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攻略されていたのは、俺

【22】

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 話せと言うから話したのに、何でか怒られる、この理不尽。解せぬ。

「そんな理不尽極まりないって顔をされても、俺の方がその倍以上の理不尽に晒されているからな? 少しは考えろ」

 俺が、何時、理不尽を押し付けたよ?
 
「とにかくだ。君は、好意からメゴロウの性欲処理の手伝いをしようとした。が、結果、断られた上に、大嫌いだと言われた。間違いないか?」

「間違いありません」

「即答するな、考えろ。君は、メゴロウの性器に触れようとしたのだろう? その事に、疑問を抱いたりはしなかったのか?」

 疑問?

「…何故、首を傾げるんだ…」

 いや、何、眼鏡外して目頭押さえるんだ?
 俺か?
 俺が悪いのか?

「…はあ~…」

 え? 何、そのこれ見よがしな溜息は?

「…トイセ会長?」

 訳が分からず、首を捻っていたら、生徒会長がソファーから立ち上がり、ローテーブルを回り込み、俺の前に立っていた。
 何だ? 見上げると首が痛いんだが?
 ん? 何で、俺の両肩に手を置く? 急に立ち上がったから、目眩でも起こしたのか? 貧血か? 鉄分を摂れよ? 貧血にはレバーがお薦めか?

「それなら、その空振りした好意を俺が貰おう」

 は?
 おい、身体を曲げて耳元で話すなよ。何かゾワゾワするだろう。

「…貰う、とは?」

 何だ? 生徒会長にあげる物なんて、何も無いぞ?

「最近、処理をしていなくてな。君が手伝ってくれるのなら、それはさぞかし最高の気分になれるだろう」

 は?

 頭に更に巨大な疑問符が浮かぶ。
 そんな俺の右手首を生徒会長が握って、導く先は薄い寝間着越しの生徒会長の股間…ちんこだ。

「何をするのですかっ!!」

 それに気付いた俺は、慌てて生徒会長の手を振り払い、ついでに足を振り上げようとしたが、同時に会長が払われた手をすかさず翻して、掴み返し、更には左手首も掴んで、俺の股の間に右膝を入れて、俺の身体を強く押す。背中を思い切り背凭れに押し付けられて、軽く息が詰まった。

 椅子ドン!?
 何だこれ!?
 こんなのやられるのは、ヒロインだろう!?
 てか、何だよ、この流れる様な動きは!?
 こいつ、マジでヤンキーか!?

「何故、拒絶を? 男の性器を触ろうとしたのだろう? それなら、俺の性器を触っても問題ないだろう? 違うか?」

 鼻と鼻がくっつきそうな距離でそう囁かれて、俺は生徒会長の目を睨んで、咄嗟に口を開く。

「違うわ、ボケッ! 何で俺が、お前なんかのちんこを触らなきゃならないんだよっ! メゴロウのだから、触ろうとしただけだ! それ以外のちんこに興味なんかないわ! 退け、クソ眼鏡っ!!」

 全力で叫んだせいか、ぜぇぜぇと乱れる息を整えながら、俺は思った。

 …やべぇ…。
 思いっ切り、素で叫んでしまった…。
 ケタロウのイメージ、ぶち壊しだ…。

 俺の手首を掴む生徒会長の手が震えてる。
 ボケとか、お前とか言ったし。
 もの凄く目を細めて睨んで来る、その目が怖い。眼鏡オブラートが欲しい。
 その目元がピクピクと震えている。
 ヤバい。
 めちゃくちゃ怒ってるよな?
 が、言ってしまった物は仕方が無い。
 負けて堪るかと、俺も生徒会長の目をじっと睨み付ける。

「…ち…」

 カチカチと暫く時計の音を聞いた後で、生徒会長が唇を震わせながら、一言だけ発した。

「…ち…?」

 ちくしょう?
 いや、生徒会長はそんな事言わないよな?
 いや、ヤンキーなら言うのか?

「…ちん…ちっ、ち、ん…ち…っ…!!」

 俺が首を傾げたのと、同時だった。
 生徒会長がぶばっと息を吐いて、堪らずと言った様に、俺の手首を掴んでいた手を離し、膝を俺の股の間から下ろし、腹を押さえて、床へと座りこんだ。
 ゴツッて、尻だか腰だかを、ローテーブルにぶつけたみたいだが、生徒会長は気にせずに笑い出した。
 
「…トイセ会長…?」

 な、何だ? 何で笑うんだ? 何がツボったんだ? てか、笑い過ぎだろう? こいつ、こんな笑い上戸だったのか? 事実はゲームより奇なりだな?

 俺の足元で笑い転げる生徒会長を、ただ、俺はぽかんとして見ていた。

 ◇

「…失礼した…」

 たっぷり五分ぐらいは笑っただろうか。洗面所で顔を洗って来た生徒会長が、眼鏡を掛け直してソファーへと腰を下ろした。

「…いえ…」

 そんな生徒会長に、俺は何処か遠くを見ながら返事をしていた。

「君が、余りにも可愛らしい言葉を使うので、つい、な」

「…ソウデスカ…」

 可愛らしいって、何だよ。褒め言葉じゃないよな?
 てか、まだ微妙に肩が震えて、口元も緩んでいるぞ?

「まあ、今のが君の素の話し方なのか?」

「…そうですよ。前世の影響もありますが、頭の中では何時もあんな感じです」

 うん。
 他人との付き合いが得意ではないくせに、他人に嫌われるのが怖くて、あんな話し方なんだよ。けど、頭の中では、前世と変わらない話し方だ。

「メゴロウの前でも、ああやって話せば良いのに」

「嫌ですよ! 嫌われたらどうするのですか!?」

 そう叫んだ俺の前で、生徒会長は両手で顔を押さえて思い切り天を仰いだ。
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