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おまけ

危機編・12

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 …何だ…そりゃ…。
 身内や好きな相手が不治の病で、それを治したくてとか、そんな理由じゃないのかよ…。
 何だよ髪って…それなら、毛生え薬を作れば良いだろう…。
 てか、それは実体験なのか? やけに詳しく話すな?

「…それは…あの…マバチさんの経験なのですか…? その…マバチさんは髪に不自由している様には見えないんですけど…」

 頭を抱えて、ちょっと遠い目をしている俺の隣で、メゴロウがそう聞いてくれた。

 俺達は今、マバチが属する薬物学のサークルの研究室に居るが、今日、ここに居るのはマバチ一人だった。そこらの学校の教室…机を四十台並べても、まだ余裕がありそうな室内にマバチが一人で。まあ、広いと言っても、ビーカーやら秤やら、実験やら調合に使われる器具が乗ったテーブルが三つあったり、パイプ椅子が転がってたり、温室で採って来た野菜やらが床に転がっていたりで、あまり広さは感じられないが。マバチ曰く、他の者達は出て来たり来なかったりで、実質マバチ一人のサークルの様な物らしい。
 そんな、ほぼぼっち環境で寂しかったのか、いきなり来た俺達に不審な顔をしたりせずに、研究室の中に招き入れてくれて、その中にあるソファーに座らされて、お茶も出されて実に和やかに対話をしていた。
 因みに、研究室は普通に校舎内にあり、普通にどこかしらのサークルに所属しているのだろう、そんな学生達が余裕で二桁ぐらい歩いていた。もし、この生徒達がゾンビ化していたらと思うとぞっとする。
 更には、研究室の中では掌サイズのマウスと、バスケットボールサイズのマウスと三輪車サイズのマウスがチューチューと闊歩している。そのせいで、糞尿の臭いも中々に…いや、これが嫌で皆、寄り付かないんじゃないのか? どんだけファ○リーズしても間に合わないだろう。全部で…ひーふー…十匹ぐらいか? ケージは三つあるが、全部の扉は開いていて、実質放し飼い状態だ。まあ、ハイエースサイズのマウスが居ないのが目下の救い…だよな? 他の処にいる可能性も無くはないが、目に付くとこに居るのなら騒ぎになっている筈だ。ゴンべ王子が『あの大きさは初めて』って、言っていたんだからな。そうだと仮定して『また大きくなった』と言って来た時に、ハイエースサイズになったのか? いや、それならそれで、その時に騒ぎになっていても良いよな? マバチが去ってから暫くして騒ぎになったんだし。こいつらに飯を食わせて、で、薬を投与して…殺した…。こんなひょろひょろでぼそぼそと、丸みのある垂れ目で、ヨレヨレの白衣を着て、髪の毛を熱く語るマバチが大きいのを殺せるとは思えないから、普通サイズのを…多分、薬で…安楽死させた…のか?

「…あ…うん…。遺伝…なのかな…おじいちゃんも…父さんも…若い頃は…僕みたいにふさふさ…けど…歳を取る毎に…毎日…毎日…髪が…減っていく…それを…ずっと…見て…聞かされて…おじいちゃんは…もう…ちょびちょび…で…」

 なるほど…。

「それなら毛生え薬を作ろうと思うのですが…何故、不老不死に?」

 頭を掻きながら話すマバチに、俺はそのまま疑問を投げた。

 正直、不老不死が良いとは思えない。
 メゴロウの力で、なんちゃって不老不死を経験しているからかも知れないが…。
 だって、不老不死ったって、痛覚とかはあるんだろう? 刺されりゃ痛いんだろう? 死ぬ程の痛みを経験しても死ねないんだろう? どれぐらいで、その痛みが引くのかは解らないが…もしかしたら引かないのかも知れない…そんな状態で、正常な精神で居られるとは到底思えない…そうしたら…死ぬ事の出来る人を羨ましがったり…もしかしたら、妬むのかも知れない…。
 あ…そうか…もしかしたら…ゾンビが生きている人間…動物もだが…それらを襲うのは、そんな感情からかも知れないな…。

「…だって…歳を取ったら…ボケるし…まともに…動けなくなるし…周りに…迷惑掛けるし…」

 …は…?

「…おじいちゃん…母さんに…いつも…迷惑…かけてるし…母さん…笑ってるけど…でも…あちこち…徘徊…して…母さんは…悪くない…のに…頭を下げて…だから…若ければ…ボケない…から…」

 …それで、不老不死…?
 …研究者…探究者の思考回路はどうなってんだ…。
 …マバチの辛さは、俺には解らない…。
 前世での俺の祖父母は達者だったからな…今の俺の祖父母も元気だし…。
 けど…ドラマとかで好きになった女優が、ある日ぷつんと姿を見せなくなって…それが、老化による物だと知った時は悲しくなったな…。あの女優の演技好きだったのに…もう、あの人が演じる人達を見る事は出来ないのかって…。マバチは…何時もそれを見てるって事か…? それなら…不老不死を願っても…仕方が無いのかも知れないな…。

「…あの…おじいさんは…もう…髪も無いし、ボケているから…そこから不老不死になっても手遅れだと思うんですけど…」

 しかし、メゴロウの容赦の無い言葉に、俺もマバチも、カッと両目を見開いた。
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