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選ばないでください
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ミラージュは、周囲に気づかれないように冷や汗をかいていた。
ミラージュは、下町の食堂で働く18歳の娘だ。
白い肌と、紫色の瞳、長い黒髪のミラージュは、黙っていたら美少女なのに、もったいないとよくからかわれる。
そんなミラージュに転機が訪れた。
急に数人の男たちが食堂を尋ねて来たと思ったら、店主となにやら相談しミラージュについてくるように言ってきた。
店主の顔色の悪さから、きっと逆らったら大変な事になると感じたミラージュは大人しく言われた事に従った。
男達に連れられて、たどり着いた場所は、意外な事に領主でもあるギガリア公爵の屋敷だった。
困惑しているミラージュは、屋敷の中を進んで行く。
辿り着いた場所は、重厚感のある大きなドアの前だった。
ゆっくりとドアが開かれる。
中に入ると煌びやかな空間が広がっていた。
この世の物とは思えないほど美しいガラス細工の花に、人間が作ったとは信じられない複雑な刺繍が施されたベッド、中央に置かれているテーブルは木製のはずなのに光り輝いている。
ミラージュは一瞬、別世界に迷い込んだように感じる。この世の物とは思えない程のまぶしい空間に紛れ込んだ異物のミラージュ。
その世界には、住人がいた。
紫色の瞳の美しい親子が、、、、
銀髪で紫色の瞳をしている壮年の男性が言った。
「お前が、ミラージュか?」
ミラージュは、返事をする。
「はい。そうです。」
男性は忌々しそうにミラージュを睨みつけて言う。
「確かに目の色は、わが娘にそっくりだな。髪は薬で幾らでも替えられる。これなら時間稼ぎになるだろう。」
ミラージュは、訝し気に言った。
「時間稼ぎですか?」
男性の隣の椅子に座っている美しい少女は言う。
「お父様。本当に大丈夫でしょうか?ただの町娘に私の変わりだなんて、、、、」
その少女はミラージュとよく似ていた。
髪色は違うが、体格や肌色、顔立ち、眼の色まで双子のようにそっくりだった。
ミラージュは、震える。
自分のドッペルゲンガーが死を招く。
そう、目の前の少女は私に死を運んでくる。
ミラージュはなぜか、そう感じた。
その後、目の前の銀髪で紫色の瞳の男性はギガリア公爵と名乗った。紫色の瞳は、ギガリア公爵家に代々受け継がれてきた瞳だと言う。
ミラージュは自分の父親が誰か知らない。育ててくれた母は、ミラージュに父親の事を絶対に話そうとしなかった。
どうやらいい思い出がなかったらしい。
ギガリア公爵の瞳を見ながらミラージュは亡くなった母に心の中で話しかける。
(お母さんの選択は正しかった。)
もし、もっと早く見つけられていたら、ミラージュはより多く利用されていただろう。
侯爵の隣にいる銀髪で紫色の瞳の美しい少女はルルアーナと名乗った。ギガリア公爵令嬢だと言う。
美しいドレスに、煌びやかなネックレスを身にまとったルルアーナの顔色は悪かった。
「私はね。今調子が悪いの。とてもじゃないけれど王太子の婚約者候補選別会に参加できそうにありません。でも、私がこの国で一番王太子に相応しい事は分かりきっているわ。だから、貴方が変わりに参加してきて欲しいの。」
ミラージュは、銀髪で紫色の瞳を持つ親子の前で震えて言った。
「そんな事できません。私はただの町娘です。王太子の婚約者候補選別会に参加するなんて、、、、」
公爵は、そんなミラージュを見下ろして言う。
「そう難しい事ではない。ルルアーナのドレスを着て装飾品を付け、選別会で座っていればいい。優秀な侍女を付ける。なにかあれば侍女がフォローするだろう。」
ルルアーナは、ため息をつきながら言う。
「お父様。そろそろ、、、」
公爵は、ルルアーナを愛おしそうに撫でて言った。
「疲れただろう。ルルアーナ。ゆっくり休みなさい。君は直に王城へ向かいなさい。選別会は明日だ。早くしないと間に合わない。」
ミラージュは叫んだ。
