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誰もいなくなった豪華な部屋の中で、ルミアはゆっくりとベッドから降りた。
素足で踏みしめる絨毯は毛先が長く柔らかい。
ふと冷たい塔の部屋を思い出した。
(どうして、母様も私も塔に閉じ込められていたのだろう?)
そんな事はどうでもいい。ふらつく体をなんとか前に進め、クローゼットの中から目立たないグレイのワンピースと靴を出し着替えた。
ドアに耳をつけると使用人の話声が聞こえてきた。
「本当にいたのね。幽霊姫ってもう亡くなっていると思っていたわ。」
「ええ、そういう噂だったわよね。でも思っていたより美人だったわ。艶のある黒髪に、白い肌。もしかしたらルーナ姫様、リーナ姫様より綺麗じゃない?」
「シー。リリアンナ様に聞かれでもしたら大変よ。まあ確かに整った顔立ちをしていたわね」
「残念ね。帝国使者団は黒髪の娘を探していたのでしょ。もしかしたらルミア姫の事だったかもしれないのに」
「まさか!ルミア姫は塔から出たことがないはずだもの。もし皇子に紹介しようものなら双子姫様達が黙っていないわ。」
「あーあ。来春祭が終わって、もう3日よ。今年は賑やかだったわね。大変だったわ。暴走した姫様達の後始末が特にね。」
「もう、早く帰りましょう。余計な事は言わないで」
話し声と足音が去り、あたりは静まり返った。
(3日。そんなに私は寝ていたの?)
ルミアはゆっくりとドアを開いた。
ドアの向こう側は長い廊下が続いている。
朱色の絨毯に、金の刺繍が施されたカーテン。所々に設置されているランタンは淡い光を放っている。
どうやら誰もいないみたいだ。ルミアは小走りで廊下の先へ急いで行った。
ルミアが寝ていた部屋は城の王族専用棟の2階の部屋らしい。廊下から外を見ると直ぐそばに迷路庭園が広がっている。中央のコテージが僅かに光っているような気がして、ルミアは急いで向かった。
重たいドアを開けて外へ出て、迷路庭園に入る。暗緑色の葉が何万、何億枚も重なり先が見えない。ここはルミアが何度も来た場所だ。一人で何度も、何度も。
コテージが見えてきた。
そこには、誰もいなかった。
ドアを開け、中を確かめるが、誰もいない。何もない。すべてが幻だったかのように静まり返っている。
古ぼけたテーブルと、さびれた椅子。何年も手入れされていないコテージは所々塗装が剥げている。急に世界が暗く、つまらなくなった気がした。ルミアにとってここは特別な場所だった。帝国使者団が来てロンと出会ってからは、毎日コテージに来る事をより楽しみにしていた。
逢いたい。
どうしても逢いたい。
約束を守れなかったのはルミアだ。
ロンはもういない。当たり前だ。帝国へ帰る事は知っていた。
待っているはずがない。何日も経ってしまっている。
左手にはまっているシルバーの指輪を撫で確かめながらルミアは一筋の涙を流した。
この気持ちがなんなのか分からない。
どうしても、一緒に行きたかった。
一緒に行けると思っていた。
どうしたらよかったのかどうしてもわからない。
いつかまた会うことができる。きっと迎えにきてくれる。約束したから。一緒にいようと約束したから。きっとまた。
ぬくもりを感じられなくなった椅子に座り、指輪を撫でながらルミアはコテージのドアを見つめ続けた。
ドアが開き、彼が迎えにきてくれる。
間に合わなかった約束が果される事を期待して。
素足で踏みしめる絨毯は毛先が長く柔らかい。
ふと冷たい塔の部屋を思い出した。
(どうして、母様も私も塔に閉じ込められていたのだろう?)
そんな事はどうでもいい。ふらつく体をなんとか前に進め、クローゼットの中から目立たないグレイのワンピースと靴を出し着替えた。
ドアに耳をつけると使用人の話声が聞こえてきた。
「本当にいたのね。幽霊姫ってもう亡くなっていると思っていたわ。」
「ええ、そういう噂だったわよね。でも思っていたより美人だったわ。艶のある黒髪に、白い肌。もしかしたらルーナ姫様、リーナ姫様より綺麗じゃない?」
「シー。リリアンナ様に聞かれでもしたら大変よ。まあ確かに整った顔立ちをしていたわね」
「残念ね。帝国使者団は黒髪の娘を探していたのでしょ。もしかしたらルミア姫の事だったかもしれないのに」
「まさか!ルミア姫は塔から出たことがないはずだもの。もし皇子に紹介しようものなら双子姫様達が黙っていないわ。」
「あーあ。来春祭が終わって、もう3日よ。今年は賑やかだったわね。大変だったわ。暴走した姫様達の後始末が特にね。」
「もう、早く帰りましょう。余計な事は言わないで」
話し声と足音が去り、あたりは静まり返った。
(3日。そんなに私は寝ていたの?)
ルミアはゆっくりとドアを開いた。
ドアの向こう側は長い廊下が続いている。
朱色の絨毯に、金の刺繍が施されたカーテン。所々に設置されているランタンは淡い光を放っている。
どうやら誰もいないみたいだ。ルミアは小走りで廊下の先へ急いで行った。
ルミアが寝ていた部屋は城の王族専用棟の2階の部屋らしい。廊下から外を見ると直ぐそばに迷路庭園が広がっている。中央のコテージが僅かに光っているような気がして、ルミアは急いで向かった。
重たいドアを開けて外へ出て、迷路庭園に入る。暗緑色の葉が何万、何億枚も重なり先が見えない。ここはルミアが何度も来た場所だ。一人で何度も、何度も。
コテージが見えてきた。
そこには、誰もいなかった。
ドアを開け、中を確かめるが、誰もいない。何もない。すべてが幻だったかのように静まり返っている。
古ぼけたテーブルと、さびれた椅子。何年も手入れされていないコテージは所々塗装が剥げている。急に世界が暗く、つまらなくなった気がした。ルミアにとってここは特別な場所だった。帝国使者団が来てロンと出会ってからは、毎日コテージに来る事をより楽しみにしていた。
逢いたい。
どうしても逢いたい。
約束を守れなかったのはルミアだ。
ロンはもういない。当たり前だ。帝国へ帰る事は知っていた。
待っているはずがない。何日も経ってしまっている。
左手にはまっているシルバーの指輪を撫で確かめながらルミアは一筋の涙を流した。
この気持ちがなんなのか分からない。
どうしても、一緒に行きたかった。
一緒に行けると思っていた。
どうしたらよかったのかどうしてもわからない。
いつかまた会うことができる。きっと迎えにきてくれる。約束したから。一緒にいようと約束したから。きっとまた。
ぬくもりを感じられなくなった椅子に座り、指輪を撫でながらルミアはコテージのドアを見つめ続けた。
ドアが開き、彼が迎えにきてくれる。
間に合わなかった約束が果される事を期待して。
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