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第3章 勇者と魔王
少女が味方するは
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そして時は現在に戻る。すでに運命の戦場に向かってきている一団の存在にフォゼは気付いてた。
大いなる運命の結論に向けて人類が意志を燃やしている。
神の時代が終わり、世界は混沌の時代を切り抜けようとしている。
フォゼは思う。最後に立つ者が、この世界の支配者だと。
「見届けよう! 聞き届けよう! この新たな時代の幕開けを!」
見開いた瞳は変色する空を捉えた。
いつもより表情豊かに口角を上げるフォゼはさらに音圧を上げて、戦う者達への狂想曲を奏で続けた。
魔王と勇者の戦場に隠れる場所はなく、逃げるには広大すぎる荒地が広がっていた。
ゆえにこの勝負に二度目はなく、単純に地力が問われるものになる。
「はぁ……はぁ……!」
肩から血を流したものの魔王は今だに悠然としている。
対する勇者は拒絶と受諾の力で何度も地面を転がされ、痛々しい内出血だらけになっていた。
凄まじい殴打とも取れる魔王の力は単純に弾き返すだけではないということか。
「もういいだろうクレイス。お前では私には勝てない」
「うるさい……!」
誰もが思うだろう。勇者が魔王に挑むのは早すぎたのだ、と。戦いは死刑執行に変わる。
「諦められるかぁぁぁぁ!」
弾かれまいと持てる力を全て詰め込み、拒絶の剣に勇者の大剣をめり込ませていく。
ゼルヴェもまた力を込めようとした刹那、クレイスの左目が強く輝く。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
水晶の中で眠っているはずのテュイアの援護。
勇者と魔王の決戦を勇者の側で見ることをテュイアは選んだのかもしれない。
「テュイア!?」
魔王と勇者の戦い、それを勇者の目を借りて見るということはどちらを選んだかはあまりにも明白ではなかろうか。
動揺したゼルヴェと心の底から力が湧き上がっているクレイス。
「何故だ……何故お前に!」
その斬撃が魔王を断つには充分すぎるものとなった。
拒絶の力が打ち破られ、肩を狙った斬撃は今度こそ魔王の体を大きく斬り裂く。
「ぐおぉっ!?」
逆転の兆しとも言える攻撃の成功にクレイスは何も感じぬままに追撃を開始する。
魔王がまだ生きているならば攻撃を止める道理はないのだ。
「終わりだ! ゼルヴェ!」
「こんなところで!」
拒絶の力をうまく引き伸ばし、大きく開いた傷口を塞ぐ。
これで血が外に流れることはないが痛みは脳を灼くほどのものだろう。
「まだだ! まだ終わらん! お前を殺して俺がテュイアを……世界を手に入れる!」
「世界なんてどうでもいい! 僕はテュイアがいてくれればそれで!」
「全て手に入れなければ、俺が魔王になった意味がないのだ!」
派手な傷を負っているゼルヴェの方が押されているようには見えるだろう。
しかし傷の度合いで言えば勇者も同等と言える。
精神面でも二人の昂りは同じように引き上げられている。
テュイアが味方をした勇者と、テュイアが勇者を選んだことによる怒りが互いの友への情けを捨てさせた。
「拒絶と受諾の真髄を受けろ!」
空に向けて掲げたゼルヴェの掌から発生する巨大な球体。
今までは巨大化させるのに時間を要していたはずだが、殺意に目覚めたゼルヴェにはそんなものは必要なくなっていた。
「大きさなんて関係ない。ぶった斬ってやる!」
「黙れ……死ぬ未来しかない雑魚が!」
凄まじい速度で放たれた拒絶球は空からクレイスごと地面を押しつぶすように落下する。
クレイスもまた大剣を突き立てて応戦するが、弾かれないように押し当てるだけで精一杯だった。
「ぐっ……うぅっ!?」
「終わりだ! クレイス!」
球体は一瞬でその大きさを増した。
地面に大きなクレーターを作り上げ何もかもを押しつぶす。
ゼルヴェの能力が消えると同時にクレーターの中で倒れ臥すクレイスがいた。
「これで、私の……私の勝利だ」
そこから踵を返し、歩き出そうとするゼルヴェの右目に暗い輝きが灯る。
「テュイア?」
(トドメを刺しなさい)
脳裏に響いた声音は冷たかったが、今までゼルヴェが魔王城で愛してきたテュイアそのものだった。
にも関わらず、漠然とした不安、言い知れぬ何かに心臓を掴まれた気分になる。
(まだ勇者は死んでいない。私に残された時間も残りわずか……さあ、早く封印を!)