「私には無理です。」
だが、侯爵とルルアーナは、部屋の奥へ進んで行き、ミラージュを振り返る事はなかった。
ミラージュは、王太子婚約者候補選別会に参加していた。
薬で染めた銀の輝く髪を結い、沢山の装飾具を身に着ける。ドレスは誂えたようにミラージュの体に合い、初めからミラージュの為に作られたかのようだった。
周囲には、色とりどりの美しいドレスを身にまとった令嬢がたくさんいる。
優雅に歩き談笑しクスクスと笑っている。
ミラージュは、一人だった。
複数人の侍女が、ミラージュの周りで目を光らせている。
なぜか、ミラージュに近づいてくるものが一人もいない。
そんな時、会場の奥が騒めいた。
どうやら主役の王太子が、来たようだった。
その王太子を見て、ミラージュは衝撃を受ける。
彼はミラージュのよく知っている人物だった。
月に一度、ミラージュの働く食堂に訪れる茶髪の逞しい男性グラン。
王太子は金髪だが、グランとそっくりだった。
ふとミラージュは王太子と眼が合った。
お互い驚いたように固まり見つめあう。
ミラージュは目を逸らさないといけない事が分かっているのに、逸らす事ができない。
王太子は、微笑みミラージュへ近づいて来ようとしている。
ミラージュは、大好きな人の微笑みに見とれながら、逃げ出したくて仕方がなかった。
今ここにいるのは、紛い物のミラージュだ。
本来ならこの場所に来られるはずがないミラージュ。
貴方に選ばれるはずがないミラージュ。
この場の誰よりも貴方にふさわしくないミラージュ。
ミラージュに近づいてくる王太子が、胸についている青のバラに手をかけた。
王太子の婚約者に渡されると言われる青の尊いバラ。
王太子が私を見ている。
こっちに来ている。
ミラージュは、愛する人の微笑みを目に焼き付けた。
私の望みは、何事もなく解放される事。
私の望みは、貴方の幸せを遠くから祈る事。
私の望みは、決して尊いバラを身に着ける事ではない。
だから、、、
お願い、、、、、
ミラージュは、後ずさり侍女達の隙間を通り抜けて走り出した。
大好きなあの人と反対の方向に。
私の事は、、、、
選ばないでください。
ミラージュは、下町の食堂で働く18歳の娘だ。
白い肌と、紫色の瞳、長い黒髪のミラージュは、黙っていたら美少女なのに、もったいないとよくからかわれる。
そんなミラージュに転機が訪れた。
急に数人の男たちが食堂を尋ねて来たと思ったら、店主となにやら相談しミラージュについてくるように言ってきた。
店主の顔色の悪さから、きっと逆らったら大変な事になると感じたミラージュは大人しく言われた事に従った。
男達に連れられて、たどり着いた場所は、意外な事に領主でもあるギガリア公爵の屋敷だった。
困惑しているミラージュは、屋敷の中を進んで行く。
辿り着いた場所は、重厚感のある大きなドアの前だった。
ゆっくりとドアが開かれる。
中に入ると煌びやかな空間が広がっていた。
この世の物とは思えないほど美しいガラス細工の花に、人間が作ったとは信じられない複雑な刺繍が施されたベッド、中央に置かれているテーブルは木製のはずなのに光り輝いている。
ミラージュは一瞬、別世界に迷い込んだように感じる。この世の物とは思えない程のまぶしい空間に紛れ込んだ異物のミラージュ。
その世界には、住人がいた。
紫色の瞳の美しい親子が、、、、
銀髪で紫色の瞳をしている壮年の男性が言った。
「お前が、ミラージュか?」
ミラージュは、返事をする。
「はい。そうです。」
男性は忌々しそうにミラージュを睨みつけて言う。
「確かに目の色は、わが娘にそっくりだな。髪は薬で幾らでも替えられる。これなら時間稼ぎになるだろう。」
ミラージュは、訝し気に言った。
「時間稼ぎですか?」
男性の隣の椅子に座っている美しい少女は言う。
「お父様。本当に大丈夫でしょうか?ただの町娘に私の変わりだなんて、、、、」
その少女はミラージュとよく似ていた。
髪色は違うが、体格や肌色、顔立ち、眼の色まで双子のようにそっくりだった。
ミラージュは、震える。
自分のドッペルゲンガーが死を招く。
