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それぞれの絆

【雪】空にある川

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 今日は七夕です。
 梅雨のこの時期にしては珍しく、今日は朝から晴れていました。
 これなら今年は天の川を見られるのかも知れませんね。
 そんな事を思いながら、保健便りを書いていましたら、軽く戸が叩かれた後に菅原先生がひょっこりと顔を覗かせて来ました。

「高梨先生電話が入ってますよ」

「え。あ、はい、今行きます」

 何故か苦笑をしてます菅原先生に、僕は首を傾げながら席を立ちました。

 それにしても、お電話とは何方どなたからなのでしょうか?
 隣に並んで歩きます菅原先生にお聞きしても『出れば分かりますよ』と笑うだけで教えてくれません。
 それにしても、仕事中とは云え、菅原先生にこの様な話し方をされますと恐縮してしまいます。
 僕は先生の教え子なのですから、以前の様に話して下さっても問題は無いと思うのですが。

「そうそう! そんでさあ、そうなったらキタッ! て思うよな?」

 隣にあります職員室へと足を踏み入れましたら、倫太郎りんたろう様がお電話をされている処でした。

 おや?
 僕へのお電話と云う事でしたが、間違いでしたのでしょうか?

「こら、葉山!」

「痛っ!!」

「ふえっ!?」

 首を傾げていましたら、足早に菅原先生が倫太郎様の元へと行きまして、その頭に拳骨を落とされたのです。

「高梨宛の電話に何でお前が出てるんだ!」

「何だよー、雪緒ゆきおが来るまで、間を繋いでやってたんだよ!」

「嘘を吐くんじゃない! これ幸いとばかりに試験問題作りをさぼっていただけだろう! っと、高梨、ほら」

 学び舎時代を彷彿とさせます遣り取りに頬を綻ばせていましたら、菅原先生が受話器を僕に差し出して来ましたので、慌てて受け取りました。

「おで…」

『おー! ゆきおー! 今年は笹、おじさんに預けたからな! 見て驚くなよ! じゃあな!』

 ガチャン、ツー、ツーとした音が僕の耳に届きます。

「…え…? は? あれ? せい様…?」

 電光石火とは、この事を言うのでしょうか?
 僕が何かを話す前に、星様は用件だけを伝えて通話を切ってしまいました。

「…えぇと…僕が出る意味はあったのでしょうか…?」

 思わず呟きましたら、菅原先生が『杜川もりかわは相変わらずだな』と、左手で首の後ろを掻いて苦笑されていました。因みに右手は倫太郎様の襟首を掴んでいます。倫太郎様が苦しそうにされていますが、大丈夫なのでしょうか?
 それにしても、何故今年はゆかり様に?
 去年までは、お仕事の日でも早朝に持って来て下さいましたのに?
 はて?
 …うぅん…考えても答えは出そうにありませんね…。

 ◇

 さらさらとした笹の葉の音が、風に乗って聴こえて来ます。
 お庭には、紫様が星様から渡された笹が植わっています。色取り取りの短冊と一緒に。それら総てには、僕達への祝福の言葉が書かれているそうです。"そう"と言いますのは、何故か、僕がそれを見るのを紫様が嫌がったからです。気にはなりますが、紫様がお嫌なのでしたら、無理に見る事を僕はしません。何時でも紫様には心穏やかで居て欲しいですからね。

「…しかし…やはり嬉しい物だな…」

 ぼそりと紫様が星空を見ながら言いました。
 その手には盃があります。そして、銀色に光ります指輪も。
 夕餉後、僕達は縁側に出まして、夜空を眺めていました。
 きらきらとさらさらと流れる様な星の川を見ています。

「…そうですね…」

 紫様の言葉に、僕は星の川を見ながら頷きます。
 万人に祝われなくても、紫様がお傍に居て下さるのなら、僕はそれで十分でしたが…。
 感慨深そうに目を細めて星の川を眺めます紫様を見ていましたら、そうも言えなくなりました。
 僕はそっと、自分の左手を右手で包みます。そこには紫様が嵌めて下さった銀色に光る指輪があります。
 星の川…天の川は綺麗ですが…僕は、それ以上に…この指にある小さな銀の光の方が綺麗だと思うのです…。紫様が、僕の為だけに下さった、この光が。
 ふっと、小さく笑いましたら、不意に隣に胡坐を掻いて座ります紫様の手が肩に伸びて来まして、僕を引き寄せました。ぽすっと、その胸に顔を埋めましたら。

「…妬けてしまうな…」

 ぼそりと、何とも不機嫌そうな声が頭上から降って来まして、僕は思わず噴き出してしまいました。

「…笑うな」

 益々不機嫌になりました紫様の声に、僕はやはり笑いを抑えられません。
 だって、これは紫様が贈って下さった物ですよ?
 それに嫉妬だなんて、やはりおかしいです。
 くすくすとした笑いを治められずに居ましたら、紫様が僕の左手を取りました。

「…紫様…?」

 どうされたのですか? と聞くよりも早く、紫様はそのまま僕の左手に…いえ、そこにある指輪に唇を落としたのでした。

「…ふえっ!?」

 驚いて声を上げました僕に、紫様は意地悪そうな笑みを浮かべて、こう言ったのです。

「…次の休み前は覚悟して置け」

 と。

「…ふえ…?」

 目を瞬かせます僕に、旦那様は更に目を細めて言います。

「自業自得だ」

 と。
 ふえ…? え…? えぇと…これは…自業自得と云うのでしょうか…?
 えぇと…納得は行きませんが…今日と云う日に免じて…ですね…その…はい…。

 …今日、七月七日は以前に認められた、同性婚が施工される記念すべき日なのですから、些細な事は水に流しましょうね…はい…。
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