32 / 65
第一章 どうして僕が彼女を『放』っておけなかったのか
第31話 黒幕と野望と、彼女の『秘密』が複雑に交錯し……
しおりを挟む
「だから違うって、別に工事中の橋になんて逃げ込まなくたって良かったんだ。他にもいっぱいあったんだから、単なる不注意だって」
「でも! ミナトを追いかけまわして、そんな危険な場所へ立ち入らせてしまったのは私だから。その治療費は私が払うべきものだよ」
「だってあの時は、アルナは掟に従わざるをえなかったわけだから、君はなにも悪くない」
「でもっ!」
「真っ昼間からうるせぇ! 音が響くんだよ! 痴話喧嘩なら外でやれっ!」
協会の中では、2階から僕等を見下ろすようにハウアさんが待っていた。
寝起きのようで、もの凄くだるそうにしている。痴話喧嘩って。
「グディーラが話してぇことがあるんだとよ。二人とも、とにかく上の応接室に来い」
まぁ、いいや。とりあえず応接室へ。
挨拶早々にグディーラさんから「はい、これ」と封筒を渡された。
「貴方の報酬よ。口座に振り込んでおいたから」
「えっ? あ、はい……ありがとうございま……すっ!?」
開いて驚愕する。明細には凡そ43万ノルドと書かれてあった。
今までの人生で見たことも無い金額!
「少ないけど我慢してね?」
「とんでもないっ! こんなにっ!? こんなに貰っていいんですかっ!?」
「正直に言うとね。今回の依頼料。事前の政府からの手付がケチられちゃってね。ミナトは本当に良く頑張ってくれたから、もっとあげたかったんだけど、協会も大変なの。ごめんね」
「いえ! ありがとうございます!」
恐ろしい大金で手が震えた。
「ところでミナト。身体の方はどうだった?」
「はい、2週間もすれば回復するって」
「そう。大事には至らなくてよかったわ。それはそれとして、二人とも外で凄く騒いでいたみたいだけど、あまり感心しないわね。どうかしたの?」
「えっと――」
「グディーラさん! 私もここで働かせてくださいっ!」
会話の途中でアルナが突然割り込んできた。いきなり何を!?
確かに守護契約士には一般人に助力を求めることがある。
いわゆる協力者というもの。
彼女の実力ならC、いやB級はある。象術を使える時点でD級の資格がある。
「私はミナトに怪我をさせてしまいました。けどミナトはそんな私に力になりたいって言ってくれて。ミナトがそう思ってくれるのと同じように、私もミナトの力になりたいんです」
アルナの瞳も声も切実に訴えている。
彼女は高く評価してくれるけど、正直僕は情けない気持ちでいっぱい。
掟と戦うと公言しておいて、結局まだ彼女に何もしてあげられてないんだから。
「アルナ。私達の仕事は白より灰色。やっていることは案外闇社会とあまり変わらないところもあるわ。ミナトが貴方を救ったのは、そんなことをさせないためだと思うのだけれど?」
「分かっています」
「ちょっと待って、救ったなんてそんな――」
大げさな。と言いかけたところで突然背後からハウアさんが肩を回してくる。
「なぁミナト、ちっと早いが飯食いに行くか? おっさんもまだ寝ているし、この前奢ってやるって言っただろ?」
「でも話がまだ終わって――」
いいから来いよ。とハウアさんに半ば腕ずくで協会の外へと引きずり出された。
ただまぁ少し込み入った話になりそうな雰囲気だったのは確か。
それが彼女達を二人っきりにしようというハウアさんの気遣いだって、すぐに理解はできたけど――
「本当に食事しに来るとは思わなかったよ」
ハウアさんに連れてこられたのは大衆食堂。
アルナと出会う前は僕も良く利用していたところだ。夏にはテラス席があって心地よい店。
「俺様が約束破ったことがあるか? 好きなもん頼んでいいぞ。マスターっ! いつもの!」
速いよ。まだ決まっていないのに……。
奥から「あいよ」っという野太い声が聞こえてくる。
「グディーラはああ見えて経験豊富だからよ。任せておけば大丈夫だ。悪いようにはしねぇよ」
ハウアさんの言っていることは理解できる。でもアルナが協会で働くのは反対だ。
「けどなミナト。腹ぁ括った女は強ぇ。ちょっとやそっとじゃ引き下がらねぇんだ」
「うん、今日のアルナを見ていて思った」
「だろ? ミナトが嬢ちゃんを戦わせたくねぇって気持ちは分かるが。しばらく二人で話し合わせてやれ」
「ハウアさんにはお見通しだね」
「何年の付き合いだと思ってんだぁ? とりあえずここは兄貴分の俺様の顔を立てろよ」
僕はアルナにこれ以上裏社会に関わって欲しくない。
普通に勉学に勤しみ、家庭を築いて、幸せになってもらいたかった。
別にその相手が自分である必要はないけど。
ただ多くの苦悩を背負った彼女はそれと同じぐらい幸せになる権利があると僕は思っている。
「とにかく来週あたり一旦下見で地下水路に潜る予定だからよ。んで? 怪我の方は?」
「くっつくのに2週間ぐらいかかるって」
「そうかぁ、じゃあどうすっかなぁ……つっても様子見るっつぅだけで他には何もしねぇんだけどよ。もちろんヤバイヤバくないは関係ねぇ。どうする?」
「ヴェンツェルの計画を阻止するためには情報を集めないと。うん。着いていく。でも戦えないよ?」
「でも! ミナトを追いかけまわして、そんな危険な場所へ立ち入らせてしまったのは私だから。その治療費は私が払うべきものだよ」
「だってあの時は、アルナは掟に従わざるをえなかったわけだから、君はなにも悪くない」
「でもっ!」
「真っ昼間からうるせぇ! 音が響くんだよ! 痴話喧嘩なら外でやれっ!」
協会の中では、2階から僕等を見下ろすようにハウアさんが待っていた。
寝起きのようで、もの凄くだるそうにしている。痴話喧嘩って。
「グディーラが話してぇことがあるんだとよ。二人とも、とにかく上の応接室に来い」
まぁ、いいや。とりあえず応接室へ。
挨拶早々にグディーラさんから「はい、これ」と封筒を渡された。
「貴方の報酬よ。口座に振り込んでおいたから」
「えっ? あ、はい……ありがとうございま……すっ!?」
開いて驚愕する。明細には凡そ43万ノルドと書かれてあった。
今までの人生で見たことも無い金額!
