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それから
雷と親父殿
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ゴロゴロと、ゴロンッと、ピシャッと、ビシッと、そんな音がしてる。
窓に、バンバン風と雨があたってる。
真っ暗な部屋の中、ベッドの上でおいらは丸まってた。
時々。
「ひゃっ! ひいっ!! わあっ!」
とか、叫びながら。
頭から布団かぶってるのに、綿いっぱいなのに。
白い光がぎゅっと、閉じた目に入りこんで来る。
おでこをシーツに押し付けてるのに、白い光はガンガン入りこんで来る。
思い出すのは、まだ、妖だった頃の事。
おいらがねぐらにしていた洞穴の側にある木に、雷が落ちた時の事。
耳が壊れるかと思った。身体がビリビリした。一瞬、地面から尻が浮いた。一気に毛がぶわっとひろがった。
洞穴が揺れて、崩れるかと思った。崩れなかったけど。
青白い光がふよふよとしてて、それも怖かった。
明るくなって、雨や風の音が静かになって、ビクビクしながら外に出たら、木が二つに裂けてた。
怖かった。おいらに落ちなくて良かったと思った。
けど、それからおいらは、雷が大きらいになった。
ピカッて光ってから、ゴシャッ! って、音が近付いて来てる。
『光って、直ぐにバリバリ言うのは、雷が近付いて来ている証拠だよ』
って、親父殿が言ってた。
うう…すぐそこまで来てるんだ。
怖いよ、怖いよ。
ここに来て、初めてだ。こんなひどいのは。
『ドッ、バリバリバリバリッ!!』
「っひいいいいいぃ―――――――っ!!」
もう、耳元で聞こえた気がする。
身体がぶるぶる震えてる。身体が、ぶくぶく泡立った気がする。
ひいぃん、怖いよ、怖いよ、身体、まっぷたつになっちゃうよ~。
「…星?」
ぶるぶる震えてたら、すぐ側で親父殿の低い声が聞こえた。
ぽふぽふと、布団がへっこんだりふくらんだりしてる。
「おおお親父殿、どした、眠れな『ドッシャアアアアアアンッ!!』びゃあああああっ!!」
むくりと起き上がって布団から顔を出して、親父殿も眠れないのか、って言おうとしたら、雷が落ちた。
気が付いたら、布団を投げ出して親父殿に飛び付いていた。
「うん、今のはかなり近くに落ちたみたいだね。まだまだ電気も復旧しないね。怖いなあ。実は、パパ、雷が大の苦手でね。星が一緒に寝てくれたら安心出来るんだけど。お邪魔しても良いかね?」
親父殿の胸にしがみつくおいらの頭と背中を撫でながら、親父殿がそう言って来た。
「おおおお親父殿、雷、怖いのか?」
嘘だ。
だって、親父殿の心臓、ぜんぜんバクバク言ってない。
「うん。怖くて怖くて眠れないよ」
胸に埋めてた顔を上げれば、眉と目をへにょっと下げて親父殿が笑う。普通の人間だったら、こんな真っ暗な中じゃ良くは見えないと思うけど。
けど、おいらには良く見えるんだ。
「ううううう、せ、狭くなるけど、ね、眠れないと大変だもんな! いいぞ!!」
「うん。ありがとうね」
ベッドの端っこへと移動して、親父殿が横になれるようにする。
そうすれば、親父殿は『よいしょ』って、ニコニコとしながらベッドへと上がって来て、横になった。
足下の方に投げた布団を引っ張って、おいら達の身体に被せながら、おいらも横になる。
「星、手を繋いでくれるかい? そうしたら、もっと安心出来る気がするよ」
「うう? 暑くないか?」
「怖くて寒いから、ちょうど良いと思うよ」
「そ、そっか、寒いなら良いのか」
ぶるぶる震えてる手を伸ばして、親父殿の右手に触れば、ぎゅっと掴まれた。ゴツゴツだけど、ぽかぽかの大きい手だ。
「うん、あったかいね」
「ぽかぽかだな!」
「早く通りすぎないかなあ。パパ、耳が壊れちゃうよー」
「そうだな! 耳が壊れたら大変だな!」
親父殿と二人、時々白くなる天井を見ながら、そんな話をして、気が付いたら眠ってた。
「…あ…」
目が覚めたら、親父殿がベッドの下に落ちて寝てた。
おいら、蹴飛ばしたみたいだ。
今度雷が来たら、親父殿のベッドに行こ。おいらのより大きいし。
◇
今年もまた、雷の季節がやって来た。
また、ゆかりんたいちょに笑われる季節だ。
家の外では、ゴロゴロドシャドシャの大合唱だ。
「…親父殿…」
おいらは枕を抱えて、親父殿の部屋に居た。
「うん。雷怖いね。一緒に寝てくれるのかな?」
ベッドの上で身体を起こした親父殿が、軽く首を傾げて聞いて来たから、おいらはドンッと胸に抱えた枕を叩いた。
「お、おいらはもう怖く…、あ、いや、親父殿が眠れなかったら大変だからな!」
「うん、ありがとうね」
親父殿が目を細めて笑いながら、身体をずらして布団を捲ってくれる。
おいらは『よいしょ』って、言いながらそこに潜り込む。
そして。
「おやすみ」
って言って、親父殿のゴツゴツだけど、ぽかぽかの、今は何だかちっちゃく感じる手を握って目を閉じた。
――――――――おまけ――――――――
旦那様「は? 雷の時の雪緒?」
星 「うん! おいらがビビるのを見て、たいちょは何時も笑うけど! ゆきおだって、怖がってるんだろ!? で、布団に連れ込んでよしよしして…ひっ!?」
旦那様「良いか? 良く聞け」
星 「あ、あたま、みしみし…っ! たいちょ、笑顔こわ…」
旦那様「雪緒はな、雷の音が少しでも聞こえたら、まず家中のあらゆるコンセントを抜く。そしてブレーカーを落とし、雨戸と云う雨戸を閉める。どれだけ蒸し暑い夜でも、だ。解るか? あの地獄が? あ? そんな中で蝋燭一本で飯を食ったり、風呂に入ったり、厠に行ったりしてみたいか? 希望するなら、何時でも歓迎するが?」
星 「ひいいいいいんっ、ごめんなさい~~~~~~~っ!!」
窓に、バンバン風と雨があたってる。
真っ暗な部屋の中、ベッドの上でおいらは丸まってた。
時々。
「ひゃっ! ひいっ!! わあっ!」
とか、叫びながら。
頭から布団かぶってるのに、綿いっぱいなのに。
白い光がぎゅっと、閉じた目に入りこんで来る。
おでこをシーツに押し付けてるのに、白い光はガンガン入りこんで来る。
思い出すのは、まだ、妖だった頃の事。
おいらがねぐらにしていた洞穴の側にある木に、雷が落ちた時の事。
耳が壊れるかと思った。身体がビリビリした。一瞬、地面から尻が浮いた。一気に毛がぶわっとひろがった。
洞穴が揺れて、崩れるかと思った。崩れなかったけど。
青白い光がふよふよとしてて、それも怖かった。
明るくなって、雨や風の音が静かになって、ビクビクしながら外に出たら、木が二つに裂けてた。
怖かった。おいらに落ちなくて良かったと思った。
けど、それからおいらは、雷が大きらいになった。
ピカッて光ってから、ゴシャッ! って、音が近付いて来てる。
『光って、直ぐにバリバリ言うのは、雷が近付いて来ている証拠だよ』
って、親父殿が言ってた。
うう…すぐそこまで来てるんだ。
怖いよ、怖いよ。
ここに来て、初めてだ。こんなひどいのは。
『ドッ、バリバリバリバリッ!!』
「っひいいいいいぃ―――――――っ!!」
もう、耳元で聞こえた気がする。
身体がぶるぶる震えてる。身体が、ぶくぶく泡立った気がする。
ひいぃん、怖いよ、怖いよ、身体、まっぷたつになっちゃうよ~。
「…星?」
ぶるぶる震えてたら、すぐ側で親父殿の低い声が聞こえた。
ぽふぽふと、布団がへっこんだりふくらんだりしてる。
「おおお親父殿、どした、眠れな『ドッシャアアアアアアンッ!!』びゃあああああっ!!」
むくりと起き上がって布団から顔を出して、親父殿も眠れないのか、って言おうとしたら、雷が落ちた。
気が付いたら、布団を投げ出して親父殿に飛び付いていた。
「うん、今のはかなり近くに落ちたみたいだね。まだまだ電気も復旧しないね。怖いなあ。実は、パパ、雷が大の苦手でね。星が一緒に寝てくれたら安心出来るんだけど。お邪魔しても良いかね?」
親父殿の胸にしがみつくおいらの頭と背中を撫でながら、親父殿がそう言って来た。
「おおおお親父殿、雷、怖いのか?」
嘘だ。
だって、親父殿の心臓、ぜんぜんバクバク言ってない。
「うん。怖くて怖くて眠れないよ」
胸に埋めてた顔を上げれば、眉と目をへにょっと下げて親父殿が笑う。普通の人間だったら、こんな真っ暗な中じゃ良くは見えないと思うけど。
けど、おいらには良く見えるんだ。
「ううううう、せ、狭くなるけど、ね、眠れないと大変だもんな! いいぞ!!」
「うん。ありがとうね」
ベッドの端っこへと移動して、親父殿が横になれるようにする。
そうすれば、親父殿は『よいしょ』って、ニコニコとしながらベッドへと上がって来て、横になった。
足下の方に投げた布団を引っ張って、おいら達の身体に被せながら、おいらも横になる。
「星、手を繋いでくれるかい? そうしたら、もっと安心出来る気がするよ」
「うう? 暑くないか?」
「怖くて寒いから、ちょうど良いと思うよ」
「そ、そっか、寒いなら良いのか」
ぶるぶる震えてる手を伸ばして、親父殿の右手に触れば、ぎゅっと掴まれた。ゴツゴツだけど、ぽかぽかの大きい手だ。
「うん、あったかいね」
「ぽかぽかだな!」
「早く通りすぎないかなあ。パパ、耳が壊れちゃうよー」
「そうだな! 耳が壊れたら大変だな!」
親父殿と二人、時々白くなる天井を見ながら、そんな話をして、気が付いたら眠ってた。
「…あ…」
目が覚めたら、親父殿がベッドの下に落ちて寝てた。
おいら、蹴飛ばしたみたいだ。
今度雷が来たら、親父殿のベッドに行こ。おいらのより大きいし。
◇
今年もまた、雷の季節がやって来た。
また、ゆかりんたいちょに笑われる季節だ。
家の外では、ゴロゴロドシャドシャの大合唱だ。
「…親父殿…」
おいらは枕を抱えて、親父殿の部屋に居た。
「うん。雷怖いね。一緒に寝てくれるのかな?」
ベッドの上で身体を起こした親父殿が、軽く首を傾げて聞いて来たから、おいらはドンッと胸に抱えた枕を叩いた。
「お、おいらはもう怖く…、あ、いや、親父殿が眠れなかったら大変だからな!」
「うん、ありがとうね」
親父殿が目を細めて笑いながら、身体をずらして布団を捲ってくれる。
おいらは『よいしょ』って、言いながらそこに潜り込む。
そして。
「おやすみ」
って言って、親父殿のゴツゴツだけど、ぽかぽかの、今は何だかちっちゃく感じる手を握って目を閉じた。
――――――――おまけ――――――――
旦那様「は? 雷の時の雪緒?」
星 「うん! おいらがビビるのを見て、たいちょは何時も笑うけど! ゆきおだって、怖がってるんだろ!? で、布団に連れ込んでよしよしして…ひっ!?」
旦那様「良いか? 良く聞け」
星 「あ、あたま、みしみし…っ! たいちょ、笑顔こわ…」
旦那様「雪緒はな、雷の音が少しでも聞こえたら、まず家中のあらゆるコンセントを抜く。そしてブレーカーを落とし、雨戸と云う雨戸を閉める。どれだけ蒸し暑い夜でも、だ。解るか? あの地獄が? あ? そんな中で蝋燭一本で飯を食ったり、風呂に入ったり、厠に行ったりしてみたいか? 希望するなら、何時でも歓迎するが?」
星 「ひいいいいいんっ、ごめんなさい~~~~~~~っ!!」
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