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第一章 どうして僕が彼女を『放』っておけなかったのか
第29話 『乙女心』が分からなくて、他にお困りの方はいませんか?
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「えっ!? いいんですかっ!?」
シャワーという単語を聞いた途端、アルナは怪訝な表情から一転。無邪気に目を輝かせた。
女の子ってわっかんないなぁ。
シャワーを浴びて戻ると、グディーラさんがココアを淹れてくれた。
でもレオンボさんとハウアさんの姿は無い、なんでも仮眠室で睡眠をとっているとのこと。
じゃあ話は二人が起きた後ってことか。
「さぁ、冷めないうちに召し上がれ」
「ありがとうございます。グディーラさん」
一口に含むと、程よい甘さと苦さが口いっぱいに広がり、喉へ流し込む度に温かさが全身に染み渡るぅ~。
戦いに昼食を抜いていたから余計だ。
ふと隣に座っていたアルナが気になってちらっと見たら、俯いたままで、カップに一口も付けてない。一体どうしたんだ?
それにしたって目のやり場に困る。
アルナはナイトガウンを羽織って、生乾きの髪が妙に色っぽい。
おまけにガウン越しに煌くあれだ。
彼女の太ももに《心臓喰らい》を細切れにした鞭のような薄刃が巻きついているのが妖しすぎる。
でも、なるほどスカートの中へと消えた理由はそういうことだったんだ。
「あら、ココアはお気に召さなかったかしら?」
「アルナ、美味しいよ? 早くの飲まないと冷めちゃうよ?」
「……ミナトは素顔を見せない人の得体の知れないものをよく飲めるね」
「そんなぁ……さっきも話したけどグディーラさんは良い人だよ?」
「ミナトは知らないんだよ。親切にする人ほど、計算高かったり、必ず裏があったりするんだから、注意を払っていないと駄目なんだから」
「う、うん……」
う~ん、やっぱりアルナは猜疑心が強いように思うけど、どうなんだろう?
多分まだ何だかんだ覆面のグディーラさんを警戒しているんだ。
僕には想像することしか出来ないけど、アルナはずっと暗殺という血生臭い世界で生きてきた。
そのことを考えれば、なかなか他人へ心を許せないのも仕方がないのかもしれない。
「そうね。アルナの言う通りかもしれないわね。けど表の社会では他人の好意は素直に受け取った方が身の為よ。お嬢様」
グディーラさんの言葉が、アルナには癇に障ったみたい。不愉快そうにムッとして――。
「……そうですか。分かりました!」
煽るようにココアを飲み干し、テーブルに空のカップを叩きつける。
「これでいいですかっ!」
熱くなかったのかな……?
「はい、お粗末様。二人から大体話を聴いたけど、大変だったみたいね」
「ええ、《心臓喰らい》の大軍を相手にしてましたからね」
「本当にご苦労さま。あら? ミナト、貴方の右手怪我しているじゃない。ちょっとこっちに来なさい、手当てしてあげるわ」
ふとグディーラさんに手を握られ、心臓が跳ね上がった。
「い、いえ、大丈夫です。もう傷口は塞がりましたからっ!」
もちろんそんなことはない。シャワーの時沁みて結構痛かった。
家族や知人以外の大人の女性に触られるなんて、初めてだから正直照れくさい。
まして義姉さんぐらいの歳の人になんて……。
「嘘いいなさい! 消毒しないと化膿してしまうわ! いいからこっちへ来なさい!」
流石に見え透いていた。あっさりと見破られて腕を掴まれた途端、激痛が全身を襲う。
「痛っ!」
「ほらみなさい! やっぱり……医療道具を持ってくるから大人しく――」
アルナは突然、テーブルをばんっと手を叩きつけ床を蹴った。
「ミナトの治療は私がしますっ! 私が怪我をさせてしまったんですからっ!」
尻尾の周りに、稲妻が迸るほど感情を露にするアルナ。どうして?
「あらそう? わかったわ。じゃあ用意するから、アルナ、頼めるかしら?」
お願いね、と言い残してグディーラさんは部屋を後にする。
口元は笑ってはいたけど……機嫌悪くしてないかなぁ。むしろ腹を立てているのは――。
「アルナ。なんか怒っている?」
「……別に怒っていない」
そうかなぁ。貧乏ゆすりして苛ついているようだけど……。
多分、僕が何か癇に障るようなことをしたんだ。でも思い当たる節が無い。
ようやくアルナと仲直りできたのに、一難去ってまた一難。
「ミナト、手……見せて」
「え! あ、う、うん」
手のひらの中心には一本筋が入ったように飛刀の痕が走っている。
飛刀の鋭い切れ味のお陰で幸い傷口は綺麗。
でもまだ塞がっていないから、ちょっと痛んだ。
でも象気を巡らせていた甲斐があって出血は止まった。これぐらい特段治療しなくても、数日もすれば癒える。
「……ごめんなさい。私のせいで」
「平気だよ。これくらい。君を助けるために負った傷なんだから、男にとっては勲章だよ」
師匠やハウアさんならきっとそうやって言うのは間違いない。
それについては同感だ。傷一つぐらいでアルナを救えたのなら安いもの。
アルナの柔らかい指先でそっとなぞられチクチクする。
「痛い?」
「少し沁みるけど、大丈夫。とても鋭利な刃だったからすぐに治るよ」
「……うん、毎日欠かさず研いでいたから」
「あっ……うん、ごめん」
馬鹿か僕は! 藪蛇じゃないか!
