5 / 141
攻略されていたのは、俺?
【05】
しおりを挟む
いや、いや?
肩を抱いた時は、こんなに固まらなかったぞ?
ちょっと、その指先を温めてやろうとしただけだぞ?
そんなに力が強かったか?
指を折られるとでも思ったのか?
いやいやいや?
「あらぁ~、そんな触り方をしたら駄目よ」
何?
からかう様な、嗜める様な、そんな声にメゴロウの横顔を見ていた俺がそちらを見ると、両手に俺達の制服を手にしたウーゴ教諭が、出入り口の処で生暖かい目をして俺達を見ていた。
「ふふ…」
な、何だその意味深な笑いは。
怖いだろ。何かあるのなら、言ってくれ。
そして、謎の笑いを残して救護室から出て行った。
制服を乾かしに行ってくれたのだと思うが…何だあの笑いは…不気味過ぎる。ゲームやってる時は、口元のホクロが堪らんって思っていたが、今は、怪しさ大爆発の不安材料でしかない。
俺の何が拙かったのか、教えて欲しい。
俺は悪役だ。主人公みたいに、何度もトライ出来ないんだ。一つの選択ミスが、即、死に繋がるんだよ。
「…っ、あ、の、ケタロウ様…手を…」
「あ、す、すまなかったね。震えていたから、つい…暖めようかと思ったのだが…驚かせてしまったようだね…」
ぽそりと呟かれたメゴロウの言葉に、俺は慌てて手を離して、肩の辺りに両手を上げて詫びた。
うう、頼む。お触り禁止なら、先に言ってくれ。肩を抱いた時、何も言わなかったのは、人目があったからか? 今なら人目は無いし、さあ、遠慮なくドンと言ってくれ。
「あっ…驚きました…けど…あの…僕なんかに…そんな気安く触られては…ケタロウ様への皆からの心象が…」
何だそりゃ。
モゴモゴと俯いて話すメゴロウの言葉に、俺は軽く眉を寄せて首を傾げた。
「君は?」
他の奴等なんか、どうだって良い。
「え?」
「君は、私に触られるのは嫌なのかい?」
そう、問題はお前だ。
お前に嫌われたら、俺に未来は無いんだ。
「そんな事はありません! 嬉しいで…っ、あ、す、すみません!」
バッと顔を上げて、俺を見て来るメゴロウの言葉に、思わず頬が緩んだ。が。彼は目を泳がせた後に、顔を俯かせてしまった。
待て、何だ、その反応は。
…俺の笑顔は、そんなに凶悪か?
…凶悪なのか?
「…いや、ありがとう。それなら良かった」
お触り禁止じゃないのなら、良かったが…笑顔が凶悪問題が浮上したぞ…。どうしてくれようか…。
「ああ、そうだ。君は昨日、入寮したと聞いている。荷物の整理は済んでいるかい? 私で良ければ手伝わせて貰えないかな?」
うん、とにかくメゴロウとの距離を縮めよう。
まあ、荷物と言っても大した物は無かった筈だ。数少ない着替えと、勉強道具ぐらいだった筈だ。もしかしたら、断られるかも知れない。
だが、ノーとは言えない日本人ならぬ、松竹梅。上の人間から言われたら、基本、断れないよな。メゴロウは、俺の言葉におずおずと頷いた。
◇
何だ、ここは?
俺は目の前に広がる光景に目を見開くしか無かった。
手伝いを申し出た俺だったが、ただ、愕然としていた。
転校前日に入寮を果たした主人公は、荷物の片付けが済んでおらず、それを知ったヒロインが手伝いをと、名乗りを上げるのだが、寮は男子寮と女子寮と分かれていて、どちらも異性の立ち入りは禁止されていると、ゲームで俺に注意を受けるのだ。で、代わりに俺が手伝いをする。虐め込みで。酷い。
って、まあ、そのヒロインとの出逢いはまだなんだけどな。
五人も居るのに、まだ顔を見ていない。
俺が機会を奪ったせいなのかは解らないが。
まあ…出て来るよな、その内に。きっと。多分。
「あ…ケタロウ様にこのような部屋を見せるのは…不敬…でいいのかな…? そうなりますよね…すみません、僕、配慮が足りなくて…」
愕然としつつ、部屋の入口で佇んだまま動かない俺に、メゴロウが申し訳無さそうに頭を下げて来たから、そんな考えは彼方へと放り投げた。
「ああ、いや、そこではない。君が気にする必要は微塵も無い。誰が、君をこの部屋に案内したんだい?」
じめじめとカビ臭く、明り取りぐらいの小さな窓しか無い、陽当りも悪いここは、どう考えても物置き部屋だ。日本で云うなら、畳三枚程の小さな部屋に、ベッドと勉強机のみがみっちりと隙間無く置かれている。
こんな部屋で昨夜は寝たのか? ありえないだろ?
前世の俺の部屋の方がよっぽど小綺麗だ。
「え、あ、の…」
「解った。部屋の割り当ては寮監に一任されている筈だ。行くよ」
口籠るメゴロウに、俺は短く息を吐いた。
こんな扱いを受けて、不当だと思う筈なのに、何故、それを口にしないのか。どうしても他人の事を悪く言いたくはないんだろうな。流石は主人公だ。
まあ、良い。
お前が怒らないなら、代わりに俺が怒ってやる。成長盛りの若者に何て事をしてくれるんだ。メゴロウは、将来国を救うんだぞ? その救世主に…って、それを知るのは極一部だったか…。俺が知ってるのは、前世でこのゲームをプレイしたからだ。
肩を抱いた時は、こんなに固まらなかったぞ?
