上 下
2 / 48
プロローグ

クエスト:野党討伐1

しおりを挟む
 そしてクレイスの寝覚めは最悪なまま、最悪な事態は重なった。

「眠りこけおって、間抜け勇者が」

神片ゴース準備出来たっ! いつでもいけるよ!」

「クレイスさん、お目覚め早々申し訳ございませんが……窮地です」

 荒地で野宿という攻め込まれやすい場所で夜を明かしたこともあり、周りは野盗に囲まれてしまっていた。

「そのバカデケェ剣……金になりそうじゃねぇか」

「女も上物だぜぇ~」

下卑た笑い声に囲まれながら、クレイスは深く息を吸った。

運が悪いのは間違いないが、夢の苛立ちをぶつけられる相手がいるのは幸運だと、思考を切り替える。

「出会ったなら戦うしかない。それが勇者の運命……いや、呪いだ」

 傍に置いていた大剣を持ち上げる。

百七十五センチ程度のクレイスをゆうに越える大剣は二メートルを超えているかというほどであった。

分厚い刀身が破壊力を物語り、野盗たちの幾人かが怯む。



『開始・野盗討伐』



 透き通った声音と脳裏に浮かぶ行事イベントの宣誓。

これで避けられない運命になった、そう思いながらクレイスは一気に勝負を決めようと大剣を中段に構える。

「あのガキ……なんて力だ……」

「こけおどしだ! かかれ! かかれ!」

重装歩兵のようにじりじりと近づき、逃げ場すらも奪い去る野盗たち。

いくら剣を振り回しても一撃で全員は倒せないと踏んでの戦法だ。

「パニーナ」

 小柄な少女はカバンを背負い、逃げる準備を進めている。

ひとえに勇者であるクレイスの勝利を信じているからだ。

いそいそと用意する姿は翌日の遠出の準備をする少女のように思える。

くりっとした大きな目を向けながら、パニーナは二の句を待っていた。

「このくらいは脅威でも何でもない。訂正してくれ」

「パニーナ・エルメェス、不覚でございました。では、お願いします」

ペコリとお辞儀をするパニーナを小脇に抱える少女は面倒そうに杖へ緑色に輝く欠片を組み込んだ。

「ここは借りってことにしてあげるねっ!」

「返してくれた試しはないだろ? キリル?」

「前衛は後衛を必死で守るもの! じゃあ一旦よろしく!」

「この程度に苦戦してくれるなよ?」

「わかってるよロイケン爺」

仙人のように伸ばされた顎髭を触りながら、キリルの肩に手をかける。

左右へと二つ結びになっている明るい桃色の髪がふわりと広がった。

風が合図を鳴らし、キリルの足元から小さな竜巻が起こす。

包囲陣の外側へと空中散歩で悠々と戦線を離脱する。

「時間稼ぎか? 神片ゴースを持ってるなら、あいつらも逃すわけにはいかねぇなぁ!」

「勘違いはやめてよ?」

 その声は野盗の耳元で囁かれた。

「なっ!?」

 一閃。

巨大な剣を軽々と用いた踏み込み切りで包囲陣の南側は簡単に崩れる。

野盗の首領は高速で交差する瞬間に放たれた言葉に慄きながら遅れて振り返った。

「キリル達を巻き添えにするわけにはいかないだろ?」

剣を地面へと突き立て、勢いを殺すクレイス。

ゆっくりと剣を引き抜き、悠然と両手で構え直した。

決して筋骨隆々というわけでもない少年が重鈍そうな大剣が振れるのかという疑問に全員が震える。

「夢見は最悪だし、鬱陶しい神様の呪いが発動しちゃうし……朝から幸先悪いなぁ」

 文句の音源が高速で移動していく。

野盗よりも速く動くクレイスは巧みに一対一の状況を作り上げ、斬撃というよりも重撃に近い全てを押し潰す一撃で、戦線を崩壊させた。

「か、この数で囲え! おら、行けぇ!」

一人に剣を振るった隙を狙って数人が飛びかかってくるが、つば迫り合いにすらならなかった。

クレイスが身体を捻るだけで重い一太刀が勢いよく敵を吹き飛ばす。

そこには何の技量もないが、勇者のたゆまぬ鍛錬がその一撃を放つことを許していた。

「あと二十人くらい? まとめてかかってきてくれた方が楽なんだけど?」

「ナメるなクソガキィ!」