「少ないけど我慢してね?」
「とんでもないっ! こんなにっ!? こんなに貰っていいんですかっ!?」
「正直に言うとね。今回の依頼料。事前の政府からの手付がケチられちゃってね。ミナトは本当に良く頑張ってくれたから、もっとあげたかったんだけど、協会も大変なの。ごめんね」
「いえ! ありがとうございます!」
恐ろしい大金で手が震えた。
「ところでミナト。身体の方はどうだった?」
「はい、2週間もすれば回復するって」
「そう。大事には至らなくてよかったわ。それはそれとして、二人とも外で凄く騒いでいたみたいだけど、あまり感心しないわね。どうかしたの?」
「えっと――」
「グディーラさん! 私もここで働かせてくださいっ!」
会話の途中でアルナが突然割り込んできた。いきなり何を!?
確かに守護契約士には一般人に助力を求めることがある。
いわゆる協力者というもの。
彼女の実力ならC、いやB級はある。象術を使える時点でD級の資格がある。
「私はミナトに怪我をさせてしまいました。けどミナトはそんな私に力になりたいって言ってくれて。ミナトがそう思ってくれるのと同じように、私もミナトの力になりたいんです」
アルナの瞳も声も切実に訴えている。
彼女は高く評価してくれるけど、正直僕は情けない気持ちでいっぱい。
掟と戦うと公言しておいて、結局まだ彼女に何もしてあげられてないんだから。
「アルナ。私達の仕事は白より灰色。やっていることは案外闇社会とあまり変わらないところもあるわ。ミナトが貴方を救ったのは、そんなことをさせないためだと思うのだけれど?」
「分かっています」
「ちょっと待って、救ったなんてそんな――」
大げさな。と言いかけたところで突然背後からハウアさんが肩を回してくる。
「なぁミナト、ちっと早いが飯食いに行くか? おっさんもまだ寝ているし、この前奢ってやるって言っただろ?」
「でも話がまだ終わって――」
いいから来いよ。とハウアさんに半ば腕ずくで協会の外へと引きずり出された。
ただまぁ少し込み入った話になりそうな雰囲気だったのは確か。
それが彼女達を二人っきりにしようというハウアさんの気遣いだって、すぐに理解はできたけど――
「本当に食事しに来るとは思わなかったよ」
ハウアさんに連れてこられたのは大衆食堂。
アルナと出会う前は僕も良く利用していたところだ。夏にはテラス席があって心地よい店。
「俺様が約束破ったことがあるか? 好きなもん頼んでいいぞ。マスターっ! いつもの!」
速いよ。まだ決まっていないのに……。
奥から「あいよ」っという野太い声が聞こえてくる。
「グディーラはああ見えて経験豊富だからよ。任せておけば大丈夫だ。悪いようにはしねぇよ」
ハウアさんの言っていることは理解できる。でもアルナが協会で働くのは反対だ。
「けどなミナト。腹ぁ括った女は強ぇ。ちょっとやそっとじゃ引き下がらねぇんだ」
「うん、今日のアルナを見ていて思った」
「だろ? ミナトが嬢ちゃんを戦わせたくねぇって気持ちは分かるが。しばらく二人で話し合わせてやれ」
「ハウアさんにはお見通しだね」
「何年の付き合いだと思ってんだぁ? とりあえずここは兄貴分の俺様の顔を立てろよ」
僕はアルナにこれ以上裏社会に関わって欲しくない。
普通に勉学に勤しみ、家庭を築いて、幸せになってもらいたかった。
別にその相手が自分である必要はないけど。
ただ多くの苦悩を背負った彼女はそれと同じぐらい幸せになる権利があると僕は思っている。
「とにかく来週あたり一旦下見で地下水路に潜る予定だからよ。んで? 怪我の方は?」
「くっつくのに2週間ぐらいかかるって」
「そうかぁ、じゃあどうすっかなぁ……つっても様子見るっつぅだけで他には何もしねぇんだけどよ。もちろんヤバイヤバくないは関係ねぇ。どうする?」
「ヴェンツェルの計画を阻止するためには情報を集めないと。うん。着いていく。でも戦えないよ?」
1
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる