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第四章 ゲイルをください?
いざ出陣!
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「…………どのようなお方なのですか?」
サフィール侯爵家に向かいながら、フィオが青ざめが顔で俺に問う。
うーん。めちゃくちゃ緊張してやがるな。
「とりあえず……厳格だ」
「厳格……」
「俺は遅くにできた子なんだよ。親父は……あー……グランディールを避け、17歳になるやいなや幼馴染だった母上と結婚したんだがな。なかなか子に恵まれず、兄貴が生まれたのは6年後。23になってからだったんだ。兄貴は嫡男なうえ、唯一の子になる可能性が高いからってんで、厳格に当主教育された」
「……私と……少し似ていますね」
「いわれてみればそうか。うちの親父はこういってはなんだが、そこまで厳格じゃねえぞ?どっちかってえと学者気質なんだよ。なにしろ、家系図見てグランディールとの婚姻の多さに気づいていろいろ調べたのは親父だからな。んで、自分もグランディールを避けてさっさと結婚しちまったんだが、兄貴にもそれを叩き込んだ。ちょうど兄貴の代のグランディールが……お前の親父さんだろ?いっちゃあなんだが悪名がな……。男同士の上にヤベエヤツだってんで、そりゃもう一家一丸となって避けまくった」
フィオが微妙な表情をした。フィオのクソ親父を避ける気持ちは理解できるが、自分も避けられたグランディールだからなあ……。
「まあ、そっから17年後。子供は一人だと諦めてた時にできたのが、俺だ。兄貴とは17歳違いになる。家族総出でそりゃもう可愛がられたんだぜ?ところが、兄貴が結婚してエリアナが生まれたとたん、状況が変わった。親父がさっさと当主を譲って田舎に引っ込みやがった。そんとき俺はまだ5歳だった。幼い息子まで田舎で隠遁生活させるのもかわいそうだってんで、俺はこっちに置いて行かれたんだ。んで、俺はエリアナと一緒に兄貴と義姉に育てられたんだ。だから兄貴はもう一人の父親、エリアナは妹みたいなもんなんだよ」
「それは……なんというか……」
「親父とはそれなりにやりとりしてるしな。だけど、こういった事情で、兄貴の俺への接し方は父親に近いんだ。おまけにエリアナが生まれるまで兄貴にも溺愛されてたから、娘を持つ父親みたいに口うるせえんだよ。しかも兄貴の代は特に『グランディールに近づくな』を徹底して育てられたからなあ、グランディールを連れ帰ったら卒倒しかねん。グランディールの呪い、って言ってさ」
「呪いですか……確かにサフィールのみなさんからすれば……呪いなのでしょうね……」
如実に落ち込んじまったフィオに、慌ててフォローを入れた。
「すま、。言葉が悪かったな。悪い意味じゃねえぞ?先祖のグランディール率の高さはまるで呪いのようだってこと。なにしろ男同士の駆け落ちなんてのも結構あったからな。さすがにビビるだろ?」
しょげかえっちまった頭をヨシヨシと撫でてやる。
「だけど、俺はお前に惚れちまった。お前もそうだろ?もうしょうがねえよ。運命って思えば、なんかロマンチックじゃねえか?」
膝に置かれた手に指を絡めてぎゅっと握ってやる。
「はは。俺、仕事が好きすぎて恋なんてしねえと思ってたんだがなあ?悪くねえな、こういうの」
繋いだ手をぎゅうっと握りかえされた。
「私もです。私の世界は……ずっと灰色でした。無味乾燥な世界で淡々と生き、そのまま死ぬのだとばかり……。初めてあなたを見たとき、天使だと思いました。初めて世界が色づいて見えたんです。死んで天国に来たのかと。……あなたのいる世界は素晴らしい。私を拾ってくださってありがとうございます」
「お前こそ、生きててくれてありがとう。見つけるのが遅くなってすまん」
俺もとっくに成人して独り立ちしている。本当は兄貴の許可なんていらねーんだけどな。
「俺たちがグランディールを避けてなきゃお前もあんな目に合わなかったんじゃないか、なんて考えちまうんだ。俺がグランディールを避けてなきゃ、もっと早くお前に気づいてやれたんじゃないか、って思っちまう」
「ゲイル……私の過去はサフィールが負うものではありません。グランディールの、父上の問題なのです。それであなたに拾ってもらえるのなら、私は何度だって同じ目にあいます」
「うん。お前はそういうだろうと思った。まあこれは俺の気持ちの問題なんだよ。兄貴に……サフィール家に伝えたいんだ。グランディール家との因縁は呪いなんかじゃない、祝福なんだって。惹かれあう運命なんだって。どのみちなるようになる。逆らう必要なんてないんだってさ」
親父が恐れたグランディールだけど。まったく恐れる必要なんてなかった。
まあ、前公爵だけは問題あるヤツだったんだが、サフィールがいたらヤツも違ってたのかもしれないな、なんてさ。
ルーの言う「聖女の血筋」なのかなんなのかわからんが、グランディールとサフィールは、駆け落ちした奴らだって幸せだったんじゃねえかな。
フィオは一人息子だから、グランディールは絶えるのかもしれない。もしくは、ルーのいう「聖女の奇跡」とやらで生まれ出るのかもしれない。
どちらにしろ、後世のサフィールにはグランディールを避けないでやってほしいと思う。
だから兄貴と対峙し、グランディールを受け入れてもらう必要があるんだ。
