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姉
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ミラージュは、侍女のラニーの案内で別室へ向かった。
薄暗い通路を歩き、暫く歩いて行く。
控室として用意されている別室は数十部屋になる。舞踏会場から最も離れた場所まで連れていかれた。
ラニーは、重厚感のあるドアをノックして声をかける。
「ルルアーナ様。お連れしました。ドアを開けてもよろしいでしょうか?」
「ええ。入って頂戴。」
ラニーは、ドアを開きミラージュを中へ案内した。
「お入りください。お嬢様。」
ミラージュは、別室に入って行った。
その別室は、想像以上に狭くルルアーナ公爵令嬢にはふさわしくない場所のように思える。一対のソファーと、質素な机だけが置かれていた。ソファーには青白い顔の娘が横になっている。以前会った時よりさらに窶れた彼女は、使用人服に身を包んでいた。紫色の瞳は暗く濁って見える。見事な銀髪は雑に纏められ艶がない。
「ルルアーナ様?」
ミラージュは、目の前の女性が輝く程美しいルルアーナ公爵とは信じられなかった。訝し気に声をかける。
その声で、生気を取り戻したかのようにルルアーナは瞳を見開き、ミラージュへ声を荒げ訴えてきた。
「私が選ばれるはずだったの。私が王太子妃になるはずだった。どうしてなの。何故、私ではなく貴方が選ばれたの?私と変わって。髪さえ染めれば私は王太子様の婚約者になれるはずだわ。その為に、私は今まで生きてきたのに、まさかこんな事になるなんて。」
ミラージュは、ルルアーナの必死さに圧倒されながら被りを振った。以前のルルアーナであれば、ミラージュとの違いは髪の色と衣装・装飾品だけだった。だけど今のルルアーナとミラージュは似ても似つかない。
「ルルアーナ様。体の具合は?」
ルルアーナは、体を起こす事さえ辛そうだ。
「王太子妃に相応しいのは偽物のお前じゃない。
私が選ばれるはずなのに、それなのに私はあの方に選ばれてこんな事に。
もう、御父様は私を見てくれない。
もう、私とこの子は。」
ルルアーナは涙目で、自分のお腹を大事にゆっくりと擦っていた。
ルルアーナのお腹は膨らんでいるように見える。
「ルルアーナ様。私はもう貴方の偽物ではありません。ローニャ侯爵家に迎え入れられました。変わる事はできませんわ。起きないで、横になってくださいませ。」
ミラージュは、ルルアーナに近づき、背中に腕を回してソファーへ寝かせた。
「私自身も、王太子に選ばれるなんて思っていませんでした。
相応しくない事は私が一番よく分かっています。
過酷な教育を受け、貴方様が努力してきた事も分かります。
どんなに努力しても望んでも思い通りにならない事だって沢山あります。
選ばれても選ばれなくても貴方様が今まで積み重ねてきた事はなくなりません。
貴方の人生は、貴方だけの物です。決してギガリア公爵の物ではありません。
ルルアーナ様、貴方はどうしたいのですか?」
ルルアーナは、ミラージュに体を委ねながら言った。
「私は、この子を守りたいの。だけど、御父様はそう思っていらっしゃらない。この子が殺されるかもしれない。お父様が準備をしていると聞いたわ。あの方との子を、私はどうしても産みたいの。助けて」
ルルアーナは涙を流しながら、ミラージュへ告げてきた。
「ルルアーナ様。辛かったのですね。分かりました。」
ミラージュは、たった一人の姉を抱きしめながら頷き返答した。
薄暗い通路を歩き、暫く歩いて行く。
控室として用意されている別室は数十部屋になる。舞踏会場から最も離れた場所まで連れていかれた。
ラニーは、重厚感のあるドアをノックして声をかける。
「ルルアーナ様。お連れしました。ドアを開けてもよろしいでしょうか?」
「ええ。入って頂戴。」
ラニーは、ドアを開きミラージュを中へ案内した。
「お入りください。お嬢様。」
ミラージュは、別室に入って行った。
その別室は、想像以上に狭くルルアーナ公爵令嬢にはふさわしくない場所のように思える。一対のソファーと、質素な机だけが置かれていた。ソファーには青白い顔の娘が横になっている。以前会った時よりさらに窶れた彼女は、使用人服に身を包んでいた。紫色の瞳は暗く濁って見える。見事な銀髪は雑に纏められ艶がない。
「ルルアーナ様?」
ミラージュは、目の前の女性が輝く程美しいルルアーナ公爵とは信じられなかった。訝し気に声をかける。
その声で、生気を取り戻したかのようにルルアーナは瞳を見開き、ミラージュへ声を荒げ訴えてきた。
「私が選ばれるはずだったの。私が王太子妃になるはずだった。どうしてなの。何故、私ではなく貴方が選ばれたの?私と変わって。髪さえ染めれば私は王太子様の婚約者になれるはずだわ。その為に、私は今まで生きてきたのに、まさかこんな事になるなんて。」
ミラージュは、ルルアーナの必死さに圧倒されながら被りを振った。以前のルルアーナであれば、ミラージュとの違いは髪の色と衣装・装飾品だけだった。だけど今のルルアーナとミラージュは似ても似つかない。
「ルルアーナ様。体の具合は?」
ルルアーナは、体を起こす事さえ辛そうだ。
「王太子妃に相応しいのは偽物のお前じゃない。
私が選ばれるはずなのに、それなのに私はあの方に選ばれてこんな事に。
もう、御父様は私を見てくれない。
もう、私とこの子は。」
ルルアーナは涙目で、自分のお腹を大事にゆっくりと擦っていた。
ルルアーナのお腹は膨らんでいるように見える。
「ルルアーナ様。私はもう貴方の偽物ではありません。ローニャ侯爵家に迎え入れられました。変わる事はできませんわ。起きないで、横になってくださいませ。」
ミラージュは、ルルアーナに近づき、背中に腕を回してソファーへ寝かせた。
「私自身も、王太子に選ばれるなんて思っていませんでした。
相応しくない事は私が一番よく分かっています。
過酷な教育を受け、貴方様が努力してきた事も分かります。
どんなに努力しても望んでも思い通りにならない事だって沢山あります。
選ばれても選ばれなくても貴方様が今まで積み重ねてきた事はなくなりません。
貴方の人生は、貴方だけの物です。決してギガリア公爵の物ではありません。
ルルアーナ様、貴方はどうしたいのですか?」
ルルアーナは、ミラージュに体を委ねながら言った。
「私は、この子を守りたいの。だけど、御父様はそう思っていらっしゃらない。この子が殺されるかもしれない。お父様が準備をしていると聞いたわ。あの方との子を、私はどうしても産みたいの。助けて」
ルルアーナは涙を流しながら、ミラージュへ告げてきた。
「ルルアーナ様。辛かったのですね。分かりました。」
ミラージュは、たった一人の姉を抱きしめながら頷き返答した。
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