シャワーという単語を聞いた途端、アルナは怪訝な表情から一転。無邪気に目を輝かせた。
女の子ってわっかんないなぁ。
シャワーを浴びて戻ると、グディーラさんがココアを淹れてくれた。
でもレオンボさんとハウアさんの姿は無い、なんでも仮眠室で睡眠をとっているとのこと。
じゃあ話は二人が起きた後ってことか。
「さぁ、冷めないうちに召し上がれ」
「ありがとうございます。グディーラさん」
一口に含むと、程よい甘さと苦さが口いっぱいに広がり、喉へ流し込む度に温かさが全身に染み渡るぅ~。
戦いに昼食を抜いていたから余計だ。
ふと隣に座っていたアルナが気になってちらっと見たら、俯いたままで、カップに一口も付けてない。一体どうしたんだ?
それにしたって目のやり場に困る。
アルナはナイトガウンを羽織って、生乾きの髪が妙に色っぽい。
おまけにガウン越しに煌くあれだ。
彼女の太ももに《心臓喰らい》を細切れにした鞭のような薄刃が巻きついているのが妖しすぎる。
でも、なるほどスカートの中へと消えた理由はそういうことだったんだ。
「あら、ココアはお気に召さなかったかしら?」
「アルナ、美味しいよ? 早くの飲まないと冷めちゃうよ?」
「……ミナトは素顔を見せない人の得体の知れないものをよく飲めるね」
「そんなぁ……さっきも話したけどグディーラさんは良い人だよ?」
「ミナトは知らないんだよ。親切にする人ほど、計算高かったり、必ず裏があったりするんだから、注意を払っていないと駄目なんだから」
「う、うん……」
う~ん、やっぱりアルナは猜疑心が強いように思うけど、どうなんだろう?
多分まだ何だかんだ覆面のグディーラさんを警戒しているんだ。
僕には想像することしか出来ないけど、アルナはずっと暗殺という血生臭い世界で生きてきた。
そのことを考えれば、なかなか他人へ心を許せないのも仕方がないのかもしれない。
「そうね。アルナの言う通りかもしれないわね。けど表の社会では他人の好意は素直に受け取った方が身の為よ。お嬢様」
グディーラさんの言葉が、アルナには癇に障ったみたい。不愉快そうにムッとして――。
「……そうですか。分かりました!」
煽るようにココアを飲み干し、テーブルに空のカップを叩きつける。
「これでいいですかっ!」
熱くなかったのかな……?
「はい、お粗末様。二人から大体話を聴いたけど、大変だったみたいね」
「ええ、《心臓喰らい》の大軍を相手にしてましたからね」
「本当にご苦労さま。あら? ミナト、貴方の右手怪我しているじゃない。ちょっとこっちに来なさい、手当てしてあげるわ」
ふとグディーラさんに手を握られ、心臓が跳ね上がった。
「い、いえ、大丈夫です。もう傷口は塞がりましたからっ!」
もちろんそんなことはない。シャワーの時沁みて結構痛かった。
家族や知人以外の大人の女性に触られるなんて、初めてだから正直照れくさい。
まして義姉さんぐらいの歳の人になんて……。
「嘘いいなさい! 消毒しないと化膿してしまうわ! いいからこっちへ来なさい!」
流石に見え透いていた。あっさりと見破られて腕を掴まれた途端、激痛が全身を襲う。
「痛っ!」
「ほらみなさい! やっぱり……医療道具を持ってくるから大人しく――」
アルナは突然、テーブルをばんっと手を叩きつけ床を蹴った。
「ミナトの治療は私がしますっ! 私が怪我をさせてしまったんですからっ!」
尻尾の周りに、稲妻が迸るほど感情を露にするアルナ。どうして?
「あらそう? わかったわ。じゃあ用意するから、アルナ、頼めるかしら?」
お願いね、と言い残してグディーラさんは部屋を後にする。
口元は笑ってはいたけど……機嫌悪くしてないかなぁ。むしろ腹を立てているのは――。
「アルナ。なんか怒っている?」
「……別に怒っていない」
そうかなぁ。貧乏ゆすりして苛ついているようだけど……。
多分、僕が何か癇に障るようなことをしたんだ。でも思い当たる節が無い。
ようやくアルナと仲直りできたのに、一難去ってまた一難。
「ミナト、手……見せて」
「え! あ、う、うん」
手のひらの中心には一本筋が入ったように飛刀の痕が走っている。
飛刀の鋭い切れ味のお陰で幸い傷口は綺麗。
でもまだ塞がっていないから、ちょっと痛んだ。
でも象気を巡らせていた甲斐があって出血は止まった。これぐらい特段治療しなくても、数日もすれば癒える。
「……ごめんなさい。私のせいで」
「平気だよ。これくらい。君を助けるために負った傷なんだから、男にとっては勲章だよ」
師匠やハウアさんならきっとそうやって言うのは間違いない。
それについては同感だ。傷一つぐらいでアルナを救えたのなら安いもの。
アルナの柔らかい指先でそっとなぞられチクチクする。
「痛い?」
「少し沁みるけど、大丈夫。とても鋭利な刃だったからすぐに治るよ」
「……うん、毎日欠かさず研いでいたから」
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馬鹿か僕は! 藪蛇じゃないか!
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