旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ

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梅雨の晴れ間

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 さあさあと、しとしととした雨が今日も降っています。
 空は何時もどんよりと暗く、気分は沈みがちになってしまいますね。
 しかし、この時期の雨は必要な物なのです。
 四月の終わりから五月の頭にかけられて植えられた稲が、青々と瑞々しくある姿はとても美しいですし、紫や薄い紅色の可愛らしい花を咲かせる紫陽花も、この時期ならではですね。
 ちょこんとした触覚をゆらゆらと動かして、ゆったりと歩く蝸牛さんも可愛らしいですし、げこげこと大合唱を重ねる蛙さんの歌声も、今の風物詩です。

「そんな事を言うのは、お前ぐらいだ」

 微妙に蒸し暑い、そんな夜。
 お風呂上がりに、縁側で晩酌がてら涼んでいました旦那様が、呆れた様な、それでいて、何処か嬉しそうな声で言いました。
 しとしとと降る雨は、一瞬でずぶ濡れになる程の物ではありません。時間を掛けて木々の葉に溜まった雨水が、ぴちょんぴちょんと音を立てて、地面へと落ちて行きます。

「そうでしょうか?」

 旦那様の言葉に、僕は徳利を持ったまま首を傾げてしまいます。
 
『毎日毎日鬱陶しい』

 との旦那様のぼやきに、僕は僕の思う事を口にしただけですのに。

「この時期に、水分をたっぷりと吸収した稲は、秋には見事な黄金色になり、それはそれは美味しいお米になると聞きました。それは、とても良い事だと思います。中々お布団を干せないのが悲しいですが、梅雨の晴れ間に干したお布団の、ふっくらとした温かさは格別な物がありますし、早朝に見ます、夜の間に止んだ雨粒の残った葉っぱの瑞々しさは、言葉に表すのが難しいぐらいですし、また…ふが」

 続けようとした言葉は、不意に伸びて来た手に止められてしまいました。
 何故でしょう?
 何故、僕は鼻を摘まれているのでしょう?

「俺はもう良いから、さっさと風呂に入って寝ろ。薄っすらと月が見えて来たから、明日は晴れるだろう」

「ああ…本当です」

 鼻から指が離れて行きまして、僕は軽く鼻を擦りながら、お空を見上げました。
 白い、白い月が、流れる雲に見え隠れしています。
 明日は、貴重な梅雨の晴れ間となるでしょう。
 朝からお洗濯で、てんやわんやしそうですね。
 早速、今言いました『格別なお布団』を振る舞う事が出来そうです。
 思わず、ふふと笑いましたら、今度は軽く頭を撫でられてしまいました。
 明日の晴れが嬉しくてどきどきしているのか、頭を撫でられてどきどきしているのか、解らなくなってしまいました。
 うぅん、旦那様は意地悪ですね。
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