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友情と決別

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イマージュ皇女とは、図書館で出会った後、すぐに仲良くなった。
イリーナがメル商会を営んでいると伝えると、イマージュ皇女は、友人達にリム商会の事を広めてくれたらしい。リム商会を任せているメロナから、宝石の貴族への販売量が倍増したと報告を受けた。リム商会は帝国での販路を順調に広めていた。対してグロッサー男爵家が営んでいる貿易会社は父が亡くなってから一気に評判が悪くなった。徐々に取引先を失っているらしいと聞く。


私は複雑な心境だった。


母や妹が、父の残したグロッサー貿易会社を経営できるとは思っていなかった。私を裏切り、妹ルアンナを選んだリカルド・ローバン侯爵子息も経営は専門外であるはずだった。

グロッサー貿易会社が立ち行かなくなるのは予定通りのはずだった。

私のリム商会が、帝国との商談をグロッサー貿易会社から奪い取る。

嬉しいはずだ。でも、このままだと父が残したグロッサー貿易会社はどうなるのだろうか?

私が引き継ぐはずだった父が生涯をかけて成長させたグロッサー貿易会社。

父とは血の繋がりがなかったかもしれない。それでも父のロイド・グロッサーは、私を実の子のように愛してくれた。

私は、復讐を望んでいるわけではない。

取り返したいのだ。

父の愛の証を。







私は、メロナに会いに行った。
「メロナ。お願いがあるの。かなりリム商会の資産が増えたと言っていたわよね。」

茶髪で小柄なメロナは今日も愛らしい。メロナは朗らかに笑いながら答えた。
「ええ、そうですとも。もうグロッサー貿易会社より総資産はリム商会が多いです。ふふふ。さすが、イリーナ様です。こんなに早く帝国での販路を広げられるなんて想像していませんでした。私はいい主人を持って幸せです。ところで、お願いとは何でしょうか?」

私は、言った。
「買って欲しい物があるの。多ければ多いほどいいわ。リム商会の金融資産を全て費やしてもいい。それは、、、、、、」

メロナは、険しい顔で驚き言う。
「イリーナ様!どうしてそんな事を!」

私は涙を堪えながら言った。
「私の我が儘だと言う事は分かっているわ。でも、どうしても諦めきれないの。私が元々得る予定だったのよ。」

メロナは、私を心配そうに見て言った。
「そうですよね。分かりました。イリーナ様の言われる通りに致します。できるだけ、利益を上げて見せますよ。」

私は、メロナへ言った。
「ありがとう。メロナ。貴方がいて良かったわ。」

メロナと私は、一緒に微笑み合った。










今日は、帝国大学院の学園祭が開かれている。

私は留学生として、恩師であるオーブリー教授の研究室の手伝いに来ていた。オーブリー教授の研究室は、資本の成り立ちが直ぐに分かるように工夫した模擬店を開いていた。飲食物を注文すると、その金額が中央の画面に表示され、どんどん金額が増えていく。それと同時に、画面では使った原材料の金額や人件費がどんどん計上され、中央には利益額が上下動を繰り返しながら変動するようプログラムされていた。金額を表すグラフが熱帯魚のようにふわふわと動いており、興味本位に再注文をする客がいる程、好評だった。

私が、ウエイトレスを手伝っていると、オージン・マクラビアン公爵嫡男が表れた。オージンは相変わらず私に時々会いに来て告白を繰り返す。教授を含め私たちの事は、研究室の皆が知っていた。

同じ研究室の仲間が私に言う。
「イリーナ。また旦那がきているよ。」

私は、言った。
「もう、オージンは旦那じゃないわ。」

オージンは、私に近づいて来て言った。
「僕は、いつでも準備は出来ているよ。イリーナ。すぐにでも結婚しよう。」


ヒューヒュー。



数人の研究員が、私達を囃し立てる。

私は、頬が火照るのを感じた。

その時、模擬店の入り口で大きな音が響き渡った。

そこに佇んでいるのは、イマージュ皇女だった。床には潰れた紙袋とガラスの破片が飛び散っている。元々はガラス細工の置物だったのだろう。イマージュ皇女の足元に、ガラスの嘴のような物体が落ちていた。

私は、慌てて、イマージュ皇女へ駆け寄ろうとする。

イマージュ皇女は、私とオージンを見て言った。
「まさか、イリーナ。貴方だったの?」

私は、何の事が変わらず、言う。
「何の事ですか?お怪我はありませんか?すぐに片付けますから。」

床に広がるガラスの破片は、光を浴びて無数に輝いている。

私が、イマージュ皇女様に近づこうとした瞬間、オージンが私の腕を掴んだ。

私は言う。
「オージン、離して。片付けないと。」

オージンは言った。
「ええ、彼女が俺の想い人です。ですので、縁談はお断りします。何度言われても、俺は意志を変えるつもりはありません。」

私は、イマージュ皇女様を見た。

イマージュ皇女様は、涙を堪え俯いたと思ったら、私を睨みつけてきた。憎くて仕方がない相手を見るように。

私は、言う。
「イマージュ様。誤解です。私とオージン公爵令息との間にはなにも、、、」



イマージュ皇女は言った。

「イリーナ。貴方の事は友人だと思っていたわ。

まさか貴方が、私からオージンを奪った隣国の貴族だったなんて、、、

お願いよ。私とオージンは結婚する予定なの。

だから、


私にオージンを、


返してください。」







私は、オージンから離れようとする。

でも、オージンは私を決して離そうとはしなかった。

オージンは言った。
「俺は貴方の物だった事なんてありません。一度も婚約をしていないし、何度も正式に断ってきたはずです。」

イマージュ皇女は言った。
「でも、お母様は、絶対貴方と私の婚約をまとめると、おしゃっていました。貴方ほど私に相応しい男性はいないと、、、」

オージンは被りを振った。

イマージュ皇女は、再び私を睨み言った。

「イリーナ。私は貴方の事を許せそうにありません。貴方だと知っていたら、友人になんてならなかったのに。本当に残念だわ。」

イマージュ皇女は、模擬店から出て行った。無数の煌めくガラスを残したままで。
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