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ルミアは、皇后の姪として皇后宮に迎え入れられた。
皇后宮は、城の西に位置する白を基調にした優美な建物だった。芸術的な彫刻が至る所に施されている。

正面入り口には、数十人の使用人達が立ち並び、皇后の帰りを待っていた。

「「おかえりなさいませ」」

皇后は、ルミアの手を引きながら言った。
「この娘は私の姪のルミア・ライカーです。丁重に、もてなして頂戴。」

「「かしこまりました。皇后さま」」

「ルミア、今日からここが本当の家だと思って過ごしてね。今日から忙しくなるわ。貴方のドレスや宝石、鞄。用意する物は沢山あるわ」

ルミアは、驚いて言った。
「叔母様。私はそんなに必要ありません。」

「まあ、必要ですよ。貴方が成人したらライカー女公爵となるのですから。帝国がライカー国を統治しているのは一時的な措置なのですよ。妹の婚約者が謀反を起こしていなければ、ライカー国は全て貴方の物だったはずです。私が病弱な息子の看病に気を取られていなければ、もっと早く故国の異常に気づけたかもしれないのに。リリアネスを失う事もなかったはずなのに」

暗い顔で、皇后はルミアの手を両手で握りしめてきた。

「叔母様。もう過ぎた事です。私は今ここにいますわ。私は、叔母様の言うとおりに致します」

ルミアは、後悔におしつぶされそうな美しい皇后の手をそっと握り返した。







皇后は、言葉の通りルミアに様々な物を与えてきた。

豪華な部屋に、数十着のドレス、珍しい宝石の数々。ルミアの為に5人の侍女が用意され、鬘を取ったルミアの漆黒短くなった髪を毎日美しく結い上げる。

20歳の成人祝いと共にライカー領と女公爵の地位を与えられると、ルミアは告げられた。

ルミアの母リリアネスは、ライカー国の当時の宰相と結婚し共に国を統治する予定だったらしい。当時の宰相が欲を出し、婚約後全ての王族の暗殺を企てた。事態を知った皇帝が兵を率いて向かった時には、ライカー王族は一人残らず殺されたか、行方不明になった後だったそうだ。リリアネスの死体が見つからず、宰相を捉えライカー国を帝国が吸収された後も、ずっと叔母は妹リリアネスを探し続けていたと言った。生まれつき体が弱かった叔母が産んだ第一皇子は5年前に亡くなったそうだ。ライカー国の血をひく王族は皇后とルミアしか生き残っていない。

皇后は亡くなった母によく似ている。
時々、遠くを見て何かを想い続けている表情が、故郷を懐かしみ、涙を流していた母と重なる。



皇后はルミアにとてもよくしてくれる。
ルミアの事を本当に大切に想っている事が伝わってくる。


ただ、少しだけ息苦しいと思わずにはいられない。





夜になり、侍女達が皆下がった後、ルミアは群青色の鬘を被り、使用人服に着替えて、そっと皇后宮を抜け出した。

皇后宮から東に行くと皇城へ続く道がある。

皇城の裏口から使用人棟を抜け、ルミアは城の長い螺旋階段を登って行った。

螺旋階段をひたすら登ると急に視界が開け、皇都を一望できるバルコニーにたどり着いた。

暗闇の中、空を見てどこかにいる彼の事を想う。

生暖かい風が、ルミアの頬を撫で去っていった。

「ロン。逢いたい。どこにいるの?」

ルミアは一人夜に問いかけた。







ルミアは、僅かに濡れた頬を拭いバルコニーを後にした。

螺旋階段を降り使用人棟についた所で急に話しかけられた。

「ルミー。無事だったのね」
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