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第二章  パッショナートな少女と歩く清夏の祭り

第36話 囃子に綴りし想いの手替わり

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 絢さんが舞台の方へと足を運ぶというので、僕らも屋台の食べ物をしこたま買い込んで、一緒に付いて行くことにした。
 愛花は舞台に着いて早々、学校の軽音楽部の友達に会ってくるというので、舞台裏の方へとみんな一緒に足を運んだのは良いが、舞台裏は騒然としている。

 なにやら軽音部の女子生徒たちが口論をしていようで、愛花は一人友達の仲裁に入ろうと人ごみをかき分け入っていたのだけど。

「無理だよっ! そんな怪我じゃ、出来る訳ない。病院行こうっ!」
「でも、それじゃあ……」
「ベースの紗香だって夏風邪で休んでいるのに、大丈夫だよ。文化祭までまだ時間があるんだから、今回は――」
「愛花……実はね……南美は……」

 愛花の甲高い声が気になって、人ごみの中から覗き込むと、一人の子が手首を押さえて蹲っているのが見える。

 話からして、地面に蹲っているドラムの子は転んで手首を怪我したらしい。さらにベースの子は夏風邪をひいたらしく、メンバーはボーカル兼ギターの女の子しかいない。

 今日の祭りの参加は、文化祭の予行練習とのこと。幸い学校の文化祭は10月、諦めて参加を辞退するということを選んだ方がいい。

 というより参加は無理じゃないか。

「実は愛花に言ってなかったことがあるの。私、今度本土の学校へ、転校するの……」
「えーっ‼ そんなっ‼ 何で言ってくれなかったのっ‼」
「ごめんね……黙っていて……ごめんね……でも大丈夫。だってしょうがないよ」
「ごめんね……」

 ボーカルの南美みなみという子が夏休み開けたら転校するのだという。それで頑なに怪我したドラムの紗香さやかという子が出たいと言っている。
 最期だから、ボーカルの南美に思いっきり歌わせてあげたかったのだと、でも南美という子も、もうどうすることも出来ない現状に諦め、瞳に涙を貯めている。

「あの~」

 隣にいたアリスが騒然とする現場の中、徐に手を上げる。

「私で良かったら、そのベースっていうの弾いちゃ駄目かな?」

 アリスの突然の申出に舞台裏の全員が唖然とする。僕もアリスが何でそんなことを言い出したのか分からず、呆然と立ち尽くした。

「アリス……」
「でも、このままだと離れ離れになっちゃうんだよね? 折角練習してきたことが無駄になっちゃう。私が出来ることがあるなら力に成ってあげたい」

 凄く真剣なアリスの眼差しにみんな飲まれていく。
 見ず知らずの人に、そこまで思えるのはアリスの本当に良いところ。とても彼女らしい。けど現実はそう簡単じゃない。

「アリス。ベース弾けるの?」
「任せて、大抵の弦楽器は弾けるから、ねぇ、お願い。力に成りたいの。私にやらせてもらえないかな?」
「アリスさん……ありがとう。けどベースが入ったところで、肝心のドラムが」
遥香はるかの言う通り……ごめんね。私が怪我さえしなければ……」

 キーボードの遥香さんの言葉に地面を悔し涙で濡らすドラムの紗香さん。現状はドラムがいなければどうにもならないのだ。例えベースが揃ったところでしょうがない。

「ドラムって、そのタイコの事だよね? 大丈夫、ここに叩ける人がいるよ」

 アリスはリシェーラさんへ目を向ける。釣られて全員の視線がリシェーラさんへと集まっていった。
 僕はヴィスルの一件の事を思い出した。三賢女の彫像で譜面を見る彼女は、何かの打楽器を弾ける様子を見せていた。

 だけど、同時に何か打楽器に対して心の傷を抱えているようにも見えた。

「はぁっ!? 無理よっ! 私には叩けないっ!」

 案の定、リシェーラさんは拒むだろうと僕は思っていた。
 それでもアリスはリシェーラさんの前に立って頭を下げる。その姿はいつものアリスが明るく落ち着いた雰囲気を漂わせていた時とは違い、信念に満ち溢れているように見えた。

「どうか、お願いします。リシェーラさん、力を貸してください」
「だから無理なのっ! 頭を下げられても困るのっ! 私はそんなにみんなが思っているほど上手くないのっ!」
「リシェーラさんがエアデフェにトラウマをかかえていることは分かっています。でも、どうか今日だけみんなの為に力を貸してください。お願いします」
「私からもお願いします。下手でもいいです。少しでも叩けるのなら、どうか力を貸してくださいっ!」

 ドラムの紗香という子も、アリスと一緒になって、リシェーラさんの前に頭を下げる。彼女の行動を皮切りにボーカルの南美さんとキーボードの遥香さんも、愛花も頭を下げる。そして省吾も。

「俺は部外者だ。だけど俺にはそこの宙人に託された思いがある。その願いは俺の全力をもって叶えるつもりだ。だから同じように繋がれた思いがそこにあるなら決して無駄にしたくない。だからお願いします。力を貸してください」
「……宙人、私、どうすればいいの……」
「リシェーラさん……」

 僕はリシェ―ラさんからまるですがる様な、助けを求めるような目を向けられる。
 葛藤に滲む瞳の奥から、熱意のようなものを僕は感じ取る。

 多分リシェーラさんの中で答えは出ているんだ。


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