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それぞれの絆
【雪】酒は百薬の長
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午後になりましても、吹雪いています外の景色に肩を落としていましたら、駅に電話を掛けに行きました紫様が戻って来ました。その手には何故か酒瓶と、お皿と、何やら色々と詰まっていそうな袋があります。
軽い眩暈を覚えながら聞きましたら『何処にも行けないから呑む』との事です。
何ですか、その理由は。
今夜は僕が作った物を食べて戴けると思っていましたのに。
ですが紫様は酒瓶に手を掛けながら、僕にも呑めと誘って来ます。
僕が呑んだら誰が紫様のお世話をするのですか。
そんな思いから零れた言葉は思いの外冷たく響きました。
紫様は、何を勘違いされたのか慌てて全部呑む訳では無いと言い出しました。
いえ、流石に全部空にするとは僕は思っていませんよ?
思ってはいませんが、まあ、仕方が無いですね。せっかくの纏まったお休みですからね。遠慮なく呑める機会と言えばそうなのですけれど。そうですね、少しぐらい呑み過ぎたとしても良いでしょう。
それでは、購入されましたおつまみを広げる事に致しましょうか。と、袋の中の物を出そうとしましたら『俺がやる』と、紫様に止められてしまいました。うぅん、おつまみを作る事が出来ないのですから、用意する事ぐらいはさせて欲しい物です。厨房をお借りする事が出来るのでしたら、僕がおつまみをお作り致しますのに。コップが無いと言えば、湯呑みがあると言い出しますし。僕がやる事を取り上げないで下さい。うぅん、紫様は意地悪です。
おつまみをお皿に開けながら、紫様が訳の解らない事を言って来ます。
それ程に僕に呑んで欲しいのでしょうか?
ですが…。
「…僕の限度…ですか…」
成程です。
それは確かに一理あると言えますね。
呑み会等に必要な時には参加しますが『もっと呑め』と、その度に星様や倫太郎様に言われてしまいます。もしかしましたら、僕が呑まない事で、その度に周りを不快にさせてしまっているのかも知れません。ですが、紫様も言いました様に、お屋敷の事が気になりまして…。もしも、僕が酔い潰れてしまいましたら、誰がお屋敷の事をするのでしょうか? 紫様を起こすのも、紫様のお布団を上げるのも、紫様のお食事をご用意するのも、紫様が居ますお屋敷をお掃除するのも、僕だけで居たいのです。
「…今のままでも十分楽しいですし…皆様が楽しそうにお酒を呑んで居る姿を見ているだけで、僕も楽しいですし…無理して呑む必要性を感じませんし…」
…ですが…確かに限度を知れば、僕が楽しんでいます様に、もう少し皆様を楽しませる事が出来るのでしょうか…。
「………俺は…お前と晩酌を楽しみたいんだ…」
俯いて悩む僕の耳に、ぽつりと寂しそうな紫様の声が届きました。
顔を上げましたら、少しだけ目を伏せて僅かに唇を噛み締める紫様の姿がありました。
…ああ、申し訳ございません…。その様なお顔をさせたかった訳では無いのです。
「…僕は…紫様が…美味しそうにお酒を呑む姿が好きで…その…僕が…お付き合いしましたら…それ以上に楽しく…美味しくなるのでしょうか…」
落ち込む紫様を慰めたくて、少しでも喜んで欲しくてそう口にしましたら。
「なる!」
と、目を輝かせて身を乗り出して来ました紫様に、僕は苦笑するしかありませんでした。
◇
「これ以上は無理だと思ったら俺が止めるから、安心して呑め」
との紫様の言葉に僕は湯呑みを傾けます。
確かにこのお酒は仄かな甘みがありまして、また少しだけ柑橘系の味もします。これは確かに呑みやすくて良いですね。
紫様も、普段よりは美味しそうに呑んでいる気がします。
僕と呑む事でそれ程に変わるとは思えませんが、ですが、そんな紫様を見ますと僕も嬉しくなってしまいます。
わさび漬けや、温泉饅頭も美味しくて、ついついお酒が進んでしまいます。
…そうですね…。お休みの前日にはこうして呑む事に致しましょうか。酒は百薬の長と言いますものね。ふわふわと、ぽかぽかと、とても気持ちが良いですしね。紫様も同じ様に思って下さっていたら嬉しいのですが。
窓の外では、まだ風が強く大粒の雪が降っていますが、ここはとても暖かいです。紫様がここに居て下さるだけで、とても暖かいのです。
気が付けば、夕餉の時間が迫っていました。
名残惜しいですが、ここでお開きですね。
卓の上にあります物を片付けまして、空気の入れ替えの為に窓を開けに行きましたら、何時の間にか雪は止んでいまして、雲の隙間からお月様が見えました。ああ、明日は晴れそうですね。ひやりとした空気が僕の身体を撫でて行きます。それが、火照った身体にとても気持ち良いです。呑み会で、お店から出ました時に皆様が気持ち良いと口にされますが、確かにそうですね。皆様、この様な気持ちだったのですね。また一つ勉強になりました。まだまだ学ぶ事はあるのですね。この機会を設けて下さった紫様に感謝ですね。
そうして夕餉を美味しく戴きまして、入浴を済ませて、ふわふわとした気持ちで僕は眠りについたのでした。
◇
「今日はとても良いお天気ですね。昨日の吹雪が嘘みたいです」
そして翌朝、笑顔でそう言いました僕に、紫様は何とも複雑な表情を見せたのでした。
「…ああ、いや…うん…。土産を買って、蕎麦でも食って帰るか…」
首を傾げます僕に、紫様は苦笑を浮かべてそう言ったのでした。
そして、帰宅後。
明日一日ゆっくりとお休み下さいねと言いました僕に、紫様が土下座をして来たのです。
「すまん! 明日から仕事だ!」
と。
――――――――…ふえ…?