「…………とりあえず、フィオ。守護と魔法防御、最大のやつかけといてやる。あとヤバいときはハイヒールしてやっから!」
「………………尽力します」
サフィール侯爵家に向かいながら、フィオが青ざめが顔で俺に問う。
うーん。めちゃくちゃ緊張してやがるな。
「とりあえず……厳格だ」
「厳格……」
「俺は遅くにできた子なんだよ。親父は……あー……グランディールを避け、17歳になるやいなや幼馴染だった母上と結婚したんだがな。なかなか子に恵まれず、兄貴が生まれたのは6年後。23になってからだったんだ。兄貴は嫡男なうえ、唯一の子になる可能性が高いからってんで、厳格に当主教育された」
「……私と……少し似ていますね」
「いわれてみればそうか。うちの親父はこういってはなんだが、そこまで厳格じゃねえぞ?どっちかってえと学者気質なんだよ。なにしろ、家系図見てグランディールとの婚姻の多さに気づいていろいろ調べたのは親父だからな。んで、自分もグランディールを避けてさっさと結婚しちまったんだが、兄貴にもそれを叩き込んだ。ちょうど兄貴の代のグランディールが……お前の親父さんだろ?いっちゃあなんだが悪名がな……。男同士の上にヤベエヤツだってんで、そりゃもう一家一丸となって避けまくった」
フィオが微妙な表情をした。フィオのクソ親父を避ける気持ちは理解できるが、自分も避けられたグランディールだからなあ……。
「まあ、そっから17年後。子供は一人だと諦めてた時にできたのが、俺だ。兄貴とは17歳違いになる。家族総出でそりゃもう可愛がられたんだぜ?ところが、兄貴が結婚してエリアナが生まれたとたん、状況が変わった。親父がさっさと当主を譲って田舎に引っ込みやがった。そんとき俺はまだ5歳だった。幼い息子まで田舎で隠遁生活させるのもかわいそうだってんで、俺はこっちに置いて行かれたんだ。んで、俺はエリアナと一緒に兄貴と義姉に育てられたんだ。だから兄貴はもう一人の父親、エリアナは妹みたいなもんなんだよ」
「それは……なんというか……」
「親父とはそれなりにやりとりしてるしな。だけど、こういった事情で、兄貴の俺への接し方は父親に近いんだ。おまけにエリアナが生まれるまで兄貴にも溺愛されてたから、娘を持つ父親みたいに口うるせえんだよ。しかも兄貴の代は特に『グランディールに近づくな』を徹底して育てられたからなあ、グランディールを連れ帰ったら卒倒しかねん。グランディールの呪い、って言ってさ」
「呪いですか……確かにサフィールのみなさんからすれば……呪いなのでしょうね……」
如実に落ち込んじまったフィオに、慌ててフォローを入れた。
「すま、。言葉が悪かったな。悪い意味じゃねえぞ?先祖のグランディール率の高さはまるで呪いのようだってこと。なにしろ男同士の駆け落ちなんてのも結構あったからな。さすがにビビるだろ?」
しょげかえっちまった頭をヨシヨシと撫でてやる。
「だけど、俺はお前に惚れちまった。お前もそうだろ?もうしょうがねえよ。運命って思えば、なんかロマンチックじゃねえか?」
膝に置かれた手に指を絡めてぎゅっと握ってやる。
「はは。俺、仕事が好きすぎて恋なんてしねえと思ってたんだがなあ?悪くねえな、こういうの」
繋いだ手をぎゅうっと握りかえされた。
「私もです。私の世界は……ずっと灰色でした。無味乾燥な世界で淡々と生き、そのまま死ぬのだとばかり……。初めてあなたを見たとき、天使だと思いました。初めて世界が色づいて見えたんです。死んで天国に来たのかと。……あなたのいる世界は素晴らしい。私を拾ってくださってありがとうございます」
「お前こそ、生きててくれてありがとう。見つけるのが遅くなってすまん」
俺もとっくに成人して独り立ちしている。本当は兄貴の許可なんていらねーんだけどな。
「俺たちがグランディールを避けてなきゃお前もあんな目に合わなかったんじゃないか、なんて考えちまうんだ。俺がグランディールを避けてなきゃ、もっと早くお前に気づいてやれたんじゃないか、って思っちまう」
「ゲイル……私の過去はサフィールが負うものではありません。グランディールの、父上の問題なのです。それであなたに拾ってもらえるのなら、私は何度だって同じ目にあいます」
「うん。お前はそういうだろうと思った。まあこれは俺の気持ちの問題なんだよ。兄貴に……サフィール家に伝えたいんだ。グランディール家との因縁は呪いなんかじゃない、祝福なんだって。惹かれあう運命なんだって。どのみちなるようになる。逆らう必要なんてないんだってさ」
親父が恐れたグランディールだけど。まったく恐れる必要なんてなかった。
まあ、前公爵だけは問題あるヤツだったんだが、サフィールがいたらヤツも違ってたのかもしれないな、なんてさ。
ルーの言う「聖女の血筋」なのかなんなのかわからんが、グランディールとサフィールは、駆け落ちした奴らだって幸せだったんじゃねえかな。
フィオは一人息子だから、グランディールは絶えるのかもしれない。もしくは、ルーのいう「聖女の奇跡」とやらで生まれ出るのかもしれない。
どちらにしろ、後世のサフィールにはグランディールを避けないでやってほしいと思う。
だから兄貴と対峙し、グランディールを受け入れてもらう必要があるんだ。
「…………とりあえず、フィオ。守護と魔法防御、最大のやつかけといてやる。あとヤバいときはハイヒールしてやっから!」
「………………尽力します」
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