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第二章 僕が彼女を『護』る理由
第42話 そして迎えた『決戦』の日!
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縁起でもない。
戦いの前に秘密を打ち明けたり約束したりすると大抵不幸が訪れる。
太古からのセオリー。
興味がなかったわけじゃない。ただ聴くのが少し怖かった。
「ミナトには知っていて欲しかったから、ミナトにだけは話しておきたいの」
「分かったよ。アルナがそういうのなら……」
その晩アルナは自分の過去を語ってくれた。
正直驚く場面も多々あったけど、じっと僕は彼女の話に耳を傾ける。
彼女が劉家に引き取られたのは物心つく前、乳離れも間もない2歳の頃。
明星の照らす黄昏時、門前で毛布に包まった状態で拾われたという。
「劉家の次女として迎え入れらた私は、お父様とお母様、それと兄様達に暗殺技術を叩きこまれた。そして今に至るまで何人の人間を手に掛けてきた。例えば火薬を使って大勢の人間を殺したり、特殊な毒を盛って病死にみせかけたり。馬車に轢かれたように外傷を工作して死因を偽装したこともあった……」
アルナの暗殺者としての資質は一族で随一と謂われ、将来を期待される一方。
暗殺の度にためらったり、心を痛めたりして、性格が優しすぎるって言われることも多かったとか。
「でもみんな愛してくれた。使用人たちも良くしてくれて……」
正直僕は疑念を抱いた。だって、愛しているなら何故子供に人殺しなんてさせる!?
「だけど三年前、それは仕事を終えた家に戻る途中だった。同年代の子達が仲良さげに話しているのを見て、その時初めて友達が欲しいって思ったんだ」
周りには悩みを相談できる相手もいない。
それからボースワドゥムに来るまでの間ずっと心にわだかまりを抱えていたって打ち明けてくれた。
「ボースワドゥムには私から行きたいって言ったんだ。家から一度離れて自分を見つめ直したかったの。その時は家族全員あまりいい顔してくれなかったなぁ。特にお母様はすごく取り乱して……」
血が繋がっていないのに、それ程まで愛せるって立派だとは思ったよ。僕の養親ととてもよく似ている。
でも同時に、なら何で暗殺に関わらせるんだっ! って強い怒りを覚えたよ。
まったく理解が出来ない。控えめに言って歪んでいる。
そして決戦当日、霊気灯が淡く照らす地下道。僕はアルナへ一晩自分なりに考えたことを伝える。
「ねぇアルナ。家を離れて正解だったと思う。そこは君がいるべき場所じゃないよ」
「でも今の両親には本当に感謝しているの。あの時私を拾ってくれなかったら、その日の夜にきっと凍え死んでた」
「そうかもしれない。けど――」
言葉を遮り、アルナは静かに首を横に振った。
「ありがとうミナト。また私のために怒ってくれているんだね。ミナトが初めての友達で良かった」
「アルナはまたそんなこと言って、今度は絶対に一人にしないから」
彼女の手を握って精一杯応える。どんなことがあっても護るって決めたんだ。
例え彼女が掟に縛られ続けるなら、その時は僕自身が血に塗れよう。
などと気持ちを引き締めていたら、すっと目の前に灰色の毛並みの腕が現れる。
「貴様らっ!!」
突然後ろを歩いていたハウアさんが乱暴に寄りかかってきた。
『GUOOOOOHHHH――ッ!!』
まるで待ち伏せでもしていたかのように、《黒蠍獅》の爪が振り下ろされた。
ガンッ!! と金属同士が衝突するような鈍い音。
先行していたハウアさんが鑢状大剣で受け止めている。
「獣のくせに頭が働くじゃねぇか!? 奇襲なんてな!!」
ギリギリと刃が擦れ、始まる膂力の圧合。若干ハウアさんの方が押している?
隙が生じるのも時間の問題。アルナもそれが分かっていることが象気を介して伝わってくる。
「オラっ!! 今だ!! ミナトっ!! 嬢ちゃんっ!!」
ハウアさんが腕を弾いた瞬間、入れ替わるように前に出た。
「行くよ! アルナっ!」
「うん! いつでもっ!」
僕等は《黒蠍獅》の体勢が崩れたところへ、象気を込めた拳と爪を同時に叩きこむ。
僕達の最初の共震象術――【連環紅焔】。
五連の雷閃に沿って紅焔が孤を描く。紅蓮の環が何度も繰り返し、絶え間なく――。
『GUOOOOO――UAAAAッ!!』
焼き尽くされてればいいものを、象気の咆哮で掻き消された。
まぁこれくらいやってくるとは思っていたけど。
「ぼーっとしてんな! 続けていくぞっ!」
空かさずハウアさんが突貫。僕とアルナは受け止め跳ね返した隙を突く。
《黒蠍獅》の攻撃を掻い潜り、矢継ぎ早に【連環紅焔】を打つこと――5度。
『GURRRR……』
一度逃げざるを得なかった《黒蠍獅》が度重なる共震象術で既に虫の息だ。
「……ハァ……ハァ……」
汗が滝のように流れて、【共震】の限界が近づいてきているのが分かる。
アルナの顔も疲労の色が濃い。
あともう一息なんだっ! 戦いに集中しろっ!!
