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攻略されていたのは、俺
【38】
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「そう思いながら君の手を取ったけれど…思いがけず、ふらついてしまった君を支えようとして…逆に二人して床に転がるだなんて…情けないね」
あの時の事を思い出して、思わずふふっと笑ってしまう。
本当に、何てミラクルだったんだろうな?
「…ケタロウ様…」
しゅん…と項垂れるメゴロウの頭を俺は撫でる。
「失望したかい? 私は、こんな人間なんだよ…。…それで、頭を打って…その時に前世を思い出した…それと同時に、ガディシス様との邂逅の事を忘れて、ね」
それを望んだのは、間違いなく俺なんだけどな。
けど、前世の記憶を寄こせとは、一言も言っていないぞ、俺は。どんなサービスなんだよ。
けど、それがなければ、俺はメゴロウと仲良くなろうとは思わなかっただろう。
惹かれる気持ちはあったとしても、俺は距離を取っていただろうな。
長男だから。
家を継がなければならないから。
ただ、それだけで。
自分の気持ちに、想いに蓋をしていただろう。
「…ケタロウ様…あの…」
何かを言いたげなメゴロウの唇に、人差し指をあてて、俺は言葉を続ける。
「うん? すまないね、先に確認させてくれるかい? …君は…今の、前世を思い出す前の私と、どれだけ出逢ったのかな?」
「…っ…!」
俺の言葉に、メゴロウが息を飲んで、大きく目を見開いた。
親父女神様は言った。
メゴロウがヒロインの誰とも手を取らなければ、メゴロウが伸ばした手を取って欲しいと。
俺が、生徒会長が言う様に、隠し攻略キャラだとするのなら…いや、もう、俺がそうだと確信しているが…俺へのルートは、ヒロイン全員の全部のエンディングを見て、更にハーレムルートも全部クリアしてなければならない訳で…俺がクリアして無かった物も全部クリアしたのか、この野郎と、ちょっと妬ましくもあったりするが…。
…だが…。
だが、それらは、全部、メゴロウに取っては現実の事だ。ゲームと違って、現実は、いきなり明日になったり、一週間、一ヶ月が過ぎたりしない。一分、一秒をしっかりと刻んで行く。残酷なくらいに。
次は、失敗しない。
お前は、そう言っていた。
…なあ…?
…お前は…どれだけの時間を過ごして来たんだ…?
…どれだけ…俺の死を見て来たんだ…?
「…っ…、た、くさんのケタロウ様に…っ…! ケ、タロウ様に…死んで欲しくなくて…っ…! …生きて欲しくて…っ…!」
「…うん…」
ぼたぼたと泣きながら話すメゴロウの頭と頬を撫でながら、俺は続きを促す。
「…何度も何度も…何度も戻って…前回とは違う事を…同じ相手でも…今度はこうして…って…ケタロウ様が…死ぬ度にやり直して…っ…! …でも…っ…! それでも…あなたは…ケタロウ様は…っ…! いつも…いつもいつもいつも、最期は笑うんだ…っ…! 僕の気持ちなんて知らないで、いつもっ!! 何で…っ…!! どうして笑うの…っ…!!」
…最期…って、あれか?
絞首台へ上がる前の俺…。
モニターの画面が揺れる奴。
…本当に、ゲームの見せ方がずるいよな。
基本的にテロップが流れ、選択肢が現れて、それ以外の事は、プレイヤーに想像させる。キャラクターの…主人公の細かな感情さえも。テロップで、主人公はそう思ったとか書かれたら、そうだと思うしかない。
だから、悪役のケタロウはこんな奴。と、キャラ紹介で書かれていたら、基本的にそれを鵜呑みにするしかない。大人の男の子向けのエロゲで、攻略対象じゃない、男の悪役キャラなんて、誰も見向きもしやしない。
…本当に…やられたよ、田中サンよぉ…。
「…前世でね…今の私達に良く似た物語があったんだよ…」
「…え…?」
「…その時の、彼の気持ちが書かれる事は無かったけれど…多分…」
…君の幸せを願っていたから…。
君が、笑顔になれる人を見つけられたのなら。
君を、笑顔にしてくれる人の手を取る事が出来たのなら。
ただ、それだけで良かった…。
それを、見届ける事が出来たから…だから…。
…だから…きっと笑ったのだろう…。
…君の瞳に、光があるのなら…と…。
「…それで、もう…彼は満足だったんだよ、きっと。その人が、幸せなら、ただ、それで」
そう、言った時、ドンッて胸に衝撃が走った。
ドン、ドンって、それは続く。
「…メゴロウ…?」
メゴロウが涙を流したままで、俺を睨み、左手を俺の脚の上に置いて、右手を拳にして俺の胸を叩いていた。
最初こそ、力があったものの、その後の力は弱い。
「…っ…違う…っ! 違う違うっ!! 最初から、僕が手を取りたかったのは…っ…! 好きなのは、あなただけだっ! ケタロウ様だけなんだ…っ…!!」
「…うん…」
「ずっと…ずっと…っ…!! 振られても、見ていられるのなら、傍に居られるのなら、それだけで…っ…! でも、あなたは死んでしまって…っ…!! 何度戻っても…死んで…っ…! …違うのに…っ…冤罪なのに…っ…受け入れて…っ…! どれだけ助けようとしても、助けられなくて…っ…!! どうして…っ…! どうして、受け入れるの…っ…! どうして、諦めるの…っ…!!」
「…うん…そうだね…」
ぽすぽすと叩くだけになったメゴロウの手首を俺は掴む。
「…私は、弱かった。…ただ、逃げていた…」
残酷だと言いながら、俺は死ぬ事で楽な道を選んでいたんだ。
敷かれたレールの上なんか歩きたくないって、思っていたくせに、しっかりとお膳立てされた、死へのレールの上を歩いていた。
全てをメゴロウに押し付けて。
本当に、こんな俺じゃ断罪されても仕方がないよな。
「…だからね…ありがとう、メゴロウ」
「…ケタロウ…さま…?」
「私を、諦めないでいてくれて、ありがとう」
メゴロウの目を見て笑えば、その黒い瞳の中の俺も笑う。凶悪な笑顔だが、逃げないでくれよな。
そう思いながら、メゴロウの手首を掴む手に力を入れて、頭を撫でていた手に力を入れて、その顔を引き寄せて、俺は近付いて来たメゴロウの唇に、自分のそれを重ねた。
あの時の事を思い出して、思わずふふっと笑ってしまう。
本当に、何てミラクルだったんだろうな?
「…ケタロウ様…」
しゅん…と項垂れるメゴロウの頭を俺は撫でる。
「失望したかい? 私は、こんな人間なんだよ…。…それで、頭を打って…その時に前世を思い出した…それと同時に、ガディシス様との邂逅の事を忘れて、ね」
それを望んだのは、間違いなく俺なんだけどな。
けど、前世の記憶を寄こせとは、一言も言っていないぞ、俺は。どんなサービスなんだよ。
けど、それがなければ、俺はメゴロウと仲良くなろうとは思わなかっただろう。
惹かれる気持ちはあったとしても、俺は距離を取っていただろうな。
長男だから。
家を継がなければならないから。
ただ、それだけで。
自分の気持ちに、想いに蓋をしていただろう。
「…ケタロウ様…あの…」
何かを言いたげなメゴロウの唇に、人差し指をあてて、俺は言葉を続ける。
「うん? すまないね、先に確認させてくれるかい? …君は…今の、前世を思い出す前の私と、どれだけ出逢ったのかな?」
「…っ…!」
俺の言葉に、メゴロウが息を飲んで、大きく目を見開いた。
親父女神様は言った。
メゴロウがヒロインの誰とも手を取らなければ、メゴロウが伸ばした手を取って欲しいと。
俺が、生徒会長が言う様に、隠し攻略キャラだとするのなら…いや、もう、俺がそうだと確信しているが…俺へのルートは、ヒロイン全員の全部のエンディングを見て、更にハーレムルートも全部クリアしてなければならない訳で…俺がクリアして無かった物も全部クリアしたのか、この野郎と、ちょっと妬ましくもあったりするが…。
…だが…。
だが、それらは、全部、メゴロウに取っては現実の事だ。ゲームと違って、現実は、いきなり明日になったり、一週間、一ヶ月が過ぎたりしない。一分、一秒をしっかりと刻んで行く。残酷なくらいに。
次は、失敗しない。
お前は、そう言っていた。
…なあ…?