そう、目の前の少女は私に死を運んでくる。
ミラージュはなぜか、そう感じた。
その後、目の前の銀髪で紫色の瞳の男性はギガリア公爵と名乗った。紫色の瞳は、ギガリア公爵家に代々受け継がれてきた瞳だと言う。
ミラージュは自分の父親が誰か知らない。育ててくれた母は、ミラージュに父親の事を絶対に話そうとしなかった。
どうやらいい思い出がなかったらしい。
ギガリア公爵の瞳を見ながらミラージュは亡くなった母に心の中で話しかける。
(お母さんの選択は正しかった。)
もし、もっと早く見つけられていたら、ミラージュはより多く利用されていただろう。
侯爵の隣にいる銀髪で紫色の瞳の美しい少女はルルアーナと名乗った。ギガリア公爵令嬢だと言う。
美しいドレスに、煌びやかなネックレスを身にまとったルルアーナの顔色は悪かった。
「私はね。今調子が悪いの。とてもじゃないけれど王太子の婚約者候補選別会に参加できそうにありません。でも、私がこの国で一番王太子に相応しい事は分かりきっているわ。だから、貴方が変わりに参加してきて欲しいの。」
ミラージュは、銀髪で紫色の瞳を持つ親子の前で震えて言った。
「そんな事できません。私はただの町娘です。王太子の婚約者候補選別会に参加するなんて、、、、」
公爵は、そんなミラージュを見下ろして言う。
「そう難しい事ではない。ルルアーナのドレスを着て装飾品を付け、選別会で座っていればいい。優秀な侍女を付ける。なにかあれば侍女がフォローするだろう。」
ルルアーナは、ため息をつきながら言う。
「お父様。そろそろ、、、」
公爵は、ルルアーナを愛おしそうに撫でて言った。
「疲れただろう。ルルアーナ。ゆっくり休みなさい。君は直に王城へ向かいなさい。選別会は明日だ。早くしないと間に合わない。」
ミラージュは叫んだ。
「私には無理です。」
だが、侯爵とルルアーナは、部屋の奥へ進んで行き、ミラージュを振り返る事はなかった。
ミラージュは、王太子婚約者候補選別会に参加していた。
薬で染めた銀の輝く髪を結い、沢山の装飾具を身に着ける。ドレスは誂えたようにミラージュの体に合い、初めからミラージュの為に作られたかのようだった。
周囲には、色とりどりの美しいドレスを身にまとった令嬢がたくさんいる。
優雅に歩き談笑しクスクスと笑っている。
ミラージュは、一人だった。
複数人の侍女が、ミラージュの周りで目を光らせている。
なぜか、ミラージュに近づいてくるものが一人もいない。
そんな時、会場の奥が騒めいた。
どうやら主役の王太子が、来たようだった。
その王太子を見て、ミラージュは衝撃を受ける。
彼はミラージュのよく知っている人物だった。
月に一度、ミラージュの働く食堂に訪れる茶髪の逞しい男性グラン。
王太子は金髪だが、グランとそっくりだった。
ふとミラージュは王太子と眼が合った。
お互い驚いたように固まり見つめあう。
ミラージュは目を逸らさないといけない事が分かっているのに、逸らす事ができない。
王太子は、微笑みミラージュへ近づいて来ようとしている。
ミラージュは、大好きな人の微笑みに見とれながら、逃げ出したくて仕方がなかった。
今ここにいるのは、紛い物のミラージュだ。
本来ならこの場所に来られるはずがないミラージュ。
貴方に選ばれるはずがないミラージュ。
この場の誰よりも貴方にふさわしくないミラージュ。
ミラージュに近づいてくる王太子が、胸についている青のバラに手をかけた。
王太子の婚約者に渡されると言われる青の尊いバラ。
王太子が私を見ている。
こっちに来ている。
ミラージュは、愛する人の微笑みを目に焼き付けた。
私の望みは、何事もなく解放される事。
私の望みは、貴方の幸せを遠くから祈る事。
私の望みは、決して尊いバラを身に着ける事ではない。
だから、、、
お願い、、、、、
ミラージュは、後ずさり侍女達の隙間を通り抜けて走り出した。
大好きなあの人と反対の方向に。
私の事は、、、、
選ばないでください。
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