旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ

文字の大きさ
上 下
9 / 45

くれえぷ

しおりを挟む
「何か、甘い匂いがする」

 お目当ての物を購入しまして、後は百貨店を後にするだけと云う処で、せい様がお鼻をひくひくとさせて立ち止まりました。
 地下へと続く階段付近での事です。

「ゆきお、ちょっと行ってみよ、な?」

「ふえっ!?」

 購入しました、ぶりいふが入っています紙袋を持つ手とは反対の手を掴まれまして、僕は星様の後に付いて階段を降りて行きました。
 その階段の近くにそれはありました。
 お祭りの屋台の様な店構えのそこには『どすこいくれえぷ』と云う文字が書かれていました。

「…くれえぷ…」

「お。いらっしゃい。何にする?」

「なあ、すごく甘い匂いがするんだけど、美味いのか?」

 店員さんに、星様が目を輝かせて聞いています。
 ぴょこぴょこと、お馬さんの尻尾が揺れています。

「ああ、美味いぞ~。少しおまけするから、食ってみてくれよ。苺とバナナ、どれにする?」

 店員さんが器用に片目を瞑って、そう聞いて来ました。

「じゃあ、おいら、いちごな! ゆきおは?」

「ふえ!? あ、あの、では、ばななを戴けますでしょうか?」

「あいよ、ちょっと待ってろよ」

 そう言いまして、店員さんが目の前にあります鉄板に、お玉から掬った生地を乗せて伸ばして行きます。薄く、薄く。
 小麦粉をお水で溶いた物でしょうか?
 そうして焼き上がりましたそれに、生くりいむ、ばなな、仕上げにちょこれいとをかけて、くるくると巻いて、紙で包んで『ほらよ』と、僕に渡して下さいました。そして、また鉄板の上に生地を伸ばして行きます。

「ゆきお、食べて見てよ。おいらのもすぐに出来るみたいだし」

「は、はい」

「あ、そこのベンチ使って良いぞ~」

 店員さんのお言葉に、僕はお店の脇にありましたべんちへと、腰を降ろしました。
 そうして、一口くれえぷを齧ります。

「ふわ…もちっとしています…。生くりいむも、お口の中で溶けて行きます…。ばななとちょこれいとは、本当に合いますね…とても美味しいです」

「だろお!? 美味いんだよ、美味いんだけど、客が来ねえんだよなあ~。このままだと、今月で、店、畳むようかなあ~。はあ…」

 星様にくれえぷを渡しながら、店員さんが重い溜め息を零しました。

「ふえ…? これ程に美味しいのに…勿体無いです…」

「うお? いちごうまいな。いちごとチョコもうまいぞ!」

 僕の隣へと座りました星様が、目を丸くして笑いました。

「おうおう、ありがとよ」

 僕はまだ、二口目を齧った処ですのに、星様はもう半分以上も食べてしまわれました。相変わらず、凄い早さです。

「あ。ほら、ゆきお」

「ふえ?」

 星様が、残り僅かとなりました苺のくれえぷを、僕の方へと差し出して来ました。

「いちごも食べてみろ。うまいぞ!」

「あ、はい。では、星様はこちらのばななをどうぞ」

 苺のくれえぷを受け取りまして、代わりに僕のばななくれえぷを星様にお渡ししました。

「ありがとな!」

 星様は、真っ白な歯を見せて笑って、ばななくれえぷを受け取り、食べ始めました。
 僕も苺くれえぷを食べます。

「…ふわあ…」

 ほのかな苺の酸味と、甘い生くりいむにちょこれいと。
 こちらも、良い組み合わせですね。

「あ、全部たべちゃった。ごめん、ゆきお!」

「ああ、大丈夫ですよ。あまり食べますとお昼が入らなくなってしまいますから、丁度良かったです」

 そうです。
 その様な事になりましたら、旦那様が心配してしまいます。

「そっか。んじゃ、良かったのか?」

「はい。それに星様のお食べになるお姿は、見ていてとても気持ちの良い物ですから。では、そろそろ行きましょうか。あ、その前にお代を…」

 と、店員さんの方を見ましたら、何時の間にやらお店には長蛇の列が出来ていました。階段の上まで続いている様です。

「ふわ!? どう致しましょう!?」

「あー! 気にすんなーっ!! 良い宣伝になったから、その礼だ!!」

 慌てます僕に、店員さんが豪快に笑って手を振って下さいました。

「ありがとな、おっちゃん! また来るな!」

 星様が店員さんに笑顔で手を振って、それに応えていました。

「じゃ、行こ、ゆきお。帰ったら、親父殿に作ってあげよっと」

「ふわわ…」

 また星様に手を取られて、僕は歩き出しました。
 長蛇の列は、階段から更に長く、百貨店の外まで続いていました。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

視線の先

茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。 「セーラー服着た写真撮らせて?」 ……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

罪人の僕にはあなたの愛を受ける資格なんてありません。

にゃーつ
BL
真っ白な病室。 まるで絵画のように美しい君はこんな色のない世界に身を置いて、何年も孤独に生きてきたんだね。 4月から研修医として国内でも有数の大病院である国本総合病院に配属された柏木諒は担当となった患者のもとへと足を運ぶ。 国の要人や著名人も多く通院するこの病院には特別室と呼ばれる部屋がいくつかあり、特別なキーカードを持っていないとそのフロアには入ることすらできない。そんな特別室の一室に入院しているのが諒の担当することになった国本奏多だった。 看護師にでも誰にでも笑顔で穏やかで優しい。そんな奏多はスタッフからの評判もよく、諒は楽な患者でラッキーだと初めは思う。担当医師から彼には気を遣ってあげてほしいと言われていたが、この青年のどこに気を遣う要素があるのかと疑問しかない。 だが、接していくうちに違和感が生まれだんだんと大きくなる。彼が異常なのだと知るのに長い時間はかからなかった。 研修医×病弱な大病院の息子

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる

琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。 落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。 異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。 そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

処理中です...