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第二章 パッショナートな少女と歩く清夏の祭り
第37話 心の声に耳傾けば、それは思いやり
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「リシェーラさんのしたいようにすればいいよ。大丈夫。それで出来ないって言ってもリシェーラさんを責めたりしない」
「でも、必死に懇願しているのに、それなのに断ったりしたら……」
自分は罪悪感を抱き、相手は不満を感じてしまう。とリシェーラさんは言いたいんだと思う。
だけど人間やっていればそんな場面は日常茶飯事。そのことを僕は最近になって漸く気が付いた。
そして結局、大事なのは自分の心の声に耳を傾けて、本当は『自分がどうしたいか』という事を考えること、それを教えてくれたのはアリスだった。
「リシェーラさんが罪悪感を抱く必要はないよ。そんなことはここにいる人達は誰も望んじゃないないし、罪悪感に付け込むような人なんかここにはいない。だからリシェーラさんの心の赴くままに選んでいいんだ」
「ちゅーちゃんの言う通り。これ以上は私の我儘。リシェーラさんに無理強いすることまで望んでない」
アリスの話にみんな頷き合う。少なくともここにいるみんなはリシェーラさんが無理することなんか望んでいないんだ。
「下手でもいいのね? 譜面をなぞるだけよ? 残念だけどそれ以上の事を求められても出来ない。それでもいいのね?」
みんなが頷く。
「はい、それでかまいません。この際音を外したってかまいません。どうかお願いします」
深々とメンバーのみんなが陳謝するのを見て、リシェーラさんは深く息を吸ったのち、ゆっくりと吐き出した。そして罰の悪そうに頭を掻きながら――
「しょうがないわね。音源とか譜面とか何か曲が分かるものある? 時間が無いんでしょ? さっさとやるわよ」
「はいっ! ありがとうございますっ‼」
「ありがとう。リシェーラさんっ!」
「言っておくけど、本当に期待しないでね」
リシェーラさんは言葉こそ渋々と言った感じだった。けど、どこか燃えるような目をしていた。
肝心のアリスとリシェーラさんの実力とはいうと、正直謙遜甚だしかった。
地球の譜面が読めない二人は、スマホに入っていた音源を聞き流すや、あっという間に完全耳コピして見せる神業を見せた。
「こんな感じで良いかしら? アリスはどう?」
「意外と難しいですね。これで出来ているのかな?」
「二人ともすご……」
リハーサルで一曲弾き終えると、完成度の高さにメンバーのみんなも始め、僕らも唖然とした。
二人とも地球の楽器は初めて見るはずなのに、アリスは音を聞いただけでベースのコードを再現し、リシェーラさんも平然とバスドラムのキックペダルをマスターしている。
大抵の弦楽器は弾けるというアリスの大見得を切ったような言葉は、大見得どころか文句なしにその通りだった。
リシェーラさんに関して言えば、何故そこまで自信がないのか不思議なくらいで、頑なに拒んでいた理由が一切分からない程、完璧な演奏を披露してくれた。
「凄いじゃないか二人とも。たった一度一曲聞き流すだけで演奏できるなんて」
「ちゅーちゃん、そんな大げさなぁ~」
「別に大したことないわよ。このくらいは私達のせ……国じゃあみんなできるわよ。音を真似するだけならね」
思えばアリスも最初の時、古い譜面を一度見ただけで再現して見せた。
スペクリムの人達には生まれ持った音楽センスというものが皆に備わっているのかもしれない。
「すげぇな。宙人の彼女達、これならいけるんじゃねぇか?」
「彼女って何だよ。二人とも友達というか同僚だよ」
「誤魔化さなくても分かってるって、俺にはちゃーんと分かってっから」
「いや、省吾のそれは何も分かっていないだろ?」
省吾の煙たい冷やかしはこの際どうでもいいけど、確かに省吾の言う通り二人なら全く問題なさそうだ。
「完璧ですよ。二人ともっ! まだ本番まで時間がありますから、それまで練習しましょうっ!」
舞台の催し物は佳境へと迫り、遂に軽音楽部の出番がやってくる。
「さあ、続きましては種子島高校軽音楽部の皆さんの演奏です」
舞台前という絶好の場所を確保した、 僕と省吾と愛花の三人は、軽音楽部のドラム紗香さんと一緒に腰を下ろす。
舞台の上では機材を運んで、セットしている残りの軽音楽部メンバーとアリスとリシェーラさんの姿が見える。
互いに音の確認をし始めている光景の中、ふと僕はアリスとリシェーラさんの二人と目が合った。
拳を小さく握って、僕は二人へ心の中でエールを送った。
きっと二人なら大丈夫――
そんな思いが届いたのか、僕へ二人は頷いて微笑みを返してくれた。
「凄いな。二人ともあんな才能があるなんて、そう思わない宙人?」
「そうだね愛花。でも二人とも幼い頃から音楽に触れていたって聞いていたから、才能っていうよりきっと二人とも努力……いや、きっと音楽が好きなんだよ」
地球人のアーティストが一生のうち音楽へ打ち込める時間を、アリスとリシェーラさんは経て努力を積み重ねているのは確かだ。
けど、それ以上に『好き』じゃなければ40年、50年という歳月を積み重ねることは出来なかったに違いない。
