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ガーランド侯爵家の集まり

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冬季休暇の間、私はリアムの部屋を使っている。

マリーの部屋だった3階の使用人部屋はそのままの状態で残っている。

落ち着いた色の紺のジャケットにズボン。革張りの靴を履いて、いつもより身だしなみを念入りに整える。リアムが愛用していた派手な金のタイピンをつけた。

(リアムのスーツは派手すぎて着たくないけど、タイピンだけでも付ける方がいいよね。
今日は、初めて会う人達ばかりだから。)

「リアム様、行きましょうか。」

執事が声をかけてくれる。

馴染みの執事ににっこりと笑いかけ、足を進めた。

「そうだね。行こう。」








ガーランド侯爵家の馬車で向かったのは、帝都にあるガーランド侯爵家の本邸だ。父と執事と共に馬車で向かう。

「マリー、今日会う相手は把握しているか?」

「はい。お父様。執事に聞いています。」

「執事はお前に付ける。特に母と弟達に注意しろ。気を抜くなよ。」

本当に戦場に行くような気の張り方だ。私が産まれた時にあった事は執事に聞いていた。

(さすがに身内を殺そうとまではしないと思うけど、)

「今日は妻がいない。なにか言われるかもしれん。」

(そういう父の顔は少しこわばっていた。)

「はい。気をつけます。」

両親は親戚にリアムが死んだ事がバレる事を酷く恐れている気がする。いつかは知られるだろうが、リアムが自殺ではないと分かってからがいい。

(学術院でもルーガス以外には気づかれなかったんだ。きっとたまにしか合わない親戚にバレるはずがないと思うけど。)



ガーランド侯爵家の本邸に到着した。私が産まれた後、両親は別宅へ移りそこで生活をしている。祖父母は領地へ行き、ガーランド侯爵家の本邸は屋敷の管理が必要と言い、叔父兄弟とその家族達が生活しているらしい。

父がガーランド侯爵を引き継いだが、結局本邸に帰る事はなかった。

(年に一度の親族の集まりか。この年になって参加できるとは思わなかったな。)




着いたガーランド侯爵家の本邸は、重厚感がある大きな屋敷だった。






屋敷の中に入ると、使用人に客室に案内される。荷物を下ろし、さっそく親族が集まっている広間に向かった。

父の少し後ろを歩き、私の背後に執事が控えている。

父は、一番奥で座っている年配の夫婦の所へ向かった。

「お久しぶりです。調子はいかがですか?」

「ああ、久しぶりだな。会えて嬉しいよ。」

この人がお爺さまかな。穏やかそうな前ガーランド侯爵は笑っていた。

「まあ、どういう事ですか?こんな日に貴方の妻は何をしているのです?」

隣の年老いた女性は、父を睨みつけてくる。

(こっちはお婆さま。聞いていた通りだな。)

口籠もっている父を見て、私が発言する。

「お久しぶりです。お婆さま。母は体調を崩していて今日は来れませんでした。素敵なネックレスですね。ブルーダイヤモンドですか?」

祖父と父は驚いたように私を見る。
(あれ?変な事言ったかな?)

「そうです。リアムは見る目があるわ。これは私の母か残してくれた貴重なブルーダイヤモンドなのですよ。今でも相応の価値があると思うわ。久しぶりにつけてきた甲斐がありました。誰も言ってくれないならどうしようかと思っていたけどよかったわ。それに・・・」

(うわー、お婆さまって凄く喋るんだな。)

少しブルーダイヤモンドについて発言を後悔していた時に後ろから声がかかる。

「兄さん。久しぶりだね。」

父と同年代の男性二人が佇んでいた。

「向こうで話さないか。相談したい事があるんだ。」

父は無表情で返事をする。

「また、金の話か?」

「いや、子供たちの事だよ。来年には学術院へ入るからね。」

父は黙った。


祖母は、ブルーダイヤの話をやめて、言う。
「それは大事な話だわ。可愛い孫の進路についてですもの。しっかり弟の相談に乗ってあげなさい。」


父は、叔父たちと一緒に隣室へ向かう。私も祖父母にお辞儀をしてついて行こうとするが、父が私を見て首を振る。

(ついて来るなという事か。)

私は頷き、軽食が用意されているブースへ向かった。

「叔父様達の話って何かわかる?」

元々本邸で勤務していた後の執事に聞くと、
 
「たぶんお金の催促でしょう。屋敷の管理費でかなりの額を渡されているはずですが、毎年足りないと言われるみたいです。ご兄弟は2人とも手伝いをするだけで、仕事をしていないみたいですから。」