「本当にテュイアなのか……?」
その問いに返答はなかったが、ゼルヴェは魂の奥底から両の目で見られている悪寒を味わっている。
仇敵だった勇者を倒してよかったのかと感じてしまうほどの違和感がゼルヴェを覆う。
(あなたは魔王として最善を尽くした。さあ、早く勇者を殺して、私を抱いて!)
自分の知っているテュイアじゃない、記憶と本能が叫ぶ。
それでもゼルヴェはクレイスへと歩み寄るのをやめられなかった。
「俺は魔王! 誰の指図も受けない! クレイスを殺すのは……俺の意思だ!」
巨大なクレーターを進み、拒絶の剣を練り上げていく。
首に差し込めば、体との繋がりを拒否し簡単に断ち切ることが出来る。
そして、クレイスまであと一歩というところで、ゼルヴェは剣を振り上げられなかった。
「どういうことだ……」
うつ伏せで倒れこむクレイスの顔から漏れる光。
それはテュイアが自分達の見ている景色を覗く時に発生するものだった。
では、自分の瞳にいるものはなんだ、という戸惑いで動きが止まる。
(ゼルヴェ! さあ、早く!)
「くっ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
そして瞳を固く閉じる。わざと声を張り上げて、自分の迷いから意識を逸らした。
大いなる運命の結論に向けて人類が意志を燃やしている。
神の時代が終わり、世界は混沌の時代を切り抜けようとしている。
フォゼは思う。最後に立つ者が、この世界の支配者だと。
「見届けよう! 聞き届けよう! この新たな時代の幕開けを!」
見開いた瞳は変色する空を捉えた。
いつもより表情豊かに口角を上げるフォゼはさらに音圧を上げて、戦う者達への狂想曲を奏で続けた。
魔王と勇者の戦場に隠れる場所はなく、逃げるには広大すぎる荒地が広がっていた。
ゆえにこの勝負に二度目はなく、単純に地力が問われるものになる。
「はぁ……はぁ……!」
肩から血を流したものの魔王は今だに悠然としている。
対する勇者は拒絶と受諾の力で何度も地面を転がされ、痛々しい内出血だらけになっていた。
凄まじい殴打とも取れる魔王の力は単純に弾き返すだけではないということか。
「もういいだろうクレイス。お前では私には勝てない」
「うるさい……!」
誰もが思うだろう。勇者が魔王に挑むのは早すぎたのだ、と。戦いは死刑執行に変わる。
「諦められるかぁぁぁぁ!」
弾かれまいと持てる力を全て詰め込み、拒絶の剣に勇者の大剣をめり込ませていく。
ゼルヴェもまた力を込めようとした刹那、クレイスの左目が強く輝く。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
水晶の中で眠っているはずのテュイアの援護。
勇者と魔王の決戦を勇者の側で見ることをテュイアは選んだのかもしれない。
「テュイア!?」
魔王と勇者の戦い、それを勇者の目を借りて見るということはどちらを選んだかはあまりにも明白ではなかろうか。
動揺したゼルヴェと心の底から力が湧き上がっているクレイス。
「何故だ……何故お前に!」
その斬撃が魔王を断つには充分すぎるものとなった。
拒絶の力が打ち破られ、肩を狙った斬撃は今度こそ魔王の体を大きく斬り裂く。
「ぐおぉっ!?」
逆転の兆しとも言える攻撃の成功にクレイスは何も感じぬままに追撃を開始する。
魔王がまだ生きているならば攻撃を止める道理はないのだ。
「終わりだ! ゼルヴェ!」