「にゃ~」
「ファイユさんも、そうだって言っている」
「あはは、そうだね。きっとそうだよ。あっ! そろそろ始まるみたいだよ」
「でも、必死に懇願しているのに、それなのに断ったりしたら……」
自分は罪悪感を抱き、相手は不満を感じてしまう。とリシェーラさんは言いたいんだと思う。
だけど人間やっていればそんな場面は日常茶飯事。そのことを僕は最近になって漸く気が付いた。
そして結局、大事なのは自分の心の声に耳を傾けて、本当は『自分がどうしたいか』という事を考えること、それを教えてくれたのはアリスだった。
「リシェーラさんが罪悪感を抱く必要はないよ。そんなことはここにいる人達は誰も望んじゃないないし、罪悪感に付け込むような人なんかここにはいない。だからリシェーラさんの心の赴くままに選んでいいんだ」
「ちゅーちゃんの言う通り。これ以上は私の我儘。リシェーラさんに無理強いすることまで望んでない」
アリスの話にみんな頷き合う。少なくともここにいるみんなはリシェーラさんが無理することなんか望んでいないんだ。
「下手でもいいのね? 譜面をなぞるだけよ? 残念だけどそれ以上の事を求められても出来ない。それでもいいのね?」
みんなが頷く。
「はい、それでかまいません。この際音を外したってかまいません。どうかお願いします」
深々とメンバーのみんなが陳謝するのを見て、リシェーラさんは深く息を吸ったのち、ゆっくりと吐き出した。そして罰の悪そうに頭を掻きながら――
「しょうがないわね。音源とか譜面とか何か曲が分かるものある? 時間が無いんでしょ? さっさとやるわよ」
「はいっ! ありがとうございますっ‼」
「ありがとう。リシェーラさんっ!」
「言っておくけど、本当に期待しないでね」
リシェーラさんは言葉こそ渋々と言った感じだった。けど、どこか燃えるような目をしていた。
肝心のアリスとリシェーラさんの実力とはいうと、正直謙遜甚だしかった。
地球の譜面が読めない二人は、スマホに入っていた音源を聞き流すや、あっという間に完全耳コピして見せる神業を見せた。
「こんな感じで良いかしら? アリスはどう?」
「意外と難しいですね。これで出来ているのかな?」
「二人ともすご……」
リハーサルで一曲弾き終えると、完成度の高さにメンバーのみんなも始め、僕らも唖然とした。
二人とも地球の楽器は初めて見るはずなのに、アリスは音を聞いただけでベースのコードを再現し、リシェーラさんも平然とバスドラムのキックペダルをマスターしている。
大抵の弦楽器は弾けるというアリスの大見得を切ったような言葉は、大見得どころか文句なしにその通りだった。
リシェーラさんに関して言えば、何故そこまで自信がないのか不思議なくらいで、頑なに拒んでいた理由が一切分からない程、完璧な演奏を披露してくれた。
「凄いじゃないか二人とも。たった一度一曲聞き流すだけで演奏できるなんて」
「ちゅーちゃん、そんな大げさなぁ~」
「別に大したことないわよ。このくらいは私達のせ……国じゃあみんなできるわよ。音を真似するだけならね」
思えばアリスも最初の時、古い譜面を一度見ただけで再現して見せた。
スペクリムの人達には生まれ持った音楽センスというものが皆に備わっているのかもしれない。
「すげぇな。宙人の彼女達、これならいけるんじゃねぇか?」
「彼女って何だよ。二人とも友達というか同僚だよ」
「誤魔化さなくても分かってるって、俺にはちゃーんと分かってっから」
「いや、省吾のそれは何も分かっていないだろ?」
省吾の煙たい冷やかしはこの際どうでもいいけど、確かに省吾の言う通り二人なら全く問題なさそうだ。
「完璧ですよ。二人ともっ! まだ本番まで時間がありますから、それまで練習しましょうっ!」
舞台の催し物は佳境へと迫り、遂に軽音楽部の出番がやってくる。
「さあ、続きましては種子島高校軽音楽部の皆さんの演奏です」
舞台前という絶好の場所を確保した、 僕と省吾と愛花の三人は、軽音楽部のドラム紗香さんと一緒に腰を下ろす。
舞台の上では機材を運んで、セットしている残りの軽音楽部メンバーとアリスとリシェーラさんの姿が見える。
互いに音の確認をし始めている光景の中、ふと僕はアリスとリシェーラさんの二人と目が合った。
拳を小さく握って、僕は二人へ心の中でエールを送った。
きっと二人なら大丈夫――
そんな思いが届いたのか、僕へ二人は頷いて微笑みを返してくれた。
「凄いな。二人ともあんな才能があるなんて、そう思わない宙人?」
「そうだね愛花。でも二人とも幼い頃から音楽に触れていたって聞いていたから、才能っていうよりきっと二人とも努力……いや、きっと音楽が好きなんだよ」
地球人のアーティストが一生のうち音楽へ打ち込める時間を、アリスとリシェーラさんは経て努力を積み重ねているのは確かだ。
けど、それ以上に『好き』じゃなければ40年、50年という歳月を積み重ねることは出来なかったに違いない。
「にゃ~」
「ファイユさんも、そうだって言っている」
「あはは、そうだね。きっとそうだよ。あっ! そろそろ始まるみたいだよ」
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