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それぞれの絆

【旦】旦那様と割烹着・二

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「…これも買ったし、こちらも買ったな…」

 勤務終わりに、俺は悪徳百貨店に来ていた。文句を言いつつも来てしまうのは、やはり品揃えが豊富だからだろう。
 そんな百貨店の一角で、俺は棚に並べられているチョコレートを見ていた。雪緖ゆきおの好きな物で、雪緒が作らない物、雪緒が見た事も無い様な物…しかし、ここに並べてある物は既に全部購入済の物ばかりだ。

「どうした物か…」

 自分で作るにしても、先ず、その原料である、カカオとやらを仕入れるのが非常に困難な物だと知った。形を変えるにしても、熱を加えるとか…フライパンや鍋に入れれば良いのだろうか? 橘は湯せんとか言っていたが、意味が解らん。
 首裏を右手で押さえ、曲げていた背を伸ばしてぐるりと店内を見渡せば、その一角に貼られてある紙に目が留まった。

『クリスマスケーキご予約受付中!』

「もう、クリスマスの宣伝か…」

 気の早い物だと思うが、ここは何時もそうだったなと思い直す。商売とは、そうやって先取りして行かねばならぬ物なのだ。

「クリスマスの次は、直ぐに年末商戦が始まって、あちらの惣菜屋では御節料理の予約が…ん…?」

 …御節料理…?

 そこで、俺ははたと気付いた。

「…あるではないか…」

 珍しい物では無いが、雪緖の好きな物で、雪緖が作った事が無い物が。
 そうだ。
 これまではありふれた物だったが、これからはそうでは無くなるのだ。
 あれを作れば、雪緖は間違い無く喜ぶ筈だ。

「良し!」

 俺は拳を握った手を、小さく持ち上げた。店員が怪訝な視線を向けて来たが、気付かないふりをして、手近にあったチョコレートを二つばかり手に取り、店を後にした。

 ◇

「おわっ! おじさん、何やってんだ!? 今日は休みだろ!?」

「それを言うならば、お前だって休みだろう。何故、ここに居るのだ」

「腹減ったけど、作るのがめんどかったから、食べに来たに決まってるだろ! おっちゃん! 天丼大盛りとカツカレー大盛りとチキン南蛮タルタルソースたっぷりと…」

 何が決まっているのだ、何が。
 まあ、良い。俺の懐が痛む訳では無いからな。
 
 俺は今、朱雀の食堂の厨房に居た。
 前回は練習もせずに、ぶっつけ本番だったから失敗したのだ。だから、職場の厨房で練習をする事にした。家で練習なぞしていたら、雪緖に知れてしまうからな。ここは、誰かさんのお蔭で食材が豊富にあるし、毒見、いや、味見役が沢山居る。

せい、これも食べてみてくれ」

 ことりと、今焼いたばかりの物を小皿に乗せ、カウンターに置いた。

「何だこれ? 玉子焼きか? 真っ黒だな? しっかし、頭巾も割烹着も似合わないな!」

 その言葉に、俺は眉間に皺を寄せ、じろりと星を睨む。
 俺は今、着物の上に真っ白な割烹着を着て、頭は三角巾で包んでいる。
 料理長に『厨房に入るんなら、身綺麗にしろ! 髪の毛一本でも落としたら追い出すからな!』と、これらを渡されたのだ。そんな料理長は髭面なのだが。髭は落ちたりしないのだろうか? まあ、場所も材料も道具も食材も好きに使って良いと言われたので、大人しく従ったが。勿論、使った材料の金は払うが。

「………………伊達巻だ…」

「え"」

 俺の言葉に、星は頬を引き攣らせた。何故だ。お前、自分が作った玉子焼きの事を忘れたのか? あれと比べたら遥かにましだろうが。

「あ~、隊長さん、まあた火加減間違えたな? 家庭用と比べて火力が強いんだから、気を付けろって言ったよな?」

 料理長が腰に手をあて、それを見て呆れた様に言う。

「…十分に弱火にしたつもりだが」

「だから、フライパンを火から離すんだよ」

「ん! おじさん、これ生だぞ!」

「おぉい! 今日は素人が作ってんのか!? やたらと腹痛で来やがる奴が多いんだが!? って、高梨!? ちょ、待て、待ってろ! 写真機取って来るわ!! えいみっつぁんに送らねえと!」

 料理長から注意を受け、星から文句を言われ、食堂に怒鳴りながら飛び込んで来た須藤さんは、腹を抱えて笑い、食堂から姿を消した。
 俺が何をしたと言うのだ?
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