ちょっと、その指先を温めてやろうとしただけだぞ?
そんなに力が強かったか?
指を折られるとでも思ったのか?
いやいやいや?
「あらぁ~、そんな触り方をしたら駄目よ」
何?
からかう様な、嗜める様な、そんな声にメゴロウの横顔を見ていた俺がそちらを見ると、両手に俺達の制服を手にしたウーゴ教諭が、出入り口の処で生暖かい目をして俺達を見ていた。
「ふふ…」
な、何だその意味深な笑いは。
怖いだろ。何かあるのなら、言ってくれ。
そして、謎の笑いを残して救護室から出て行った。
制服を乾かしに行ってくれたのだと思うが…何だあの笑いは…不気味過ぎる。ゲームやってる時は、口元のホクロが堪らんって思っていたが、今は、怪しさ大爆発の不安材料でしかない。
俺の何が拙かったのか、教えて欲しい。
俺は悪役だ。主人公みたいに、何度もトライ出来ないんだ。一つの選択ミスが、即、死に繋がるんだよ。
「…っ、あ、の、ケタロウ様…手を…」
「あ、す、すまなかったね。震えていたから、つい…暖めようかと思ったのだが…驚かせてしまったようだね…」
ぽそりと呟かれたメゴロウの言葉に、俺は慌てて手を離して、肩の辺りに両手を上げて詫びた。
うう、頼む。お触り禁止なら、先に言ってくれ。肩を抱いた時、何も言わなかったのは、人目があったからか? 今なら人目は無いし、さあ、遠慮なくドンと言ってくれ。
「あっ…驚きました…けど…あの…僕なんかに…そんな気安く触られては…ケタロウ様への皆からの心象が…」
何だそりゃ。
モゴモゴと俯いて話すメゴロウの言葉に、俺は軽く眉を寄せて首を傾げた。
「君は?」
他の奴等なんか、どうだって良い。
「え?」
「君は、私に触られるのは嫌なのかい?」
そう、問題はお前だ。
お前に嫌われたら、俺に未来は無いんだ。
「そんな事はありません! 嬉しいで…っ、あ、す、すみません!」
バッと顔を上げて、俺を見て来るメゴロウの言葉に、思わず頬が緩んだ。が。彼は目を泳がせた後に、顔を俯かせてしまった。
待て、何だ、その反応は。
…俺の笑顔は、そんなに凶悪か?
…凶悪なのか?
「…いや、ありがとう。それなら良かった」
お触り禁止じゃないのなら、良かったが…笑顔が凶悪問題が浮上したぞ…。どうしてくれようか…。
「ああ、そうだ。君は昨日、入寮したと聞いている。荷物の整理は済んでいるかい? 私で良ければ手伝わせて貰えないかな?」
うん、とにかくメゴロウとの距離を縮めよう。
まあ、荷物と言っても大した物は無かった筈だ。数少ない着替えと、勉強道具ぐらいだった筈だ。もしかしたら、断られるかも知れない。
だが、ノーとは言えない日本人ならぬ、松竹梅。上の人間から言われたら、基本、断れないよな。メゴロウは、俺の言葉におずおずと頷いた。
◇
何だ、ここは?
俺は目の前に広がる光景に目を見開くしか無かった。
手伝いを申し出た俺だったが、ただ、愕然としていた。
転校前日に入寮を果たした主人公は、荷物の片付けが済んでおらず、それを知ったヒロインが手伝いをと、名乗りを上げるのだが、寮は男子寮と女子寮と分かれていて、どちらも異性の立ち入りは禁止されていると、ゲームで俺に注意を受けるのだ。で、代わりに俺が手伝いをする。虐め込みで。酷い。
って、まあ、そのヒロインとの出逢いはまだなんだけどな。
五人も居るのに、まだ顔を見ていない。
俺が機会を奪ったせいなのかは解らないが。
まあ…出て来るよな、その内に。きっと。多分。
「あ…ケタロウ様にこのような部屋を見せるのは…不敬…でいいのかな…? そうなりますよね…すみません、僕、配慮が足りなくて…」
愕然としつつ、部屋の入口で佇んだまま動かない俺に、メゴロウが申し訳無さそうに頭を下げて来たから、そんな考えは彼方へと放り投げた。
「ああ、いや、そこではない。君が気にする必要は微塵も無い。誰が、君をこの部屋に案内したんだい?」
じめじめとカビ臭く、明り取りぐらいの小さな窓しか無い、陽当りも悪いここは、どう考えても物置き部屋だ。日本で云うなら、畳三枚程の小さな部屋に、ベッドと勉強机のみがみっちりと隙間無く置かれている。
こんな部屋で昨夜は寝たのか? ありえないだろ?
前世の俺の部屋の方がよっぽど小綺麗だ。
「え、あ、の…」
「解った。部屋の割り当ては寮監に一任されている筈だ。行くよ」
口籠るメゴロウに、俺は短く息を吐いた。
こんな扱いを受けて、不当だと思う筈なのに、何故、それを口にしないのか。どうしても他人の事を悪く言いたくはないんだろうな。流石は主人公だ。
まあ、良い。
お前が怒らないなら、代わりに俺が怒ってやる。成長盛りの若者に何て事をしてくれるんだ。メゴロウは、将来国を救うんだぞ? その救世主に…って、それを知るのは極一部だったか…。俺が知ってるのは、前世でこのゲームをプレイしたからだ。
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる