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帝国大学院の敷地を進んでいると、イリーナは声をかけられた。


「イリーナ。」

振り返ると、そこにはオージンがいた。オージンの藍色の瞳が穏やかな海を思わせる。オージンの黒髪は太陽を反射して輝き、一瞬イリーナはオージンに見惚れた。

(オージンが皇女様の婚約者候補でなければ、よかったのに。ううん。私には関係ないわ。今は恋愛をしている場合じゃないもの。)

イリーナは微笑み言った。
「久しぶりね。オージン。会いたかったわ。」

オージン・マクラビアンは嬉しそうに微笑んだ。
「イリーナに会えてよかったよ。そうだ、帝国大学院を案内させてくれ。」

たしかに帝国大学院についてよく知らない。早く慣れたいと思っていたイリーナは頷いた。
「ええ、よろしくね。」




イリーナはオージンと共に大学院の中を進んで行く。帝国大学院には沢山の学部がある。他の学部を尋ねる機会は少ないが、共同研究をする場合や、教授の手伝いで尋ねる事もありそうだった。

オージンは、言った。
「イリーナ。昼食はまだだよね。よかったら、魚介料理が美味しい店を知っているから、一緒に食べないか?」

イリーナは微笑んだ。
「いいわよ。昼食をどうしようか考えていなかったの。グルメなオージンが、お勧めする店なんて楽しみだわ。」

オージンに案内されたのは、帝国大学院の中央棟だった。看板もなく、中央棟の奥のその店には数組の客が食事をしていた。

オージンを見た店員は笑って、中へ誘導する。
「オージン様。ようこそお越しくださいました。今日はとても綺麗な方をお連れですね。」

オージンは言う。
「彼女は、俺の大事な人だ。ここの料理を紹介したくてね。」

店員は言った。
「ああ、例の方ですか。お会いできて光栄です。」

オージンは恥ずかしそうに、わずかに頬を染めた。




イリーナは少し後退る。

(え?例の人、、、そういえば、噂になっているって、、、)

下がった私に気が付いたのか、オージンは私の手を握り、私を見て言った。

「今、口説いている最中だよ。俺はまだ諦めてないから。」

私は、胸を高鳴らせながら返答する。

「私は、断ったはずよ。」

オージンは笑う。
「あの時はね。俺はいつまでも待つよ。イリーナの気が変わるまでね。それまでは友人として親しくするのはいいだろう?」

オージンは帝国での貴重な友人だ。彼の事は信頼できるし、これからも仲良くしたい。私は微笑み頷いた。

(親しくするくらいならいいわよね。)

もう私が家族だと思う人はいない。
だけど、私には信頼できる友人がいる。寂しくないと言えば噓になる。
だけど、愛情を求めて裏切られるのはもう嫌だ。

オージンとはずっと友人でいたい。そうすれば、裏切られる事もないだろう。


私は、オージンの手をそっと握り返した。





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