寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

文字の大きさ
上 下
71 / 125
僕から君へ

贈り物【完】

しおりを挟む
「な、んで…?」

 涙を滲ませた赤い目で、瑞樹みずき優士ゆうじを見上げる。
 あと少し、あと少しで絶頂を迎えられたのに、と、優士を睨む。
 そんな瑞樹に優士は目を細め、口の端だけで笑いながら、布団の上に倒した瑞樹の腰を跨ぐ。膝立ちになり、自分の腰に手を回し帯を解いて行く。

「…え…?」

 帯が解かれ、ハラリと開けさせられ、見せられたそれに瑞樹が目を見開いて、思わず呟く。

「…デカい…」

 瑞樹の視線を釘付けにしている物は。
 胸から腹にある傷痕では無く。
 引き締まった腹筋でも無く。
 限りなく天を仰いでいる、優士の男根だった。

「…って、いや、何で何も!?」

 そこから目を離せないまま、瑞樹は叫ぶ。

(デカい、間違い無く、俺のよりデカい! てか、何で褌締めてないんだよっ!?)

「…どうせ外す事になるのだから、無意味だろう?」

 確かにそうだけど、違うだろっ!
 情緒って物があるだろっ!!
 何!?
 って事は、それをブラブラさせたまま、自分の部屋から歩いて来たのか!?
 誰かに見られたら…っ…!! 

 と、瑞樹は頭の中で叫ぶが、実際に口から出たのは。

「ほあっ!?」

 と、云う引っくり返った声だった。

「…少し、萎えたか?」

「わ!?」

 優士の手が再び、瑞樹の男根へと伸びる。
 そっと撫でられ、裏筋を撫で上げられれば、それは再び雫を浮かべて首を擡げた。

「ま、ま、ま、ゆ、待って! そっちより…ケ、ケツ…!!」

 瑞樹は両腕を顔の前で交差させて叫ぶ。
 肝心の尻穴はまだ指一本さえ挿れていないのだ。
 それなのに、そんなご立派な物が挿入はいる訳がない。
 暖簾に腕押しじゃないが、弾かれるに決まっている。

「安心しろ。僕の準備は整っている」

(そんなのは見れば解るし! 全然安心出来ないっ!!)

 獲物を前にとろとろとした涎を垂らすそれは、正に肉食獣その物だ。

「そんなので食い付かれたら死ぬっ!!」

「そんな簡単に千切れたりはしない。…また硬度が…」

(千切れてもぶち込むのか!?)

 目を白黒させて自分の尻の心配をする瑞樹に構わずに、優士は僅かに身を引き身体を倒し、瑞樹の両膝を立たせた間へと顔を寄せて、力を失くしつつある茎をそっと掌で包み、先端を口に含んだ。

「ひょあっ!?」

 これまでに感じた事の無い、突然の刺激に瑞樹の身体が跳ねた。
 柔らかく温かい物に包まれて、瑞樹はもう混乱の境地も良い処だ。

(口がっ! 優士の口が!! 俺のちんこが優士の口の中にいぃっ!!!?????)

 優士の唾液を絡ませた舌が瑞樹の亀頭を舐め上げて行く。

「や、あ、駄目、だ…っ…! ち、んこじゃなくて…っ…尻…っ…!!」

(ちんこ刺激されても、デカくなるのはちんこだけで尻穴は大きくならない…っ…!! 先っぽじゅぼじゅぼするなっ!! 吸うなっ!!)

「…せっかちだな。急いては事を仕損じる」

「ほあああああぁぁああぁぁぁぁあぁあ!?」

(どの口がそれを言うんだ!?)

 そこから口を離し、ぺろりと唇を舐めて真面目な顔で言う優士に、瑞樹は叫ぶ事しか出来ない。
 有り得ない位置に優士の顔があって、それを見る自分に頭がクラクラする。
 身体を起こそうにも、何かの弾みで優士の顔を蹴ってしまったらと思うと、それも出来ない。
 それに、先程から与えられている刺激で身体に力が入らない。
 優士から齎される快感は、決定的な物を避けている様で、早く何とかして欲しいとも思う。
 今だって、優士の舌は丁寧にもどかしい程に瑞樹の竿を舐めている。

「…も、やだ…早く……引導を渡して、くれ…」

(もう、尻が裂けてもいい…っ…!!)

 両腕で顔を隠して、再び涙を流して瑞樹は懇願する。
 しかし、優士の頭部を、顔を見ていた瑞樹は知らない。
 瑞樹の男根を掴まない方の、優士の右手がどの様な動きをしていたかなんて。

「…そうだな……」

 何時もの塩な優士の声だが、顔を隠している瑞樹は知らない。
 その時の優士がどんな顔をしていたか、なんて。

 身体を起こして、優士が再び瑞樹の腰を跨いで、その鍛えられた腹筋に右手を置く。
 討伐隊を離れてからも、瑞樹は鍛錬を続けていた。
 何時か戻りたいと言っていた、その言葉に偽りは無く。
 己の目指す処へと、しっかりと進んでいる。
 立ち止まる事はあっても、戻りはしない、先へ進もうと足掻いている。
 それの何処が強くないと云うんだ?