「こんなところで!」
拒絶の力をうまく引き伸ばし、大きく開いた傷口を塞ぐ。
これで血が外に流れることはないが痛みは脳を灼くほどのものだろう。
「まだだ! まだ終わらん! お前を殺して俺がテュイアを……世界を手に入れる!」
「世界なんてどうでもいい! 僕はテュイアがいてくれればそれで!」
「全て手に入れなければ、俺が魔王になった意味がないのだ!」
派手な傷を負っているゼルヴェの方が押されているようには見えるだろう。
しかし傷の度合いで言えば勇者も同等と言える。
精神面でも二人の昂りは同じように引き上げられている。
テュイアが味方をした勇者と、テュイアが勇者を選んだことによる怒りが互いの友への情けを捨てさせた。
「拒絶と受諾の真髄を受けろ!」
空に向けて掲げたゼルヴェの掌から発生する巨大な球体。
今までは巨大化させるのに時間を要していたはずだが、殺意に目覚めたゼルヴェにはそんなものは必要なくなっていた。
「大きさなんて関係ない。ぶった斬ってやる!」
「黙れ……死ぬ未来しかない雑魚が!」
凄まじい速度で放たれた拒絶球は空からクレイスごと地面を押しつぶすように落下する。
クレイスもまた大剣を突き立てて応戦するが、弾かれないように押し当てるだけで精一杯だった。
「ぐっ……うぅっ!?」
「終わりだ! クレイス!」
球体は一瞬でその大きさを増した。
地面に大きなクレーターを作り上げ何もかもを押しつぶす。
ゼルヴェの能力が消えると同時にクレーターの中で倒れ臥すクレイスがいた。
「これで、私の……私の勝利だ」
そこから踵を返し、歩き出そうとするゼルヴェの右目に暗い輝きが灯る。
「テュイア?」
(トドメを刺しなさい)
脳裏に響いた声音は冷たかったが、今までゼルヴェが魔王城で愛してきたテュイアそのものだった。
にも関わらず、漠然とした不安、言い知れぬ何かに心臓を掴まれた気分になる。
(まだ勇者は死んでいない。私に残された時間も残りわずか……さあ、早く封印を!)
「本当にテュイアなのか……?」
その問いに返答はなかったが、ゼルヴェは魂の奥底から両の目で見られている悪寒を味わっている。
仇敵だった勇者を倒してよかったのかと感じてしまうほどの違和感がゼルヴェを覆う。
(あなたは魔王として最善を尽くした。さあ、早く勇者を殺して、私を抱いて!)
自分の知っているテュイアじゃない、記憶と本能が叫ぶ。
それでもゼルヴェはクレイスへと歩み寄るのをやめられなかった。
「俺は魔王! 誰の指図も受けない! クレイスを殺すのは……俺の意思だ!」
巨大なクレーターを進み、拒絶の剣を練り上げていく。
首に差し込めば、体との繋がりを拒否し簡単に断ち切ることが出来る。
そして、クレイスまであと一歩というところで、ゼルヴェは剣を振り上げられなかった。
「どういうことだ……」
うつ伏せで倒れこむクレイスの顔から漏れる光。
それはテュイアが自分達の見ている景色を覗く時に発生するものだった。
では、自分の瞳にいるものはなんだ、という戸惑いで動きが止まる。
(ゼルヴェ! さあ、早く!)
「くっ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
そして瞳を固く閉じる。わざと声を張り上げて、自分の迷いから意識を逸らした。
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