…お前は…どれだけの時間を過ごして来たんだ…?
…どれだけ…俺の死を見て来たんだ…?
「…っ…、た、くさんのケタロウ様に…っ…! ケ、タロウ様に…死んで欲しくなくて…っ…! …生きて欲しくて…っ…!」
「…うん…」
ぼたぼたと泣きながら話すメゴロウの頭と頬を撫でながら、俺は続きを促す。
「…何度も何度も…何度も戻って…前回とは違う事を…同じ相手でも…今度はこうして…って…ケタロウ様が…死ぬ度にやり直して…っ…! …でも…っ…! それでも…あなたは…ケタロウ様は…っ…! いつも…いつもいつもいつも、最期は笑うんだ…っ…! 僕の気持ちなんて知らないで、いつもっ!! 何で…っ…!! どうして笑うの…っ…!!」
…最期…って、あれか?
絞首台へ上がる前の俺…。
モニターの画面が揺れる奴。
…本当に、ゲームの見せ方がずるいよな。
基本的にテロップが流れ、選択肢が現れて、それ以外の事は、プレイヤーに想像させる。キャラクターの…主人公の細かな感情さえも。テロップで、主人公はそう思ったとか書かれたら、そうだと思うしかない。
だから、悪役のケタロウはこんな奴。と、キャラ紹介で書かれていたら、基本的にそれを鵜呑みにするしかない。大人の男の子向けのエロゲで、攻略対象じゃない、男の悪役キャラなんて、誰も見向きもしやしない。
…本当に…やられたよ、田中サンよぉ…。
「…前世でね…今の私達に良く似た物語があったんだよ…」
「…え…?」
「…その時の、彼の気持ちが書かれる事は無かったけれど…多分…」
…君の幸せを願っていたから…。
君が、笑顔になれる人を見つけられたのなら。
君を、笑顔にしてくれる人の手を取る事が出来たのなら。
ただ、それだけで良かった…。
それを、見届ける事が出来たから…だから…。
…だから…きっと笑ったのだろう…。
…君の瞳に、光があるのなら…と…。
「…それで、もう…彼は満足だったんだよ、きっと。その人が、幸せなら、ただ、それで」
そう、言った時、ドンッて胸に衝撃が走った。
ドン、ドンって、それは続く。
「…メゴロウ…?」
メゴロウが涙を流したままで、俺を睨み、左手を俺の脚の上に置いて、右手を拳にして俺の胸を叩いていた。
最初こそ、力があったものの、その後の力は弱い。
「…っ…違う…っ! 違う違うっ!! 最初から、僕が手を取りたかったのは…っ…! 好きなのは、あなただけだっ! ケタロウ様だけなんだ…っ…!!」
「…うん…」
「ずっと…ずっと…っ…!! 振られても、見ていられるのなら、傍に居られるのなら、それだけで…っ…! でも、あなたは死んでしまって…っ…!! 何度戻っても…死んで…っ…! …違うのに…っ…冤罪なのに…っ…受け入れて…っ…! どれだけ助けようとしても、助けられなくて…っ…!! どうして…っ…! どうして、受け入れるの…っ…! どうして、諦めるの…っ…!!」
「…うん…そうだね…」
ぽすぽすと叩くだけになったメゴロウの手首を俺は掴む。
「…私は、弱かった。…ただ、逃げていた…」
残酷だと言いながら、俺は死ぬ事で楽な道を選んでいたんだ。
敷かれたレールの上なんか歩きたくないって、思っていたくせに、しっかりとお膳立てされた、死へのレールの上を歩いていた。
全てをメゴロウに押し付けて。
本当に、こんな俺じゃ断罪されても仕方がないよな。
「…だからね…ありがとう、メゴロウ」
「…ケタロウ…さま…?」
「私を、諦めないでいてくれて、ありがとう」
メゴロウの目を見て笑えば、その黒い瞳の中の俺も笑う。凶悪な笑顔だが、逃げないでくれよな。
そう思いながら、メゴロウの手首を掴む手に力を入れて、頭を撫でていた手に力を入れて、その顔を引き寄せて、俺は近付いて来たメゴロウの唇に、自分のそれを重ねた。
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