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第2部   サフィ10歳。伯爵家の息子です!

俺にキースがくれたもの

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その日の晩。
お兄様は酔っぱらってしまった王様と王妃様を連れてしぶしぶ帰っていった。
ゲイルたち大人勢も同様の酔っ払いさん。
大騒ぎしまくって、広間で撃沈している。
「だらしないなあ」って怒ったら、普段はこんなことはないんだって言い訳された。
親しい身内だけだったから、つい羽目をはずしちゃったんだってさ!
ヒールもできるけど、こういう酔っぱらった状態を楽しめるときもあんまり無いから酔ったままにしとくそうな。
うーん。大人の楽しみってよくわかんない。

あ、バイツー先生とオルガ団長だけは、ケロリとした顔で帰ったよ!
さすが!うわばみだね、あの人たち!


俺は仕方なくだらしない大人をそのまま広間に転がしておいて(ティガーも「放っておいていいですよ」と言ってた)、1人でお風呂に入った。
いつもよりすごおく広く感じて「大きくなったしそろそろ1人で入ったほうがいいかなあ」なんて思ったのはあっという間にどっかにいってしまった。
やっぱり1人は寂しい。
ぎゅうぎゅうになっても一緒に入れるうちは一緒がいいな!

こうしてみると、改めて家族のありがたみを感じる。
大人になったら家族に甘えてるわけにもいかないよね。
いつまでこうやって一緒にいられるんだろう。

ティガーに頭をふきふきしてもらいながら、俺はつぶやいた。

「大人になるって、大変なんだねえ…。
いくつからが大人だと思う?
10歳って、大人初級くらい?中級?」

ティガーは首を傾げながらも真剣に考えてくれる。

「10歳になれば独り立ちする平民はいますね。
冒険者もそうですよね?
そういう意味では、10歳は大人初級といえるのかもしれません。
でも貴族でいうのならば、学園にいる間は子供として扱われますね。そのかわり、卒業と同時に一人前の貴族としての振る舞いが求められる訳ですが…」

ぽん、ぽん、と優しくタオルで髪をたたきながら、ティガーは柔らかく微笑んだ。

「サフィラス様に関しては、昔から何故か大人のように感じることがありましたよ。
一方で、まるで幼い子供のような時もある。
大人であり子供でもある。
大人でもなく子供でもない。
それがサフィラス様なのだと思いますよ?」
「??どーゆーこと?」
「サフィラス様は、大人、子供、どの言葉にも当てはまりません。『サフィラス様』という特別枠なのです。
みなさま、そんなサフィラス様が大好きなのですよ」
「うーんと。つまり、大人とか気にせずに好きなふうにしていいってこと?」
「そうです。それこそ、サフィラス様です。
あなたはあなたのまま、ありのままでいて下さい」

ティガーがにこりと唇のはじを上げた。



お父様の抱っことか。
ハグとか。
まだまだ卒業するのは寂しい。

いくつになったから、じゃなくて俺のタイミングでいいんだね。
よそはよそ。
俺とゲイルには俺とゲイルの家族の在り方がある。
それでいいんだ。

入学とか冒険者デビューとか、大人になれるのは嬉しいんだけど、ゲイル離れしなきゃなのだけは残念だったんだ。
大人とか子供とかじゃなくありのままでいいよ、と言ってもらえて凄くホッとした。
胸の隅っこにあった小さな石ころが取れたみたいな気分。

「えへへ。やっぱりティガーはスゴいね!
ティガーがいたらなんでも解決できちゃう!」
「ふふふ。そうなんですか?光栄です!
ずっと側におりますからね?
お悩みはこのティガーが全て解決してご覧にいれましょう!」
「わあ!俺の侍従、万能で頼もしすぎない?
ティガーがいてくれて良かった!
これからも宜しくね!大好き、ティガー!!」

ぎゅっとしたら、ティガーが背中をポンポンしてくれた。
だ、だめだ!心地良すぎる!
このままでは寝かしつけられてしまう!

