上 下
36 / 85
それぞれの絆

【雪】下駄の思い出

しおりを挟む
 この日僕は下駄箱の整理をしていました。
 年の瀬も近付いて来ましたし、普段は手に付けない処を整理しようと思ったのです。

「…あ…」

 奥の方に懐かしい物を見付けました。
 それを取り出して見れば、懐かしさに思わず口元が緩みます。
 今となっては笑い話になるのでしょうが…あの頃の僕は真面目に悩んでいたのです。

 ◇

 学び舎に通い出しまして、やはりと言いますか、改めて気付いた事があります。
 今日は、それを克服致したいと思います。
 馬鹿な僕ですが、これでも自尊心と云う物があるのです。

「あ、雪緒ゆきお君、おはよ~」

「おはようございます、瑠璃子るりこさ…ま…?」

 学び舎へと近付きました頃、背後から声が掛けられまして、振り返りましたら。

「えへへ。気が付いた? 昨日ね、新しい下駄を買って貰ったの。今までのより、踵がちょっと高いんだ。雪緒君よりも高くなったかな?」

 何と云う事でしょう。
 草履よりは高さのある下駄を購入して履いて来ましたのに…。
 また、高さのある下駄を探さなければなりません。

 にこやかに笑います瑠璃子様には申し訳ないのですが、僕の気持ちはずんと沈みました。

 そうなのです。
 僕は、ご学友の中で一番背が低いとされている瑠璃子様と同じぐらいの身長しか無いのです。
 男児ですのに情けないです…。
 ですから、少しでも背を高く見せようとして、高さのある下駄を購入したのです。
 下駄は草履よりも硬く履き難いのですが、身長の為ですと、頑張って履いて来ましたのに…。

 ◇

「ふふ…」

 新品同様の下駄を見ていましたら、また笑みが零れてしまいました。
 あの後、慣れない下駄のせいか足に豆を作ってしまったのですよね。
 痛かったのですが、僕はそれを口にはしなかったのですが、何故かだん…ゆかり様には気付かれてしまいまして。
 夕餉の配膳の途中だったのですが『そこに座れ』と言われまして、足の手当てをされてしまったのですよね。そうして後の事は紫様がして下さったのです。
 僕がやりますからと言っても『そんなもさもさ動かれては気が散る』と、むすりとした顔で言われてしまいまして…うぅん…中々な言い様だと思いますが…僕を心配しての事ですからね…。
 結局、下駄を履いたのはあの日だけで、僕はまた草履に戻ったのですよね。
 確か紫様が『背が高かろうと低かろうと、お前はお前だ』と、そう言って下さったから…。…ですから僕は下駄を履くのを止めたのですよね…。

 そっとその下駄を撫でましたら、ふわりと胸が温かくなりました。
 そうして、それをまた下駄箱の奥の方へと仕舞いました。

「…ああ、そうです。今日の晩酌のお酒は先日発売された"雪ノ下"に致しましょう」

 何か特別な日にと思っていましたが…まあ、良いですよね。
 紫様が喜んで下されば良いのですけど。

 そう思いながら、僕は夕餉の支度をすべく台所へと向かうのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

守護獣騎士団物語 犬と羽付き馬

葉薊【ハアザミ】
BL
一夜にして養父と仲間を喪い天涯孤独となったアブニールは、その後十年間たったひとり何でも屋として生き延びてきた。 そんなある日、依頼を断った相手から命を狙われ気絶したところを守護獣騎士団団長のフラムに助けられる。 フラム曰く、長年の戦闘によって体内に有害物質が蓄積しているというアブニールは長期間のケアのため騎士団の宿舎に留まることになる。 気障な騎士団長×天涯孤独の何でも屋のお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...