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第2部 サフィ10歳。伯爵家の息子です!
俺のクラスメート
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入学式も終わり、保護者と分かれてそれぞれのクラスへ。
ゲイルは何度も
「サフィ…頑張ったなあ!頑張ったなあ!」
繰り返しては俺をハグしてる。
ハグというよりもはや羽交締め。俺が苦しくならないギリギリのところを突いてくるあたりがさすがである。
お兄様は俺の横でマイペースに俺の耳の中に注意事項を垂れ流している。
「サフィ。あやしい人に着いて行かないようにね?
優しそうに見えても悪い人はいるんだよ。
校内とはいえ、1人で行動もしないようにね。必ず複数人で居るように。
知らない人から食べ物を貰わないようにね?」
うんぬんかんぬんなんたらかんたら。
半分は聞いてるけどあまりに長いから残り半分は俺の耳を通過。
うーん。いつまで続くのでしょー。
横を通り過ぎていく生徒が「大変だね」みたいな顔してくくらいには、うちの保護者ってばめちゃくちゃ過保護!
まあ、それだけ愛されちゃってるってことだから、嫌じゃないけど。
え?エリアス?
エリアスはなんだかとても良き笑顔でこういって去って行った。
「教師の皆さんにご挨拶して来るね?」
…ご挨拶は必要なのだろうか?一体どんな圧力をかけるつもりなのだろう。
俺の先生にあまりえげつないことしてませんように!
リンゴーン
チャイムが鳴った!いいかげん保護者と分かれて教室へ急がねば!
「後でね、ゲイル、お兄様!
行ってくるね!」
涙ながらに縋られぬよう、俺は言い捨てるようにして素早く離れて走り去ったのだった。
ガラガラ!
「ま、まにあったあ!おじゃましまするー!!」
なんとかチャイムが鳴り終わる前に教室に滑り込む。
セーフ!!
ふうふうと息を整えて顔を上げたらば。
もうみんな席についておる!
しかも、先生もいるじゃん!!
全然セーフじゃない!
全員の視線が俺に集中してる!
まさか、初日から遅刻?
「ち、ち、遅刻でしょーか⁈
ごめんなさい!バケツで廊下に出ますか?
頭になにか乗せて立ちますか?」
あわわしながら先生に問うと、先生はきょとん。
「うん?バケツ?廊下?
頭に何を乗せるんだ?」
え?あれ、これ、前世の罰だっけ?
こっちだと違うのかな?
「えと。遅刻した罰です。
バケツを持って外に立つって、本で読んだ気が…」
おずおずと説明したらば、先生が笑い出した。
「あっはっは!なんだその可愛い罰は!
大丈夫!まだ予鈴だから、遅刻じゃないぞお!
罰もなし!」
「よ、よかったああああ!」
ほっとしたら、一気に力が抜けちゃった!
くにゃりとドアにもたれかかる俺に、先生がニヤリと笑う。
「バケツだっけ?やりたいならやってもいいけど、どうする?」
「やらなくてよきです!」
あはははー!
以外とお茶目ですね、先生!
「じゃあ、どこか空いてる席に座ってくれるか?」
「はい!」
席は2人掛けの長机が横に3つ並んでる。それが縦に3列分ある。
ざっと見たところ、全部で30人くらいかなあ?
だいたいの席が埋まってるんだけど、いくつか1人のところがある。
どこに座ろう?
きょろ、っとしてたら1人で席に座ってる子たちがあちこちから「ここ来る?」「ここ空いてるよ!」と言ってくれる。優しいクラスメートで良かったあ!
だけど、逆に迷う〰!
おたおたしてたら、1番前の列の窓際に座る子が俺に声をかけてくれた。
「ここ、空いてるよ。座る?」
黒髪ロングに紫の瞳の大人っぽい男の子。
優しそう!
そこならすぐ近くだしいい感じ!
俺はにっこり笑顔で、返事をした。
「ありがとう!うん!座る!」
また先生に揶揄われないうちに急いで移動。
「よろしくね。俺はサフィラス。サフィって呼んでね!」
「知ってるよ。式で挨拶していたよね?
