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混乱困惑大混雑
困惑
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あれから2人でパカパカと馬に乗って帰ってきたわけだが。
俺が手綱を握るはずが、まさかのエリアナポジション。
後ろに乗ったボルゾイが手綱を握り、まるでご令嬢のようにエスコートされて帰ってきたのである。
このゲルリアス・フィオネルが!
当たり前のような顔で嬉しそうにエスコートするフィオに、さすがの俺も「俺が手綱を握る!」とは言えなかった。
認めよう。俺はボルゾイに弱い。
そこからはいつも通り。屋敷に戻り、飯を作ってダラダラと。
フィオがいる時にはシェフではなく俺の飯だ。庶民が日常で食べているようなもんをフィオは喜んで食う。
食って面倒にならないうちに風呂かクリーンをしたら、あとはまったり寛ぎタイムだ。
俺は酒を飲みながら溜め込んだ医学誌を捲る。ボルゾイは興味深げに俺のコレクションを眺めたり、盆棚を漁ったり。
お互いに好きなことをして寛ぐこの時間が俺は気に入っている。
放っておいてもフィオは嬉しそうに寛いでいるし、本を読むのに飽きれば、勝手に俺に懐きに来る。時には筋トレを始めたりするのが見ていて面白い。
休みの前の晩は好きにすると決めているので、夜遅くまで適当に過ごして眠るなったらベッドに潜り込む。
この怠惰が堪らないのだ。
だらしないが、まあ週に1日くらいはこんな日があってもいいだろう。
だが今日はその至福の時間に妙な緊張感が。
そもそも、いつも通り屋敷に入ろうとしたら、フィオが来ない。
「どうした?」
「……私は泊まっても良いのでしょうか?」
「はあ?そのつもりでメシも仕込んであるぞ?
なんか用でもあるのか?」
すると困ったように苦笑した。
「……いえ。あなたが良いなら泊まらせて下さい」
「変なやつだな。いまさら遠慮か?」
俺が笑うと、ヤツはふ、と顔を上げ熱い視線で俺を射抜いた。
「あなたは少し……私を警戒したほうがいい」
その時俺は「何を警戒するんだよ」と笑ってみせたが、内心では心臓がバクバクだった。
そう、さっき俺はこいつにキスをされたのだ。愛おしそうに、何度も何度も触れた。
まさか、警戒しろってのはそういう意味か⁈こいつ俺をそういう意味で狙ってやがるのか⁈俺は年上だぞ?おまけに最強なんだぞ?
ドアを開けようとしてスッと横に立たれたとき、俺は思わずビクッと身を震わせてしまう。情けねえ!
そんな俺にフィオは柔らかく微笑んだ。
「……警戒したほうがいいとは言いましたが……まだ何もするつもりはありません。安心して?」
まだ⁈
てかそれ、何かするつもりがあるってことじゃねーか!まさか俺がこんな警戒をする日が来るとは!
居た堪れなくなった俺はケツをまくって逃げた。
「あ!お前、腹減ったよな?」
「い、いえ。先程いただいたばかり…」
「今日のメシはミネストローネだ!美味いぞ!
仕込んどいたの見てくるわ!
お前は先に部屋に行ってていいぞ。じゃあな!」
後ろからフィオがクスクスと笑うのが聞こえた。
五月蝿え!笑うなら笑え!俺はこういうのに慣れてねえんだよ!
フィオじゃなきゃ、簡単にあしらえるんだ。
微笑んでみせて相手がぼうっとしている間に挨拶だけすませてサッと退散。
捕まったときも、ある程度我慢したら少しの怒りを滲ませてやればいい。ご機嫌を取ろうと慌てる隙に背をむける。
奴らに手に口づけされても、胸を押し当てられても不快なだけだった。相手がどんなに美しいご令嬢だろうと、色々な思惑が絡んだ好意を押し付けられるのが嫌なのだ。
でも、フィオはダメだ。
その瞳で雄弁に語る。優しく触れる指先に、心が震える。
自分が弱くなったように感じる。こんな自分は知らない。
俺はどうしようもなく途方にくれていた。
俺が手綱を握るはずが、まさかのエリアナポジション。
後ろに乗ったボルゾイが手綱を握り、まるでご令嬢のようにエスコートされて帰ってきたのである。
このゲルリアス・フィオネルが!
