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舞踏会

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イリーナは、舞踏会へオージンと共に訪れていた。
長い銀髪を結い上げ、黒曜石のネックレスとイヤリングをつけている。ドレスは紺色のドレスに数々の宝石を縫い上げていた。どの宝石もリム商会の自慢の一品だった。

オージンは、イリーナの手を取りエスコートして、会場へ入って行った。

舞踏会場は、沢山の人達がいた。オージン・マクラビアン公爵令息が、銀髪の娘をパートナーとして連れてきた事を驚いているのか、扇で口元を隠し話し合う貴婦人たちが、所々にいる。

イリーナは、緊張で体が強張るのを感じた。

舞踏会の最奥には、皇帝と皇妃が皇族席の中心に座り、その両側に皇太子とイマージュ皇女が座っている。イリーナは、イマージュ皇女と眼が合った気がした。

オージンが、イリーナに言う。
「まずは、陛下の所へ行こう。大丈夫だから。」

「ええ、でも、反対されないかしら。」

オージンは言う。
「マクラビアン公爵家と皇女様の婚約を進めているのは皇妃様だ。陛下は、勢力バランスが崩れると反対されている。」

オージンと共に、皇族席へ進んで行った。

皇帝は、所々煌めく白髪の壮年の男性で、紺色の瞳で私を見てきた。
その瞳は力強く、心の内面まで見透かされているような気がする。私は、目線を下へ逸らし、オージンと共に頭を下げて礼をした。

皇帝は言った。
「そなたが、オージン・マクラビアンのパートナーか。名前は何と申す。」

皇帝から話しかけられるとは思っておらず、私は困惑しながら答えた。
「イリーナと申します。陛下。」

頭を下げ、磨き上げられた床を見ながら答えた。数秒経つが、陛下の返答がなく沈黙が続く。

グロッサー男爵家から追放された私は、グロッサーを名乗る事ができない。やはり、ただの平民が来る場所では無かったのかもしれない。私は、恐る恐る顔をわずかに上げて、皇帝を見た。

皇帝は、左手を顔に当てて、目元を隠している。わずかだが震えているようだ。

私は訝しく思いながら、皇帝の言葉を待った。

「そうか。イリーナか。マクラビアンが其方を選ぶとは、喜ばしい事だ。祝福しよう。」

私は驚き、皇帝へ違うと伝えようとする。

その前に、オージンが言った。

「陛下。イリーナ嬢の事は、まだ口説いている最中です。見守っていただければ助かります。」

皇帝は、その言葉に驚いた表情をして、穏やかに笑った。

「ああ、そうか。隣国でオージンを振ったという娘はそなたか。ククク。オージン・マクラビアンは勉学に秀でているが、調子に乗っている所がある。其方たちは、いいパートナーとなるだろう。」

オージンは言った。

「ありがとうございます。陛下。」


私は、オージンと共に再度礼をしてその場から離れようとする。斜めから突き刺すような視線を感じて、私はそちらを見た。そこには、私を睨みつける皇妃がいた。イマージュ皇女は、皇妃の隣で、心配そうに私を見ている。

(どうして?皇妃様が私を睨んでいるの?)

皇帝への挨拶は、他の貴族達が順番を待っている。留まるわけには行かず、オージンと共に、私はその場から離れた。










私とオージンは、皇帝への挨拶の後、沢山の貴族達に囲まれた。

陛下に認められて事で、私も受け入れられたみたいだった。

沢山の宝石を身に着ける貴婦人が話しかけてきた。彼女が身についているのはどれも一級品の宝石たちだ。ローズマリー侯爵夫人は、かなりの美人で帝国貴族の華と呼ばれている。一部からは皇妃よりも影響力があると言われる女性だった。

「素晴らしい衣装ですわ。それにこんなに見事な黒曜石は見た事がありません。わずかにグラデーションがかかっているようですし、どちらで手に入れられたのですか。」

私は、答える。
「私は、リム商会を営んでおります。これらの宝石は、懇意にしている取引先から融通して貰い手に入れましたの。」

「まあ、リム商会と言えば皇女様がなにやら言っておりましたけど、その黒曜石を見るとかなりいい品を扱っているみたいですわね。今後我が屋敷に、持ってきて頂けないかしら。」

「ええ、もちろんですわ。ローズマリー様。」



オージンは、私に沢山の帝国貴族を紹介してくれた。おおむね好印象で、何人かとは商談の約束を取り付ける事ができた。

オージンは、私に寄り添い、顔を耳元に近づけて囁く。

「疲れただろう。イリーナ。」

確かに疲れた。でも、それ以上に成果を上げる事ができたと実感している。リム商会はもう大丈夫だろう。メロナを含め優秀な部下たちが上手くやってくれるはずだ。これも全てオージンのおかげだった。

私は、オージンへ凭れかかりながら言った。
「大丈夫よ。オージン。ありがとう。貴方のお陰で、なんとかなりそうだわ。」

少しずつだが、目標に近づいてきている。グロッサー男爵家を取り返す目標に、、、

だけど、その目標の後は、どうなるのだろう?

私に何が残るのだろうか、、、








その時、私の名を呼ぶ大きな声がした。


「イリーナ!!!」
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