「そもそも僕を止めるなら桁が一つ足りないって」

焦った野盗たちは全方位から飛び掛かる。

クレイスはその野盗の一人へと全力で剣を振った。大剣の側面がめり込み、全身の骨が砕ける音が響く。

「ぐぎゃあっ!?」

「おっらあぁぁぁぁぁ!」

そのまま飛びかかってくる全員に重なるように剣を振り抜き、野盗達は空中でどんどん折り重なって一つの巨大な塊と化した。

勇者の腕に力がこもり、青筋が浮かぶ。

「これに懲りたら真っ当に働くんだね!」

「う、嘘だろぉぉぉぉ!?」

振り抜いた剣の作り出す衝撃により、野盗達は跳躍して後方に下がったキリル達より遠くへ飛ばされていく。

どこかしらの骨が砕けて追撃することはままならないだろう。

塊からこぼれ落ちた数人も、クレイスの近くで完全に戦意を喪失していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

無属性魔術師、最強パーティの一員でしたが去りました。

ぽてさら
ファンタジー
 ヴェルダレア帝国に所属する最強冒険者パーティ『永遠の色調《カラーズ・ネスト》』は強者が揃った世界的にも有名なパーティで、その名を知らぬ者はいないとも言われるほど。ある事情により心に傷を負ってしまった無属性魔術師エーヤ・クリアノートがそのパーティを去っておよそ三年。エーヤは【エリディアル王国】を拠点として暮らしていた。  それからダンジョン探索を避けていたが、ある日相棒である契約精霊リルからダンジョン探索を提案される。渋々ダンジョンを探索しているとたった一人で魔物を相手にしている美少女と出会う。『盾の守護者』だと名乗る少女にはある目的があって―――。  個の色を持たない「無」属性魔術師。されど「万能の力」と定義し無限の可能性を創造するその魔術は彼だけにしか扱えない。実力者でありながら凡人だと自称する青年は唯一無二の無属性の力と仲間の想いを胸に再び戦場へと身を投げ出す。  青年が扱うのは無属性魔術と『罪』の力。それらを用いて目指すのは『七大迷宮』の真の踏破。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

娘の命を救うために生贄として殺されました・・・でも、娘が蔑ろにされたら地獄からでも参上します

古里@10/25シーモア発売『王子に婚約
ファンタジー
第11回ネット小説大賞一次選考通過作品。 「愛するアデラの代わりに生贄になってくれ」愛した婚約者の皇太子の口からは思いもしなかった言葉が飛び出してクローディアは絶望の淵に叩き落された。 元々18年前クローディアの義母コニーが祖国ダレル王国に侵攻してきた蛮族を倒すために魔導爆弾の生贄になるのを、クローディアの実の母シャラがその対価に病気のクローディアに高価な薬を与えて命に代えても大切に育てるとの申し出を、信用して自ら生贄となって蛮族を消滅させていたのだ。しかし、その伯爵夫妻には実の娘アデラも生まれてクローディアは肩身の狭い思いで生活していた。唯一の救いは婚約者となった皇太子がクローディアに優しくしてくれたことだった。そんな時に隣国の大国マーマ王国が大軍をもって攻めてきて・・・・ しかし地獄に落とされていたシャラがそのような事を許す訳はなく、「おのれ、コニー!ヘボ国王!もう許さん!」怒り狂ったシャラは・・・ 怒涛の逆襲が始まります!史上最強の「ざまー」が展開。 そして、第二章 幸せに暮らしていたシャラとクローディアを新たな敵が襲います。「娘の幸せを邪魔するやつは許さん❢」 シャラの怒りが爆発して国が次々と制圧されます。 下記の話の1000年前のシャラザール帝国建国記 皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません! https://www.alphapolis.co.jp/novel/237012270/129494952 小説家になろう カクヨムでも記載中です

処理中です...