莫大な象力を生み出せる【共震】だけど、でもその分体力の消耗が激しく、日に何度も使えない。
昨日ハウアさんとの組手でそれを知った。
訓練すれば長時間続けられるようになるってハウアさんは言っていた。
だけどまだ僕等の持続時間は3分丁度だった。
戦いの前に秘密を打ち明けたり約束したりすると大抵不幸が訪れる。
太古からのセオリー。
興味がなかったわけじゃない。ただ聴くのが少し怖かった。
「ミナトには知っていて欲しかったから、ミナトにだけは話しておきたいの」
「分かったよ。アルナがそういうのなら……」
その晩アルナは自分の過去を語ってくれた。
正直驚く場面も多々あったけど、じっと僕は彼女の話に耳を傾ける。
彼女が劉家に引き取られたのは物心つく前、乳離れも間もない2歳の頃。
明星の照らす黄昏時、門前で毛布に包まった状態で拾われたという。
「劉家の次女として迎え入れらた私は、お父様とお母様、それと兄様達に暗殺技術を叩きこまれた。そして今に至るまで何人の人間を手に掛けてきた。例えば火薬を使って大勢の人間を殺したり、特殊な毒を盛って病死にみせかけたり。馬車に轢かれたように外傷を工作して死因を偽装したこともあった……」
アルナの暗殺者としての資質は一族で随一と謂われ、将来を期待される一方。
暗殺の度にためらったり、心を痛めたりして、性格が優しすぎるって言われることも多かったとか。
「でもみんな愛してくれた。使用人たちも良くしてくれて……」
正直僕は疑念を抱いた。だって、愛しているなら何故子供に人殺しなんてさせる!?
「だけど三年前、それは仕事を終えた家に戻る途中だった。同年代の子達が仲良さげに話しているのを見て、その時初めて友達が欲しいって思ったんだ」
周りには悩みを相談できる相手もいない。
それからボースワドゥムに来るまでの間ずっと心にわだかまりを抱えていたって打ち明けてくれた。
「ボースワドゥムには私から行きたいって言ったんだ。家から一度離れて自分を見つめ直したかったの。その時は家族全員あまりいい顔してくれなかったなぁ。特にお母様はすごく取り乱して……」
血が繋がっていないのに、それ程まで愛せるって立派だとは思ったよ。僕の養親ととてもよく似ている。
でも同時に、なら何で暗殺に関わらせるんだっ! って強い怒りを覚えたよ。
まったく理解が出来ない。控えめに言って歪んでいる。
そして決戦当日、霊気灯が淡く照らす地下道。僕はアルナへ一晩自分なりに考えたことを伝える。
「ねぇアルナ。家を離れて正解だったと思う。そこは君がいるべき場所じゃないよ」
「でも今の両親には本当に感謝しているの。あの時私を拾ってくれなかったら、その日の夜にきっと凍え死んでた」
「そうかもしれない。けど――」
言葉を遮り、アルナは静かに首を横に振った。
「ありがとうミナト。また私のために怒ってくれているんだね。ミナトが初めての友達で良かった」
「アルナはまたそんなこと言って、今度は絶対に一人にしないから」
彼女の手を握って精一杯応える。どんなことがあっても護るって決めたんだ。
例え彼女が掟に縛られ続けるなら、その時は僕自身が血に塗れよう。
などと気持ちを引き締めていたら、すっと目の前に灰色の毛並みの腕が現れる。
「貴様らっ!!」
突然後ろを歩いていたハウアさんが乱暴に寄りかかってきた。
『GUOOOOOHHHH――ッ!!』
まるで待ち伏せでもしていたかのように、《黒蠍獅》の爪が振り下ろされた。
ガンッ!! と金属同士が衝突するような鈍い音。
先行していたハウアさんが鑢状大剣で受け止めている。
「獣のくせに頭が働くじゃねぇか!? 奇襲なんてな!!」
ギリギリと刃が擦れ、始まる膂力の圧合。若干ハウアさんの方が押している?
隙が生じるのも時間の問題。アルナもそれが分かっていることが象気を介して伝わってくる。
「オラっ!! 今だ!! ミナトっ!! 嬢ちゃんっ!!」
ハウアさんが腕を弾いた瞬間、入れ替わるように前に出た。
「行くよ! アルナっ!」
「うん! いつでもっ!」
僕等は《黒蠍獅》の体勢が崩れたところへ、象気を込めた拳と爪を同時に叩きこむ。
僕達の最初の共震象術――【連環紅焔】。
五連の雷閃に沿って紅焔が孤を描く。紅蓮の環が何度も繰り返し、絶え間なく――。
『GUOOOOO――UAAAAッ!!』
焼き尽くされてればいいものを、象気の咆哮で掻き消された。
まぁこれくらいやってくるとは思っていたけど。
「ぼーっとしてんな! 続けていくぞっ!」
空かさずハウアさんが突貫。僕とアルナは受け止め跳ね返した隙を突く。
《黒蠍獅》の攻撃を掻い潜り、矢継ぎ早に【連環紅焔】を打つこと――5度。
『GURRRR……』
一度逃げざるを得なかった《黒蠍獅》が度重なる共震象術で既に虫の息だ。
「……ハァ……ハァ……」
汗が滝のように流れて、【共震】の限界が近づいてきているのが分かる。
アルナの顔も疲労の色が濃い。
あともう一息なんだっ! 戦いに集中しろっ!!
莫大な象力を生み出せる【共震】だけど、でもその分体力の消耗が激しく、日に何度も使えない。
昨日ハウアさんとの組手でそれを知った。
訓練すれば長時間続けられるようになるってハウアさんは言っていた。
だけどまだ僕等の持続時間は3分丁度だった。
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