僕はゲイリース。ゲイルと呼んで?」
「ゲイル?お父様とおんなじ!
お父様はゲルリアスでゲイルなの」
「ふふ。そうなんだ」
「あのね、お父様と間違えないようにリースって呼んでもいい?」
「いいよ、リースで。よろしく、サフィ」
なごやか〰!
こういうのいいなあ。ほっこりする。
お兄様も優しいけど、時々怖いからね。
なんか知り合いは強火な人ばっかりだから、こういうな穏やかな空気感、新鮮!
お互いににこにこほっこりとしてたら、いきなりゴツン!
「いったああい!」
頭を押さえて振り返ったらば…先生!
「ほら!交流を深めるのもいいが、後にしような?」
あちゃー!ごめんなさーい!
先生は30代くらいの美形。
癖のある肩までの黒髪に茶色の瞳。
かすかにちょいワルオヤジ臭がする。
「さあ、これでみんな揃ったな!
改めて、私はオルフェウス・シオン。君たちの担任だ。
専門は魔法。得意は風魔法だが、一応全属性の魔法が使える。
サフィラスくんは、魔法に長けているそうだな。期待しているぞ。授業には遅刻するなよ?」
クラスメートがどっと笑った。
「もー!遅刻しませんってば!
さっきだって間に合ってましたでしょ!」
ぷう、と頬を膨らませる俺。
するとリースが爽やかスマイル。
「遅刻しそうになる前に僕がちゃんと連れて行くよ」
優しいかよ!
会ったばかりだけど、ずっと友達でいてね!
「リースう!感謝!」
俺はしっかりとリースの手を握った。
そしたらそれを見ていた後ろの2人も俺の味方になってくれる。
「俺も連れてってやる!」
「私も一緒に行ってあげるわよ」
ふをお!ありがたい!
「2人も、ありがとう!」
握手握手。
したらば更に他のクラスメートも参戦!
「私も連れて行ってあげる!」
「俺だって!」
「あ、ズルいぞ!オレも!」
ありがとうまだ名も知らぬマイフレンドよ!
後で名前教えて!
これだけいたら誰かが連れて行ってくれるはず。
絶対に遅刻しないよ!
「ほら!大丈夫でしょ!」
ドヤアしたら、先生が苦笑。
「いや、自分できちんと来ような?」
「た、確かに!」
がびーん。
その後は改めて順番に自己紹介。
リースはどうやら辺境伯の血筋みたい。
「ミカミカ知ってる?」って聞いたら、まさかの従兄弟だった!ぐうぜーん!
どうりで面倒見がいい筈だ!
目元とか似てる気がするし。
後ろのツンツン赤髪、男の子はミンツ。
ヤンチャな犬みたい。人懐っこいワイルド系。
そのお隣、赤い髪をツインテールにしたミンツそっくりな女の子はミント。ミンツと双子なんだって。
こちらはしっかり頼りになるお姉さん。
このふたりは、なんとなく大阪人みたいな印象。ツッコミ力高めという意味で。
「仲良くしてね!」
ってお願いしたら、いいよ、と笑ってくれた。
早速お友達をゲット!
他のクラスメートも、なかなかにいい感じ。
自己紹介のあと、なぜか俺に手を振ってくれたり、微笑んでくれたりする。
照れ屋さんが多いみたいで、目が合うと頬を赤らめたり、恥ずかしそうにうつむいちゃう子も多い。なんかかわいい。
みんなと仲良くなれそうで、俺はほっとした。
お兄様は心配ばかりしてたけど。これなら大丈夫そうだよねえ?
なんて言っていたら。
めちゃくちゃトゲトゲな視線を感じた。
チクチクチクチク。
視線に形があるなら、俺のあちこちにグッサリだ。
その視線の主は…
知らない子!
男の子…だよね?
俺くらいの身長で(不本意ながら、平均よりは小さめ。俺はまだまだ大きくなる予定ですけれどもね!)、髪はなんと柔らかなミルクブラウン!柔らかなカールがかかっていて、エンジェル味がつよい。ジルベールやん!
