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第一章 どうして僕が彼女を『放』っておけなかったのか
第17話 僕は追いかけた。『諦め』られなかったんだ。
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今逃したら一生会えないかもしれない。そう思ったらじっとなんてしていられるか!
「ハウアさんっ! ゴメンっ!」
「おい! ちょ、ミナト! ああっもう! クソ!」
ハウアさんの肩を振りほどき、アルナを追った。霊気灯が煌々と照らす夜のボースワドゥムの町を駆け抜ける。
「アルナ! 待ってっ!」
何て脚力だ。油断しようもならすぐに見失ってしまう。最早只人種の成人男性並みだ。
それとさっきの雷。有角種の尾には発霊板という霊気を発生させる器官がある。
【霊気鰻】なんかが持っているあれだ。
ただ気になるのは、有角種の発霊といえど大きな馬を失神させる程度の霊圧の筈。
落雷を起こせるくらいとなると――馬鹿! 余計なこと考えるな!
息が切れる……。脚が縺れかけても必死に食らいついた。
掻き立てているものはたった一つ。僕はただ彼女ともっと一緒にいたい。それだけなんだって。
正直事情なんてどうでもいいってことを、最近になって分かった。
ああ! 赤面したくなるような思いだよ。でも本心なんだ!
「お願いだ! 待ってくれ! 話をしたいんだ! 聴きたいことがあるんだっ!」
呼びかけても一瞥さえくれない。
いつの間にか路地裏を走っていると、突如何かに躓き、激しく地面に打ち付けられる。
「ぐっ! クソ!」
すぐに身を起し追いかける。けど、もうアルナの姿は無かった。
「なんでなんだ。どうしてなんだよ。アルナ……」
無性に悔しくさが込み上げてくる。まるで胸を内側から焼かれているみたいだ。
一目さえくれないアルナに対して? それとも女の子一人を振り向かせることのできない自分?
気付けば拳に血が滲んでいた。何度も何度も、壁を叩き続けても心が晴れない。
煉瓦が割れ、ふと人の気配がした。
「アルナ……なのか?」
「駄目っ! 来ないで!」
無意識に歩いていた。でも間違いない。アルナの声だ。
「ごめんなさい。ミナト……もうあなたと一緒にいることは出来ない」
暗くて顔は分からないけど、背格好や靴からして、やっぱりアルナだ。
「これ以上私に近づけば、貴方を殺さなくちゃいけなくなる。目撃者は始末する。それが劉家の掟……」
一体何を言っているんだ?
「掟? と、とにかく帰ろう。君は誰も殺していないし、僕も何も見ていない。それでいいじゃないか。そうすれば全部元通り……」
アルナは首を横に振ったような気がした。
「このことが一族の誰かに知られるのも時間の問題。私がやらなくても、一族の誰かが必ずミナトを始末しに来る。だから逃げて、今すぐに……」
段々とアルナの気配が闇の中へと吸い込まれるように薄くなっていく。
「ちょっと待って! アルナ! 話を聴いてくれっ!」
「ミナトにどんな事情があるのかは知らない。でもヴェンツェルにはもう関わらないで、あの男はとても危険。私の最期のお願い……」
どうしてそこでヴェンツェル教授の名前が出てくるんだ?
「アルナっ! 行かないでくれっ!」
「『友達』になってくれてありがとう……ミナトと会えて本当に良かった……」
サヨナラ――と言い残してアルナは、暗闇へ完全に姿を消した。
ほんと情けなくて仕方がない。なにがコツコツ積み重ねれば――だよ。
結局友達一人説得できなかったじゃないか! 一体何が足りなかったんだ? 努力?
失意のどん底ってこんな気分をいうんだろうなぁ。
「気持ち悪いな……僕は……」
ああ言っていたけど、しつこく追いかけまわして、内心アルナは嫌がっていたのかも。
「あれ? ミナトさん?」
「……セイネさん?」
あてもなく歩いていたら、戸締りをしていたセイネさんに声を掛けられた。
教会が見えるってことは、いつの間にか帰路に就いていたんだ。
恐らく帰巣本能って奴なのかもしれない。
「大変! 顔が真っ青ですよ? 何かあったのですか?」
「いや別に……」
そんなに酷いかな? 頬に触れてみると確かに冷たい。意外に自分では気付かないものなんだな。
「よろしければ温かいお茶でもどうです? そんな状態では風邪を引いてしまいます」
「いえ、もう遅いですし、帰ったらすぐに寝ますから、おやすみ――」
「待ってくださいっ!」
踵を返そうとした僕の腕をセイネさんが突然掴んできた。
一体何なんだよ。鬱陶しいな。放っておいて欲しい。
「鬱陶しいですか?」
「……っ!」
「鬱陶しいとおっしゃるなら、この手を振り解いてください」
そんなこと……出来るわけがない。まして寂しげな表情をするセイネさんになんて……。
「少し休まれるだけでいいですから、ね?」
半ば強引にセイネさんは教会の中へ僕を連れて行った。
食堂へと案内されると、彼女は何も言わず香草茶を淹れてくれる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
一口含むと、暖かさが全身に染み渡り、冷えた身体が内側から温められていく。
香草の優しく爽やかな香りを嗅いでいると、なんだか心が穏やかになっていく感じがした。
「セイネさんはどうして僕を……」
良くしてくれるのかと口にしかけて詰まる。なんか水臭い気がして言葉が出なかった。
「ハウアさんっ! ゴメンっ!」
「おい! ちょ、ミナト! ああっもう! クソ!」
ハウアさんの肩を振りほどき、アルナを追った。霊気灯が煌々と照らす夜のボースワドゥムの町を駆け抜ける。
「アルナ! 待ってっ!」
何て脚力だ。油断しようもならすぐに見失ってしまう。最早只人種の成人男性並みだ。
それとさっきの雷。有角種の尾には発霊板という霊気を発生させる器官がある。
【霊気鰻】なんかが持っているあれだ。
ただ気になるのは、有角種の発霊といえど大きな馬を失神させる程度の霊圧の筈。
落雷を起こせるくらいとなると――馬鹿! 余計なこと考えるな!
