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上質な絹で作られた若草色のドレスを身にまとう夫人と、屈強な男性使用人。付き従う高齢の侍女。。少しけだるそうに最後尾に佇む二人のドレスを着た美しい女性は目の大きさ、眉毛の形、輪郭まで瓜二つだ。

ルミアは頭を下げながら、ぼそぼそと言った。

「王国の高貴なる母様にお目にかかります。」

夫人は、口角をゆっくりと上げながら愉悦のこもった口調で言った。

「久しぶりです。ルミア。少しは成長したのかしら。それにしても、、、、なにかに臭わない?やっぱり異人は血も腐っているのかしら。」
夫人は細かい刺繍が施されたレースのハンカチを口元にあてた。

ルミアは俯きただ押し黙って嵐が去る事を待った。
「・・・」

第2妃であるリリアンナは、双子の姫を出産した直後に王を誑かしたルミアの母を酷く恨んでいた。もう望みがないと思われていた王妃が王子を産んでから王宮でのリリアンナの地位は下落した。それも皆、王を誑かした女のせいだと、母が亡くなってからもルミアのもとを訪れる。

リリアンナの側に控えていた高齢の侍女がルミアに話しかけてきた。
「ルミア姫様。これまで何度も使用人が塔を訪ねてきたはずです。どうして内カギを開いてくださらなかったのですか?」

「わたしは、しらないです。」

ルミアは俯いたままぼそぼそと答えた。
ルミアは塔にはほとんど帰ってこない。本当に知らないからこう答えるしかない。

高齢の侍女は訝しげに言う。
「そんなはずは、」

最後尾にいる二人の姉姫が笑いながら言う。
「幽霊姫だもの」
「誰も行きたくないわ」
「本当に信じられない」
「こんな所に住んでいるなんて」
「悪夢だわ」
「惨めだわ」
「「クスクスクス」」

高齢の侍女が後ろを振り向き
「姫様方。少しお静かに」

「「はーい」」

「ルミア様。食事はどうなさっているのですか。塔から出られないのにどうやって、、、」

「もういいでしょ。この子の姿を確認できたから十分でしょ。ねえルミア。今日は舞踏会があるのよ。私の娘は最高級のドレスを着て、たくさんの宝石を身に着けて舞踏会へ参加するの。あなたはずっと塔から出られない。その汚い服を着てここで朽ち果てるまで一人生きていけばいいわ。お前と私の娘達は全然違う。なにもかも。」

リリアンナ妃は、舞踏会が開かれる日必ず塔を訪れる。そして母やルミアに呪いの言葉を浴びせ続ける。何度も何度も。

「はい。王国の高貴な母様」

ルミアは、うんざりしながらリリアンナ妃が望む言葉を口にして、後ろに下がった。ドアの中に入り

「失礼いたします。」

思いっきりドアを閉め、鍵をかけた。

「汚い」「礼儀がない」「頭がおかしい」

ドアの向こうではまだわめき声が聞こえる。

ルミアは、その場から離れ、塔の階段を登っていった。




何年も放置されている塔の階段は、雨漏りにより苔が生えジメジメしている。
それでも母が生きていた時は、この塔がルミアの世界の全てだった。

階段を何度も登り、落書きをして僅かな絵本の中でしかわからない外の世界を夢見ていた。
塔にやってくるのは美しいが残酷なことばかりを口にする妃と姉達。母の為、ルミアの教育の為と送り込まれる使用人は幾度となくルミアや母の食事に毒を入れる。

本当にうんざりしていた。

母もルミアも。

階段を登りきり、居室の窓のカーテンの隙間から下を伺い見る。

第2妃と姉姫達が、石畳みを歩き帰っていっていた。今夜の舞踏会の準備をするのだろう。最後尾を歩いていた年配の侍女が振り向きルミアと一瞬目があったような気がした。ルミアは思わずカーテンの後ろに隠れる。

あの侍女は少し違うような気がした。ルミアの事を心配しているような。

「まさか、気のせいよね。」

部屋の中心に置かれているトルソーマネキンには、深紅と金を中心に複雑な刺繍が施された踊り子の衣装が飾られている。母の私物はその衣装だけだ。母は仲間からも故郷からも強制的に引き離されて塔に閉じ込められた。

母は何度も泣いていた。

ただ、静かに何度も。

ルミアは微笑んだ。

「さてと。あの人達の相手も済んだ事だし、今日は忙しくなりそう。」

ルミアは、部屋から出て再び階段をかけおり、裏口で使用人エプロンを身に着けた。



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