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序章 こうして僕は『殺』されかけました
第4話 別れ際、君がくれた花の『種』。でもそれは……
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でも何度も友達って連呼されると、流石に傷つく。
期待は……して無かったけど、でもまぁ……その純粋さに惹かれたんだけどね。
僕等の前に、ふと華やかな三人組の令嬢たちが通り掛かる。
すれ違い様に聞こえてきたのはアルナに対する陰口だった。
――ねぇ、ご覧になって、例の魔族の子よ。
――殿方の手を握って言い寄るなんて、どうせ弄ぶつもりなのよ、イヤラシイ。
――男性も騙されるなんて可哀想に。黒髪に榛色の瞳は、エレネス出身かしら?
可哀想? 誰が? 僕? 魔族って有角種を侮蔑する言葉じゃないか!
一流校にいる癖になんて見識の浅い! 腸が煮え繰り返る。
貴族? 資産家? 関係あるか!
友達を侮辱されて我慢出来るほど、生憎僕は人が出来ちゃいない。
「ミナト、待ってっ!」
立ち上がり陰湿な彼女達へ向おうとすると、アルナから腕を強く掴まれ、縋るように引き留められた。
それも必死に。
「お願い、やめて」
「だけど!」
「大丈夫っ! 私は大丈夫だから」
察しが悪いなぁ僕は……。
女学生達に怒りをぶつけたら、きっとアルナはもっと学校に居づらくなるかもしれない。
最悪ご両親にも迷惑が掛かるかも……。悔しいけど、ここは飲み込むしかない。
参った。掛ける言葉が見つからないまま、気付けば公園を外だ。
「なんか、気まずくなっちゃったね」
「別にアルナの所為じゃないよ」
陰口を叩かれた後なのに、自分なんかを心配して、清貧さというか、アルナの謙虚さは本当に尊敬する。
「さっきはごめん……」
「ううん。私の為に怒ってくれたんだよね。ありがと」
嬉しかったと、アルナは作り笑いをする。正直胸が張り裂けそう。
彼女はまるで悶々とした雰囲気を払拭するみたいに背伸びをして振り返ると、もういつものアルナだった。
「でも、いいの? 全部頂いちゃって?」
「ああ! 言ったでしょ? 日頃のお礼だって、毎日手間暇かけてくれているの、知っているから。あぁ、けど日持ちしないから早めに食べてね」
「ありがとうミナトっ! あっそうだ……お礼のお礼っていうのも変なんだけど、実家から送られてきたものがあるんだ。ミナトにあげたくて……」
すっとアルナがポケットから取り出したのは小さな包装紙に包まれた何か。
「これ長尾鳶尾っていう【麗月】と【瑞穂】でしか咲いていない花の種なんだ」
な、なんだって!? しかも瑞穂って確か珍しい文化が根強く残っているっていうあの!?
実は観葉植物を育てるのが趣味で、こういうものには目がない。特殊だって自覚しているから、他人から理解を得られないことは諦めている。
「ミナトってこういうの好きかなぁって……」
「ありがとうっ! 本当に貰っていいのっ!?」
「うんっ! だけど気を付けて。根茎と葉に毒があるんだ。あとあまり花付きが良くないから育て方が難しいの。日当たりや風通しがいい所に植えてね。けどとても綺麗な青紫色をしているよ」
「そ、そうなんだ! 任せて! 凄く嬉しいよ! ありがとう!」
「ミナトが喜んでくれて私も嬉しい」
いつの間にかアルナの通う学校と、協会との別れ道に着いている。浮かれ過ぎて分からなかった。
「じゃあ……こっちだから」
「そ、そっか……あの! アルナ! 蒸し返すようで悪いけど、もしあの子達が手を上げるようだったら言って? なんてったって僕は守護契約士だからね」
何を言ってんだ……でも、今自分に出来るのはこれくらいしか……。
「うん……ありがとう。けど本当に大丈夫、安心して」
淋しそうなアルナの微笑みが、逆に辛い。
「じゃあ、さっきも話したけど夕方に雨が降るみたいだから早めに帰ってね」
しかも僕なんかを心配してくれる。けど、何だかアルナ。どことなく凄んでいるような?
「約束だよ」
「そ、そうするよ。風邪を引いたら大変だしね。じゃぁまた明日」
圧に押されて頷いてしまった。まぁたまにはささっと切り上げて休むのもいいか。
「うん。ミナトもお仕事頑張って」
少し愁いた様子で手を振るアルナを見送った。
何故だろう。彼女に応援されると、不思議と元気が湧いてくる。
「……さてと、もうひと頑張りするとしますか!」
胸の高鳴り抑えきれず、僕は協会まで走った。
いつになく浮かれ調子で鼻歌を口遊みながら扉を開くと。
「ただいま戻りました」
「お帰りミナト」
「よう色男っ! やっと戻ってきやがったな」
入るや否や、強気で軽薄そうな声が聞こえて来た。まさか……。
銀色の毛並みをした【狼人種】の男性が椅子で寛いでいる。
やっぱり……。
「帰ってきてたんですか? ハウアさん」
ハウア=ヌルギ。先輩守護契約士で自分の兄弟子に当たる人だ。
幼い頃、武術の師匠の処へ通っていた時期があって、先に入門していたのが彼。
でも2年ぐらいでハウアさんは引っ越してしまい、2年前、試験官として再会した時は正直驚いた。
鍔広の帽子を被り、外套を羽織って、腰には回転式の拳銃まで携えている。
何処から見ても無法者って感じ。
先々月に東の大洋の向こうの【ジェラルディーゼ大陸】へ行くとは聴いていたけど……。
期待は……して無かったけど、でもまぁ……その純粋さに惹かれたんだけどね。
僕等の前に、ふと華やかな三人組の令嬢たちが通り掛かる。
すれ違い様に聞こえてきたのはアルナに対する陰口だった。
――ねぇ、ご覧になって、例の魔族の子よ。
――殿方の手を握って言い寄るなんて、どうせ弄ぶつもりなのよ、イヤラシイ。
――男性も騙されるなんて可哀想に。黒髪に榛色の瞳は、エレネス出身かしら?
