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第3章 ボルゾイは語る

あの人に会った日

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父は外から見える場所には鞭をふるわなかった。
父が好んだ場所は私の背中だ。

「反抗的な目をした」
「感情を出さぬよう鍛えてやる」

さまざまな名目で私は床に押さえつけられ、鞭打たれた。
恐らく、父は人を見下ろすのが好きだったのだ。
床に這いつくばる無力な私を見て、戦場における高揚感を感じていたのではないだろうか。
父には加虐的な傾向があり、その欲望を自分が好きに扱っていい道具を痛めつけることで満たしていたのだ。

古い傷が治る間も無く新しい傷がつけられた。
私の背中は常にじくじくとした痛みと熱を持ち、それが私の日常であり普通だった。

学校へ通うようになったが、友はできなかった。
常に痛みを耐える私の顔は青白く、感情を出さぬことを身につけた私は父と同じ「冷血感」だと言われ、恐れられた。
家格から私に媚び諂う者はいたが、煩わしいだけだ。
この容姿や能力に憧れの目を向ける者もいたが、彼らは私の何を知っているというのだ?
表面的なやりとりをするだけの毎日の繰り返し。
だが、家にいるよりも暴力がないだけマシだ。



そんな時、私は彼と出会った。

その日は朝から身体が重かった。
そのような状態には慣れていたので、なにごともないような顔で私は学院で学んだ。
どのみち私にはそうするしかなかったのだ。
学院を休めば「怠け者」「脆弱だ」と鞭打たれ余計に悪化するだけだ。

だが、私の体調は隠しきれぬほど悪かったようだ。
教師の目に留まり「帰宅するように」と言われてしまった。
迎えを呼ぶ気力もなかった。
父にあれこれ言われるくらいなら、学院にいるふりをしてどこかで身体を休めてから帰る方がマシだ。

こうして私は学院から出て近くに休める場所を探すことにしたのだが…途中で意識を失ってしまった。





優しい声を聞いた気がした。

「どうした?大丈夫か?」

温かな手が私を撫でてくれる。
触れたその先から痛みが消え、熱がひいていく気がする。
ああ…これは夢だ。
幸せな夢。
このように私に触れてくれるものなど居ないのだから。

怖かったし、痛かった。
だけど誰も助けてくれないから。
耐えるしかないんだ。

「よく頑張ったな。もう大丈夫だ。大丈夫だぞ。
とりあえず、うちに来い。治療してやる」

ずっとずっと頑張った。
誰かに助けて欲しかった。

あなたは誰?
私を優しく撫でてくれるあなたは、誰?
夢ならこのまま覚めなければいいのに。
温かなこの世界に眠っていたい。



苦しみの中で倒れたはずの私は、これまで感じたことのない暖かさの中にいた。
微睡は優しく、私の壊れた身体と心を癒してくれた。
夢うつつに触れる手は優しく、汗で張り付いた髪をそっとかきあげてくれる。
神が最後に安らぎを与えてくれたのだろうか。
ああ。
なんて暖かいのだろう。幸せなのだろう。




















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