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第一章 フラジオレットな少女と巡る旅の栞

第9話 樹上の町の優しい陽だまり

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「みんな温かいでしょ? みんなソラトを歓迎してるんだよ。私。ここのみんな大好き、まるで優しさの陽だまりにいるような気持ちにしてくれるよね」

「何だろう。その台詞、なんだか尻がこそばゆい」

「ふぇ~なんで~」

 思わず赤面しそうな恥ずかしい台詞を口にするアリスの元へ一匹の白い猫のような生物が手すりを歩いて近づいてきた。

 僕がような ・・・と言ったのには訳がある。なぜなら二足歩行をして、深緑色のベレー帽とリボンを身に着けて、服を着ていたからだ。

「あらあら、アリスちゃん。おかえりなさい。地球はどうだった?」

「フェイさんっ! ただいまっ! あれっ! 今日は仕事じゃないの?」

「今日と明日はお休みを頂いたのよ。久しぶりに今から森の方に行ってみようと思っているの。あら、そちらの男の子はお友達?」

 口調だけなら物腰が柔らかいお姉さんという感じで、身長は地球の猫よりやや大きめだった。

 全身が白かったので気が付かなかったけど、よく見ると艶やかな銀髪で、くるりとした大きな目は蒼く澄んだ色をしている。

「うん、そうだよ。この子はソラト。地球から来たの」

「あらあら、まぁ、それは遠いところから、よくぞおいで下さいました。私は 猫妖目コットゥアのファイユ=トリーグルと申します。気軽にフェイって呼んでくれると嬉しいわ。よろしくお願いいたしますね。ソラトくん」

「初めまして、 宙人そらとと言います。こちらこそよろしくお願いいたします」

 丁寧な挨拶に僕もつい腰が引けてしまう。

 アリスはファイユさんととても親しいようで再会を喜び合うかのように、互いに手をぶんぶんと振っている。

「実はフェイさんはこう見えて、 観光案内嬢レイズスグェイターラ。地球の言葉でツアーガイドさんをやっているんだ」

 柔らかい物腰で優しい雰囲気はファイユさんにぴったりな気がする。

 僕はファイユさんが観光客を連れて旗振りをする地球のツアーガイドさんのような姿を想像した。

 きっと僕は可愛らしい生物がぴょこぴょこと動き回るファイユさんばかり見て、観光にならないかもしれない。

「そうだ。フェイさん、森に行くんだよね。そしたら私達も一緒に付いて行っても良いな?」

「ええ、それは構わないけど、そうねぇ……でも、三つ条件があるわ」

 ふわふわの毛で見にくいけど三本の指を、ファイユさんはアリスの前に立てた。

「まずは、ご両親に帰ってきたことをご報告して、彼を紹介すること」

「うん。今帰るところだったんだ。お土産もこの通りいっぱい」

 アリスは抱えきれない程の品をみたファイユさんは「うふふ」とにっこり微笑む。

「二つ目はアリスちゃんのスケーレンで行きましょうか」

「スケーレン?」

「スケーレンっていのはね。この国の伝統的な手漕ぎボートの事を言うんだ。久しぶりだから大丈夫かなぁ~」

 アリスは根元に一本流れる小川を指して停泊していた小舟を見せてくれた。

 船体は長く幅が狭く、縦に湾曲している作り。特徴的なのは一つとして同じ装飾がない。

 特に船首の装飾はどれも派手で、女神のような彫像を かたどっているものや、獅子のような動物の顔が彫られているものなど様々だ。

 装飾に作り手の個性が現れていることがはっきりと分かる。

「そして三つ目は、アリスちゃんが観光案内してみてくれるかな?」

「えぇっ!? 私がっ!? 無理だよぅ。観光案内ならフェイさんの方が……」

「ソラト君に自分の故郷を紹介するいい機会じゃない? それに森の事なら私よりアリスちゃんの方が詳しいんじゃないかしら?」

 う~ん、と唸って難しい顔でアリスは考え始めた。

 アリスに対して僕は考えるより体の方が先に動くタイプの人だという印象を持っていたから、人並みに悩んだりするんだと知って、少し新鮮な気持ちになる。

「ねぇ? ソラト君もそう思わない?」

「えっ! えーと……」

 猫だけにファイユさんは意外に意地悪かもしれない。急に話を振られて言葉に迷った。

 町や草原で息を呑む景色だったのだから、この世界の森も絶景なのかもしれない。

 正直期待を寄せている自分がいる。

 ふと、アリスと目が合った。

 ツアーガイドであるファイユさんから、この世界のプロの観光案内も受けてみたい気する。

 けど、素人であるアリスの感じた印象そのままの屈託のない観光案内を受けてみたい気もする。

「ええ、そうですね。折角ですから」

「え? 私でいいの? 観光案内なんてしたこと無いよ? つまらないかもしれないよ?」

「僕はアリスの感じたものを知りたいかな」

「そ、そう? そこまで言うなら、分かったっ! じゃあ精一杯勤めさせて貰うよっ!」

 アリスは少し照れ臭そうに微笑んだ。その笑顔は晴れ晴れと温かい木漏れ日のようだった。

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