まつ毛もバサバサ、唇ぷるっぷるのピンク!
ザ・美少女…いや美少年だ。
俺が「ほわあ!」と口を開けたら、馬鹿にしたように「フン!」と鼻を鳴らされた。
だから、何で⁈
ぶつかったわけでもないし、顔を見たこともない。
何で俺、睨まれてるの?
彼の名はカミール・ブラン。
自己紹介を聞いたけど、特に知り合いと繋がりがあるわけでもなさそう。
でも何故か俺に敵意剥き出しなんだよね。
きっとなにか誤解があるんだろう。後で聞いてみよう。
初日は自己紹介だけで終わり。
あとは交流を深めろ、選択する授業を決めろ、という名目のフリータイムとなった。
そしたら、あのカミールが真っ直ぐに俺のところにやってきた。
「ねえ、サフィラスくん。
話があるんだけど、いいかな?」
「うん!ちょうど俺も話してみたかったの!
あのさ、俺と会ったことあったりする?」
「はあ?お披露目会で見かけはしたけど、こうやってちゃんと会うのは初めてでしょ?」
「え⁈じゃあなんで睨むの?!
俺、なんかした⁈」
「アンタが生意気だからでしょ!
レオンハルト様に取り入って特別扱いされてさ!
自分が特別のつもり?
アンタなんて全然可愛くないし!
僕の方がよっぽど可愛いでしょ⁈」
カミールの言葉に、俺は「ぱああ」と顔を輝かせた。
がしりとカミールの手を取る。
「そうだよね⁈俺、可愛くないよね⁈
分かってくれる?
俺ね、みんなに可愛い扱いされるんだけど、本当は俺カッコいいですのでね!!」
にこにこ。
なーんだ、いい子じゃん!
「な、なに言ってるの⁈ちょっと!離してよね!
あのね、可愛いのはアンタより僕の方だって言ってんだけど!理解してる⁈」
「うんうん。分かってる分かってる!
カミールって可愛いよねー!
まつ毛だってバサバサでお人形さんみたいだし。
唇もぷるんぷるんだし!
美少女かと思ったもん!」
「え?ま、まあ、お手入れには気をつかってるからね」
「そうなの?
だからかあ!お肌もつるんつるんのすべすべだもんね!」
俺は「触っていい?」と一応聞いて、ほっぺすりすりしてみた。
「ふわあ!やあらかーい!ふわふわのもちもち!」
キャッキャしてたら「サフィ」と腕を引かれた。
「ん?なに、リース。リースも触らせてもらう?」
「い、いや、いい。それより、カミールを離してやったほうがいい」
「え?嫌だったの?」
一応断ってからしたんだけど。
もしかして、セクハラしちゃった⁈
慌てて見たら、カミールのお顔が真っ赤!
湯気が出そう!
「か、か、か、カミール!大丈夫⁈お熱?」
慌ててオデコとオデコを合わせて熱を測る。
「あ、あつい!お熱あるよ、カミール!
保健室!保健室行かなきゃ!」
慌てる俺をリースとミンツが止めた。
「さ、サフィ!大丈夫だと思うよ?」
「あ、ああ!カミールは熱なんてねえと思うぜ?」
「はあ?リースもミンツも、何のんきな事を言ってるの?
カミール、こんなに苦しそうなのに!」
もうこうなったら俺がやるしかない!
自分に身体強化をかけて、ガバリとカミールを抱き上げる。
いわゆるお姫様抱っこだ。
後から怒られるかもしれないけど、仕方ないよね!
「!!な、な、な、なにするのっ⁈」
「カミール、お熱あるから!保健室行こう!」
カミールの顔を除き混むと、真っ赤なうえに涙目でふるふる震えてる。
「あわわわ!こりゃ大変!」
俺は慌てて教室から飛び出した。
「待っててね!今すぐお医者さんに診てもらうから!」
睨まれてると感じたのは、体調が悪かったからなんだね!誤解してすまんかった!
あ!走り出したはいいが、保健室、どこ⁈
「たのもー!たのもー!!
保健室はどこですかああああ!
