上 下
37 / 48
終章 ずっと一途に。

第37話 出し抜かれた一行!? 立ちはだかる帝王からの魅惑的な『提案』

しおりを挟む
「そんな!? いつの間に!?」

「最初からですよ。レアセレーネ殿下」

 処刑台のある広場にはいなかったから、少なくともクローディアスは分かる。

 だけど後ろを追いかけてきたと思っていた兵士たちがどういうわけか前にいる。どういうことだよ。いったい。

「最初からだと? まさかここに来ることをあらかじめ張っていやがったのか!?」

「その通りだ」

 驚きと恐怖にナキアさんの顔が歪む。彼だけじゃない、その場にいた全員がそう。きっと俺の顔もそんな顔をしていたと思う。

「どうして! 都市から脱出ルートは全部で24あります! それをなぜその一つをこうもあっさりと!?」

 作戦開始前夜、レアさんは俺たちだけに教えてくれていたんだ。

 都市の外に出ることができるのは地上で城門の12基、そして地下道の12基。

 地下の方は最初のアセナの救出時にバレている。そのため地上で最も警戒が薄く、なおかつ安全に国境まで抜けられる最短ルートを選択した――はずだった。

「上手く巻いたと思いましたか? 全くもって甘い」

 まるで高処から見下されている感じがした。

 冷ややかにあざ笑うと、もったいぶった話し方でクローディアスは経緯を説明してくる。

「簡単ですよ。処刑台からもっとも近く、我々に見つからないよう安全に国境を渡れるルートはここしかない」

「ま、まさか!?」

 口元を押さえレアさんが声を上げた一方で、充分ありえることだと思ってしまった。なぜなら――。

「えぇ知っております」

 淡々とクローディアスは答えた。

「渓谷を川沿いにそって進めば時間はかかるが安全に抜けられる。あの険しい山岳地帯は我々でも捜索が難しいでしょう」

 それも言っていたこと。実はその場に居合わせいたのかって思うほど一字一句なぞる説明。

「さら見つかったとしても、古代人がつくった横穴がいくつもあり、やり過ごすこともできる」

 もしもの時の回避策も全部筒抜け。奇妙な感覚に俺は襲われた。

 言い表すなら神様の手のひらの上でもてあそばれている。そんな無力感だ。

「なぜあなたがそれを知って……」

「殿下……だからあなたは甘いのです。国の統領が自分の逃げ道を用意して置かないはずがないでしょう?」

 そういうことなんだ。完全に失念していたといえばそう。当然予想できたことだった。

 あらゆるものを利用し、アセナに反逆者をあぶりださせ、クローディアスは用意周到に自分の地位を万全なものにしようと画策していた。

 そんな人人間が万が一のクーデターを想定して逃げ道を用意していないなんてありえないことだった。

「さあ、話しは仕舞いにしましょう。抵抗は無駄ですぞ? おとなしく投降するなら命だけは保証しましょう」

 見え透いたウソだ。アセナみたいに触れなくても分かる。

 情報を聞き出した後、どうせ殺すに決まっている。

「君たちも存外優秀であった。我が国に忠誠を誓うなら、それにふさわしい待遇で迎えようじゃないか?」

「何言ってやがる? 【蒼血人】のくせに【紅血人】を雇うのか?」

 ナキアさんの言う通りだ。ほんとう何を言っているんだ?

 さっきまで争っていた人間をスカウトだと? 頭、大丈夫かこいつ?

「フ……些末さまつなことよ。血の色や、生まれた国などで争うなど馬鹿げているとは思わないか?」

 少しでも決意が鈍れば飲まれそうなセリフだ。

 相対した数こそ少なかったけれど分かったことがある。挑発は奴の十八番。聞く耳を持ってはいけない。

「バカにしないで! ウチらは忘れない! あなたたちが作った兵器で今も多くの人が大量発生した【霊象獣】に苦しんでいること」

 俺も忘れてない。帰りをまつカサンドラさんが今もなお苦しんでいるんだ。

 ゆったりと両腕を広げてクローディアスは俺たちを誘ってくる。明かな無防備だけどどうしても踏み込めない。

 やつのまとう雰囲気とぬぐい切れない罠の可能性が踏み留まらせる。

「所詮、人は利用されるかするかでしかない。兵器も同じだ。利用する側から見ればすべての人間は等しく同じに見える」

 やっぱりな。こいつは自分の利益しか考えていない。そんな奴の下で働くのはまっぴらごめんだ。

「話がそれたな。とにかく私は君たちを大いに評価している。特に君だ」

 今度は俺を指さして手を差し伸べてきた。何のマネだ?

「フェディエンカを倒した君なら良い働きをしてくるに違いない。君がくればもうそいつは殺さないでやろう」

「なんだと?」

「それと郊外に一軒家を立ててあげようじゃないか? そこで一緒に暮らすと良い」

「アセナを殺さないだと? 一緒に暮らせ? ふざけてんのか?」

「心外な。至って真面目だが? あとは私のもとでちょっとした仕事をするだけで幸せに過ごせるのだ。捕虜としては破格の待遇だと思うがね?」

 正直魅力的な提案だ。郊外の一軒家で質素ながらも家族を作り、幸せに暮らす、あと犬も欲しいな――だけどな。

 不安そうにアセナが俺を見上げてくる。

 大丈夫。分かっているよ。そんなこと望んじゃいないってことは。

「あいにく誰かに押し付けられる幸せなんて願い下げだ。それに幸せなんてそう簡単にてにはいるもんじゃねぇよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...