軽い眩暈を覚えながら聞きましたら『何処にも行けないから呑む』との事です。
何ですか、その理由は。
今夜は僕が作った物を食べて戴けると思っていましたのに。
ですが紫様は酒瓶に手を掛けながら、僕にも呑めと誘って来ます。
僕が呑んだら誰が紫様のお世話をするのですか。
そんな思いから零れた言葉は思いの外冷たく響きました。
紫様は、何を勘違いされたのか慌てて全部呑む訳では無いと言い出しました。
いえ、流石に全部空にするとは僕は思っていませんよ?
思ってはいませんが、まあ、仕方が無いですね。せっかくの纏まったお休みですからね。遠慮なく呑める機会と言えばそうなのですけれど。そうですね、少しぐらい呑み過ぎたとしても良いでしょう。
それでは、購入されましたおつまみを広げる事に致しましょうか。と、袋の中の物を出そうとしましたら『俺がやる』と、紫様に止められてしまいました。うぅん、おつまみを作る事が出来ないのですから、用意する事ぐらいはさせて欲しい物です。厨房をお借りする事が出来るのでしたら、僕がおつまみをお作り致しますのに。コップが無いと言えば、湯呑みがあると言い出しますし。僕がやる事を取り上げないで下さい。うぅん、紫様は意地悪です。
おつまみをお皿に開けながら、紫様が訳の解らない事を言って来ます。
それ程に僕に呑んで欲しいのでしょうか?
ですが…。
「…僕の限度…ですか…」
成程です。
それは確かに一理あると言えますね。
呑み会等に必要な時には参加しますが『もっと呑め』と、その度に星様や倫太郎様に言われてしまいます。もしかしましたら、僕が呑まない事で、その度に周りを不快にさせてしまっているのかも知れません。ですが、紫様も言いました様に、お屋敷の事が気になりまして…。もしも、僕が酔い潰れてしまいましたら、誰がお屋敷の事をするのでしょうか? 紫様を起こすのも、紫様のお布団を上げるのも、紫様のお食事をご用意するのも、紫様が居ますお屋敷をお掃除するのも、僕だけで居たいのです。
「…今のままでも十分楽しいですし…皆様が楽しそうにお酒を呑んで居る姿を見ているだけで、僕も楽しいですし…無理して呑む必要性を感じませんし…」
…ですが…確かに限度を知れば、僕が楽しんでいます様に、もう少し皆様を楽しませる事が出来るのでしょうか…。
「………俺は…お前と晩酌を楽しみたいんだ…」
俯いて悩む僕の耳に、ぽつりと寂しそうな紫様の声が届きました。
顔を上げましたら、少しだけ目を伏せて僅かに唇を噛み締める紫様の姿がありました。
…ああ、申し訳ございません…。その様なお顔をさせたかった訳では無いのです。
「…僕は…紫様が…美味しそうにお酒を呑む姿が好きで…その…僕が…お付き合いしましたら…それ以上に楽しく…美味しくなるのでしょうか…」
落ち込む紫様を慰めたくて、少しでも喜んで欲しくてそう口にしましたら。
「なる!」
と、目を輝かせて身を乗り出して来ました紫様に、僕は苦笑するしかありませんでした。
◇
「これ以上は無理だと思ったら俺が止めるから、安心して呑め」
との紫様の言葉に僕は湯呑みを傾けます。
確かにこのお酒は仄かな甘みがありまして、また少しだけ柑橘系の味もします。これは確かに呑みやすくて良いですね。
紫様も、普段よりは美味しそうに呑んでいる気がします。
僕と呑む事でそれ程に変わるとは思えませんが、ですが、そんな紫様を見ますと僕も嬉しくなってしまいます。
わさび漬けや、温泉饅頭も美味しくて、ついついお酒が進んでしまいます。
…そうですね…。お休みの前日にはこうして呑む事に致しましょうか。酒は百薬の長と言いますものね。ふわふわと、ぽかぽかと、とても気持ちが良いですしね。紫様も同じ様に思って下さっていたら嬉しいのですが。
窓の外では、まだ風が強く大粒の雪が降っていますが、ここはとても暖かいです。紫様がここに居て下さるだけで、とても暖かいのです。
気が付けば、夕餉の時間が迫っていました。
名残惜しいですが、ここでお開きですね。
卓の上にあります物を片付けまして、空気の入れ替えの為に窓を開けに行きましたら、何時の間にか雪は止んでいまして、雲の隙間からお月様が見えました。ああ、明日は晴れそうですね。ひやりとした空気が僕の身体を撫でて行きます。それが、火照った身体にとても気持ち良いです。呑み会で、お店から出ました時に皆様が気持ち良いと口にされますが、確かにそうですね。皆様、この様な気持ちだったのですね。また一つ勉強になりました。まだまだ学ぶ事はあるのですね。この機会を設けて下さった紫様に感謝ですね。
そうして夕餉を美味しく戴きまして、入浴を済ませて、ふわふわとした気持ちで僕は眠りについたのでした。
◇
「今日はとても良いお天気ですね。昨日の吹雪が嘘みたいです」
そして翌朝、笑顔でそう言いました僕に、紫様は何とも複雑な表情を見せたのでした。
「…ああ、いや…うん…。土産を買って、蕎麦でも食って帰るか…」
首を傾げます僕に、紫様は苦笑を浮かべてそう言ったのでした。
そして、帰宅後。
明日一日ゆっくりとお休み下さいねと言いました僕に、紫様が土下座をして来たのです。
「すまん! 明日から仕事だ!」
と。
――――――――…ふえ…?
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