急患ですううう!」
「カミールくん、しんじゃう!
アチチなのですーーー!!!」
結論を言おう。
カミールには熱はなかった。
単に触れられて、びっくりしただけだった。
いきなりすりすりしたらダメだったらしい。
俺は先生とカミールにしこたま怒られた。
先生には、俺が魔法を勝手に使ったこと。
廊下で大声を出しながら走ったこと。
授業中に抜け出した事で。
「おーまーえーはー!!」
とゲンコツでこめかみをゴリゴリされた。
おまけに後から反省文提出となった。
ひ、酷い!おーぼー!!
カミールはプンプン。
勝手に触れたこと(一応聞いたのに!)、抱き上げたこと、えとせとらえとせとら。
とにかくコンコンと怒られた。
今まで生きてきた中であんなに恥をかいたことはないそうな。
ご、ごめんね?
でも、カミールは最後にこう言ってくれた。
「だけどさ。
…まあ、ボクのこと心配してくれたのは、ありがと。
アンタ、ちょっとカッコよかったよ?」
「ホント?ゲイルみたいになれる?」
「?ゲイルが誰か知らないけど。まあ、なれるんじゃない?」
カミール、やっぱりいい子だった!
「えへへ。ありがとう!
カミール、もう友達だよね?」
「……アンタほっとくと何するかわかんないし。
仕方ないから、友達になってあげてもいいよ」
「ツンデレかよ!かんわゆーい!」
思わず抱きついて、ほっぺビヨーンの刑を受けた。
ひーん。
教室に戻った俺たちは、呆れ顔のみんなに迎えらえた。
「サフィってさあ、見た目は妖精みたいなのに、中身はバーサーカーだよね…」
「ギャップが…ギャップが……」
「いや、そこがサフィの可愛い所じゃね?」
「それな!」
「でも、お姫様だっこにはキュンとしたわあ!」
「わかるわかる!可愛いのにカッコいいの!」
「とにかくさ。サフィは俺たちで守ろうぜ。なんか…危ない気がする」
「うんうん。それ同意。みんなで守ってやろうぜ。なんかヤベエ」
クラスメートの俺の見る目が生ぬるい。
「……大変だったね、サフィ」
リースが苦笑しながら俺を慰めてくれた。
「これに懲りたら、ちゃんと人の話を聞きなよ?」
うん。ごめんねカミール。
「……」「……」
なんもないんかーい!ミンツ!ミント!
「あ、おかえり」
お、おう。ただいま?
サフィラス・グリフィス!
学園初日に友達が4人もできました!
やったあ!
ゲイルは何度も
「サフィ…頑張ったなあ!頑張ったなあ!」
繰り返しては俺をハグしてる。
ハグというよりもはや羽交締め。俺が苦しくならないギリギリのところを突いてくるあたりがさすがである。
お兄様は俺の横でマイペースに俺の耳の中に注意事項を垂れ流している。
「サフィ。あやしい人に着いて行かないようにね?
優しそうに見えても悪い人はいるんだよ。
校内とはいえ、1人で行動もしないようにね。必ず複数人で居るように。
知らない人から食べ物を貰わないようにね?」
うんぬんかんぬんなんたらかんたら。
半分は聞いてるけどあまりに長いから残り半分は俺の耳を通過。
うーん。いつまで続くのでしょー。
横を通り過ぎていく生徒が「大変だね」みたいな顔してくくらいには、うちの保護者ってばめちゃくちゃ過保護!
まあ、それだけ愛されちゃってるってことだから、嫌じゃないけど。
え?エリアス?
エリアスはなんだかとても良き笑顔でこういって去って行った。
「教師の皆さんにご挨拶して来るね?」
…ご挨拶は必要なのだろうか?一体どんな圧力をかけるつもりなのだろう。
俺の先生にあまりえげつないことしてませんように!
リンゴーン
チャイムが鳴った!いいかげん保護者と分かれて教室へ急がねば!
「後でね、ゲイル、お兄様!
行ってくるね!」
涙ながらに縋られぬよう、俺は言い捨てるようにして素早く離れて走り去ったのだった。
ガラガラ!