当たり前のような顔で嬉しそうにエスコートするフィオに、さすがの俺も「俺が手綱を握る!」とは言えなかった。
認めよう。俺はボルゾイに弱い。
そこからはいつも通り。屋敷に戻り、飯を作ってダラダラと。
フィオがいる時にはシェフではなく俺の飯だ。庶民が日常で食べているようなもんをフィオは喜んで食う。
食って面倒にならないうちに風呂かクリーンをしたら、あとはまったり寛ぎタイムだ。
俺は酒を飲みながら溜め込んだ医学誌を捲る。ボルゾイは興味深げに俺のコレクションを眺めたり、盆棚を漁ったり。
お互いに好きなことをして寛ぐこの時間が俺は気に入っている。
放っておいてもフィオは嬉しそうに寛いでいるし、本を読むのに飽きれば、勝手に俺に懐きに来る。時には筋トレを始めたりするのが見ていて面白い。
休みの前の晩は好きにすると決めているので、夜遅くまで適当に過ごして眠るなったらベッドに潜り込む。
この怠惰が堪らないのだ。
だらしないが、まあ週に1日くらいはこんな日があってもいいだろう。
だが今日はその至福の時間に妙な緊張感が。
そもそも、いつも通り屋敷に入ろうとしたら、フィオが来ない。
「どうした?」
「……私は泊まっても良いのでしょうか?」
「はあ?そのつもりでメシも仕込んであるぞ?
なんか用でもあるのか?」
すると困ったように苦笑した。
「……いえ。あなたが良いなら泊まらせて下さい」
「変なやつだな。いまさら遠慮か?」
俺が笑うと、ヤツはふ、と顔を上げ熱い視線で俺を射抜いた。
「あなたは少し……私を警戒したほうがいい」
その時俺は「何を警戒するんだよ」と笑ってみせたが、内心では心臓がバクバクだった。
そう、さっき俺はこいつにキスをされたのだ。愛おしそうに、何度も何度も触れた。
まさか、警戒しろってのはそういう意味か⁈こいつ俺をそういう意味で狙ってやがるのか⁈俺は年上だぞ?おまけに最強なんだぞ?
ドアを開けようとしてスッと横に立たれたとき、俺は思わずビクッと身を震わせてしまう。情けねえ!
そんな俺にフィオは柔らかく微笑んだ。
「……警戒したほうがいいとは言いましたが……まだ何もするつもりはありません。安心して?」
まだ⁈
てかそれ、何かするつもりがあるってことじゃねーか!まさか俺がこんな警戒をする日が来るとは!
居た堪れなくなった俺はケツをまくって逃げた。
「あ!お前、腹減ったよな?」
「い、いえ。先程いただいたばかり…」
「今日のメシはミネストローネだ!美味いぞ!
仕込んどいたの見てくるわ!
お前は先に部屋に行ってていいぞ。じゃあな!」
後ろからフィオがクスクスと笑うのが聞こえた。
五月蝿え!笑うなら笑え!俺はこういうのに慣れてねえんだよ!
フィオじゃなきゃ、簡単にあしらえるんだ。
微笑んでみせて相手がぼうっとしている間に挨拶だけすませてサッと退散。
捕まったときも、ある程度我慢したら少しの怒りを滲ませてやればいい。ご機嫌を取ろうと慌てる隙に背をむける。
奴らに手に口づけされても、胸を押し当てられても不快なだけだった。相手がどんなに美しいご令嬢だろうと、色々な思惑が絡んだ好意を押し付けられるのが嫌なのだ。
でも、フィオはダメだ。
その瞳で雄弁に語る。優しく触れる指先に、心が震える。
自分が弱くなったように感じる。こんな自分は知らない。
俺はどうしようもなく途方にくれていた。
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