「へぇ。優秀な従兄弟がいるとは聞いていたけど。」

「そうですね。優秀な成績だといつも自慢されているみたいですね。」

執事と話をして軽食を摘んでいると、父の怒鳴り声がした。

「ふざけるな!どういう事だ。」

広間の奥で叔父達と話をしていた父が激昂している。

祖父達も含め、親戚が父や叔父がいる場所へ集まっていった。

「兄さん。そんなに怒る事じゃない。少しの間金を借りたいと言っているだけだ。」

「それは戻る当てがない金だろう。」

「違うさ。学術院に子供が行くと何かと金がかかるだろ。それを工面する為に投資で増やそうとしたんだよ。
一時は2倍近く値が上がっていたんだ。それが投資した会社の役員がこの前の興奮剤事件で捕まったんだ。
今、値が凄く下がっているんだ。しばらくすれば元に戻る。それどころか数倍になるかもしれない。
だから株の値段が上がったら返すって言っているだろう。」

「いくらだ。」

「一年間の管理費相当の金が欲しい。」

父は黙り込んでしまった。


近くにきた祖母が言う。
「出してあげなさい。貴方はガーランド侯爵家の当主なんだから、兄弟が困っているのなら助けるのは当然でしょ。」





父は何かを決意したように顔をあげて言った。

「いいだろう。言い値の倍の金を渡す。

その金は返さなくていい。

だがお前達にはガーランド侯爵家の席は抜けてもらう。」




叔父達は口々に発言した。

「イヤ、侯爵家の席から抜けろだって!そんな事できるはずが無いだろ。」

「来年には子供達が学術院に行くんだぞ。貴族席を抜けたら、一般科になるだろう。この子達は、リアムに何かあれば、ガーランド侯爵になるかもしれないんだ。そんな事できるはずが無い。」





父は言う。
「なら、金は渡さん。自分達で働くなりして稼げ。」



不満そうな叔父達が父に訴える。
「おかしいだろ。同じ兄弟じゃないか?なぜ俺達が侯爵家の金を使えない。」

「そうだ。当主が金を出すのは当然だろ。」



祖母も言う。
「そうですよ。貴方は当主であるし、兄なのだから、お金くらい出してあげないと。」



父は私を見ながら言った。

「私はガーランド侯爵だ。今回の判断は侯爵家の為にする事だ。

娘のマリーに縁談が来ている。ガーランド侯爵家にとって益がある相手だ。あの子には苦労ばかりかけたが、しっかりと準備をして送り出してやりたい。

ガーランド侯爵家の本宅に、真面に働かず金ばかり要求する親戚がいては、マリーだけでなく、ガーランド侯爵家の足枷になる。」



父の発言を聞き、祖母が叫んだ。
「なんて事。どこの子が分からない娘の為に、実の弟を追い出すのですか!それはダメです。」


祖父が祖母に大声で注意をした。
「いい加減にしないか!」

祖母が静かになった後で、父に話しかける。
「マリーは元気なんだな。」



父は答えた。
「ええ、元気です。あの子は私より頭がいいかもしれません。つい先日相手が直接侯爵家を訪れ挨拶をしていきました。幸せになるでしょう。

私も今まで妻が、息子の為に貴方達との関係を修復したいと言うので我慢してきましたが、もう限界です。

ガーランド侯爵家の当主として、家門の不利益になる者は出て行ってもらいます。」


私は思った。
(ああ、お父様は私の事を認めてくれていたんだな。)

祖母は父に大声で言う。
「私は反対です。」

祖父が言った。
「ならばキミも侯爵家から出ていくがいい。」


「貴方。この歳になって私を追い出すと言うのですか、あんまりです。」


「産まれたばかりの私の孫を追い出そうとしたのは貴方だろう。その仕打ちに比べるとましだろう。息子に面倒を見てもらえ。」


祖母は黙り込んだ。

「・・・」

父は叔父達を見ながら言った。
「さあ、どうする。兄弟よ」




結局叔父達は金を貰い侯爵家を出る事にしたらしい。従兄弟は父の援助で一般科に通う事になった。



祖父が父に言う。
「すまなかったな。私の判断が甘いばかりで結局、お前の家族にまた迷惑をかけた。」

「父上。私は家族を守り切る事ができませんでした。後悔ばかりしています。」






私達が別邸へ帰る時、叔父が私にすれ違いざまに声をかけてきた。





「いい気になるな。このままで済むと思うなよ。」
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