「ま、まにあったあ!おじゃましまするー!!」
なんとかチャイムが鳴り終わる前に教室に滑り込む。
セーフ!!
ふうふうと息を整えて顔を上げたらば。
もうみんな席についておる!
しかも、先生もいるじゃん!!
全然セーフじゃない!
全員の視線が俺に集中してる!
まさか、初日から遅刻?
「ち、ち、遅刻でしょーか⁈
ごめんなさい!バケツで廊下に出ますか?
頭になにか乗せて立ちますか?」
あわわしながら先生に問うと、先生はきょとん。
「うん?バケツ?廊下?
頭に何を乗せるんだ?」
え?あれ、これ、前世の罰だっけ?
こっちだと違うのかな?
「えと。遅刻した罰です。
バケツを持って外に立つって、本で読んだ気が…」
おずおずと説明したらば、先生が笑い出した。
「あっはっは!なんだその可愛い罰は!
大丈夫!まだ予鈴だから、遅刻じゃないぞお!
罰もなし!」
「よ、よかったああああ!」
ほっとしたら、一気に力が抜けちゃった!
くにゃりとドアにもたれかかる俺に、先生がニヤリと笑う。
「バケツだっけ?やりたいならやってもいいけど、どうする?」
「やらなくてよきです!」
あはははー!
以外とお茶目ですね、先生!
「じゃあ、どこか空いてる席に座ってくれるか?」
「はい!」
席は2人掛けの長机が横に3つ並んでる。それが縦に3列分ある。
ざっと見たところ、全部で30人くらいかなあ?
だいたいの席が埋まってるんだけど、いくつか1人のところがある。
どこに座ろう?
きょろ、っとしてたら1人で席に座ってる子たちがあちこちから「ここ来る?」「ここ空いてるよ!」と言ってくれる。優しいクラスメートで良かったあ!
だけど、逆に迷う〰!
おたおたしてたら、1番前の列の窓際に座る子が俺に声をかけてくれた。
「ここ、空いてるよ。座る?」
黒髪ロングに紫の瞳の大人っぽい男の子。
優しそう!
そこならすぐ近くだしいい感じ!
俺はにっこり笑顔で、返事をした。
「ありがとう!うん!座る!」
また先生に揶揄われないうちに急いで移動。
「よろしくね。俺はサフィラス。サフィって呼んでね!」
「知ってるよ。式で挨拶していたよね?
僕はゲイリース。ゲイルと呼んで?」
「ゲイル?お父様とおんなじ!
お父様はゲルリアスでゲイルなの」
「ふふ。そうなんだ」
「あのね、お父様と間違えないようにリースって呼んでもいい?」
「いいよ、リースで。よろしく、サフィ」
なごやか〰!
こういうのいいなあ。ほっこりする。
お兄様も優しいけど、時々怖いからね。
なんか知り合いは強火な人ばっかりだから、こういうな穏やかな空気感、新鮮!
お互いににこにこほっこりとしてたら、いきなりゴツン!
「いったああい!」
頭を押さえて振り返ったらば…先生!
「ほら!交流を深めるのもいいが、後にしような?」
あちゃー!ごめんなさーい!
先生は30代くらいの美形。
癖のある肩までの黒髪に茶色の瞳。
かすかにちょいワルオヤジ臭がする。
「さあ、これでみんな揃ったな!
改めて、私はオルフェウス・シオン。君たちの担任だ。
専門は魔法。得意は風魔法だが、一応全属性の魔法が使える。
サフィラスくんは、魔法に長けているそうだな。期待しているぞ。授業には遅刻するなよ?」
クラスメートがどっと笑った。
「もー!遅刻しませんってば!
さっきだって間に合ってましたでしょ!」
ぷう、と頬を膨らませる俺。
するとリースが爽やかスマイル。
「遅刻しそうになる前に僕がちゃんと連れて行くよ」
優しいかよ!
会ったばかりだけど、ずっと友達でいてね!
「リースう!感謝!」
俺はしっかりとリースの手を握った。
そしたらそれを見ていた後ろの2人も俺の味方になってくれる。
「俺も連れてってやる!」
「私も一緒に行ってあげるわよ」
ふをお!ありがたい!
