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お披露目会、大成功!…だよね?!

俺は旅を楽しむって決めた!

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ゲイルがいうように、俺ってけっこう図太いのかもしれない。
たかが鼻水くらいでヒイヒイ言ってるライリオと、そんな息子に翻弄されあわあわする公爵。

腹がよじれるくらい笑ったら
……まあいっか、って思った。

そもそも、すぐにゲイルの息子にしてくれるって言ったのを断ったのは俺だ。
「俺が」公爵家の3男としてお披露目するって決めたんだ。
公爵が無理に「息子として出ろ」って言った訳じゃない。
意外なことに、公爵は何度も

「よいのか?」
「嫌ならやめてもよいのだぞ」
「もしお前が望むのならば……………伯爵家からお披露目ということも……」

と俺に確認した。
クソ親父なりにもんのすごおく言葉を選んでるっぽかった。

でも「公爵家3男としてでいい」って言ったのは俺だ。
なんか変に意地になってたのもあるっちゃあるけど。
自分で決めたんだもん。
男なんだから、自分で決めたことには責任とらなきゃな!
不本意だろうと嫌だろうと、しょうがない。


てことで。
いったん、置いておく。
心の「公爵家めっ」をジップロックに入れてチャック!
イメージって大事なんだ。
俺、よく試合の前とかには、不安とか緊張とかを全部ジップロックに入れてチャックしてた。
んでもって、自分が勝つところだけを考えるんだ。
このトレーニングを何度も何度も繰り返すと、自分をコントロールできるようになる。

まだまだサフィの俺にはそれが難しい。
でも今は。
できるだけぎゅっぎゅってしてぽいっとしてチャック。
涙くんよ、しばらくバイバイだ!
お披露目で、最高の俺をご披露するんだ!
カッコいい俺をご披露するんだ!
ゲイルに見て貰うんだ!
ゲイルに「俺の息子なんだぞー!凄いだろう!」って思って欲しいんだもん!
公爵たちに「凄いだろー!でも、お前らは家族じゃねーからな!」って見せつけてやりたいんだもん!

そうと決めたら。
一気にテンションが上がった。

「よおおおおおおおっし!
おもしろいものこうしゃくたちみたし、いいや!
こうしゃくたちいても がまんする!
つよくなるんだ!
ぼく、がんばるからね、ゲイル!!
ぼく、かっこいいゲイルのじまんのむすこ!なるから!
えいえい、おー!」

急に拳をつきあげて宣言した俺に、車内はシーン。

いやいや、ここはやれよ。やるとこでしょーが!
ジロリと公爵たちを睨む。
いくぞ、もっかいだ!はい!

「えいえい、おー!」

繰り返すと、おどおどと

「「え…えいえい…おー……?」」

勢いは無いし語尾にはてなマークが見えるが…まあ、合格にしてやろう。
俺は優しいからな。

「………エイエイオー、とはなんなのだ?」

公爵。お前は失格だ!出直してこい!

「かけごえに いみひつよう?」

俺はイヤーな目で公爵を見た。

「……すまぬ。………もう一度よいだろうか」

しょーがない。最後のチャンスだぞ?

「えいえい!おーーーー!!!」

「エイエイ、オー!」

余程恥ずかしいのか、普段鉄面皮と言われる無表情が真っ赤に染まっている。
耳まで赤いぞ。
公爵!どんだけー?!
公爵は、それでもやり切った。
…やるんだ…。
………そんなになっても、やるんだ。俺に言われたから。

ちょっとだけ、敵って思うのやめてやってもいい。






「…………もう許してやれ。俺の腹筋が限界だ」

ゲイルくん、失格!
さっきから全く参加してませんよね?!
息子にエールも贈れないなんて、お父様失格ですよ!

ぷう、と頬を膨らませた俺の口に、ゲイルがポイと何かを放り込んだ。

「!!」

飴だ!さっきのは俺が食べたから…新しいやつ?!
え?!何で?!
どっから出したの?