可哀想? 誰が? 僕? 魔族って有角種を侮蔑する言葉じゃないか!
一流校にいる癖になんて見識の浅い! 腸が煮え繰り返る。
貴族? 資産家? 関係あるか!
友達を侮辱されて我慢出来るほど、生憎僕は人が出来ちゃいない。
「ミナト、待ってっ!」
立ち上がり陰湿な彼女達へ向おうとすると、アルナから腕を強く掴まれ、縋るように引き留められた。
それも必死に。
「お願い、やめて」
「だけど!」
「大丈夫っ! 私は大丈夫だから」
察しが悪いなぁ僕は……。
女学生達に怒りをぶつけたら、きっとアルナはもっと学校に居づらくなるかもしれない。
最悪ご両親にも迷惑が掛かるかも……。悔しいけど、ここは飲み込むしかない。
参った。掛ける言葉が見つからないまま、気付けば公園を外だ。
「なんか、気まずくなっちゃったね」
「別にアルナの所為じゃないよ」
陰口を叩かれた後なのに、自分なんかを心配して、清貧さというか、アルナの謙虚さは本当に尊敬する。
「さっきはごめん……」
「ううん。私の為に怒ってくれたんだよね。ありがと」
嬉しかったと、アルナは作り笑いをする。正直胸が張り裂けそう。
彼女はまるで悶々とした雰囲気を払拭するみたいに背伸びをして振り返ると、もういつものアルナだった。
「でも、いいの? 全部頂いちゃって?」
「ああ! 言ったでしょ? 日頃のお礼だって、毎日手間暇かけてくれているの、知っているから。あぁ、けど日持ちしないから早めに食べてね」
「ありがとうミナトっ! あっそうだ……お礼のお礼っていうのも変なんだけど、実家から送られてきたものがあるんだ。ミナトにあげたくて……」
すっとアルナがポケットから取り出したのは小さな包装紙に包まれた何か。
「これ長尾鳶尾っていう【麗月】と【瑞穂】でしか咲いていない花の種なんだ」
な、なんだって!? しかも瑞穂って確か珍しい文化が根強く残っているっていうあの!?
実は観葉植物を育てるのが趣味で、こういうものには目がない。特殊だって自覚しているから、他人から理解を得られないことは諦めている。
「ミナトってこういうの好きかなぁって……」
「ありがとうっ! 本当に貰っていいのっ!?」
「うんっ! だけど気を付けて。根茎と葉に毒があるんだ。あとあまり花付きが良くないから育て方が難しいの。日当たりや風通しがいい所に植えてね。けどとても綺麗な青紫色をしているよ」
「そ、そうなんだ! 任せて! 凄く嬉しいよ! ありがとう!」
「ミナトが喜んでくれて私も嬉しい」
いつの間にかアルナの通う学校と、協会との別れ道に着いている。浮かれ過ぎて分からなかった。
「じゃあ……こっちだから」
「そ、そっか……あの! アルナ! 蒸し返すようで悪いけど、もしあの子達が手を上げるようだったら言って? なんてったって僕は守護契約士だからね」
何を言ってんだ……でも、今自分に出来るのはこれくらいしか……。
「うん……ありがとう。けど本当に大丈夫、安心して」
淋しそうなアルナの微笑みが、逆に辛い。
「じゃあ、さっきも話したけど夕方に雨が降るみたいだから早めに帰ってね」
しかも僕なんかを心配してくれる。けど、何だかアルナ。どことなく凄んでいるような?
「約束だよ」
「そ、そうするよ。風邪を引いたら大変だしね。じゃぁまた明日」
圧に押されて頷いてしまった。まぁたまにはささっと切り上げて休むのもいいか。
「うん。ミナトもお仕事頑張って」
少し愁いた様子で手を振るアルナを見送った。
何故だろう。彼女に応援されると、不思議と元気が湧いてくる。
「……さてと、もうひと頑張りするとしますか!」
胸の高鳴り抑えきれず、僕は協会まで走った。
いつになく浮かれ調子で鼻歌を口遊みながら扉を開くと。
「ただいま戻りました」
「お帰りミナト」
「よう色男っ! やっと戻ってきやがったな」
入るや否や、強気で軽薄そうな声が聞こえて来た。まさか……。
銀色の毛並みをした【狼人種】の男性が椅子で寛いでいる。
やっぱり……。
「帰ってきてたんですか? ハウアさん」
ハウア=ヌルギ。先輩守護契約士で自分の兄弟子に当たる人だ。
幼い頃、武術の師匠の処へ通っていた時期があって、先に入門していたのが彼。
でも2年ぐらいでハウアさんは引っ越してしまい、2年前、試験官として再会した時は正直驚いた。
鍔広の帽子を被り、外套を羽織って、腰には回転式の拳銃まで携えている。
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