「2人も、ありがとう!」
握手握手。
したらば更に他のクラスメートも参戦!
「私も連れて行ってあげる!」
「俺だって!」
「あ、ズルいぞ!オレも!」
ありがとうまだ名も知らぬマイフレンドよ!
後で名前教えて!
これだけいたら誰かが連れて行ってくれるはず。
絶対に遅刻しないよ!
「ほら!大丈夫でしょ!」
ドヤアしたら、先生が苦笑。
「いや、自分できちんと来ような?」
「た、確かに!」
がびーん。
その後は改めて順番に自己紹介。
リースはどうやら辺境伯の血筋みたい。
「ミカミカ知ってる?」って聞いたら、まさかの従兄弟だった!ぐうぜーん!
どうりで面倒見がいい筈だ!
目元とか似てる気がするし。
後ろのツンツン赤髪、男の子はミンツ。
ヤンチャな犬みたい。人懐っこいワイルド系。
そのお隣、赤い髪をツインテールにしたミンツそっくりな女の子はミント。ミンツと双子なんだって。
こちらはしっかり頼りになるお姉さん。
このふたりは、なんとなく大阪人みたいな印象。ツッコミ力高めという意味で。
「仲良くしてね!」
ってお願いしたら、いいよ、と笑ってくれた。
早速お友達をゲット!
他のクラスメートも、なかなかにいい感じ。
自己紹介のあと、なぜか俺に手を振ってくれたり、微笑んでくれたりする。
照れ屋さんが多いみたいで、目が合うと頬を赤らめたり、恥ずかしそうにうつむいちゃう子も多い。なんかかわいい。
みんなと仲良くなれそうで、俺はほっとした。
お兄様は心配ばかりしてたけど。これなら大丈夫そうだよねえ?
なんて言っていたら。
めちゃくちゃトゲトゲな視線を感じた。
チクチクチクチク。
視線に形があるなら、俺のあちこちにグッサリだ。
その視線の主は…
知らない子!
男の子…だよね?
俺くらいの身長で(不本意ながら、平均よりは小さめ。俺はまだまだ大きくなる予定ですけれどもね!)、髪はなんと柔らかなミルクブラウン!柔らかなカールがかかっていて、エンジェル味がつよい。ジルベールやん!
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ザ・美少女…いや美少年だ。
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だから、何で⁈
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自己紹介を聞いたけど、特に知り合いと繋がりがあるわけでもなさそう。
でも何故か俺に敵意剥き出しなんだよね。
きっとなにか誤解があるんだろう。後で聞いてみよう。
初日は自己紹介だけで終わり。
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そしたら、あのカミールが真っ直ぐに俺のところにやってきた。
「ねえ、サフィラスくん。
話があるんだけど、いいかな?」
「うん!ちょうど俺も話してみたかったの!
あのさ、俺と会ったことあったりする?」
「はあ?お披露目会で見かけはしたけど、こうやってちゃんと会うのは初めてでしょ?」
「え⁈じゃあなんで睨むの?!
俺、なんかした⁈」
「アンタが生意気だからでしょ!
レオンハルト様に取り入って特別扱いされてさ!
自分が特別のつもり?
アンタなんて全然可愛くないし!
僕の方がよっぽど可愛いでしょ⁈」
カミールの言葉に、俺は「ぱああ」と顔を輝かせた。
がしりとカミールの手を取る。
「そうだよね⁈俺、可愛くないよね⁈
分かってくれる?
俺ね、みんなに可愛い扱いされるんだけど、本当は俺カッコいいですのでね!!」
にこにこ。
なーんだ、いい子じゃん!
「な、なに言ってるの⁈ちょっと!離してよね!
あのね、可愛いのはアンタより僕の方だって言ってんだけど!理解してる⁈」
「うんうん。分かってる分かってる!
カミールって可愛いよねー!
まつ毛だってバサバサでお人形さんみたいだし。
唇もぷるんぷるんだし!
