上 下
38 / 48
第4章 神の君臨

共闘、勇者と魔王

しおりを挟む
 回復魔法に混ぜられた神片は援護系だけではない。
神力は全て回復に費やしたために攻撃の部分は搾り滓にすぎないものの、クレイス達の戦いを援護しようと波動がヘラを襲う。

「もう、やっぱり人任せはダメね」

 もう二人の復活が止められないと察するやいなや、気怠そうにして攻撃を避けもせず甘んじて攻撃を受け入れたのだ。
神片の奔流に飲み込まれても平然としているヘラは虫に刺されたくらいの様子で、地上へと再び舞い降りる。

 そう簡単にはいかないか、と精神的な疲労で今度はキリルがその場に座り込んだ。

「ありがとうキリル」

「ふっ……ふふっ。それでこそ、私が一緒に旅した勇者、だよ」

 立ち上がったクレイスは見違えるような覇気を纏っていた。

キリルも体を張った甲斐があったと笑う。
その後ろで無言の応援を放つパニーナも。
さらに両手を胸の位置に置いて眠り続けるテュイアの身体も笑みを浮かべているようにクレイスには思えた。

「行こうゼルヴェ。戦り合うのは後だ」

「——分かっている」

 傷だらけのレヴィーをキリルとパニーナの側へと運び、ゆっくりとゼルヴェも振り返った。

二人が見上げるは空に浮かぶ神。
敵味方関係なく、多くの犠牲を払ってここまで来た。
この連鎖を止めるのは、自分たちなのだ、と二人は得物を構える。

「あーあ、結局一番面倒なやつ。自分でやらなきゃダメなんて」

勇者と魔王を見下ろす神。
今まで神は人を見守り、極力干渉を避けてきた。

しかしヘラにそんな通説は通用しない。
自分しか神のいない世界で好きなように遊ぶことができる。

「魔王ゼルヴェくん以外の人は一回皆殺しにしましょ? 一からこの庭を作り直しましょう」

高まる神力が雲を呼び、雷を落とす。薄い衣が黒色を帯びて、ドレスへと変わっていった。

「決めたわ! 新たな世界が始まる私の庭! ノア・ガーデンよ!」

「好き勝手やった代償は払ってもらうよ……テュイアとロイケン爺の仇を討つ!」

踏み込み斬りを軽々と弾いたヘラは会話を続けながら、クレイスの連続斬りを躱し続ける。

「待って待って。私、その子にも蘇生の機会をあげてたのよ? 平等になるようにね」

「神は人を惑わす……嘘はいい加減に飽きたぞ?」

剛翼ガブリエルを用いて、高速で死角に回り込むゼルヴェの攻撃も見ずに避けられてクレイスとぶつかってしまう。

「ぐっ!?」

「もう! ゼルヴェくんは分かってるでしょ?」

思い出と想いが、ゼルヴェの方が多く溜まっているゆえに魔王にふさわしく変わっていく、とかつて語られた言葉。

「全てお前の策略通りというわけか……」

「ゼルヴェくんが勇者くんをすぐ吹っ飛ばしちゃったから計画変えるしかなかったんだから」

 少し離れた場所で立ち上がる二人は実力差を目の当たりにしても、闘志に綻びを見せない。

「ふふっ、まーいいじゃない。ゼルヴェくんも私に熱い想いを溜めてくれたんだし?」

「ならば……その記憶ごと弾けろ!」

 猛追するゼルヴェを追いかけることができず、クレイスは思考の海を泳いだ。

チャンスを与えたとは言っても最初から最強の力を授けられたゼルヴェと、振るうことも出来なかった大剣を渡されたクレイスに出来ることは天と地ほどの差がある。

 そこでクレイスは自分に与えられた呪い、行事イベントを思い出した。

経験を増幅させる効果よりも、先に進めないように自分を縛り付ける呪いに苦しめられてきたクレイスが魔王よりも先にテュイアの身体に思い出を貯められるわけがなく。

行事イベントで僕を縛って動けなくして……何が平等だ!」

「何のこと? はぁー、もう二人ともいい加減してちょうだい。もうあの子は終わったのよ」

指を突き出されただけで後方に吹き飛ばされるクレイスは剣を地面に突き刺し、何とか踏み留まった。

「終わってない! 僕が絶対に終わらせない!」

「勇者くん程度じゃなぁ~?」

よそ見をしていたヘラは、攻撃の方向を見ずに斬撃を右腕で軽く受け止める。
薄皮一枚傷つけられないほど実力差にクレイスは歯噛みする。

「どうゼルヴェくん? 私、かっこいい? もう少しか弱い方がいい?」

 はたき落とされたサング・オブ・ブレイバーにつられて、地面に叩きつけられたクレイス。

声にならない悲鳴が肺から絞り出された。
凄まじい破壊力を誇る武器だが、その弱点はその重さ。
バランスを奪われれば剣に振り回されてしまう所にある。

「クレイス!」

「ちょっとー、勇者くんより彼女のこと見てよ! ゼルヴェくん!」

倒れるクレイスの顔を潰そうとゆっくりと足を上げるヘラ。ゼルヴェはすかさずそこに拒絶球を放つ。

「私は聡明な女性が好みなんだ」

「え! 私のこと!?」

 拒絶球ごと勇者を踏み潰そうとしたが、ゼルヴェの狙いは勇者を吹き飛ばすことだった。