「…お前は…十分に強いさ…」

「…え…?」

 静かだけれど、何処か甘さが滲む優士の声に、瑞樹は顔の上に乗せていた腕を退かす。
 豆電球の明かりと、窓から差し込む月の光の白が照らし出す優士の姿が、とても優しく、また儚げに見えて瑞樹は目を細めて見惚れてしまう。

(…綺麗だな…)

 と瑞樹は思った。
 全然余裕そうに思っていたが、優士の目元は熱に浮かされた様に赤くなっていて、よくよく目を凝らせば、頬も赤く染まっている。
 こんな優士に強いと言われて、また、こんなに赤くなりながら、自分の物に触れたり口に含んでくれたりしていたのかと思えば、自然と流していた涙も引いて行って、頬が緩むのを止められなくて。

「…ありがとな…我慢しないで…もう来いよ…」

 優士を迎え入れる様に両手を伸ばして、瑞樹ははたと気付く。

(…あれ…? 尻、このままじゃ無理だよな? 最初は後ろからの方が良いかもって、みくさん言ってたし…)

「ゆ、ちょ、たんま。今、体勢を…」

 片肘を付いて瑞樹は身体を起こそうとしたが、腹に置かれた優士の手がそれを許さない。

「問題無い」

「いや! あるよな!?」

「問題無いと言った。…この二年の間、弄って来た…風呂で解して来たし、先程までも解していた」

 優士はそう言って口の端だけで笑ってから、左手ですっかりと芯を持ち立ち上がった瑞樹の男根を持ち、瑞樹の腹に置いた右手に力を籠めた。

「は? え?」

 そして、静かに降りて来る優士の腰が目指す物は。

「ちょ、待っ…!」

 瑞樹の男根の先に熱い何かが触れる。
 それが何かなんて考えるよりも先に、瑞樹の腹に置く優士の手の数が増え。

「…僕からの贈り物だ、受け取れ瑞樹」

 額に汗を滲ませて目を細めて笑う優士が、更に腰を落とす方が早かった。

「おあああああああぁあああああああ――――――――っ!?」

 ◇

 チチチ…と雀の鳴き声が聞こえる朝、顔を赤くした瑞樹が布団の傍に両膝を付いて、そこで横になる優士に声を掛ける。

「…じゃ…俺、行って来るから…その、布団と敷布と浴衣と…その…頼むな…」

「ああ、任せろ」

 今日が休暇の優士は瑞樹からの頼みに、身体を起こして浴衣の襟を正しながら快く頷いた。
 優士は今日明日と休みだ。
 だから、あの様に思い切った行動に出たのだろう。

「…その襟巻きも…」

(…俺の涙と涎でぐちゃぐちゃだし…)

「…いや、これはこれで良い」

 俯いて優士の首にある襟巻きを上目がちに見れば、優士はそれを口元に引き寄せて、そっと唇を押し当てて目を伏せて笑った。
 ぼんっと、瑞樹が顔から火を噴く。

「じゃ、じゃあ、頼んだからなっ!!」

 バタバタと部屋を出て行く瑞樹の後頭部にある、ピョンと跳ねた寝癖を見送って、優士は寝乱れた髪を手櫛で梳きながら、軽く息を吐く様に笑う。

「…まあ…らしいと言えば、僕達らしいのか…?」

 その呟きが何を意味するのかは、優士の休みが明けてから判明する。
 とにかく今は、布団を干し、敷布やら浴衣やらの洗濯をするのが先だ。

「後は…風呂掃除か」

 もう一度、軽く目を閉じて笑ってから優士は立ち上がり、秋の陽が入り込む窓を開けに向かった。

 先は未だ不透明だけれど、真っ暗な訳では無い。
 理想とする二人には到底追い付けないが、理想はあくまでも理想だ。
 無理をする必要は無い。
 自分達は自分達らしく在れば良い。
 あの二人の様に、自然体で居れば良いのだ。
 そうすれば、きっと何時かは。

 ◇

 優士の休み明けの朝。
 高梨は隊長室で頭を抱えていた。

「………すまんがもう一度…あ、いや、やっぱり良」

 優士の発言に、一瞬意識を飛ばし内容も飛ばしてしまい、高梨は改めて内容を確認しようとして、いや、この流れは拙いと思い直し、その必要は無いと言おうとしたが、机を挟んで高梨の前に立つ優士は律義に真面目な顔をしたまま、首にある襟巻きを弄りながら、再びそれを塩の声で口にする。

「はい。瑞樹の早漏をどうにかしたいのですが、どうすれば良いですか? 俺の中に挿入した途端に果ててしまいましたので。まあ、その後兜合わ…」

「帰」

 頬を引き攣らせ、目元も痙攣させながら高梨が口を開こうとした時、扉が勢い良く開いた。
 そこに飛び込んで来たせいは、腹を押さえながら叫んだ。

「ゆかりんたいちょ! つきとにちんちん挿れらるたんびに腹がゴロゴロすんだけど、おいらどうしたら良いんだっ!?」

「二人共帰れ――――――――――――――――――――――――っ!!」

 そして、今日も朝から元気な高梨の声が第十一番隊の部屋を過ぎ、廊下にまで響くのだった。



☆★☆★☆★おまけ☆★☆★☆★

雪緒「はあ…襟巻きを弄る瑞樹様、可愛らしかったですね。きっとあれは優士様から贈られた物なのでしょうね」

高梨「…(橘が贈った物だがな。…匂い付けか何か、か? …俺が纏った物を雪緒が身に着ける…?)…雪緒…その、襟巻き…」

雪緒「紫様も襟巻きが欲しいのですか? そうですよね、風が冷たいですものね。機織りの経験は有りませんが、頑張って織りますね」

高梨「………雪緒ェ………」

――――――――旦那様は今日も不憫・完――――――――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

処理中です...