その時。

コンコン、とノックの音。

「サフィ?起きてるか?
少し話せるかな?」

キースだった。
そういえば、夜に少し話したいって言われてたんだった!

「はーい!起きてますよーう!」

ティガーがドアを開けてくれた。

「では。何かあればお呼びください。
失礼いたします。
キース、サフィラス様を頼む」

ティガーと入れ替わりに入ったキース。
なんだか居心地悪そう。

「ここ、座る?」

気を利かせ、俺が座っるベッドの横をポンポンしたら、首を振ってこう言われた。

「月が綺麗だぞ。
まだ眠くないなら少し散歩しないか?」
「うん!いいよ。
せっかくのお祝いの日だもん。もう寝ちゃうのもったいないって思ってたんだあ!」

キースはクスリと笑って、パジャマ姿の俺に自分の上着を羽織らせてくれた。

「外は少し冷えるからな。羽織るといい」
「ありがとう!」

て!
キースの服、ぶかぶか!
袖から手が出ず、まるで「うらめしや〰」!

「ふは!……まだまだデカいな」

キースが笑って袖をくるくるくる。
何巻きすればよいのだろう。
体格の差を見せつけられるみたいでくやしーっ!

「俺だって大きくなったのに!
ズルい!」

ぶう!とむくれたら、余計に笑われた。

「ははは!10も年が違うんだぞ?
同じじゃあ俺が困る!
サフィを守れないだろ?」
「…そりゃあそうだけどさ」
「ほら、機嫌を直してくれ。
いきましょうか。ご主人様?」

膝をついて俺の手をとり恭しく掲げるキース。

「あはははは!いきなり護衛ぶらないでよー!」
「陛下にもサフィラス様をしっかりお守りするよう仰せつかりましたしね」
「も、もうそれやめてえええ!」
「ははは!わかった。
さあ、行こうぜ、サフィ!」

繋いだ手はそのままに。
ちょっと大人になった俺は、キースと夜のお散歩に。




ここの庭は野草園に近く、雑多な植物が植えられているのが自然な感じで気持ちいい。
少し肌寒いが、風呂上がりの俺にはこれくらいがよき。

「んふふーん♪ふふーん♪」
「ご機嫌だな、サフィ?」

「だって、夜のお散歩なんて初めてだもん!」
「ふふ。そういえばサフィは以外と箱入りなんだった。
たまにはいいだろ?」
「うん!風が気持ちいいね!」
「だけど、1人はダメだぞ?俺がいるときにしろよ?」
「あははは!ゲイルみたいなこと言ってるー!」

俺が揶揄うと、キースは言われて初めて気づいたとでも言うように首を傾げた。

「そうか?…まあ、それだけサフィが大切だって事だ」

照れ臭そうに頬を掻くキース。

「サフィが強いのは分かってる。
だが、それでもサフィはまだ子供なんだ。
俺に守らせてくれ」

「…でないと、護衛をクビになっちまう。だろ?」

冗談めかしながら、キースが本気で言ってるのがわかる。
普段なら「大丈夫だよ」なんて強がっちゃうとこだけど。
さっきまでのティガーとのやりとりのおかげで俺はまだ子供でいていいんだって素直に思えたから。
俺はキースの言葉に「うん」と頷いた。

そのまま手を繋いで、何も言わずに夜の庭をゆっくりと歩く。
この静けさが嫌じゃない。
キースもこの時間を楽しんでるってわかるから。
ちらりと横を見上げたら、キース越しに綺麗な満月。
金色の月明かりに照らされてキースの髪もキラキラと光る。

綺麗だなあ。お月様の化身みたい。
こうしてみると、さすが王族。恵まれた体躯に、綺麗に整った造形。
美形に慣れてるはずの俺だけど、つい見とれてしまう。

そんな俺の視線に気づき、キースが微笑んだ。
アールグレイの瞳がきゅうっと柔らかく細められる。
その顔がすごく優しくて、なぜだか胸が切なくなった。

「サフィ?どうした?
顔が赤いぞ?」

え?うそ!なんで⁈
俺は慌ててほっぺを両手で隠した。

「え、えっと!な、なんでもない!
月が綺麗だなあ、って思っただけ!!」
「?そうか?ならいいが。
寒くなったら言うんだぞ?」

不思議そうにしながら俺を除きこむキース。

だから、今は顔を覗きこまないでーっ!