美少女かと思ったもん!」
「え?ま、まあ、お手入れには気をつかってるからね」
「そうなの?
だからかあ!お肌もつるんつるんのすべすべだもんね!」
俺は「触っていい?」と一応聞いて、ほっぺすりすりしてみた。
「ふわあ!やあらかーい!ふわふわのもちもち!」
キャッキャしてたら「サフィ」と腕を引かれた。
「ん?なに、リース。リースも触らせてもらう?」
「い、いや、いい。それより、カミールを離してやったほうがいい」
「え?嫌だったの?」
一応断ってからしたんだけど。
もしかして、セクハラしちゃった⁈
慌てて見たら、カミールのお顔が真っ赤!
湯気が出そう!
「か、か、か、カミール!大丈夫⁈お熱?」
慌ててオデコとオデコを合わせて熱を測る。
「あ、あつい!お熱あるよ、カミール!
保健室!保健室行かなきゃ!」
慌てる俺をリースとミンツが止めた。
「さ、サフィ!大丈夫だと思うよ?」
「あ、ああ!カミールは熱なんてねえと思うぜ?」
「はあ?リースもミンツも、何のんきな事を言ってるの?
カミール、こんなに苦しそうなのに!」
もうこうなったら俺がやるしかない!
自分に身体強化をかけて、ガバリとカミールを抱き上げる。
いわゆるお姫様抱っこだ。
後から怒られるかもしれないけど、仕方ないよね!
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俺は慌てて教室から飛び出した。
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あ!走り出したはいいが、保健室、どこ⁈
「たのもー!たのもー!!
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「カミールくん、しんじゃう!
アチチなのですーーー!!!」
結論を言おう。
カミールには熱はなかった。
単に触れられて、びっくりしただけだった。
いきなりすりすりしたらダメだったらしい。
俺は先生とカミールにしこたま怒られた。
先生には、俺が魔法を勝手に使ったこと。
廊下で大声を出しながら走ったこと。
授業中に抜け出した事で。
「おーまーえーはー!!」
とゲンコツでこめかみをゴリゴリされた。
おまけに後から反省文提出となった。
ひ、酷い!おーぼー!!
カミールはプンプン。
勝手に触れたこと(一応聞いたのに!)、抱き上げたこと、えとせとらえとせとら。
とにかくコンコンと怒られた。
今まで生きてきた中であんなに恥をかいたことはないそうな。
ご、ごめんね?
でも、カミールは最後にこう言ってくれた。
「だけどさ。
…まあ、ボクのこと心配してくれたのは、ありがと。
アンタ、ちょっとカッコよかったよ?」
「ホント?ゲイルみたいになれる?」
「?ゲイルが誰か知らないけど。まあ、なれるんじゃない?」
カミール、やっぱりいい子だった!
「えへへ。ありがとう!
カミール、もう友達だよね?」
「……アンタほっとくと何するかわかんないし。
仕方ないから、友達になってあげてもいいよ」
「ツンデレかよ!かんわゆーい!」
思わず抱きついて、ほっぺビヨーンの刑を受けた。
ひーん。
教室に戻った俺たちは、呆れ顔のみんなに迎えらえた。
「サフィってさあ、見た目は妖精みたいなのに、中身はバーサーカーだよね…」
「ギャップが…ギャップが……」
「いや、そこがサフィの可愛い所じゃね?」
「それな!」
「でも、お姫様だっこにはキュンとしたわあ!」
「わかるわかる!可愛いのにカッコいいの!」
「とにかくさ。サフィは俺たちで守ろうぜ。なんか…危ない気がする」
「うんうん。それ同意。みんなで守ってやろうぜ。なんかヤベエ」
クラスメートの俺の見る目が生ぬるい。
「……大変だったね、サフィ」
リースが苦笑しながら俺を慰めてくれた。
「これに懲りたら、ちゃんと人の話を聞きなよ?」
うん。ごめんねカミール。
「……」「……」
なんもないんかーい!ミンツ!ミント!
「あ、おかえり」
お、おう。ただいま?
サフィラス・グリフィス!
学園初日に友達が4人もできました!
やったあ!
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