「こんなこともあろうかと、な」

片目をつぶるゲイル。
もう!こんなんじゃ誤魔化されないからね。
んー、うまうま。
ライリオ、お前らにはやらん!そんなに見るんじゃない!
羨ましい?ふっふっふ!羨ましいでしょ!
俺のお父様はかんっぺきなんだぞ!
俺の為にあらゆる状況を考えて備えてくれてるんだぞ!
ふっはっはっは!
この優しくてカッコよくて親切でかんっぺきな人、俺のお父様!
ドヤァ!

ドヤったあと、
君たちのお父様はアレだよねー、かわいそうにねー。
もんのすんごく、人の心の分からない人だもんねー。
残念だねー。
って憐れみの目を向ける。
あのクソな親父は「君たちのお父様」だもんねー。
俺のお父様はゲイル!
ああよかったー!俺のお父様、ゲイル!

公爵が俺の視線になにか察したらしい。
複雑な顔をした。

アンタはもっと成長すべきだ。
ゲイルを見習え。
公爵としては有能かもしれんが…

「こうしゃく おとうさまとして クソ。」

あ!口にでちゃった!
ま、いっか!ホントの事だもん!

「らいりお かわいそう。
ぼく ゲイルおとうさまでよかった。
ゲイルをみならうべき」

あ!また!
って、これはわざとでーっす。
ほんと、見習うべきだよ、公爵。
色々たりなさすぎ。
もっと周りを見ろよ。もっと子供たちを見ろよ。
言葉にして伝えろよ。
言わなくても伝わるなんて、嘘だ。
俺はそれを知ってるんだ。



いうだけ言って満足して、ゲイルのお膝で窓の外を見る。
こっからはこいつらは無視して、旅を堪能する。


「うま!あれ、うま!
みて!ゲイル!たくさんうまがいる!」
「おみせがある!
ゲイル!ゲイル!
たくさんがんばったら ごほうびちょうだい?
かえりにおみせやさん!いい?」
「あれ!あれなに?
あたまにつのがある!
まもの?まものなの?
びーむとかする?とぶ?」


「ああ、そうだな。馬だな。
馬ならうちにも沢山いるぞ?
もうすぐ子供が産まれるから、産まれたらサフィに仔馬を一頭やろう。
可愛いぞー!」
「いいぞ。おとうさまにまかせろ!」
「つのウサギだ。初級冒険者にも狩れる、低ランクのまものだな。
ビームは出ないぞw飛ぶこともない。安心しろ」

きゃっきゃとはしゃぐ俺に、にこにこと色々教えてくれるゲイル。
向かい側さえ無視すれば楽しい家族の光景だ。

時々街道に人がいるので、おれは張り切って手を振った。

「こんにちはー。ぼく、おひろめなの!」


みんなにこにこして手を振り返してくれる。

「これ、ゲイルだよー!ぼくのおとうさま!
すてきでしょお!」

「ゲイル!おかおみんなにみせて!!」

ぐいぐいとゲイルの顔を窓に押し付ける。
みてみて、みんな!素敵でしょ!

「さいこーのおとうさま!」

ゲイルが苦笑して手を振ると、街道から黄色い悲鳴が上がった。

そうだよね、そうだよね。
だって、ゲイル、かっこいいもんね!
うふふふー。
素敵でしょう!俺のお父様!
俺のだもん。俺の!

たのしい。うれしい。

たっくさんお喋りして、
たっくさんゲイルと一緒に手をふりふりして。

いつの間にか、俺は疲れてねむっちゃってた。
だから、眠る僕を見つめながら、前で公爵たちがこんな会話をしてたのを俺は知らなかった。




「サフィラス…笑ってたね…」
「あんなに色々な顔が出来たんだ…」
「………確かに…私は父親失格だ…。このような父ですまぬ…」
「………私たちだって、兄失格です。同じですよ、父上。私たちはみな許されないことをサフィラスにしたのです」
「ごめんね…サフィ…」
「……今日は我々にできる精一杯で、素晴らしいお披露目になるよう尽力しよう。サフィラスに恥をかかせぬように」
「はい。父上!立派にやり遂げてみせます!」
「がんばって手伝います!」
「伯爵。我々に協力できることがあったら遠慮なく申し付けて欲しい。
邪魔をするなという事であれば、控えていよう。我々は全てあなた方に従う。
私に言えたことではないが…どうかサフィラスを…頼む」
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