息が切れる……。脚が縺れかけても必死に食らいついた。
掻き立てているものはたった一つ。僕はただ彼女ともっと一緒にいたい。それだけなんだって。
正直事情なんてどうでもいいってことを、最近になって分かった。
ああ! 赤面したくなるような思いだよ。でも本心なんだ!
「お願いだ! 待ってくれ! 話をしたいんだ! 聴きたいことがあるんだっ!」
呼びかけても一瞥さえくれない。
いつの間にか路地裏を走っていると、突如何かに躓き、激しく地面に打ち付けられる。
「ぐっ! クソ!」
すぐに身を起し追いかける。けど、もうアルナの姿は無かった。
「なんでなんだ。どうしてなんだよ。アルナ……」
無性に悔しくさが込み上げてくる。まるで胸を内側から焼かれているみたいだ。
一目さえくれないアルナに対して? それとも女の子一人を振り向かせることのできない自分?
気付けば拳に血が滲んでいた。何度も何度も、壁を叩き続けても心が晴れない。
煉瓦が割れ、ふと人の気配がした。
「アルナ……なのか?」
「駄目っ! 来ないで!」
無意識に歩いていた。でも間違いない。アルナの声だ。
「ごめんなさい。ミナト……もうあなたと一緒にいることは出来ない」
暗くて顔は分からないけど、背格好や靴からして、やっぱりアルナだ。
「これ以上私に近づけば、貴方を殺さなくちゃいけなくなる。目撃者は始末する。それが劉家の掟……」
一体何を言っているんだ?
「掟? と、とにかく帰ろう。君は誰も殺していないし、僕も何も見ていない。それでいいじゃないか。そうすれば全部元通り……」
アルナは首を横に振ったような気がした。
「このことが一族の誰かに知られるのも時間の問題。私がやらなくても、一族の誰かが必ずミナトを始末しに来る。だから逃げて、今すぐに……」
段々とアルナの気配が闇の中へと吸い込まれるように薄くなっていく。
「ちょっと待って! アルナ! 話を聴いてくれっ!」
「ミナトにどんな事情があるのかは知らない。でもヴェンツェルにはもう関わらないで、あの男はとても危険。私の最期のお願い……」
どうしてそこでヴェンツェル教授の名前が出てくるんだ?
「アルナっ! 行かないでくれっ!」
「『友達』になってくれてありがとう……ミナトと会えて本当に良かった……」
サヨナラ――と言い残してアルナは、暗闇へ完全に姿を消した。
ほんと情けなくて仕方がない。なにがコツコツ積み重ねれば――だよ。
結局友達一人説得できなかったじゃないか! 一体何が足りなかったんだ? 努力?
失意のどん底ってこんな気分をいうんだろうなぁ。
「気持ち悪いな……僕は……」
ああ言っていたけど、しつこく追いかけまわして、内心アルナは嫌がっていたのかも。
「あれ? ミナトさん?」
「……セイネさん?」
あてもなく歩いていたら、戸締りをしていたセイネさんに声を掛けられた。
教会が見えるってことは、いつの間にか帰路に就いていたんだ。
恐らく帰巣本能って奴なのかもしれない。
「大変! 顔が真っ青ですよ? 何かあったのですか?」
「いや別に……」
そんなに酷いかな? 頬に触れてみると確かに冷たい。意外に自分では気付かないものなんだな。
「よろしければ温かいお茶でもどうです? そんな状態では風邪を引いてしまいます」
「いえ、もう遅いですし、帰ったらすぐに寝ますから、おやすみ――」
「待ってくださいっ!」
踵を返そうとした僕の腕をセイネさんが突然掴んできた。
一体何なんだよ。鬱陶しいな。放っておいて欲しい。
「鬱陶しいですか?」
「……っ!」
「鬱陶しいとおっしゃるなら、この手を振り解いてください」
そんなこと……出来るわけがない。まして寂しげな表情をするセイネさんになんて……。
「少し休まれるだけでいいですから、ね?」
半ば強引にセイネさんは教会の中へ僕を連れて行った。
食堂へと案内されると、彼女は何も言わず香草茶を淹れてくれる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
一口含むと、暖かさが全身に染み渡り、冷えた身体が内側から温められていく。
香草の優しく爽やかな香りを嗅いでいると、なんだか心が穏やかになっていく感じがした。
「セイネさんはどうして僕を……」
良くしてくれるのかと口にしかけて詰まる。なんか水臭い気がして言葉が出なかった。
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