俺はキースの顔をつかみ、グイッと無理矢理上に向けた。

「みて!ほら!綺麗でしょー!」
「あ、ああ。……綺麗だな」

そのまましばらく2人で月を見上げる。

不思議だね。
初めて出会った時には、その外見から優しくてちょっとチャラそうな冒険者さんだなって思ったの。
優しいのはあってたけど、全然チャラくなんてなかった。
強いのに少しも威張ったところなんてなくて。さりげない気配りができる素敵な冒険者さんだった。
そして今は俺のパーティーの相方。俺の護衛になってくれて、家族として一緒に暮らしてる。

こんなふうに一緒に静かに月を見上げる日がくるなんて、思ってもみなかったよね。

「ふふふ」

つい、クスクスと笑ってしまう。
 
「どうした?」
「あのね。俺、最初に会ったとき、ちょっとチャラそうな冒険者さんだと思ったの。
本当は全然違うのにね」
「あはは!よく言われる!」
「美形ってソンだねえ」
「それは初めて言われたな」
「そうなの?」
「ああ。美形は得だな、とは言われる」
「あはは!それ、自分で言っちゃうんだ!」
「まあ冒険者の中で顔がいい方なのは事実だからな!」

バカみたいな軽口を叩き合うのが楽しい。
キースもそうならいいな。

ひとしきり笑い合う。

と。
キースがふと真剣な表情を浮かべた。

「あのさ、サフィ。
俺からの冒険者デビューの祝い、受け取って欲しいんだ」

そう言って出されたのは…

「指輪?」

どう見ても高そう!
これ、王様とかが持ってるようなやつじゃん!!

「こ、これ、なんかスゴい由緒ありそうなやつなんですけど⁈
キースが持ってなくちゃダメなやつなんじゃないの?」

ビビりまくる俺にキースは言った。

「これな。俺が母からもらったものなんだ。
強い守護の効果が付与されてる。
これを持つ人に、悪意ある人間は近寄れない」

それって…

「やっぱり大事なやつ!
ママの形見でしょ!そんな大切なもの、貰えないよ!」

なんでそんな大切なものを俺に?
俺は半泣きで叫んだ。

「俺、キースにそこまでしてもらうようなこと、してない!
今だって、パーティー組んでくれて護衛を引き受けてくれて。キースに助けて貰ってばっかじゃん!
俺だってお返ししたいのに!」

そんな俺を、キースはそっとその身体で包んでくれた。

「俺はそれなりには経験を積んだからな。
ある程度は悪意を見分けられるんだ。
俺はもう充分守って貰った。
だから、指輪には俺の代わりに俺の大切な子を守ってもらいたい。
サフィに持っていて欲しいんだ」

キースがくれたのは、真心だ。
キースは自分の柔らかいところ、愛してくれた人の思い出ごと俺に心を預けてくれた。

「……あのね。
これ、借りておくね。
これはキースのお母様だもん。
きっとキースのところに帰りたがるよ。
だから、お借りします。
俺が守ってもらわなくてよくなるまで、貸して?
それでね。返すまで、俺を守ってね。
いつかきっと返すから。
俺がキースを守れるようになるから」

くっついているキースの身体から熱が伝わる。
ぐっとキースの腕に力が込められた。

「ああ。わかった。
それはサフィに預けておくことにするよ。
いつか、返してもらう日まで、俺がサフィを守るから。
どうか……それまで俺を側に置いてくれ」

「それはこっちのセリフ!
キースがいなきゃ困るんだからね!
いつか返せるその日まで、俺の側にいて。キース!」























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