うはずだ。
心配しなくて大丈夫だ」
兄貴はしばらく黙って考えていたが「30分待て」と言って消えた。
まあ30分くらいならとフィオと茶を飲んで待っていると……。
「なんだその紙の束!」
さらにくたびれた様子の兄貴が紙の束を片手に戻ってきた。
「読め。読んで覚え込め。覚えられないのなら陛下の前で読み上げろ」
「はあ?」
ひろげてみると……
「なになに。お忙しいところお時間を頂戴し、至極光栄の至りにございます。私ゲイルは、閣下にご報告がありはせ参じました。こたび、聖獣が私のもとに顕現し、驚くべきことを申したのでございます……」
延々と続いている。
は?なんだこれ?
「まさか、これを読み上げろってか?」
途中には「ここで聖獣様を召喚すること」だの「ここで聖獣様にお話しいただく」だののト書きまでついている。
マジかあ……。
「いや、ガキじゃねえんだからさ。俺だって、伯爵家当主なんだ。普通に貴族の会話だってできるぞ?」
あまりにも砕けた口調で話しすぎたか?
「兄上には大変気苦労をおかけし、いつも心苦しく思っております。しかしながら、私にも立場というものがございます。私と愛する人の未来にかかわる場で、当事者である私が兄の背に隠れてなんとなりましょうか。そのような恥をさらすわけには参りません。ここはどうか、私を信頼し、任せてはいただけませんでしょうか?」
きっちりと足を引き非の打ちどころのない礼も披露する。
兄貴がしっかりと叩きこんでくれただろ?ちゃんと身についてる。わすれちゃいねえ。やらなきゃいけないとき以外はやらないって決めてるだけだ。
二ッと得意げに笑って見せれば。兄貴も仕方ないという表情で口元を緩めた。
「……できるのならばいつもそうしてくれ」
「いや、それをしないから俺なんだろ。兄貴だってそんな俺が大好きなくせに」
「お前のその自信はどこからくるのだ?」
「何言ってんだよ。俺の自信、兄貴が育ててくれたんじゃん。今はフィオがくれるぜ?」
「フィオくん。あまりこやつを甘やかさないように。これ以上好き勝手されては困る」
「ふふふ。すみません。好き勝手するゲイルが好きなので」
「ほらな!」
俺の勝ち!
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