紙一重で後方に吹き飛ばされるクレイスは肉塊にならずに済む。

「聡明な女性なら私の狙いにも気づいたはずだが?」

「……じゃあ私の好みも教えてあげる」

 充分な間合いがあったにも関わらず、ヘラの言葉がゼルヴェの背後から聞こえるようになった。
神特有の高速移動より上の何か。絶対的な神の威圧に振り向くことを躊躇してしまう。

「私に従順な子っ!」

「やらせない!」

振り下ろされた手刀を受け止めたのは泥まみれになりながらも駆け寄っていたクレイスだった。

ゼルヴェの生意気な行動に対し、ありえない動きをするヘラへの予測。
ロイケン譲りの経験則で勇者が魔王の窮地を救ったのだ。

「ゼルヴェ! 今だ!」

全てを吹き飛ばす凄烈な威力を凝縮した拒絶球を握りしめ、ヘラの手刀を受け止めているサング・オブ・ブレイバーを殴りつける。


「「吹き飛べ!」」


「ぐあっ!?」

 弾くのは剣。

クレイスの踏み込みで傷つけられないならば、拒絶の力もそこに掛け合わせて何百倍にも増させた勢いで斬り裂けばいい。

一連の戦闘から二人が話すこともなく導き出した一つの答えである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア
ファンタジー
お料理や世話焼きおかんなお姫様シャルロット✖️超箱入り?な深窓のイケメン王子様グレース✖️溺愛わんこ系オオカミの精霊クロウ(時々チワワ)の魔法と精霊とグルメファンタジー プリンが大好きな白ウサギの獣人美少年護衛騎士キャロル、自分のレストランを持つことを夢見る公爵令息ユハなど、[美味しいゴハン]を通してココロが繋がる、ハートウォーミング♫ストーリーです☆ エブリスタでも掲載中 https://estar.jp/novels/25573975

前世は最悪だったのに神の世界に行ったら神々全員&転生先の家族から溺愛されて幸せ!?しかも最強➕契約した者、創られた者は過保護すぎ!他者も!?

a.m.
ファンタジー
主人公柳沢 尊(やなぎさわ たける)は最悪な人生だった・・耐えられず心が壊れ自殺してしまう。 気が付くと神の世界にいた。 そして目の前には、多数の神々いて「柳沢尊よ、幸せに出来なくてすまなかった転生の前に前の人生で壊れてしまった心を一緒に治そう」 そうして神々たちとの生活が始まるのだった... もちろん転生もします 神の逆鱗は、尊を傷つけること。 神「我々の子、愛し子を傷つける者は何であろうと容赦しない!」 神々&転生先の家族から溺愛! 成長速度は遅いです。 じっくり成長させようと思います。 一年一年丁寧に書いていきます。 二年後等とはしません。 今のところ。 前世で味わえなかった幸せを! 家族との思い出を大切に。 現在転生後···· 0歳  1章物語の要点······神々との出会い  1章②物語の要点······家族&神々の愛情 現在1章③物語の要点······? 想像力が9/25日から爆発しまして増えたための変えました。 学校編&冒険編はもう少し進んでから ―――編、―――編―――編まだまだ色んなのを書く予定―――は秘密    処女作なのでお手柔らかにお願いします。文章を書くのが下手なので誤字脱字や比例していたらコメントに書いていただけたらすぐに直しますのでお願いします。(背景などの細かいところはまだ全く書けないのですいません。)主人公以外の目線は、お気に入り100になり次第別に書きますのでそちらの方もよろしくお願いします。(詳細は200) 感想お願いいたします。 ❕只今話を繋げ中なためしおりの方は注意❕ 目線、詳細は本編の間に入れました 2020年9月毎日投稿予定(何もなければ)  頑張ります (心の中で読んでくださる皆さんに物語の何か案があれば教えてほしい~~🙏)と思ってしまいました。人物、魔物、物語の流れなど何でも、皆さんの理想に追いつくために! 旧 転生したら最強だったし幸せだった

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜

秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』 ◆◆◆ *『お姉様って、本当に醜いわ』 幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。 ◆◆◆ 侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。 こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。 そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。 それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。

処理中です...